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おしぐれさんの ロード歳時記 「 霜げる 」
2013/12/16

< この部分は本の装丁の帯です >  単行本に巻かれた姿をご想像ください 




                  いかにも歳時記らしく お題は 「霜げる」

      ”でほらく書き” と石を投げられ続けた男が一瞬だけきらめいた、と錯覚する愛の賛覚


                                                  書き出しの2行に打たれました、その後につづく 「歌詞」 には泣きました。 ‥ 一読者




< ここからが本文です >    ‥ いちいち説明すなっ!  … ゴメンなさい。



 第一章 「 霜爺い 」

川漁師の爺さんに出会って初めて川コトバの旋律を聞いたとき、背中に覚えた戦慄は今でも鮮烈に憶えている。
「 これはロックだ! 」

      
「そごの小屋でなあ 目ぇーさましたればよー 軽トラの窓っこがぜーんぶ霜げっちまてでなあ。 はあー たまげだもんだべ。
溶がしてるひまなんざねーがらよ ドア開げたまんま走ったんだあー したればはあー 木の橋も霜げでいたべさ 下の堀っこさにドスーンとはまっちまったでなや。 はあー 困っでいだんだあ。

そごに あんべえよぐ オメらしが来なすったっちゅうワゲだあー。 あっ はっ はぁー よがったなあ。 ちょっくら手えー貸してくんねえがあー。
そーれにしでも オメらし こったら霜げた朝っこがら 自転車なーんか乗ってよー なあーにしてるだい? まで オメらし! 鼻水が霜げでいるでねーが、 ほれ これで拭け」

爺さん首に掛けていた酒臭いタオルを差し出す。
いいひとには違いないが酒臭いのはいかんべよ。

この爺さん、昨夜ホンモロコの火振り漁をしに河原にやって来た。産卵のために静かな浅瀬に来るモロコを松明の明かりで一か所に集め、網で一網打尽の算段。
川に入り鋤簾(ジョレン)を使ってトロ瀬の魚道を作り、頃合いをみて魚道の上に仕掛けた網を引こうと一杯遣りながら待っていた。
寒さ除けの漁師小屋は解禁を前に杉の間伐材と稲わらで河原に作っておいた。

その掘っ立て小屋で炭火を熾し、おっかーが持たせてくれた重箱の里芋の煮っ転がしで呑んでいるうちに眠りこけ、寒さに目を覚ましたら朝になっていた。
朝は孫を小学校に送るのが爺さんの役目で、軽トラはそのためにせがれが買ってくれた。孫が学校に遅れたら軽トラを取り上げられて火振り漁に来られなくなる。

そーなっては大変だと窓も拭かずに走り出したというワケだ。
「えーんだ、眼鏡かけだってー どーせ よぐとは見えねーんだがら」

なんという達人であろうか、このご仁は心眼で軽トラを運転し孫を乗せて小学校に送って行く。この朝はたまたまタイヤが霜げで滑ってしまっただげだ。
タオルが酒臭いのなんか爺じ臭いのよりなーんぼマシだがや。

この川でホンモロコ漁が許されているのは何人もいない。
「モロコ以外はリリースする。たまたまサケやアユなど貴重種が捕れたときは生きたまま県水産試験場の鬼怒分場に持ち込んで委譲し、捕獲者としての権利を主張することはない」
と宣誓したプロ漁師だけのはず。
それ以外の素人によるモロコ漁は密漁として厳しく検挙される。

モロコはこの川では雑魚と分類されて一段軽い扱いながら、型と数をそろえて町の割烹店に持ち込むと良い値がつく。
身が小さいから刺身を造るのは根気が要るが、それゆえ宴席に並べば鮎より高価で希少なのだ。

ワシは割烹店の親方料理人に頼まれて刺身用のモロコ包丁を打ったことがある。
注文のサイズになるよう鉄の薄板を鍛えて鋼の粉を乗せて火中に入れると、刃先は火に負けて‘はぜ’て跳んでしまった。
やむなく市販の切り出しナイフの背の側を薄く研磨して小さな包丁を仕上げた。

恐るおそる届けに行った先で出されたホンモロコの刺身は絶品だった。背の皮に浅く入った飾り包丁の跡に、沁みた醤油の色を透かして刃紋が見えた。
ワシもいつかは燕三条の切り出し小刀に迫る刃物を打ちたい。それまで親方には達者でいて欲しいし、霜爺いさんにもモロコ漁を続けてもらわねばならん。

爺さんは県知事(来たのは代理だが)より水産資源保護調査員の腕章を宣誓受領し税務署に対しても漁具と軽トラが免税の川漁師を名乗れる程の、それ程の名人ステータスでありながら一杯遣りながら網の引きひもを足首に巻き付けたまま、霜げるわらの小屋で朝まで寝てしまうという屈託のなさである。

川の瀬音に時おり跳ねる魚の水音が重なり、そこへ月と雲との行き交う音がセッションする壮大なBGMをバックに酒を呑み、星に向かって ♪ Take me home , country roads ♪ と歌う。
この爺いさん、よく見たら前歯のすき具合がキング オブ カンツリーこと John Denver にそっくりじゃないか。

キング オブ 鬼怒老師の魂胆の清々しさと孤高の輝きにワシら凡夫は仰天平伏し、よろこんで軽トラを道に戻すお手伝いをしたのである。


『 星の夜の 霜げる河原にひとりゐて 落とし網せそ足で引くらむ 』

そのこころは ‥ 盃と肴が両手を占める … おあとがよろしいようで。





 第二章 「 霜草 」

ロード脇の土手を覆っている背の低い芝草に降り下りた霜が、朝日を浴びてキラキラ光るようになってしばらく経つ。
12月も初めのうちは陽光が力を増す8時には溶けてしまっていたものが、中旬にはだんだん頑固霜に変わって午前9過ぎまで溶けない日が多くなった。
毎朝それを1週間も繰り返すと芝草の葉っぱもついに根をあげる。

葉っぱなのに根をあげるという不可思議な表現に作家は驚いてしまうが、ワシのせいではない。
「霜げる寒さ」 「霜げて前が見えない」 これらの言葉のほうが驚きはより大きい。

さらに 「おめ そったらとこで 何あーにを霜げてんだあ」 に至っては、しょんぼりしている・ ショボくれた風情・ さえない様子・やるせなさ、などをユーモアを含ませ的確に表現している。
昔から霜は 「降る」 とは言わない。霜は 「降りる」 が正しい。
雪は積もらないが霜が降りて 「霜げる」 この地方の風土に醸成された美しい言葉である。

「霜げる」 は 「でほらく」 や 「おしぐれる」 に対してその品性 風格において群を抜いていることを万人が認めるだろう。

霜げるの げる は ゲルに通じ、半固体の状態などと科学者ぶることはない。霜げるの げる は霜げた状態でいいのだ。
霜仁田はネギとコンニャクの産地、霜ネタは本章に似合わない。霜げるは格調高いヤマト言葉なのだ。

草の葉っぱがカサカサひとり言をいう。
「霜が重とうて冷とうて もう辛抱たまらんわ、わし霜グレてやるー」

ちりちりに縮んで小さくなって茎の付け根の処から折れ曲がり、土に伏せたような恰好で枯れてしまった。溶けかかった霜がいっそう朝日にきらめく。
これが霜げた朝の原野の風景。

葉っぱは枯れてしまったが草の本体まで死んだわけではない、枯れ葉をかぶり死んだふりをして寒風から茎と根を守る休眠状態になっている。
もしも気候に異変が起きて、周りの状況が冬の風土に固定されたまま10年経過したとすると、普通の草植物ならトロけて無くなっているのだが芝草は大丈夫。
11年目に春の状況を与えてやれば新芽を伸ばして光合成を開始する。

逆に干ばつの夏モードにロックして10年放置の場合でも、水分を消費する葉っぱを切り捨てて根っこと茎だけになって生き残る。
極めて細くて堅い茎はスジ繊維だらけで、葉が無くなれば何の仕事もないから水なしでも平気で100年は生きられる。
101年目に雨が降ると茎は柔らかくなってムチのようにしなり、大地を掴んで新しい芽を伸ばすのだ。
芝草は花実と匍匐(ほふく)茎のふたつの繁茂法を持っていて、普通には無性生殖となる匍匐茎は使わないで草として暮らすが、環境が厳しくなれば伝家の宝刀を抜き払って背中に背負い、スパイダーマンのように匍匐前進をする。

沙漠の砂の30センチ下には砂粒とそっくりな形をした虫の卵が眠っていて101年後の雨を待っている。
その間DNAは傷つくことなく保持されていて、雨後に這い出てくる虫は101年前の親虫と同じ姿と同じ記憶を持っている。というのだからタマゲタものだ。

虫でも草でも過酷な環境地域つまり極地に適応すると、乾燥や凍結は死を意味するのではなくて種の保存の一手段だったようだ。
近年ヒトの精子や卵子も凍結保存が認められたが、乾燥保存してお湯で戻すインスタントラーメン型は誰もやらない。
たんぱく質は60℃で固化してダメになることをゆで卵作りで知っているからなのだろう。生殖可能年代の男女は熱すぎる風呂に入ってはいけない理由だ。

芝草はそのしぶとい極地性が買われ、河川の堤防土手の保全目的に沙漠から種を持ってきて試験的に蒔かれた。
日本に入るとき根に虫の休眠卵が付着していないことを入念に確認されたことは記録に残っているのだが、正確だったかどうかは今さら確認できない。

7年前、鬼怒川土手でワシのヘルメット内に飛び込んで眉間を一刺しして行ったあのスカラベ蜂は、どう考えても日本古来種の蜂ではない。
スカラベってエジプトのピラミッドを盗掘者から護っているという伝説のカブト蜂のことではないか。
その卵が時を越えて … 。
あれ以来ワシの脳は極性が一定しないように思えてならないのだ … 。

芝草が日本に来たのは今から50年ほど前のことで、芝草という名前はワシらが勝手にそう呼んでいるだけ、ゴルフ場の芝と姻戚の関係はない。
ワシらのフィールドに生えている雑草で、土手に転がし置いた自転車を良い具合に受け止めて滑り落ちて行かないから一番馴染みの草なのだ。正式名は知らない。

江戸期に開始された河川の改修・付け替え工事で造成された堤防土手の土止めには、主に日本古来のカヤツリグサ科の多年草を使っていた。
意識して使ったと言うより勝手に生えたと言った方がよいかも知れない。
カヤツリグサは草高40センチほどの細葉のいわゆる雑草。日本中の田園地帯のあぜ道で見られる。背が低くて藪のようなモッコリにならない処が憎まれない所以であろう。

ひと口に雑草というが、雑草の定義を Wikipededia によれば 「人の社会活動により蹂躙され尽くした場所に唯一の棲息を求める植物をいう」 と書いてある。
これを訳したお方は幸せな人生だったろうか。

カヤツリグサは少年の頃よく走り回っていた野道にいくらでも生えていた。
草の両端を結んでトラップを作り、誰かが足を引っかけて転ぶのを見て喜んだ記憶がどなたにもお有りであろう。あの草である。
葉脈にイネ科のようなザラザラが無いので素足を引っかけても血が出るようなことはなかったし、意地悪ババアであっても年寄りが野道を通って来るときは葉を堅結びにすることはなかった。ワシらはフェミニスト少年だった。

ところがこのカヤツリグサ、土止め効果は良かったのだが土手の全面に生え広がるような攻撃的繁茂をしないのんびり派だったため、後から来たセイタカアワダチソウ(ブタクサ)の侵略を簡単に許してしまった。
いつの間にか秋のロードの土手は醜く黄色いアメリカ西部生まれのブタクサだらけになり、秋の花粉症の元凶として、ことのほか呼吸系にデリケートなロードライダーから非難の声が上がった。

当時の国土交通大臣は自転車乗りとして著名な谷垣禎一氏、先の野党時代を生き延びたときの自民党総裁である。氏もこの時期は花粉に鼻水垂らして自転車を漕いでいた。
しかし氏は、「ブタクサを切れーっ」
などと大声を上げることはなかった。先輩議員の荒船〇十郎先生が運輸大臣のとき、上越新幹線の駅を故郷の赤城山のふもとの寂しい村に停めてひんしゅくを買った一件を憶えていたからだ。

氏は黙って自転車を漕いだ。涙とくしゃみと鼻水の跡が今も名車 デローザ キング のフレームにこびりついているという。
我慢こそが氏の政治家としての美学なのだ。現 法務大臣である。

驚いた河川管理局は大型草刈りマシンを大量投入してブタクサを一掃したのだが、そのときに代替えの雑草種として背の低い多年草の芝草を本格的に導入した経緯がある。
これをインサイダーだ、と指弾する者は皆無だった。悪いのはアメリカのブタクサだからだ。悪者を外国に求めたサイクルマン谷垣氏の作戦勝ちだった。

芝草は堅い葉と茎を持って根が地中に広く延びるので土手崩れを防ぐのにちょうど良かった。
元々の原産地は知らない、沙漠と極地の両方をもつ大陸の生まれなのだろう。
春から夏に葉が伸びるのは植物の常で、芝草もよく伸びるが茎が横に伸びる性質が他の雑草と違って評価されたわけだ。日本上陸から50年経過しているが、まだまだ全国のロードの土手に植え付けが完了してはいない。

それまでの自然に生えた雑草や篠竹の土手ではどうだったかというと、草は野放図に上に伸びたから野生動物が棲み着いて何かと具合のよくないことが起きた。
キツネや青大将やフクロウは土手に穴を掘るネズミやイタチ・野ウサギを捕食するからよいのだが、猿・たぬき・鹿・イノシシ・熊、それにホームレスなど大型の動物となると土手うえのロードを行く河川パトロール車や自転車と軋轢となるので草刈りが必要だった。

この草刈り費用が馬鹿にならない。
草は刈ってもまた伸びる。しかも刈った草は雑多種入り混じりの上に空き缶やビニールゴミまで含んでいて堆肥にもならず、焼却処分している。
シンプルな形状の土手ながら、その総延長で掛け算すればどれ程の面積となるか想像できよう。
入札指定業者になれば土手の草刈りだけで100人もの職人を常雇いの社員として養って、自身は毎日ゴルフ三昧の会社社長が一級河川一本につき5人はいるという。

土手は河川の一部。河川に除草剤は使えないから建設省時代の管理局はアタマを痛め、当初は草刈りより人手の掛からない温厚動物のヤギを放して彼らに草を食わせようと考えた。
ついでにヤギに斜面を踏みしめてもらって、いわゆる麦踏み効果で土の流失を防ぎながら新芽をうながそうというもの。

ところが牧場のトラックに乗せられて堂々の出動をしてきた日本ヤギは、硬い葉を嫌いヨモギやオオバコ・それにタンポポや菜の花のあるところばかり食って、とっとと次の場所へ行ってしまう。
しかも斜面を矢のように走り、ブタクサなんかは見向きもしない。
中には土手を降りて農家の畑を食い荒らしたり、農家の飼いヤギと恋仲になって帰って来ないヤツまで出てきた。

河川管理局は急遽ヤギ追い隊員を増員しサファリ仕様の屋根なし四駆車も増やした。
アルバイトのマウンテンバイク乗りも雇ったが、そのころ行われた省庁改編により建設省は国土交通省と改称していて、河川管理の予算に占める人件費の急増に人事院が待ったをかけた。

「オメら遊んでんじゃー ねえぞおー」
お叱りを受けたというワケだ、当然のことだ。国家公務員が投げ縄振り回してヤギを追っかけてマウンテン サファリで遊んでいては、いいワケあんめえー。
そうこうするうち、メスヤギを追いかけていた隊員が角のある発情期のオスヤギに逆襲されて怪我を負う事故があって、ヤギ作戦は成果なく頓挫した。

粗食に耐え、棘のある灌木も食うというアフリカ羚羊を連れて来ようという案もあったが、
「キリンがいいべ、下の側道から長い首を伸ばせば上のロード際まで届くべさ」 「ほんだら象だっぺや、日に2トンは食うぞ」
これら嘘のようなアホ話を国家公務員が真剣に議論していた処に国会から 「土手の草刈りを民間に委託する条例案が通過」 の知らせが入り、彼らは猶予期間明けにすべて失職した。当然だ。
このとき谷垣氏は内閣改造によりすでに国土交通大臣ではなかった。ヤギ作戦失敗の責任と自転車マンとの関係は、特に取り沙汰されることはなかったのである。

極地生まれの芝草は少ない葉っぱの1枚1枚が命の綱だということをDNAの記憶でよーく知っている。
干ばつと氷結の両方を知っているから気合いの ”キ” の字がそんじょの葉っぱと違うのだと思う、どう違うのかは説明できない。それでも平気なのは ”で” のつく作家だからだ。

だから(なにが だからじゃー)枯れた葉っぱを芝草の茎は離さない。北風に吹かれてもけっして離さないのは、枯れ葉っぱは良い具合の保温材になることを知っているからだ。

枯れ葉の裏側には蝶のさなぎやバッタの卵など土手に棲む小さな生きものたちの次世代バージョンもしっかりしがみ付いている。彼らもまた知っているのだ。
もしも茎が枯れ葉を離してしまったら、小さな生きものたちは枯れ葉っぱと一緒に風に飛ばされ川に落ち、春までには海まで流されて塩分過多で死んでしまう。

芝草は春から夏に蝶やバッタに花粉を運んでもらった恩義がある、だからさなぎや卵のしがみついた枯れ葉っぱをけっして離すことはないのだ。
虫もそれを知っていて、丈夫な芝草のとりわけ強そうな葉っぱに卵を産み付ける。といわれている。

それが本当だとすれば、この時期に枯れてもなおしぶとく残っている葉っぱの裏側には必ずさなぎや卵がひっついているはず。
あっさりと風に吹かれて川に落ちるような ”づくなし” の枯れ葉に卵を産み付けるような ”そこつ” で非情な虫などこの世に一匹もいないはず。

そーゆー話しには滅法涙もろいワシとロードマンはゴム長を履いて、冷たい水面に漂っていた枯れ葉っぱを拾い集め、一方土手の芝草に枯れ残った葉っぱを一枚一枚裏返してみた。
そしてひとつの結論を得、草と虫の間の情というものに大いに涙したのである。

その日の反省会の酒はとても美味かった。
ワシらの酒はいつだって旨いのだがこの日はことのほか美味かった。

ワシらの草と虫の共生の話しを居酒屋のカウンターの端で聞いていた山女魚釣りの偽善者、ギンちゃんが知ったような顔で口を出す。
なぜギンちゃんが偽善者かというと彼は疑似餌で山女魚を釣るのだ。ペテン師以下だ。

「お言葉ではございますが先生がた、川面に浮かんだ枯れ葉の裏に蝶のさなぎやバッタの卵が付いていなかった理由でございますがね、
川底から枯れ葉の舞い落ちるのを待っていた山女魚がジャンプ一番、3分で食い尽くしたのさね、ほんでもって葉っぱにはハミ跡ひとつ残さないのでございますなあ」

このやろー 殴ってやろうか。





 第三章 「 霜もみじ 」

ロードの舗面の白線に降りた霜が凍ってキラキラしている。
よく観察すると舗面の灰色部分は凍っていなくて白線の上だけが凍っている。
白い塗料の厚み分だけ地温が放熱されて氷温になったと思われる。気温が上がってくるまでは白線を避けてライン取りする注意が必要だ。
いよいよロードマンには辛い酷い冬の到来である。

冬に葉っぱが枯れるのは、斜面では極めて貴重な水分を無為に浪費させない計算と、折り重なって地に伏せる枯葉が陽光を集めて地表を温め根を守るプログラミングが出来ているからだ。
以前のロード歳時記 「四季桜」 で樹木の紅葉するワケを書いているが、土手の芝草もまた紅葉する。

ロード土手の景色は冬枯れ前にいっときの華やかさに彩られる。
「草もみじ」 と表現するそうで、ただの雑草だった邪魔くさい奴らでも小さくうずくまって見事に紅葉しているのを見ると、間もなく霜げてしまうのが可哀そうでならない。

「うんうん よしよし 愛い奴じゃ。来年も生きていたらまた会おうな」
そう思ってしまうのは、いよいよワシらにも枯れ葉の時季が来たからかも知れない。

ロードの景色がだんだんと寂しげな色に変化して、そしてそれ以上は変わらなくなるのは年が変わって1月になってから、そしてそれからは毎日北風が吹く。
風に吹かれながら南へ走るのはいたって楽ちんだから思わぬ遠くまで行ってしまうことになるが、その帰り道の酷いことを考えたら朝は頑張って北に向かうべきなのだ。

ところがどういう加減か日中になって南風に変わり、それがどんどん強くなる日がある。
北風に向かって 「男気」 で走っていたときに急に足が軽くなったら、それは ”ランニングハイ” になって調子が出たことではなく風が変わったしるし。
それを知らずに調子こいてハイになって、気がついたら100キロも行っていて自走で帰れなくなり、栃木県名物の ”自転車お助けタクシー” のお世話になる馬鹿者が時々いる。

注釈) 栃木県名物 ”自転車お助けタクシー”

    普段は普通のタクシーだが屋根にサイクルラックを装備、トランク内にパンク修理用具を積載しドライバーは修理技能を習得済み。
    故障での救援要請が入ると現場まで駆けつけて応急処置をしてくれる。希望すれば近くの駅、自宅までタクシーとして走ってくれる。
    県内観光地とくに那須高原で大活躍。宇都宮市周辺のタクシーは屋根にサイクルラックを載せた車両(プリウス)が3割を超えて走っている。
    さすがはジャパンカップ サイクルロードレース開催県であり、プロチーム 宇都宮ブリツッエン・那須ブラーゼンのホームタウンである。
    ちなみに今年ツール ド フランス インジャパン を小生意気にも開催した埼玉市には、このような動きはまだない。


ロードの自転車乗りにとって、そこそこへたれて向きを変えたら帰り道も向かい風だった、というときほどへこむことはない。
午前中の寒風を前面に受ける我慢の走りは、帰り道でのご褒美が欲しくて 「男気じゃあーっ!」 と頑張ったというのに … 。

「行きも帰りも向かい風とは約束が違うやないけ ばかやろー」
悪態をつきつきペダルを踏むことになる。
ギヤを何段も落として左右にヨロケながらの走りでは時間が倍ほどかかってエネルギーが尽きてくる。その前にモチベが果てる。

宇都宮周辺のタクシー業界が設備投資してでも ”お助けタクシー” を増車した理由はここだ。
県央を南北に直線的に走っている鬼怒川ロードで風を読み違えるロードマンは数知れず、これは商売になる。しかも休車となりやすい日中の需要だ。

「ワシは断じてその手にゃ乗らんぞ、タクシーには乗らん。だいいちワシは携帯電話を持ってきておらんわい。ざまみろー」

こんな要らぬことを考えながらノロノロと進んでいると、前方から背に風を受けて快調に飛ばしてくるローダーがいる。
目が合うとニヤリとしやがる。

「オメさんアタマ使えや、ひゅっ ひゅー」

「こらあーっ! レールマン 止まれえー 戻って来ないと今度こそ破門にするぞおー」
まったく悪い男である、無風だとまるでノロくさいのに温かい南風を帆に受けるときだけ 「ひゅっ ひゅー」 とは腹がたつ。こいつの帆がまたデカイのだ、つまりデブなのだ。

「お師匠、ずいぶんへたれてるねえ。どこまで行ったの」

「おまえなあ 調子こいて走っていたが帰りはどうするつもりだったんじゃ。押して歩くのか? あんたならそのほうが速いだろうがな。
さあ レールマン ワシの前に立って風除けになれ、ワシを引け!」

「あららー ご機嫌悪いねえ、へたれの極致かね。しゃーない 引いてやるからついて来な。いいかい 飛ばすからねえ オメさん ちぎれるんじゃないよ」

レールマンを風除けにしてずいぶん楽になった。エネルギー枯渇寸前だったようだ。
それにしても彼の 「飛ばす」 は歩くより遅いからちぎれるどころか追突しないように気をつけるほうが大変だった。
それでも風除け効果が効いて、彼のトロッコ作業場に着いたころにはモチベだけは回復してきた。

モチベが回復すれば体力回復の具体策を実行せねばならない。
大型のストーブに火が盛んに燃えて、足先の血行が戻ったころレールマンの奥方が里芋の煮っ転がしと熱燗を載せた大きなお盆を運んできた。
作業場の隅に積んである稲わらの中からブチ色の弟子犬ブッチー君が芋をもらえるかと出て来た。彼はベジタリアンなのだ。

「この家には里芋しかないのかあー!」
いくら北海道勤務が長かったとはいえ、コロボックルの妖精じゃあるまいし毎日里芋でよく飽きないものだ。

「そう言うなよ、この作業場を建てるときこの場所は女房の里芋畑だったんだ。整地の際に掘り起こした芋は全部ぼくが食べる約束で許してもらった。
1トンも掘り起こしたんだぜ、外に置いたら霜げてしまうから中に入れて稲わらを掛けてあるんだ。ここで自転車トロッコを完成させるまでは、オメさんにもブッチーにも里芋を食べ続ける義務がある」

なるほどトロッコ台車が出来かかっていた。だが肝心の動力部分の遅れが見てとれる。
この遅れようならワシのフラットバー車が徴用されるのは先のことになりそうだ。

明日も今日のような風の吹き方なら朝から太陽の方向に走れるから温かいし風も背だ、フラットバーで出かけてみるのも悪くない。
ただし二日続けて同じ風になるとは限らない。人生と同じだ、うまくいかないことのほうが多い。

「今日はなあ お羽黒山の下の辺りで草もみじがキレイだったぞ、もうじき霜げてしまうんだろうなあ。あんたも一度見ておけ」

「お羽黒山の紅葉はどうだったの?」

「ああ 山か、山は見んだった」

「それって 猟師山を見ず、かね」

「ああ 船頭多くして船 山に登る、だ」

「おしぐれさん、意味わかんないよ」

「ああ 作家に聞いとくれ」

「オメさん ‥ 今日は相当な霜げモードだったようだねえ、そこのわらの上で寝たらどうだ」

「ああ 足首にひも巻いてなあ」



おわり
syn

近日点クリアのお知らせと さらなるご支援のお願い
2013/12/02

惑星テラの皆さまへ

お騒がせしております愚息 ISON-chan のことでは、たくさんの方々より ご心配やらご声援やらいただきまして誠にありがとうございます。

星間友好条約締結惑星国の皆さまからの厚いご支援を賜りまして、”はじめてのお使いひとり旅” に送り出しましたる ISON は彗星としての旅を続けておりましたる処、
このたび近日点付近の軌道上にて思わぬスクランブルと遭遇を致し、一時消息が途絶えて ブラックアウト との星間報道もございました。

詳細を検証致しましたところ消息の一時未着は、磁気嵐による信号波のワープと判明いたしました。信号波は遠くガニメデ星雲体のガニバサミによって投げ返されて戻って参りました。
現在も ”はじめてのお使い” を続けておりますことが確認されましたので、ご心配戴きましたすべての惑星間に当メールをお送りして御礼を申し上げております。

おかげさまにて太陽系軌道上の最難関ミッションでございました近日点クリックを去る11月29日に果たすことができました。
その際に若干のダメージは蒙りましたるものの、現在は元気に猛スピードにて太陽州の軍事空域識別圏から離脱中であります。

若干のダメージと申しますのは、あの無言の帝王 SUN から放射されるジュール熱とイオン風によって ISON の表層の一部が融け、また周囲の水素ガスが燃えて吹き飛ばされたりと、帝王のお力をもってすれば赤子の手をひねる程のことでございましょうが、愚息 ISON にとっては手痛い世間勉強となったようでございます。

結果的には体積と質量を半分失いましたが、表面積を小さくしたことが幸いして加速を可能にいたしました。
宇宙空間に於いて、惑星テラでいうところの空気抵抗に相当するレジスタンスがあるのか? との疑義がございましょうが、太陽州で浴びる光や熱や風や磁場はすべて帝王 SUN からの放射線のカタチで空間に降り注ぎ、支配しています。
その空間を突き進むときの線を切る抵抗力をサンレイ フォースと言います。いわゆる空気抵抗と言ってもいいでしょう。

細身になった愚息 ISON は現在、下ハンを握ってサドルから尻を上げ、息を絞って頭を低くして、もがきの全速加速をしております。
間もなくサンレイの眼も眩む光りの闇の世界から脱出できるでしょう。

あと少しでございます。皆さまがたの変わらぬご支援ご声援を戴けたなら、必ず愚息は12月04日の明け方には御星の東の空に戻って参ります。

御国の国立天文台の軌跡計算よりも、ほんの数秒早く やや北にずれて出現することになりますのは、アタック加速が効いて軌道角が開いた証拠であります。
生きて戻った証しでございます。

しっぽの箒は千切れて無くなっているかも知れません。それだって何だっていいんです、生きてさえいれば… 。
しっぽは靈氣の冥王星のそばを通るときに回復できる可能性が残されておりますから… 。
親馬鹿ではございますが、あの子はゼッケンが千切れるほどにペダルを踏んだと褒めてやりとうございます。

それでは惑星テラの皆さま、
愚息 ISON になり代わりましてこれまでの幾多のあたたかい励ましに感謝申し上げると共に、
さらなるご支援を賜りますようお願い申し上げて近日点クリアのご挨拶とさせていただきます。

最後に御星の悠久の繁栄と平和をこころより祈念いたします。

惑星テラ紀 2013-12-01
彗星 ITUMOSON

白馬のベンチ
2013/12/02

土曜日の朝、プレミアムでない一番低価格の受信波のみ視聴可能なわが家のテレビでNHKのニュース番組を見ていたときのこと。
ふいに雪景色の山々が映し出された。

前の話題と区切りをつけるためなのか、それとも微妙に時間が余ってしまったときのテクなのか、そーゆーことはどうでもいいのだが見覚えのある風景が映って思わず身を乗り出してしまった。
音声無し映像だけの、積雪の白馬村とスキージャンプ場を映した数十秒。

「おおお そこじゃ、もっとカメラを右下に引け、リフト小屋の手前の広場を映せ! がんばれーっ カメラあー! もっと手前を映せえー。
おーし そこじゃー そこで止めれー、止めたら 迫れえー 木製のベンチをアップしろーっ! ワシのベンチじゃー」

叫びつづけたが、無情にも画像の上には関東甲信のお天気マップがかぶさって、かわりに白い白馬の風景は薄くなって、やがて思い出のベンチは見えなくなった。

ベンチの横木に自転車のペダルを引っかけて固定し、脱いだ手袋とヘルメットを置いて腰かけて、へたれたカラダが蘇生するまで30分ほども留まっていた木製のベンチ。
両足の間に滴って地面に拡がってゆく汗の染みを見つめながら、ただただ息を整えるのがいつものスタイル。

この間に誰かが声をかけてきても、非礼とは承知ながら無視させていただく。うつむいたまま大げさに息を継いで見せれば大抵の観光客は立ち去ってゆく。

ところが中にはしつこいと言うか無神経なのがいて、へんに触ったら倒れる自転車のサドルを無遠慮に撫でたりする。
山なのにスカート穿いてサンダル履いて、首には太いネックレスが目印の、でかい土産袋を両手にふたつも下げているのが特徴の、これはまぎれもなくオ〇タ〇アンという種族だ。

「この坂を登って来たの! 凄いわねえー いまお幾つ? ひえー うちのおとうさんより年上よっ! えっ 富山から! 走って来たの? ひとりで? あなた 冬はジャンプもやるの? 幾ら貰えるの?」

ホテルの送迎ワゴンで登って来た観光客はアッチへ行けー。ここはアスリートの聖地やぞ。
こらーっ 観光協会! 夏場で人が少ないからってロープで地面に繋いだ熱気球なんか金とって揚げるなー、ゴーゴーやるたんびに暑っ苦しくてたまらんべえーっ。

ベンチの尻に当たる部分のくぼみ具合と背当り角度のよい具合が、へたれたカラダとモチベの覚醒にじつによく効く。これは只の規格品のベンチではあるまい。
へたれの喜悦感とそこから蘇生してゆくときの喜望感をよく知っているマゾヒズムな職人でなければこれ程の名作は作れまいよ。
彼もまた、この坂を幾度も登っておのれのへたれを高め、モチベ高く喜望のベンチの製作に打ち込んだ真正マゾに違いない。

ここから仰ぎ見ると天空の尖塔のようなジャンプ台、あのてっぺんまで登り、だが飛び出す決断がつかないまま降りてきた若者の幾人がここに来て、このベンチに座って涙したのだろうか。
そのなかの幾人が再びスキーを携えて階段を登って行ったのだろうか。
ジャンパーはウオームアップを兼ねて歩いて階段を登る。リフトを使うの故障者を降ろすときだけなのだ。

この白馬ジャンプ台は、冬季オリンピック史上最高の出来と評され世界中から見学者が絶えない。競技関係者だけでなく夏場は白馬の観光スポットにもなっている。
登山者は白馬駅から歩き始め、観光客は歩くかタクシーを使うが観光タクシーに混じって自転車も坂を登って来る。
それはいい、自転車は登って来てもいい、長い坂を本気で命がけで登って来るんだから。

本気でないマイカーは途中の駐車場から先は禁止なのでバスに乗るか歩く。地元タクシーとバスと登録されたホテルのワゴンだけが許される。それほど危険な坂なのだ。
オートマ車では登れない。この山ではマニュアルのスーパーローギヤ車でないと登り切れないのだ。
事実ワシが一度だけ足を着いたときは余りの斜度に止まっていることすら出来ず、ずーっと下のホテルの駐車場のような平らな処まで戻らなければ再スタート出来なかったんだぞー。

土産袋をふたつも肘に掛けてソフトクリーム舐めながら、山なのにスカート穿いてサンダル履いて隣りのベンチに座っているオ〇タ〇アン、わざわざ送迎ワゴンを回り道させてまで訪れなくていい。
ワゴンのクラッチは焦げ臭い匂いを発していたんだぞおー。
やい 土産物屋あー! オメらが店なんか出すから場違いな種族がこーんな上の方まで徘徊するんだ。ここは白馬やぞ、オリンピック アスリートの聖地やねんぞ。

白馬は、美しい空中飛形と距離を可能にし、着地点の安全性に於いてもこれ以上の造作は今後ないだろうと言われている。
ジャンプ台の設計建設に当った関係者の努力を讃え労苦を偲ぶ碑や逸話が多く残されている。

それは勿論そうだから、それでいい。
だが、夢破れ故郷に帰ろうとリフトを降りてきた若者をなぐさめ、カラダとモチベを回復させて、もう一度やってやろうと気持ちを奮い立たせたのは場外のキップ売り場の広場にひっそりと佇む座り心地のいい木のベンチだったと、知って訪れるひとは少ない。
ここで涙を拭いて立ち上った若者が数年後に伴侶と共に訪れて、黙って座ればそれだけでいい。

ワシとてアスリートの端くれ、モチベの立て直しかたくらいは知っている。
水を飲んで靴のストラップを締め直してから立ち上がり、
さぞや名の有る白馬の工房製であろうとベンチの裏に回ってみたが、落款はおろか工房のプレートすら付いていなかった。

これぞまさしく無名のマゾ アスリートの手に成るものと確信した木のベンチだった。
ニュース番組から5時間以上経っている、雪はさらに積もっただろうか。

syn


写真は本文とは関係ありません。

白馬行のときは携行量低減のためカメラを持たなかったのです。
このあと向かった大雪渓を見てカメラの必要性は痛感しましたが、軽量化を優先する競技者体質はいまだ健在と思っています。

写真のベンチについて。

昔日のワシらが若かりしころ。
諏訪湖花火大会の晩、力自慢のナ〇ザ〇くんが酔って湖畔公園から沖合に向かって投げ込んで、アベックの乗ったボートを二艘も転覆させて重要参考人とされた事件のときの犯行に使われたベンチと同型のもの、もしくは同一のもの。先ほど近くのばら公苑で撮影しました。

いつからここにあるのかは不明。持ち上げようとしてみましたが、とてもとても。
こんな重たいモノを頭上高く差し上げる犯人の野獣性を恐れてか、複数いた目撃者は皆 「見なかった、酔っていて知らない、ナ〇ザ〇はドブにはまって寝ていた」 と証言したそうです。

あの事件は犯人逮捕に至らないまま時効となりました。しかし目撃者 (と言うより積極的扇動者) の〇ナ〇タくんは今回偶然発見された物証 (もしくは同型) のベンチ写真を見てどう思うのでしょうか。
「良心はベンチよりも地球よりも重い」 このコトバを彼らふたりに謹んで贈りたい。

スクープ映像
2013/11/25

先ほど (2013/11/24/05:33)  アイソン彗星と思われる光球の撮影に成功。

称賛されるべきはその写真術でなく、
凍みる原野に手袋なしで3時間立ち、ふところにカメラを温め続けた老カメラマンの情熱であろう。

syn

おしぐれさんの ロード歳時記 「レールマンの逆襲 下」
2013/11/28

8月の初旬にそちこちの知人にメールして、親切に教えてやったアイソン彗星の肉眼観察可能日が近付いてしばらく見えていたが、その後太陽に近付き過ぎて見えないゾーンに入った。
この間に何か言ってきた者は誰あ〜れもいない。

テレビニュースなどでは宇宙空間から高性能4Kカメラとやらを駆使した鮮明かつ動く映像を映し出している。わざわざ早起きして肉眼で見ることもないと、そーゆー了見の人間が増えたのだろう。
日本人の了見を狭くしている元凶はテレビとスマホとコンビニだとかねがね思っていた。

コンビニは作家個人の生活の都合上外せない、20世紀最大の発明だと了見を狭くしつつも頼り切っている。
したがって残る二つのテレビとスマホをなくせ。などと言うつもりはないがNHK受信料は減額していただきたいものだ。
それが無理ならリモコンにDボタンなんちゃらいうモンの付いていない地上波専用受信器の世帯には、BSプレミアムとかいう有償番組の放送予告は流れないようにシステムを変更して欲しい。

それって、軽トラを運転して外車販売店の前で信号待ちをしていたら、飛びきりキレイなキャンギャルのヘソ出し水着のお姉さんから窓越しに フィアット アバルト のカタログを渡されて、知らん顔も出来んからニッコリして、「どーも ありがとう」 って言った。
信号が青になってスタートしたが頬が引きつって、思いっきりミスシフトをしでかしてギヤがギャルっと鳴った。
そーゆー差別的なことに通じるんじゃないの?

『 私も孫の双眼鏡を借りて見ました。
ほうき星のしっぽが見えました、老後への憂いを一掃してくれそうな見事な掃きっぷりでございましたよ。
この箒、数か月前にご貴殿が予言した通りの位置に出現しその通りの軌道で天空を掃き清めて、やがて東の地平へと消えて行きました。その姿はあたかも ひと仕事終えた団塊戦士のようで、涙なしには見られませんでした。
ご貴殿の正確無比なる計算精度には感服つかまつったる次第でございます。
今後も宜しくご教授願いたく、御礼かたがたご報告申し上げます 』

かつての団塊戦士なら、この程度の挨拶状を地方の銘酒に添えて送って来るはずなのだが4Kカメラのせいでお歳暮を貰い損ねた。
ただし”正確無比なる計算精度”と褒められるのは背中がこそばゆい。出処は東京天文台のホームページだからだ。

一緒に見ようというお誘いが無いからひとりで出かけた。
コンビニでホットカルピスとお茶を買って行ったが、ロードの土手でたちまち冷えてしまった。12月初旬過ぎの第二次出現を見る際は魔法瓶とサバイバル用アルミ ブランケットを持参したほうがよい。

東の地平が開けている処といったらロードの乗っている鬼怒川の土手しか知らない。ワシが出かける処はコンビニとロードしかない事実がはからずも確認された訳だがそれはそれでよい。
これはロード歳時記であり、けっしてへたれおやじの酒のみ与太話ではないのだから。
一部の読者にそう思われているフシがある。はっきりと釘をさしておきたい。

昨日の朝、彗星の写真が撮れたのでそちこちにバラ撒いてやった。歳時記の写真としてはタイムリーなものであった。
1通だけメールが返ってきたがお歳暮を送ったという知らせではなかった。

『 アレ 本当に彗星なの? 金星かなんかじゃないの? だからわざとハッキリ写らない初級カメラで撮ったんでしょう。
寒い中ご苦労なことでおます… じゃあねえ〜 』

明け方のロード端に立って空を見上げるといちばん目につくのが金星だ。金星はヴィーナスという形容を持つ一等星、文学名は明星である。明るさと光の色が彗星とは異なる。
それゆえ馴染みの金星と今回かぎりの一期一会の迷い子彗星 アイソン君とを見まごうはずはない。
『 じゃあねえ〜 』 氏のような非浪漫派は 「知り合い」 から 「迷惑」 のカテゴリーに移し替えてやった。

ロードの向こうの町並みのさらに向こうの山なみの上から少しずつ明るさを増す空と、少しずつ明るさを減らして消えかかる星々。

初冬の歳時記としていちばんのシチュエーションを写真で伝えたのだが、非浪漫・非想像・非印象派の彼らには寒々とした原野の風景としか受け止めて貰えんかったようだ。
ここはやはりワシの”たぐいまれな”筆力で奴らを振り向かせるしかない。思いを新たにしたものである。

新たにした思いを忘れないうちにマインドに定着させる接着剤は一升瓶に入っている。台所の隅にあったのを持ち上げてみたら軽い。
これはイカンぞ、作家のモチベーションが軽くなってしまう。どーしたらよかんべーと思案している処にレールマンがやって来た。

「おお これは鉄路氏、よい処に参った。 ささ入られよ、ずずーっと奥に入られよ。 して、 ご持参の品は何処に?」

彼は手ぶらなのだ、いつもなら一升瓶を二本さげているはずなのに。
ワシの小屋を訪ねる者は手ぶらで来てはいけない、新聞の勧誘員だって二缶パックの発泡酒くらいは持って来るぞ。ましてや今はモチベーションの危機なのだ、手ぶらはないべや。

「おやー? おしぐれさん、妙に愛想がいいね。 早くも匂いを嗅ぎ付けたなあ。
おーい 弟子ぃー、こっちへ引いて来い」

レールマンが戸口を大きく開けると、弟子犬のブッチー君が小さな荷車を引いて入って来た。驚いたことに一升瓶と重箱が積んである。
こんな重たいものをよく犬が引いてきたものである。動物虐待ではないのか? 
ところがブッチー君、喜々としている。
ワシの処に来るのが楽しみだったのか、荷車引きが嬉しいのか、それとも労働そのものに価値を見出して喜んでいるのだろうか。

アルミの枠にゴム車輪の三輪荷車はよく出来ていて、回頭性が良さそうなのはすぐ見てとれた。
三輪なので軸重が犬の肩に掛からない、引き綱も合理的にデザインされている。自分の体重ほどの重量までなら中型犬でも引いて歩けるようだ。
「どうしたの これ、 売っていたの?」

「ぼくが作った。だてに30年もJR北の工務所にいた訳じゃない。これは習作でな、じつはもっと大きいものを計画している。その相談に来た。
前回編 『中』 では話せないままページが終わってしまったから今日は実機の図面を描いて来た。
すでに自宅裏に屋根付き作業場とアルミ溶接機などの大道具は準備した。細かな道具は此処の自転車工具が使いやすそうだから使わせて貰う。 逆襲の戦車だ」

彼は懐から何やら図面を取り出す。
図面だと言うのだからそうなのだろうが、カレンダーの紙の裏にまがまがしき戦車なるモノの絵を描くそーゆー精神は大いに讃えたい。

それにしても逆襲の戦車とはただ事でない。このご仁とお弟子が一升瓶を携えて来たときはいつもただ事でない。今回はクーデターのたくらみか? 一体何にクーデるというのだ。
昔 「アパッチ族の逆襲」 という映画があった。そのDVDを見てジェロニモ人形など流行りのフィギュアを載せる戦闘マシンを作ろうなどと変なことを思いついたのだろうか。

図面を作業台に広げようとする彼を制してワシはウエスで台上を拭いた。
ここに先月のカレンダーなど広げられては折角の一升瓶と重箱を並べるスペースがなくなるからだ。

「まて 同志よ、吉良の屋敷の絵図面を広げる前にワシらはモチベを広めなければナラン。それなる荷車より宝物を降ろしてここに置け。おっと千両箱の重箱を落としてはならんぞ。
逆襲の血判書はその後じゃ。 ブッチーどのご苦労であったのう、曳き棒を外して休まれよ。
ひと休みしたら外の様子を見張ってくれんか? 幕府の密偵が潜んでおるやも知れんでなあ」

ブッチー君は重箱に入っていた里芋の煮っ転がしを1個貰って、それを咥えて外に出て行った。大した働き者である。
ワシら二人は彼と比べたら大した怠け者だが、なあーに間もなくモチベが昂揚してくるから そーしたら吉良邸討ち入りだって宇宙侵略だって可能になる。

台所からコップをふたつと縁の欠けた小皿を探して持ってきた。小皿はお弟子用にと持ってきたのだが他の大皿だって縁は欠けているからどれだっていいのだ。あえて小皿にしたのは彼は足軽の身分だから差をつけた。こーゆーことはケジメをつけねばならん。
ワシら大将と同じように重箱から直接の手づかみ食いでは戦陣のモラルが保てんではないか。

来客が持って来るタダの酒はいつ飲んでも旨い、昨朝アイソン君とロードの土手で飲んだらさぞかし美味しかっただろう。
宇宙みやげの水素ガスで冷やしたオリオンビールを昨朝の凍える原野で飲んだならモチベはさぞかし昂揚したろうなあ。昂という字は ”すばる星” だって知ってっかあ。

「そろそろ ええか? おしぐれさん、モチベは復旧したか、なに まだだあ? もっと呑め 早く飲め のんだらぼくの図面を見れ! トロッコ自転車だ。
イメージは保線の運搬台車だが重量物は積まん、ぼくらと水と食料だけだから自重20kgが目標だ。

小径のフランジ車輪に幼児車のゴムタイヤをはめてサスペンションを省略する。
フレームはアルミ材で簡便に作り、自転車の機関部を移植して狭軌ゲージ1,067mmの車軸をチェーンで駆動する。
低い床面にはブッチーが落ちないように滑り止めの突起のあるウレタンマットを張る。下の線路のバラストが見えると目が回るからねえ。

課題は巡航速度がどれ程になるかだ、変速機はぼくらの自転車のものをそのまま使う。入力は人力エンジンだからモチベ出力次第ということになるな。
モチベ用ガソリンはもちろんハイオク焼酎25度を搭載する予定だから心配するな。
ブレーキは無くてもいいのだが、取材のメディアへの訴求効果を考えればマウンテンバイク用のディスクブレーキが豪華で良いだろう。

軽量化のためトランスファーは設けない、前後の駆動力が同じになるよう気合を合わせて踏み込むのみだ。そういうコト好きだろう?
おしぐれさん、おまんの自慢のクロスバイクも無償提供して貰うぞ。戦時徴用というやつだ」

「おおー よく書けてるねえ、次回からは方眼紙に描くともっとよいねえ。 サドルが二個あるのはお弟子の分か? 酒も旨いが里芋はさらに美味いねえ。奥方はお元気か」

「なあ〜にを 言いやがる! おまん ぼくのここまでの話を聞いていなかったのか。飲むのを止めれー! ぼくの話を聞けーっ!  
ブッチーは犬だぞ、荷車は引けてもサドルに座ってペダルが踏めっかあー。 彼は走路見張りの専務車掌だ。
おまんの役目はなあ、 2個あるエンジンのうちの1個だあ! 四輪駆動のクワトロ仕様なんだぞおー。
 
芋が旨いってか、おまん 酔っぱらった振りして問題の核心を避けようとしていねーかあ?
ええか 里芋のいも言葉は ”鉄の盟約” だぞ、Fe を多く含んでいるからなあ。芋食って酒を飲んだからには話に乗ってもらう、ついでにサドルにも乗ってもらう」

「鋭い洒落じゃのう、 それでえ 何と戦うんじゃ、 奥方か? アパッチ族か?」

「国交省とJR北 本社だ!」

「びえ〜! おぬし、今をときめく あんべちゃん の国家権力に挑むっちゅうのんか? でもなー そんな手段はあるまいよ。デモ行進でもするとデモいうのか?」

「ふん その通り、デモ行進だ。だがおまんの三段洒落はシャープさに欠けるなあ。
ぼくはね、今回の軌間測定値の改ざん隠匿に端を発する一連の疑惑問題と前例のない無期限監査は、国交省による恣意的なJR北潰しと思っている。

潰したあと、国がナニを作ろうと考えているのか今は確とは分らんが、シベリア ロシアと北朝鮮を間直に控える北海道の鉄道レール規格をいまの狭軌から広軌ゲージに張り替えて、米国製のミサイル台車を乗せて走らせようとしているのではないのか。
国境海の強力な防衛戦略鉄路を構築しようとしてJR北を意のままにしようとしているのなら、これを断固阻止せねばならん。

すでにJR北の本社は敵に取り込まれたと思うべきで、そんな敵と戦うには遵法などと言っていられっか! デモ行進ではあるがレールの乗っ取りだ、列車往来危険罪に抵触する恐れはある。
ぼくたちには越法・脱法も厭わない覚悟が必要だ。
ええか 日本の裁判では確信犯は罪に問えない。我々は正義を行うのだ。世論を味方にするのだ」

「びええ〜」

「ぼくがまだあっちに居た頃に、広軌にする際の地盤の問題点や工区のことなどの説明を求められたことがあった。
上のひとは国からの話だとしか言わなかったが今思えばあのころからCIAが動いていたのだ。

レール軌間はね、今回大げさに騒がれているがあの程度の誤差では何も起こらん。本土内のJR東日本や西日本でも実態はさほど変わらん。
非採算部門は予算も人員も削減され続け現場は疲弊している。
元々赤字体質の北海道では除雪費用で大半の保線予算を使い切っていて、カーブの外側の擦り減ったレールでも騙し騙し使っている。
減っていない内側レールと取り替えっこして、曲がり半径の違いは人力伸ばしで合わせているんだ。このIT時代に人力の金テコとジャッキでだぞ。

それがぼくたち工務所の誇りでもあったわけだが、職人堅気の現場の頑張りで問題解決を長く続けていると、会社は最初から問題など起きてはいないと錯覚して解決機能を持っていた部署を廃止してしまう。
その結果、大事な場面で解決支援を現場が求めても決断する重役が何処にもいないという不思議なことになって、時間ばかりを浪費する。
極端な話しをすれば豪雪の際、毎年ラッセル車両が不足して困っている保線区に新区長が赴任したのを機会に思い切って増両の申請書を出した。
書類がぐるぐる回っているうち春になって雪が融け出せば、その書類が机の上に載っていてアタマの痛かった中間管理職はこれ幸いとシュレッダーにかける。

新区長は上から何も言ってこないのは申請が通って秋口には新車両が来ると思っていたが、初雪が降っても来ない。
問い合わせてみても前年度の申請など知らないと一蹴され、「お前のところは巧くやっているじゃないか」 と肩をたたかれ追い帰される。
こういうこと一杯あって、じつは国交省も実態は知っている。知ってはいても決定的なドジをやらかすまでは知らんぷりしている。

去年群馬県内の高速道路で貸し切りバスが長時間の連続運転の果てに居眠り事故を起こす事件があった。死傷者が出たから刑事事件となった。
あの会社は陸運局によってバスを封鎖され、たちまち資金難となって倒産したが刑事責任と民事賠償訴訟の被告の立場は変わらない。

つまりバス会社は陸運局によって潰されたのだが、無理な行程のツアーを企画した観光会社は通産省観光局の管轄だから無傷で残っている。
交代の運転要員を用意しなかったのはバス会社の都合であり、観光会社に事故の責任はない。としているのだ。

今回のJR北潰しは省や局よりもっと巨大なチカラだ。”潰し時”と考えたのは中国の海軍力増強を危惧した米国がかねてより目をつけていた北海道のレールに早急にミサイル台車を載せたいと、尻を叩いてきたからだ。
このところの展開のえげつなさは儒教思想の影響下で育ったわれわれ民族のおもわくを遥かに超えている。

脱線転覆があったのは貨物線だっただろう、死傷者がなくてよかったがアレは金を貰った運転員がわざとやった。
ATS機器を破壊した駅員は、仲間に身元がバレそうになった国側のスパイだった。逮捕されてからの消息が報道されないのは国のしわざだからだ」

「オメさま、よーけ しゃべるなあ。 ほんで? 定年退職者の身で なあ〜にをデモる気だい」

「トロッコ自転車で北のレールを函館から稚内まで走るんだ。

ぼくはねえ、30年前に妻子を此方に残して北海道へ初赴任のとき当時の国鉄総裁から 『 鐡道マンは汽車で行け、飛行機は敵の乗り物だ 』 と言われ、職員パスの効く二等座席の夜汽車に揺られて青函連絡船駅で降りたら大雪で道内線は全線運休。函館まで歩いてタクシーを探したら何と馬そりタクシーだった。

この時代の北海道ではねえ、大雪の日に汽車に乗るような命知らずはひとりもいない。ヒグマを素手で倒す屈強のアイヌ族の男でさえ汽車には乗らない。
馬そりか犬ぞりのほうが速くて安全、そのうえ汽車賃が掛からん。馬もカラフト犬も家で飼っていたからねえ。
ぼくが習作で作ったブッチーの荷車は当時の荷馬車を思い起こしながら作ったんだ。

馬そりタクシーの床には練炭火鉢のヒーターがあって、それで暖を取りながら網を乗せてシシャモを焼いて、唐キビから作った密造酒を飲みながら三日間雪原を走って稚内に着いた。
稚内駅では新任のレール技師は連絡船の凍ったデッキで滑走し、冷たい時化の海に転落して死んだと皆んな喪章をして雪かきをしていた。

からだ中からツララを下げて馬そりから降りてきたぼくに、ついたあだ名はノースマンだった。
スウェーデン発祥の北海を泳ぎ氷原を走るノース トライアスロンの完走者に贈られる尊称だ。

この30年でレール総延長は倍になり、大雪でも列車は走るようになった。ぼくの定年までに新幹線が来るようにと一度も帰省せず頑張って働いてきた。
その夢はかなわなかったが、ぼくらが敷いたレールの上で北のディーゼル特急は狭軌ゲージの世界最速を達成した。
そのレールに米国製のミサイル台車なんか載せてたまるか、べらぼーめー!

おしぐれさん! ぼくの初任のとき乗れなかった函館から稚内までのレールを、ぼくらはトロッコ自転車で走るんだ。
そして、手作りトロッコでも走れたこのレールのどこが欠陥じゃい! 欠陥しとるのはJR北の本社と国のお偉い監査官だあー と叫んでやるんだ。
北の大地のさらに果てまで行って愛を叫ぶんだあー」

「叫ぶだけか?」

「そうだ、 不足か?」

「おもしろい」

「だろう、 やるよなあ」

「うん、 やる。 やるが ワシらがトロッコを走らせているときに後続の特急が近付いて来たらどーすんだ? 線路から降りるのか」

「ぼくが30年も北の工務所に居たのは伊達じゃない、と言っただろう。当時部下だった男たちがまだたくさん残っている。
彼らは総力を挙げてぼくらをサポートすると約束している。
トロッコの通過ダイヤに合わせ、前後20kmの分岐ポイントと駅と踏み切りの総べてのラインに、偽のコントロール指令を発令するコンピュータ ソフトが出来たと連絡があった。

『 国会議員団 特別査察チーム ご一行様 軌間測定車にて通過中。この間は当スーパーATS ”北” が道内ダイヤの一切を仕切る。よって域内の下級ATSをこれより順次OFFするので承知のこと。
通過後はONされるまで総員挙手の礼をもって測定車を見送るべし 』

トロッコ自転車に搭載する「GPS 位置追跡システム」の発信機とスーパー ”北” のモニターが間もなく届く。
作戦名: ノースマン オペレーション 彼らが名付けた。 どうだ、 不足か?」

「めっちゃ 素敵やないけ。 北の男たちよ、アタック開始じゃー!」

「ワタクシも連れて行ってくだされー わんわん」

「焦るな! まだトロッコが出来とらんべ。 試走と改良を重ね、筋力トレーニングもして最終アタック機を北の大地に運び込むのは来春だ。雪が融けてからだ」

「んじゃー 今日のところは前祝いだっちゃなや。オメさん でーじな図面が汚れねーように 畳んで仕舞ったらどうだあ。ほれ そこの石油ストーブの上さに置け」

「わんわん」



来春まで いったんおわりのココロだあー。

syn

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