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5月2週目 大会事務局から参加通知書が届いた。
公式ガイドブックのほか 当日受付に提出する参加者証や誓約書 ゼッケン引き換え証 スタート ゴール地の周辺見取り図などが入っていた。
ゼッケン番号は初日 S8028、 2日目 S9018
Sは白石ステージ、8は6月8日 9は9日 そのうしろがエントリー順らしい。
思った通り若い番号で、エントリー総数や 一緒に走る人数は分らないが東京マラソンほどの混雑にはならないだろう。
もしそうだったら、走路の交通規制が必要だし前泊者の収容施設が市内だけでは足りない。
東北新幹線 白石蔵王駅は特急が停まらないローカル駅だが、この週はすべて停まる特別措置をJRに要請し、警視庁からも警備の応援部隊と白バイの精鋭隊を派遣してもらわねばならない。
万一に備え日赤からAED装置をありったけ借りて峠道の要地に配置し、地域のおもてなし婦人会を集めて使用法の講習。
自衛隊にはヘリコプターのほか上空にP3C哨戒機を待機させ、搭乗員には命知らずの空挺部隊を指名する。
コースにイノシシが出るかも知れんから彼らには実弾使用の許可を出さにゃならん。
キリンから10万本の飲料水、ドールバナナからは1万ケース、森永 明治 大塚などからエナジーフーズ10万個の寄付を取りつけなければならん。
そしてここが大事だ、日比谷花壇からは100万本のバラを喜捨させてコースを飾るのだあー。
待てよ! バラはいかん、トゲで自転車がパンクでもしたら、わしは腹を切らんにゃーならん。任期はまだ2年も残っとるのに…。
そーじゃ この辺りは桃 栗 柿の産地だ。フルーツの花で飾れーっ!
なにーっ! もう散りましたぁー? むむむ 白石うーめん を1,000万把(わ)コースサイドにおっ立てて目印にしろーっ!
ええかーっ! これはわが市の浮沈命運を左右する一大イベントぞーっ。
ワシは白石市長になりかわり、政治生命を賭してこの難局に立ち向かう覚悟であった。
毎朝家を出て庁舎に向かうときには、起床のあと必ず墨書にて書き直した辞世の句を懐に納めていたのだ。
「白石の 山に向かひて言ふことなし 走れエイドよ フクシマ向けて エイド えいど」
こーゆー大局的見地からこの大会を見ていた参加者は少ないぞ。
ほとんどは 「早くゴールしてビールを飲むベー 賞典はなんだっぺなや 今年もTシャツだけかあー」 なのだ。
まあそれでもよい、参加してきたことを褒めてやる。エイドの意味がわかっていても いなくても。
幼少期より医学と宇宙学に親しんだ Dr おしぐれはそう思うのであった。
ちなみにエイドはAID(一口に言っちゃえば援助、例:バンドエイド)である。AED(自動体外式除細動器)とは一脈通ずる処あるような気もするが別やからねえ。
なに! 同じや思うとった? そーゆーひとは それでええ。
ガイドブックによると自転車を運んだトランスポーターは会場に置けないそうなので、前日は早目に現地入りして駐車場を確保しなければならない。
2月の下見のとき地図で見て予約を取っておこうと行った会場近くのホテルは、地震の影響を受けて取り壊され更地になっていた。
そういう更地や空き地はいくらでもあったが、そこへ無断で置くわけにはいかない。
辺りを徘徊するうち当りをつけたのが、スーパー銭湯 「ゆっぽ」。
ここで風呂に入ってビールを飲んで食事もして、洗濯は隣接の24時間ランドリー。
駐車場のトランポ内で仮眠して朝になったら駅前の市営有料駐車場に入れて自転車を組み立てて、それを押してコンビニまで50m歩き、朝飯を食べてコーヒーも飲んで会場まで50m。
余裕時間は周辺を走ってウォームアップ。
じつによく出来た行程表である。完璧である。
そして実地検証のすごいところはまだある。
白石蔵王駅は始発の改札が始まる朝5時50分までは入り口ドアが施錠。したがってトイレは使えない、顔も洗えない。
一方、駅前駐車場は無人ゲートの24時間オープン。
最初の30分は無料、以後50円毎が加算されるが24時間置いても最大600円。
これなら早朝に出入りしてコンビニでトイレを使って戻り、携帯食のカロリーメイトなど買いにまた出ても30分内ならタダ。
ワシが最も力点をおいたのがトイレ。
自転車乗りが最も気を使うのがお尻やからねえ。
駅前駐車場周辺300m圏内には3店舗のコンビニがあった、いずれも24時間やっている。そのうち温水洗浄便座を完備しているのは1店舗だけ。
ワシらは紙を使わない、温水噴射でよーく洗ったら乾くまで待つ。
万一紙の繊維がお尻に残ったままサイクルパンツを履いたら擦れの原因になるからだ。
お尻の擦れはパフォーマンスを引き下げてエイド ライドを台無しにしてしまう。
駅から一番近いコンビニはスタート会場となる市のスポーツ施設 「ホワイト キューブ」 との中間点にあたる50m地点にあるが、温水洗浄が付いていない。
ここでは食糧の買い物はしてもトイレは使えない。
一番遠い300m先の温水コンビニまで歩いて行くかトランポで行くか、それは当日のお天気と駐車場の空き具合で判断すればよかろう。
直感的には駅前有料駐車場はいつでも空いている、ガラガラである。自転車を降ろしたり着替えをしたりに便利な角地の位置をキープするのはわけもない。
だって駅や会場の周りは更地に空地と草むらだらけなんだもの。
300m圏内にコンビニが3店舗もあって、しかも24時間開いているいるなんてワシのために開けているようなもんやで。
下見は重要なことですなあ。オラはすでにこの時点で半分勝利したといえる。
参加者証が届き、いよいよ決戦モード突入である。
出発1週間前までは肉を主に食って筋肉を赤色に染め上げる。瞬発系の筋肉は赤色筋だ。
特にビタミンB群を多く含む良種タンパクの豚肉がよい。豚トロ焼きをワリワリと食う、ビールはモチベーション食だから大いに飲んでよろしい。
信奉するTarzan誌に書いてあるのだから文句なかろ。
すでにアスリート体形が定着していたから体重の増加などは無縁だ。
1週間前からは ご飯 パン うどん 餅 等の炭水化物(カーボ)でスタミナを体内に蓄積する。
これは試合直前に摂取した分しか貯蔵できないのだ。
だから国際トライアスロン大会の前夜祭では肉など出ない、千切りキャベツに岩塩、ご飯にパスタそれに餅に味噌と豆腐だ。
飲み物は豆乳のみ。
これをカーボパーティというのだが日本のご飯はじつに美味いと評判がよい。
ワシはコンビニの 塩むすび だけ食って オレンジジュースを飲めばイノシシ坂だって熊坂だって乗り越えられる。
練習で無用な怪我をしないようにサンデー ライダーの多い土日はロードに出ない。小屋でマシンの最終メンテをする。
ハンドルのバーテープを巻き替えた。
丁寧に、ココロを込めて巻き上げた。
最後の緩み止めのエンドキャップを押し込んだとき両脇が汗びっしょりだった。
テープはいつもの黒いテープを剥がして白を巻いた。コルク粒の入ったノンスリップタイプである。
「黒は挑戦者が使うべき色、白はローマ法王の法衣の色だから下々の者は遠慮いたせ」 ワシは常々そう言ってきた。
(拙著: 自転車屋おやじ独白シリーズ(3) バーテープ 2013-01-12 (団塊屋内) にバーテープの選び方 巻き方 歴史的背景などの記載がございます)
今回禁を冒して白を選んだのには訳がある。
コルナゴ本国のローマ イタリア伝統宝物館。自転車のコーナーにワシのコルナゴ マスターの原型といわれるコルナゴ オリンピコという自転車の国イタリアを代表する世紀の名品が所蔵されている。
それは激戦の跡を綺麗ななメタ朱色に再塗装されてはいるが、見る者に往時の感動を呼び起こさせ、思わず涙を誘う逸品である。
このメタ朱色はフェラーリ レッドとも呼ばれ、滅多なものには許されない いわばお国の色、ナショナルカラーなのだ。
当時5大陸王者の名を欲しいままにしたオリンピコ号は、名手 ジョゼッペ・サローニのライドを得て1980年代を連戦連勝、イタリアにコルナゴあり。
今も語り草のチャンピオンマシーンだった。
メタ朱色に白の胴抜き塗装はサローニ カラーと呼ばれ、そのままワシのマスターに継承されている。
5大陸制覇の5色のストライプに小さく world champion と記されている。だからってワシに力が宿るわけではないが … 言いたい。
そのオリンピコ号のハンドルに、クラシックな曲がりのハンドルに、ジョゼッペ・サローニが握った汗の滲みこんだハンドルに、巻かれているのが白色のバーテープ。
よく似合う。
サローニ カラーのコルナゴに一番よく似合うバーテープは少し汚れた白なのだ。
ワシのコルナゴはマスターという名前だが女だと思っている。乗った感じは硬めだが、そういう女だと思っている。
6年前に嫁いできたとき、イタリア風の白いドレスの花嫁衣裳を着せてやることは出来なかった。
資金の全部を購入費用に当てたので余裕がなかったのだ。それは今でもかわりはないが…。
白のバーテープが花嫁衣装のかわりでもいいかい? ずいぶん遅くなったけれど やっと白を巻く機会が来たよ。
日本ではねえ 白は死に装束、滅多なことでは使わない。
いーや 不吉な色ではねーだよ、家族を送るときの愛情の色だ。二度とは会えん覚悟の色だ。
だから日本では不幸のときにも幸せの日にも白なんだ。 前祝をすっぺー。
おい 聞いてるかー フェラーリレッドの コルナゴかーちゃんよー。
(5)に続く
syn
写真 左: 白いバーテープの巻かれたハンドル部、雨中走行の汚れがやや見えますが綺麗に巻かれていますね。ライダーの人柄がうかがえます。
中央前にあるのはサイクルコンピュータ。
さらに奥の床上にたまたま写った練習用ローラー台の負荷装置が見えます。
中: コンピュータ画面、数字は最終日ゴールしたときの消費カロリー。1,017kcal/58.08km/2時間44分35秒でした。エイドタイム中は時計を自動停止します。
大きい0は 車速 ペダル回転数 心拍数 写真は測停止中。 ↑ 上の数値は記憶された当日の頑張り値。
標高差231mに対し1,017キロカロリーは軽い練習程度やねー。 どんなもんじゃーい! と威張っていますが実態は?
右: 泣く子も黙るコルナゴブランドロゴ
フェラーリレッドに白の胴抜きは30年以上変わらないジョゼッペ・サローニ仕様のスペシャルオーダー。
会場でその細身なクロモリフレームの華麗さはカメラマンのレンズを独占しましたが、そばのライダーは無視。
悔しいからまだ全体写真は公開しませんよーだ。
5月
強い北風の日はなくなってきた。
風は朝のうち北寄りでも午前10時を過ぎると南風になり、それが午後にはどんどん強くなる。
渡良瀬遊水地のような 広っぱ ではさえぎるものがないので、午前中に遠くまで行ってしまうと戻り道はインナーギヤを使わないと進まないほどの風の中になる。
しかも風向がしょちゅう変化して強弱を繰り返す。
突風と表現される風は5月に多い。
向かい風が脚力トレーニングに役立つと4月に書いているが、それは整然と吹く鬼怒川べりのほどよい北風のこと。
乱れた向かい風のなかで無理やり進むと、荒れたペダリングの悪癖を再び脚に覚えてしまう恐れがある。
楕円ギヤで矯正した足に真円ギヤを戻した意味がなくなってしまう。
ペダリングは自転車の生命線、外乱を受けてリズムを崩すようではまだまだ修行が足らんということだ。
渡良瀬の南風は巻風。伸び始めた一帯のヨシの葉が大きくうねって波打つのが見ると、ややあってザザザーと音を発する。
直後には車体が左右どちらかに強く振られるから土手から落ちないように身構えなければならない。
身構えるといっても足はペダルに固定、両手はハンドルにあるのだからそれ以上身構えようもない。
アタマを下げて肩を絞り、できるだけ受風面積を狭くして吹いてくる方向を予測する。
前輪が振られる前に耳で風の動きを察知するのだ。
音を聞くよりも先に耳の先端の皮膚センサーに感じる風の先触れで右か左かを判断し音で強さを感じたら、吹いてくる側の肩を応分量傾けると其方に進路が向くから直進が保てるのだ。
このときしっかり踏み続けてリヤへの駆動力を切らしてはならない。
駆動を切らすとリヤも吹かれて振られるのだ。
吹かれてから当てハンドルをしていては間に合わない。
ふらつきながら進んでいる前走車は吹かれてからハンドルで対処しようとしているから風速の変化の度にハンドルが遅れ、左右に大きく蛇行している。
大したことではないようでもこれを意識しているかどうかは、あっという間に蛇行車に追いついてしまう事実から正しいと思う。
こんな大事なことがバイクの本には書いてない。
書いても言葉や文章では伝わらないから書かないのか、それとも書いたのはワシが初めてなのか。
そうならこれは大変な学術書やで。幼少期より医学と宇宙学に親しんだというウワサは本当やったろ。
ワシらのヘルメットが穴だらけの風抜けタイプなのは冷却熱を放散する効果の他に風を知るためのものだ。
設計の甘いヘルメットでは無風でも風切音が起こっていつでも耳鳴り状態だから使い物にならない。
おおむね価格に比例しているのがおもしろいが、イノチをガードする能力も比例していると思えばおのずと選択機種は絞られてこよう。
上級選手が使うヘルメットが一部メーカーの数モデルに集中している理由は、風へのアンテナ性と守命効果の有効性からなのであって、けっして見た目の恰好からではない。
渡良瀬の空を飛んでいるパラグライダーや熱気球のパイロットも耳を出したヘルメットなのは同じ理由だ。
上空は相当の寒さでも耳を覆うことはない。モーターバイク用のフルフェイスでは風を読めないからだ。
そういえば登山家だって高層ビルの外窓清掃員だって耳出しヘルメットでしょう。
大抵はレッド ブルのステッカーなんか貼ってあって、モチベーションがうかがえます。
強力な外部動力を持たないワシらは野の鳥と同じだ。風に逆らわず風を味方につけて限られたエネルギーを温存させ、モチベーションを増殖さてゴールを目ざす。
こう書くとムッチャかっこ良いが、こんなこと考えとんのはワシだけやで。
あとの連中は 「早よゴールしてビールを飲もや、賞典はなんやろなー」 ‥ こらぁー! おまんら 喝じゃぁー。
喝ーっ! なんじゃが連中は平気なのだ。なんたって脚が強力だから残存エネルギーだのモチベーションのと言わなくたって、ひょいひょいと峠を越えて行く。
おまけに連中のバイクは軽い。
強力な脚に軽いバイクはトンビがスズメのボデーで飛ぶようなもの、13%坂でもひょいひょいと登る。
最近は女性クライマーも大増殖して、尻の軽いのはいただけないがバイクの軽いのはよいことだ。
アルミ素材のバイクが軽量なのは知られて久しいが、近年のカーボン繊維素材のバイクはなお軽い。
各メーカーのハイエンドモデルはボーイング787よりはるかに高密度 高弾性 超軽量の 「東レ」 の高機能 超薄カーボン素材で作られている。
国際競技規則にある完成車最低重量6.4kgに迫る軽さだ。
メーカーカタログの重量の欄に6.4kgちょうど、あるいはNA(ノーアンサー)と書いてある超お高い車種がそれ。
じつは6.4kgなど、とうの昔に突破しているのだが、それは公表できないから車体の重心下部にバランスウェイトを秘かに入れて最低重量の規則は守っている。
ウェイト位置を前後に最適化させ、山登り得意に特化させたりトライアスロン用に巡航性を高めたり、
色んな工夫ができるのも供給される 「東レ」 の基本素材技術のおかげなのだ。
もちろん海外各メーカーはそんな内幕をトップシークレットにしてフレームに加工する技術の方を喧伝し、オリジナルナノカーボンなどと呼んでいる。
「東レ」 以外のカーボン繊維がダメとは言わないが単位面積あたりの繊維断面の均質さで 「東レ」 は群を抜いている。
「東レ」 からの出荷価格は飛び抜けて高いことはないが、それで作られた製品は飛び抜けてお高い。
しかもポロシャツなどを買ったときに付いてくる素材の出処を示すタグは付けられていない。日本通産省よ どう思う?
近頃のサンデーライダーは、その超お高いトップグレードのバイクを平気でサンデーイベントに持ち込んで来るのだから、たまげたものだ。
その資力にもたまげるが、一回の落車や強い衝撃で寿命が黙って半分縮むと言われる高級カーボン車で、ベテラン ビギナー ママチャリ合い混じる日曜のサイクルロードに乗り入れて来るのだからその胆力にたまげる。
もっとも、高級カーボン車と見まごう某国製超廉価カーボン車もあって、これはYou Tube 動画に破壊したフレームをノコギリで切った断面が紹介されている。
庭の木の蓑虫(ミノムシ)でも もっと丁寧に上手に作るでや。
ちょっと見では区別が難しいが、なーに 乗り手のペダリングスキルと取り付いている変速機などのグレードを見れば真贋はバレバレだべし。
その変速機だが、真の方はおおむねこれまたお高い電動の変速機をチョイスしている。
自動車のオートマチック変速機とは少し考え方が違って、前2段 後10段の変速の指示はライダーがオノレの判断で手元のレバーで行う。
ここまではワシの手動式も同じ、この後が違う。
ワイヤーは無くて、フレームに内蔵した電線を介した変速指令がシフターに届くと、直ちに変速操作が開始されるのだが、その瞬間瞬間のギヤ歯の回転位置やチェーンの現在位置、
チェーンに掛かっている引っ張り荷重などを瞬時に計算して、これ以上ない最適最速のタイミングを見澄まして電動モーターが ウィン と小さく動く。
ウイ〜ン ではない、ウィン なのだ。
模型モーターのような音だが、指など挟んだら瞬時に無くなる。懐かしいマブチのステップモーターの音だ。
瞬後チェーンは音もなく隣のギヤ歯上に移動してトルク伝達に瞬時も間合いを与えない。
ワシらの手動式はワイヤーと梃子(てこ)を介すから機械遅れが生じる、大体において操作レバーが重い。
そんなことは構わんが、チェーンは隣に移動するとき、どの歯が来ていても移動できるものではない。
チェーンは離す歯 受け取る歯のタイミングが合った一瞬しか移動できないので、場合によってはガリガリ音を立てながら一周待ってタイミングが合ったら変速が完了する。
特に、小さい方のギヤ歯から大きい方のギヤ歯に移るときこの間合いが起こりやすい。
このときの操作を「上げ変速 」という。逆は「下げ変速」だ。
上げ変速をするときとは即ち坂を登るとき、チェーンにはライダーの頑張る足からトルクが掛かってピンピンに張っている。
上下のギヤとチェーンの関係図が合っていないタイミングのときにピンピンチェーンでは、ガリガリいってチェーンはますます移動を完了できないので、ベテランライダーは瞬時トルクを抜く。
それは 「フッと」 抜く程度です。
チェーンの緊張を緩めて移動を助ける程度です。
しかし、坂を登っているライダーが瞬時でもトルクを抜いたらどーなります?
後ろの奴に抜かれますわなあ。
自転車競技とはそれほどシビアなんですわ。
後ろに着けて前が上げ変速して車速が下がる一瞬の隙を待っている。なんと嫌らしい競技でしょう。
自転車は他の陸上競技と比べ、それほど露骨に体力差は現れないからみんな団子状で走っています。
団子の中に隠れて風を避け、前がへたれるのをいつまでも待っているのです。肉食爬虫類的 非情の世界なのです。
それゆえ、ワシにだってワシにだって チャンスは少ぉー しはあるのですゥー。 ウッウッウッ。
そこでライダーは坂にかかる手前で上げ変速を完了させておいて、一気に坂を越えようとします。
でも、登り始めは慣性速度も脚力も残っているから早目に実行し過ぎた変速がアダとなって脚は空転し、結局は速度をロスして後ろの奴に抜かれ後退してゆく。
では、後ろの奴はどーなんだ? 奴だって変速するだろーが!
後ろの奴は電動変速機だったんですよ。
奴は平地ギヤの高速で前の男を抜いたあと、いよいよ坂の正念場に掛かってシフター操作をしたらそのまま踏んで行けるんです。
電動シフターは、ライダーの意思の操作を受けると同時に絶妙のシフトタイミングを見計らっていて、ここぞ! ここしかない! の一瞬の気合いで、ギヤ鳴りなどせず変速を完了させてしまうのです。
そんなの インチキやー ハレンチやー 。
自転車はのう、絶妙の職人芸で変速を決めながら風を切って先頭を行くから恰好ええんやないけ。
ひと昔前のレバーがフレームのダウンチューブに付いておった時代はのう、ハンドルから離した右手でシフトを決め、再び手がハンドルに戻ってゆく0.6秒に男は賭けたんじょ。
自動車でいうたらダブルクラッチの極意やな。
団塊屋の なーさん はN360のドッグクラッチ 早かったでー。黄色い毛糸のぼんぼんを被せたシフトノブが場違いな感じやったけどな。
あれ誰に貰ろたんやろ。
かつてツール・ド・フランスを3回勝利した初めてのアメリカ人 グレッグ・レモンのシフトは芸術じゃった。
「シュパッ」 という気持ちええ乾いた音がアルプスの谷間に響いたもんじゃ。
ミスったらチェーンが外れて置いて行かれる。ゴールのパリ凱旋門が遠くなる。スポンサーは離れて行く。
西部劇の早撃ちガンマンと同じや、一瞬のハンドワークに命を賭けたんじょー。
こーゆー話が通用する世代人口はもうほとんどおらんとです。
みんな死んでしまったか、呆け老人になってしまったとです。
じゃからワシは27年前の図面でワシのために再度起こされた金型で、エルネストとパオロのコルナゴ兄弟が作ってくれた鋼鉄製の重たい、じゃが華麗なフレームに可能な限りの軽量パーツを組み込んでエイドの激坂をトップで登り、
薄っぺらなカーボン野郎どもを見返してやろうとしとるんじゃー。
じゃが電動シフターは使わん。
あんなのはインチキや、ハレンチやと思うからや。
前向いて走っとったら変速機の様子は見えん、見えんでも音や匂いは分るやろ。
微かな音がする、声がする、チェーンオイルの匂いがする。
「あんたー あたしゃ大丈夫だよ。オイルはまだ効いとるだで 0.6秒でシフトを仕上げてみせるから、あんたはしっかり踏んでおくれ」
オラのコルナゴかあちゃんはそう言うに決まっとるだあー。
(4)に続く
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帰り道、家に帰るより先にサイクルショップに立ち寄り、
「何とかいたせ! 恐山を登れるギヤを作れー」
無理難題を突き付けられたショップオーナーの提案が楕円ギヤだった。
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真円ギヤ | 楕円ギヤ |
- ワシ こーゆーの大好きや。
- なんたって 幼少時より医学と宇宙学を ‥ やからなあ。
4月
今年の春の訪れは例年より早かった。
前月初旬には筋トレローラー台の小屋を出て外での実走練習ができる気温の日が多くなって、日中にはお気に入りの鬼怒川サイクルロードを走れるようになった。
北風に押し戻される土手上のロードは、山に行かずとも近場の平地で山登りの抵抗が得られるのでへたれ克服トレーニングには丁度よい。
日光中禅寺湖を源にする清流 鬼怒川に沿って土手上のロードを北に向かう。
風に抗って行けるだけ行って、疲れたら自転車の向きを返すと風に押されながら元の場所に戻れるのだ。
これを毎日繰り返すと筋肉痛の上に新たな筋肉痛が上書きされ、戻り道のクールダウンを丁寧に行うことで腫れ上がった筋肉が整理され、自転車に有用な筋繊維だけが定着する。
だが自転車は脚の筋力だけでは走れない。腹筋や背筋すなわち体幹部の支えがなければカラダは車上でグズグズになってしまう。
ハンドルの下側を握った前傾姿勢のまま両手を離し、そのままペダリング出来る体幹の強靭さがロードライダーの条件。
はたから見れば 「アイツ なーにやってんだ」 と思われる屁っぴりスタイルもいとわない。
体幹だけで走るには止めた息を少しづつ吐きながら腹筋を意識してペダリングする。
いつの間にか呻き声が漏れ、散歩の犬に吠えられる。
ジョギング中の若い女性は貞操の危機を感じるのか慌てて逃げる。
お許しください すべてはエイドのためだ。
AIDとは 己を介(たすく) という意味だ。
こんなトレーニング場は室内には造れない、やはり自転車は自然の中を走るもの。風を受け 陽を浴びて走るものだ。
フレーム素材のクロモリ鋼から鉄の弾性感が生き生きと伝わってくる。
ワシ思うんよ、ワシの自転車 たったひとりで海を渡って、ワシとこ嫁いできて心細かったかも知れんが、今ではよかったと思うとるに違いないって。
嫁いできて 「しもた」 思ったおひともおったけどね ‥ 自転車はええでえ、喋らんし ひとりでは何処へも行かへんから。
でも機嫌が悪いとガリガリいって変速せーへんかったり、エア圧の面倒をよう見とかんと不意にパンクしたりする。イタリアのおなごも日本のおなごも変わらんなあ。
北風が丁度よいとはいうものの、寒風の中にいると時間の経過とともに辛さが増してくる。
カラダが辛さを感じ始めるのはそちこちに溜まる冷えによる硬い痛みだが、それはモチベーションを荒っぽく削り取るから少しづつ精神を細めて自転車を止めてしまう。
ここで頑張り過ぎると障害が起きる。
膝を痛めたら元も子もない、自分の年齢からして筋骨格に大きなダメージを生じたら回復はない。
ピリッと感じたときはトルクを緩めればよいが、ビリリッと感じたら一日休む。
その辺りの微妙さは自分のカラダだからよく判る、それを老練あるいは百錬というのだ。
とかなんとか言ってサボることも必要。
夜は早めに寝るようにしているが横になって5分くらいすると右の腰部が毎晩痛む、なぜか横になると骨盤の辺りが痺れ痛むのだ。
そのまま我慢して横になって待つと10分ほどで嘘のように痛みが消えて眠れる、これが今年になって毎晩だ。
思い切って3日休んでみた。
3日目の晩は痛みが起こらなかった、自転車を休んだら起きなかった。
これは自転車負荷による骨盤痛だと診断できた。
医師でない者が他人を診断してはいけないが、自己診断に法は介入しない。
哺乳動物には 効き手 効き足 効き目 があるように 効き腰 というものもある‥あるはずだ‥ワシは右効きでそのせいで右の骨盤に過剰な負担が掛かっている。
つまり無意識に右側でより強く踏んでいるのだ。
右側のクランクアームだけ5ミリ長く、あるいは短くしたらどうかなと自転車を眺めながら考え込んでいた。
ワシは50才を過ぎてからの脊柱管狭窄症の他に若いころから脊柱側弯もあって、後方側方から投影すると左右対称のバランス誤差が常人の倍ほどもある。
これは幼児期から左側を机に寄りかかって右手にペンを持ち、長時間勉学に励んだ証しだから今さら仕方がない。
ソクラテスもプラトンも孔子様だってこんなスタイルだ。
学問の神様、菅原道真公は勉学のかたわら弓道もよくなされたから背骨が真っ直ぐじゃ。
ワシもアーチェリーなどやっておけばよかった。
クランクの回転モーメントはアームを長くすると小さい力で回せるが回転半径は逆に大きくなる。すなわち仕事量:ワットは同じだ。
アームを短くすると膝は回転半径が小さくなって楽になると思える。
だが同ワット数の仕事を生み出そうとするには、大腿筋や腸腰筋とその一方の付け根である骨盤には大きな負担となる。
アームの長さをこの時期にイジって、6月の本番までにカラダを馴らすのは間に合うのか。
誤診でない保証はあるか。
幼児期から哲学と宗教、さらに医学 宇宙学の勉学に励んだ結果、へたれ爺さん に落ち着いたワシはいまトレーニングを充実させる大事な時期にある。
これから挑む東北の山々はトレーニング不足のぶっつけ本番で勝てるような相手ではない。いや、勝てるようなワシではない。
文学的にはどちらの表現が適切なのか?
迷いが生じると集中に欠ける。
ワシは夕暮れの自転車小屋に座り込んでクランクやペダルの辺りを眺めながら考え込んでしまった。
文学に迷っていたのではない、クランキングについて考えていたのだ。
そろそろビールも飲みたいなと思考が傾き始めたその時。
季節外れの雷光が閃き、近くの公園の背の高い鉄柱に着雷した。
飛び散った雷片が小屋の戸口まで飛んで来て、ワシは雷神のお姿を見た。
先人が描いた雷神図は誤りで、鉄柱にしがみつくことに失敗した雷神様は胸にスパイダーマンの図柄のジャージを着た、何てことないへたれた神様だった。
だが、へたれり とはいえ神様である。ワシは天のご沙汰をいただいた。
「汝 原点に戻り 初めより始めよ。
エナジーとは何ぞ? ひととおのれを突き動かすものとは何ぞ?
それは愛じゃろ、愛をおいて他に強き尊きものなどあるまい。
わしが こげな夕げ晩酌の時間帯に下界などに降りてきて、おんし等を騒がすには他意はない。あるのは愛じゃ。
まだ仕事が終わらんで疲れてもなお正業に励む者を差し置いて、ひとり遊興の安酒など飲まんとする者をわしの正義の雷鳴でけん制しとるんじゃ。
愛とは皆に等しく回すもの 疲れた者に水を渡し 遅れた者を待ってやる。
愛とはサイクルなのじゃ。You can CYCLE it なのじゃ」
ハタと閃いた。
これや! 楕円ギヤや これはもうワシには要らんのや。
楕円ギヤ。
思い起こせば3年前、青森の下北半島を海岸線伝いに巡るうち、たどり着いた大間崎で 「大間のまぐろ」 を食って妙に勢いづき、よせばいいのに半島の中央山地をめざして霊山恐山を登って行ったことがある。
越えても越えても立ちふさがる13%超の坂に、ついに失速して立ちごけ。
見ていたのは北限の猿だけ。
聞こえるのはワシの胸郭の奥から絞り出される荒い息づかいのみ。
投げ出された路上に伏して、幽かに漂う霊泉のおごそかなる黄金硫黄の匂いを嗅いだだけ。
その霊泉の源、宇曽利山湖の賽の河原にはついに到達できず退散した。
帰り道、家に帰るより先にサイクルショップに立ち寄り、
「何とかいたせ! 恐山を登れるギヤを作れー」
無理難題を突き付けられたショップオーナーの提案が楕円ギヤだった。
楕円ギヤ
(写真左: オーバルギヤ スペイン ローター社製、写真右: 通常の真円ギヤ シマノ アルテグラ 共に歯数は50x34)
ペダリングスキルの向上を図る目的で開発されたというこの形状はまさしく楕円。
踏み込み時に長円部で踏むことで負荷を高くして高出力させ、引き上げ時には短円部で軽くして筋肉を弛緩させ、血流を促すことで出力&回復を効率よく繰り返す。
やがてカラダがそれに馴染むと無意識に高回転高出力と持久力が身につき、ツール・ド・ヨーロッパを制する脚力を得る。
へたれなお人ほど効果があります。やがては Mt 富士 だって ‥
ワシ こーゆーの大好きや。
なんたって 幼少時より医学と宇宙学を ‥ やからなあ。
早速取りつけて使ってみると、初めのうちこそ違和感があったがすぐに慣れた。
なるほど踏み込み時のみ押し込むように加圧する、下死点以降は足が上がって来るのに任せると、ふくらはぎ の筋肉を使わないので脚全体のパワーは太腿に傾注できる。
競泳のバタ足だってそうやろ、膝から下は伸ばしたまま大腿で大きく水を蹴るんや。
これは大した発明や、本来ならワシが発明せにゃならんのやが‥なかなかやるのうエスパニョーラ。
調べてみたらオーバルギヤって、自転車がチェーン駆動になった頃の昔からあったそうな。
わが国でも昭和の中後期に少年車に流行ったそうだ、発達途中の少年の筋骨格に優しいちゅうてのう。
その当時のワシの関心は自転車やのうてモーターサイクルやった。
カワサキはまだ目黒と名乗っておったのう。
今の新明和工業はポインターちゅうオートバイを生産しとった。スバルだってラビット スクーターをやっとったんやでー。
あれはイタリア ヴェスパ のコピーやな。
そーや、映画 「ローマの休日」 に出てくるあの素敵なラッタターや。
ホンダはスーパーカブ50で儲けて4輪に進出したんやが初めのころのN360は酷かった。
前輪駆動というのが皆さんまだよーけ解からんかったから、下りのカーブでブレーキ掛けて転げることが多かった。
この辺のことは団塊屋の なーさん がよく知っていなさる。見事に転んだくちやからのう。
木目のシフトノブになぜか黄色い毛糸のボンボンをかぶせた白いN360で … 蓼の海池の急坂を … あー 憶い出したくない。
楕円ギヤの話しやったなあ。
2サイクルモーターエンジンは軽く1万回転するからギヤはバランスの良い真円でのうてはアカン。
一方自転車は滅法漕いでも120回転や。楕円によるチェーンのテンション変化は安物の変速機でも十分に吸収できたんや。
少年の脚に好適やちゅうて、ずいぶん売れたらしい。
昭和後期にオーバルギヤが姿を消したんは、「大した効果はない」 と過大広告の嘘がバレたからやとワシ思う。
楕円を使うこと自体は悪いことやない、むしろ画期的なことや。
悪いのはその使い方や、ペダル軸に対するオーバルの取りつけ角度が悪いんや。
人間の脚出力は様々や、クランクに掛かる出力がピークを迎える角度には皆ばらつきがある。好みもある。成長期の少年ならなおさらや。
楕円ギヤは付いておればええちゅうもんやない、漕ぎ手に合わせてピーク角のミリ単位の調整が必要なんや。
それを当時の自転車産業界は怠った。
各メーカーの社長さんは、「オーバルを作れー」 と号令はしたが、自分では本気で試走しておらんかった。
コンピューターはまだほとんど普及しておらん時代のことじゃった、作れば売れる時代だった、顧客情報管理なんていうコトバもなかった。
乗り手も少年やから親に買ってもらったオーバル車をただの流行りで乗っていた。
1日に100km超先まで行ってこようとする少年達の出現はもっと後のことだった。
出力の出具合や筋弛緩回復の効果をメーカーにフィードバックするシステムもなかった。
やがて高価なだけで効果の分らんオーバルギヤ付き少年車は姿を消していった。
代って本邦初めての本格車といえるブリジストンの 「ロードマン」 が登場すると日本のオーバル自転車は完全に息の根を絶たれた。
ワシの楕円ギヤはそれから40年も経って再登場したスペイン製、スペインはベルギー オランダに次ぐ欧州の自転車大国。サッカーだけじゃない、正統派の自転車を生産している。
この40年でコンピュータも医学も進歩した。
金属加工技術も発達、とりわけCNC切削加工機はスペースシャトル機を宇宙に飛ばすまでに腕を上げた。
今年に入って米国では3DプリンターでM6ライフルの実機をコピーできるソフトが売り出され、それを使った殺人事件が起きたってゆーんだから、昭和のアナロギーおじさんは驚いちゃうよ。
現代運動生理学に基づいてレーザー光で描かれた楕円はなんと古代闘牛場の周りの石垣、あのオーバルの軌跡じゃったんじゃ。
どーじゃ、現代に甦った古代の奇跡に驚いたじゃろ。
スポーツイベントの巨大スポンサーであるエナジー ドリンク 「レッド ブル」 あのロゴマークが闘牛なのは創始者の遠い故郷がスペイン、そんな因縁からなんじゃ。
どーだ、ワシの知識深さにはもっと驚いたじゃろ。
でほらく はこれくらいにして、
そのスペイン製オーバルギヤはワシのペダリングスキルの矯正に大いに役立ったようだ。
クランクが時計の短針2時のやや手前からギヤの長円方向がチェーンに対しピークに達するように微調整すると、4時過ぎには早くも負荷が解けて楽になる。
後はフォロースルーだけでよい。
これのくり返しは遠くまで走れ、しかも心拍の乱れが少なくなった。
後ろギヤを一段上げてここ一発の加速をかけ、その後ギヤをトップ側にもって行く一連の流れがスムーズでかっこいいと言われるようになった。
1年もすると脚のカタチに変化が現われた。
引き足を使わない速いペダリングが定着すると、カーフマン(ふくらはぎ)が細くなってハムストリングス(大腿)が肥大してきた。
いわゆるスプリンターの脚になっていったのだ。
体重は61〜62キロ台で安定して、以前だったら失笑された 「オラはアスリートじゃけん」 のセリフを誰も笑わなくなった。
えっ! なに? 呆れていただけやて、ふん さっきやった完走Tシャツ返せーっ。
その救世主の楕円ギヤが今、かえって災いして骨盤を痛めている。
つまり長円の狭いエリアに出力を集中させるあまり、骨格筋側から言わせればカックン カックンしたピーキーなペダリングになっている。
一度真円ギヤに戻して、まあーるい円状ペダリングをしてみたらどうか。
流石は幼少期より医学 宇宙学に親しんだ Drおしぐれ である、考えるコトやるコトが科学的である。
すぐに実行した。ワシ 一直線的でもあるのよ。
その結果は、
長々と御託を並べた割には骨盤痛はまだあるが、醸成しつくされた自転車筋で真円ギヤを踏むと綺麗なペダリングが弧を描く。
おのれの影をロードの土手の草に映して横目で見ると、思わず惚れぼれしてしまう。
上から下までトルク伝達がシューッと行き渡って、下死点を過ぎるとスッと戻ってくる。
足首は一定角度で固定され、無駄な足掻き動作(アンクリング動作)でパワーロスすることがない。
楕円ギヤは脚が出来たら元の真円ギヤに戻すまでの ペダリングスキル 大リーガー養成ギブスだったのだ。
一度ワシの華麗なるペダリング動画をユーチューブに投稿したいが、どーするのか分らん。
なーさん 知っとるけ。
調子が戻れば練習を再開するのがアスリートの掟であるが、コースを変えて気分を変える工夫もアスリートの知恵。
渡良瀬遊水地まで出かけていって平地を、大越路峠や八十路峠でヒルクライム練習をした。
峠での へたれ はなかなか克服できず、リヤ側のギヤ比にも手を加えないと奥州白石山脈 毛無山の激坂を登り切れるか不安になった。
しかし今年は不整脈の発作を一度も起こしていない、そこまで心拍を上げずに済んでいる。筋力アップが出来てきたのだろう。
去年ヘたれた大越路の石臼がんこそば屋前を乗り切れるまで筋力は向上してきた。
心拍数が危険ゾーンに迫ることはなくなった。
だが大越路をやっつけて、さらに山里を奥に進んだ 永野ゴルフ倶楽部 の坂ではどうしても足を着いてしまう。
心臓がいっぱいいっぱいになってしまい、路側帯の縁石に足を着いて息を整えようと鉄柵に寄りかかった途端、全身に電気ショックが走る。
鹿や猿除けの動物電気柵に触れてしまい感電して飛び上がったのだ。
それでも自転車を放り出すことはないのだから大したものだ、手を放したら自転車は激坂を滑り落ちて行ってしまう。
コレはワシの女房じゃ。
手を放したら二度とはこの手に戻らない。
イタリアから来た じゃじゃ馬の鉄の嫁ご はワシの心臓より大事だから、電気にシビレていたって手を放さない。
このケチなのか愛情なのか耐電根性が発揮されているあいだはワシの心臓は大丈夫だと思う。
ワシと自転車は大丈夫だがサイクルコンピュータはこのショックでしばしば初期化され、登坂データが失われた。ふん 軟弱な奴め。
健康診断の度に心臓右脚ブロックと言われるが、この不意の感電でワシの心臓は耐性を得た。
高電圧で脚ブロックの腺が通ったのかも知れない、本気でそう思っている。
このゲシュタポの拷問のような電気坂を足を着かずに越えられるようになれば、日本中にワシの越えられない坂はない。
4月1日にはすでに近所の公園で桜が満開になっていて、花見のグループがワシの小屋の横をぞろぞろ通る。
みな花見弁当と花見酒をカートに載せてガラガラぞろぞろ通る。
しかも朝からだ、土日ならまあ許さんでもないが平日にもガラガラぞろぞろ。
一年中小屋かロードか山で遊んでいるワシに批判する資格があるかどうかはともかく、ガラガラぞろぞろなのだ。
朝練から帰ってジャージ類を洗って日当たりのよい小屋の裏に干そうとしていると、フェンス越しの隣接駐車場に入ってきた家族連れのクルマが無用にエンジンを回し続けているのでその排気ガスがワシの洗濯物にかかる。
他の洗濯物なら排ガスくらい構わんがジーゼル車の排ガスが自転車ウエアにかかるのはダメだ。
とくにパンツはイカン。
尻パッド部分に排ガス中の黒色粒子性物質が付着したままのサイクルパンツを履いて練習に出ると、擦れが早めに起こってパフォーマンスが上がらない。
運動生理学に精通するワシが言うのだ間違いない。PM2.5も良くない。
だから乾いたら後述のアソス シャーミー クリームをパッド部分に擦り込んでいる。
パッド生地の表面がシルキーになって肌触りよく、長時間ライドでの擦れを予防してくれる。
トライアスロン界では知らない人はいないと言われる名品。
ASSOS(アソス)社はスイスの自転車関連用品メーカー、アパレルは秀逸。
容器には CYCLING BODY R&D と書いてある。
Chamois Creme のe の上に ` マークが付いている綴りは、スイス語なのかフランス語なのか判らんが股間の肌に直接触れるものなので米国製は使わない。
アメリカのケミカル品にはドーピング検査で陽性が出そうな、妖性の雰囲気があるからねえ。
スパイダーマンのあの眼つきは絶対ドーパーだよね。
排ガスとパンツの関係は気のせいだとは分っている。
練習走で低パフォーマーだったのは、ロード脇の土手のそこここで満開の桜を仰ぎつ宴会を開いている非生産的ヤカラの傍若無人な狂態を横目に見ながら走ってきたからなのだ。
春になって広々とした河川敷でバーベキューしたり、陽光の下で仲間と酒飲みしたい気持ちは分る、よーくわかる。
宴会をするのは構わん、だが車両進入禁止のロードへ平気でクルマを乗りつけて無法に乱雑に駐車する。それも大型の四駆だ、軽トラで来い!
ピクニックマットの近くを避けてロードに出てきて立小便する、ゴミを置き去る。
苦々しく思いながらのペダリングでは回転もトルクも上がらない。
ワシとこに花見のお誘いが一向に来ないことも誘因している。いーや主原因であろう。
数年前まではこの時期のワシの自転車小屋は盛況だった。
桜の公園が近いという単純な理由で居酒屋仲間が翌日の場所取りグッズを置かせてくれと言って、軽トラに資材 食材 酒材を山のように積んで来たり、
仕事仲間が運転できなくなったクルマを置いて帰ったり、
その都度誘われて春の到来を共に狂瀾した。
その都度に置いて行った残りの酒肴でワシはその後の数日間を延長花見宴して飢えることがなかった。
ところが居酒屋の店主が年を理由に店を閉めると、二十年来の酒飲み仲間との交流が極端に減った。断絶に近い。
ぽつぽつ定年を迎えたりで互いの行き来がなくなり、転居して居場所の分らなくなった者もいる。
ワシも退職し、それを境に若い連中の出入りもなくなった。
ワシ自身年金生活者の身となって外で飲むことは無くなり、ウチ飲み専門になってますます友達が少なくなった。
それでも当時の居酒屋仲間の数人はしぶとく生き残り、家に居られないのか外飲み残党となって近辺のスナックなどから電話を掛けてくる。
その残党から花見の提案があって、酒肴は準備するから おんな を用意しろと言ってきた。
皺けた爺いさんばかりでは桜の色も褪せるというのだ。
「へたれさん あんたなら花見につき合うような暇な かつ色気漂う おんなに人脈があるべー、高貴さは不問にするでよー」
用意しろったってアータ、ワシがロード界のベッカム様と言われたのは昔のことやで、もうすっかりモテへん。
まぁ知り合いの婆さんに声は掛けてみるけんどね。
心当たりの婆さんに電話やメールを打って二人ほど気品不備のホステス婆を見つけたが、真っ昼間の屋外の芝生の会場に本当に来るかは分らない。
コイツなら間違いないと思われた婆さんなどは、父親の介護で熊本に帰ったきり半年も戻っていないそうな。そーゆー時代と年代なんだよね。
ワシの介護はどーなんのやろ、娘らはアテにならんし嫁は日本語の分らん鋼鉄製やしなあ。
ともかく、今年も無事に花見をむかえました。
これでココロのなかに鬱積していた苦々しさがスッキリして明日からのロードトレーニングに邁進できるというものです。
年々花見会の盛り上がり指数は低下していますが皆それなりに元気。
そりゃーそうですわ、4月とはいえまだ肌寒い真っ昼間の屋外の芝生の上で、平日をものともせずに車座で酒飲んで騒ごうなどとというアウトローな御仁が元気でない訳がない。
へたれさん あんたよーけ日焼けしてまんなー、ホノルル センチュリーライドにでもお出ましされたかねー。
いやー とんでもない、その辺をこそこそ走っているだけですわ。牛さん オメさまこそしっかりしたゴルフだこキープして、毎週ですかー。
お恥ずかしー 毎日打ちっぱなし練習場ですわ、グリーンには1年出ていない。
ときに虎さんはどーしましたかな、阪神に行ったままですかー。
あんた 知らんのけ? 死んだんや、去年の暮れになあ。
肺がんだったそうや、タイガース球場の周りを回って火葬場へ行ったそうや。
へたれさん あんた不整脈やろ、タバコ止めなアカンでー。
花見が済めばもうヤワなイベントはない、あとは6月のサイクルイベントに向かうだけである。
昨年末から伸ばしていた顔の髭を剃った。本気モードになったのだ。
雨で峠の練習に出られない日に思いついて木像を彫った、何ゆえ思いついたか説明できないが切り出しナイフ一丁で小さな仏さまを彫った。
東北の鎮魂と復興がアタマの隅にあったからかも知れない。
木像の画像は 「おしぐれ俊ちゃん つんのめり俳句」 にて公開中。
4月の精進
練習距離:935.3km (強風で早目に上がる日多かったとはいえ、千キロを超えていないのは不足でしかない)
練習日数: 14日 (雨の日のローラー台含まず 花見休暇とその後の二日酔い休み6日 数えてみると思うほど走っていない、なぁーにやってたんだか 喝 じゃあー!)
最大体重:63.4kg (練習帰宅後風呂直前 フルヌード)
最少体重:61.4kg (この体重は凄いよね、自転車だけで一回平均1,100kcalも消費している)
※ 消費カロリー:車載サイクルコンピュータによるペダル回転数と心拍数.継続時間などからの簡易算出値
身長は20歳台の172.5cmより3cmほど縮んだけれど体重61.4kgとはプロボクサー並の精進やないか! えらいぞー。
3センチ縮んだのは脊柱管狭窄症によるもの、まっ 加齢のせいや しゃーないやろ。
(3)に続く
syn
完走
この文字が持つ意義は個人により様々だと、今さらながら思い知らされている数日でございます。
えっ? 完走したの! そりゃー凄い
すごいべー
それで、何を完走したの?
んん!
なーんだ 完走が精一杯かや
満足しています、完走は目標であり 本大会趣旨である復興支援参加の目的でありました
完走? ふーん それでどうしたの
ゴールのあとは温泉に入って帰りました、それだけです 旧歓楽街は取り壊されて仮設住宅になっておりました
おめでとう 完走 祈っていたよ
ありがとう 完走を果たしてこそ海に消えた北のアスリートへの鎮魂やからね
へたれのアンタが … よもや完走とはねえ … おれは泣いたよ
落車しても止まらん! ゴールまでは 押して歩いても 曲がったバイクを背負ってでも 前に行く覚悟でした、久しぶりに燃えました
信じていた ゴールで待っていた その通りになった
おら、 おらぁー 死にもの狂いじゃったんよー ホントは 本当は 苦しかった
知っとったでぇー 見とったでぇー よう頑張ったのお おとこを上げたでぇー
見ていてくれたの? テレビに流れた?
帰ったらメールちょうだい お祝いをするだに
ありがとう 心配かけたねえ Fe が欠乏したから レバニラが食べたい
完走記念品のあのTシャツ いいなあ
感謝しています、みなさんの支えのおかげで 2日間完走できました、Tシャツは2枚ありますから1枚差し上げます
来年も出るんやろ 2枚よこせ
当欄は完走の二文字にイノチの約半分を賭けた 自転車おバカ の5か月間を克明に追ったドキュメンタリーであります。
わざわざ克明にと書いたのは、書いていないことは何もしていないのです、5か月間コレばかり考えコレばかりやっていたのです。
だから終わっちゃった今は 「燃え尽き症候群」 が発症して呆け状態。
雨中走行と嶮しい山岳路で疲弊したバイクのメンテも中途半端のまま半目でぼーっとしています。
誰か目の覚めるような成人用画像でも送り付けてやんなせー。
「みんなの走りが復興につながる」
サイクルエイドJAPAN 2013 とは速さを競う競技ではなく、順位もタイムも記録に残らないサイクリングイベントですが、東日本の復興を願って走ります。
(大会コンセプト)
被災した東日本6県を自転車で巡ることによって
自転車だからこそ体感できる東日本の魅力を味わってもらい
その魅力を少しでも多くの人に発信し
それをきっかけに、少しでも東日本エリアの復興に役立てることができたら…
そんな願いを込めて、2012年に立ち上げた「CYCLE AID JAPAN」
2013年は、被災地のさらなる復興を応援するため
特に被害の厳しかった岩手、宮城、福島の3県を走ります
さらに、グランドフィナーレを最終ゴールである福島で開催
全ての被災地の皆さんの思いをのせた
復興に向けての力強いメッセージを発信します
1月
なーんやこれ、こんなイベントがあったんかいな。
これ 出とかんとならんなあ、これ 走らんかったら自転車乗りの恥やで。
東日本の復興支援と銘打ってあるけんど関西弁のワシが出ても構わんじゃろ、走っているときは喋られへんのやし。
エントリーするには どーするんじゃろなー。
なにはともあれトレーニングだけはしておかなならんが、宇都宮っちゅーとこは でぇーりゃー寒いでいかんわ。
チューブの中のエアが凍ってまうでホンマ。
そうや、ガソリンスタンドで窒素ガスを入れればいいんだ。N2 ならマイナス195.8℃まで液化せーへん。
タイヤの中が超電導マイナス温度に達したら地面から浮いて走行抵抗がゼロになるんやろ? へたれのワシでも超速ライダーや。エイド エイド。
でもなー、どーやって前進しますの? タイヤ浮いたら走れまへんでえ。
磁力走行はレギュレーション違反やし 重たい磁石をどこに積むねん?
しゃあない、小屋でローラー台を踏んで筋トレしとこ。
ローラー台は寒い屋外を実走しないから楽だと思われる読者は実相を知らん。
あんな過酷なものはあらへんで。
風景が変わらんからすぐに飽きてしまうが、ノルマ時間までは高負荷で踏まなならん。
風が当たらんから冬でも体温が上がって熱い、小屋の温度は上空に熱気が溜まって顔は汗びっしょりなのに足先は冷えている。
止まれば背中の汗が冷えて寒い、ストーブを点ければアタマが熱い。
そこでローラー台の前方の床に扇風機を置いて高さと角度を何度も変え、胸と顔を冷却した風が天井まで行ってそこに滞留する熱気団塊に対流のエネルギーを与えて下降させる。
結果的には自身の体温とローラー負荷の発熱で床面温度が上がるという安価なルーム サーキュレーション システムを構築した。
これによってやや快適な自転車ラボが誕生したが、費用効果を出すためにはより長時間のローラー練習をせねばならぬ という ジレンマ地獄 に墜ちることになる。
Amazon通販で取り寄せたチェーン潤滑剤を届けに来た宅配ドライバーが、気配はあるのに返事がないので戸を開けた。
真冬に半身裸で扇風機を回し、真っ赤な顔で荒い息を吐くワシを鬼畜の赤鬼と見間違えたか、奴め大事な荷物をボトリと落とした。
2月
これや あったでー。
朝から半日サイクルイベントのサイトを繰ってとうとう見つけたのが一般社団法人 自転車協会の公式ページだった。
なになに 後援が自転車議員連盟やて? これって先の自民党総裁のとこやないかいな。
あんひとも出るんかいのう。
ほいたらSPの自転車に囲まれて走るんけ? 残り2キロになったら囲みの中から前に出て、ゴールスプリントをあっさりかわして華麗なるVゴールなんて嫌やで。
ほかにもあるなあ、経産省 国交省 観光庁 復興庁 岩手県 宮城県 福島県、まだまだあるで日本サイクリング協会 日本自転車競技連盟 …
特別協賛:au損保 協力:小学館BE-PAL 西濃運輸 Jsports 小岩井農場 国際興業 ニュージーランド村 …
はーたまげた、こりゃー メジャーな大会やないけ。
JAPAN の冠名称が使えるだけの大貫録やないけ。
賞典も豪華やろなあ、ニュージーランド一周ライドにご招待とかなあ。
テレビ局も来るでワシが元気なとこ故郷のおふくろに見てもらえるかも知れんな。
トップでゴールしたら宇都宮ブリッツエンが放っとかんやろ、オファーがあるかも知れんから交渉代理人に団塊屋の なーさん を指名しとかなならん。
なーさん も最近ではセミメジャーに昇りつめ‥る途上だから、今から予約しとかんとセミが取れたら予約も取れんなあ。
なになに! 集合前 解散後は参加者の責任と費用負担で … やて?
スタート地点までは自分で来いてか? まあそうやろな、じゃが弁当くらいは出るじゃろ。
なんだってえー? 最終日は白石スタート福島ゴールでグランドフィナーレのあとは解散やて!
ほいたら白石に停めたトランスポーターの処にはどーやって戻るんじゃ、来た道をまた自転車で走るんかいな? そんなん無理やで。
自転車に限らずアスリートっちゅうもんはのう、FINISHと書かれたゴールゲートがあって、へそ出しコスチュームのキャンペーンガールが笑顔で迎えてくれるからゴールに向かって走れるんやないけ。
よーやった あんたは えらい! 尊敬するでえー あんたは日本人の誇りや。郷土の誉れや。町内の星や。
みなの衆 テレビを見でぐれ 映っとんはおらの生んだ息子だぁ 近くさ寄ってよーくと見ろし 見だら思いっきり褒めでけろ。
そーゆってくれる大観衆と故郷のおふくろがおるから走れるんや、そやないけー。
だーれもおらん真っ暗な駐車場に向かって、大型車の走る国道の端を歯をくいしばって走るなんてワシ出来まっかいな。
ゴールのあとはシャンパンシャワーに決まっとるやろ、ツール・ド・フランスを知らんかー。 ワシの場合は発泡酒でも大いにかまわんが …。
そーや アイツがひまそうやな、白石から福島までトランポを運んでもらおやないけ。そや そや そーしまひょ。
アイツというのは ほら吹きアキちゃん のこと。
3月末に定年退職すると言っていたから大会開催の6月は暇で困っているはず。
「温泉に入ってビールを飲もう」 と誘えば琵琶湖だって下北半島にだって二つ返事で行くオトコだ。
頼むでや アキちゃん、いとこのアンタしか頼めるモンがおらんのや。こーゆーことはやっぱり身内でないとあかん。
アンタが小学生になっても自転車に乗れんで仲間外れにされとったとき、二泊三日の合宿訓練で乗れるように特訓してやったんは誰だっけ?
夏の那珂川で鮎船の上から投網を投げたら、深んぼに沈んだ網のロープに手首を引っ張られて一緒に沈んでいったアンタを助けたんは誰だったかいな?
ワシがおらんかったらアンタはとっくの昔に 不乗自転車網沈居士 になっとったんよ。
今度はアンタがワシを助ける番じゃ。なに? 嫌じゃあー!
んじゃーもっと言うで、おまんの東京時代に場末のカフェーの女に入れあげ、駆け落ちするんじゃが金がない言うんで1万円出したんは … だれ …
わーっ! わかった わかった、行くよ 行きますよ。宮城の白石でも青森の黒石でもどこへでも。
で、いつ? 白石のどこへ行けばいいの 何をすればいいの?
よーし それでよっし。細かなことは追って沙汰いたす。6月初旬は空けておけよ。
ワシは毎日練習じゃで栄養素の差し入れ以外は来訪無用じゃ。
右 固く申し付ける よいな。
3月
初旬、募集要項がwebに載ってエントリーが開始された。
6月1日から2週間かけて土日の4日間12コースで福島を目ざすのだ。
全日エントリーしても4コースしか選べない。
ワシ 初めから決めとったでー ひとりでトランポに自転車を積んで行って、続けて2日目も走れる条件に合致するのは2週目の猪苗代か白石しかない。
初日に周回コースを走ってトランポに戻り、最終日はトランポを留め置いて福島まで行ってもホラキちゃん(ほら吹きアキちゃん)が運んで、ゴールで待っていてくれる。
そのあとはビールと温泉じゃ。ワシってアタマええのう。
猪苗代湖の周りは走ったことがあるだで、行ったことのない白石にしよう。
ホームページのコースマップによると白石ステージには、2日間ともにスタートから間もなく標高差のある山越えがある。
山でへたれたらゴールまで持たない。
かといって大事をとって初めからローギヤでとろとろ回していたら、エイドの関門でタイムアウトになる。
そんなん嫌やー! カッコ悪すぎやー。
ワシ、ロード界のジダンと呼ばれとるんやでー 引退するまではかっこつけさせてーな。
よっし さっそく下見じゃー。
白石への下見行には自転車を持参しなかった。
持って行ったら下見にならず、試走になってしまうのは明らかだからだ。
釣り場の下見だってそうでしょう。 「お楽しみは後からだ」 これがオトナの合言葉なのよ。
この下見時点で大会ホームページにはルートラボのリンクが掲載されていたからおおよその見当はつくが、現地を見たのと見ないのとでは雲泥の差。
風向きや路面の状況、坂ごとの斜度などは現地を見ないと安心できない。
交通量の多さや通過する集落の雰囲気、大型車が通るかなどはルートラボでは分らない。
休日なら地元サイクリストのギヤ比を盗み見することもできよう。
もしもこの下見で山道の嶮しさを目の当たりに見て、エントリーを断念するようであれば、それはワシの自転車ライフに終焉のときが訪れた証拠。
それは悔しくもあるが、ありがたーい 天のお知らせ なのだ。
いさぎよく自転車を降り、歳相応の爺いらしく へら鮒 の釣竿を担ぐことにしよう。
ワシ、自分の悲壮感に泣いた。
2dayライド参加費と手数料とで12,000円を振り込んでエントリーが受理された。
諸手続きはJTBスポーツステーションという会社が受託して代行している。今はこーゆー手数料商売でも成り立つのだ、団塊屋が成り立たないのは何故だろう?
参加証とゼッケン引き換え証などは5月になったら発送するそうだ。
早いエントリーだったからゼッケンナンバーは若い数字になり、その数字から出走者の数を計り知るこはできない。
出走数が気になるところだが近々になればエイドのホームページで知らされるだろう。
いずれにしても今は筋トレに励む時期だ。
(2)に続く
続編に期待をもっていただくための姑息な前出しテクニック、完走記念 Tシャツと記念 ピンバッジの写真を特別にお見せします。