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「めいじ〜ん、 大変だー あたった 当たったぁ〜」
「これは剣士どの、よう来られた。
ふぐ毒に当ったなれば特効薬は生姜湯じゃがのう、あいにく真夏だで暑苦しい飲み物はないぞ。麦茶でどうだ」
「へっ 麦茶?」
「わが工房の麦茶は万病に効くぞ、ホップの使用ゼロの第3スピリッツ麦茶である。
これにな、ホッピーをひと瓶加えてやるんじゃ。すると1級ビアになる。
「ほえ〜 ?」
「じゃが後からホッピーはいかん、先にグラスに入れておいてそこに第3麦茶を注ぐんじゃ。
すると馥郁たる泡立ちが高貴な香気となって鼻腔と臓腑を結ぶインナーワールドに美しく拡がるんじゃ。
ええか、先出しホッピーがキモじゃぞ。都知事選と同じじゃ、後出しはいかん。
「へっ? 鼻めどと都知事選を結ぶホッピーなインナーワールド? 第3麦茶が先出しホッピーで1級ビアになる? 酒税法に果敢な挑戦を試みるへそ曲がり麦茶?
美味しそうですなあ」
「オメさん朝から飲む気け? まあよい。トラのふぐ毒なれば間もなくお迎えも来よう、剣士でもツールのライダーでもこればかりは逃れならんでのう。
まだ痺れはないけ? しぶとい奴じゃ。ほれ 今のうちに好きなだけ飲め、毒がよー廻るようになあ。南無 南無」
「めいじ〜ん ぼくはふぐの毒になんか当たっていない〜。昨夜食べたのは宇都宮餃子だ。
地産の新里ニラに含まれる鉄・カリウムにさくら豚のビタミンB群が効いてご覧のようにピンピンしているじゃないのよ〜 当たったのはJTだあ〜」
「JT? ほう そうかね。きのうのジャパン竹光カップ戦でやみくもに振り回した竹刀が相手の上面にヒットして一本勝ちしたとな。
でかしたぞ 剣士どの。快挙である。
さあ祝杯じゃ、ホッピーワールドを高らかに飲もうじゃないか ほれ。
朝だというのに奥方の目を盗んでよく知らせに来られたのう、そんなに飲みたかったか。ワシは嬉しいぞ」
「めいじ〜ん、そうでねーだすう〜。
JT日本たばこ産業のプレゼントキャンペーンに当ったんだすよー まったく手間のかかる名人だ」
「JTのプレキャン? なんだそれ」
「春先にね、コンビニでたばこを買ったらレシートにシリアルナンバーが印刷されていて、5口集めてネットで応募できる国内旅行の避暑地ホテル利用券に数回応募していたのよ。
先日キャンペーン事務局を名乗る女性から電話があってね、当選お知らせの書留郵便が戻って来てしまったので正確な住所・氏名を確認させてださいと言うのさ」
「ははあ〜ん そりゃオメさん新手の当選詐欺だな。
郵便が届かん当選者には利用券に替わって旅行費用を振り込むことになっている。ついてはクレジットカードの詳細を知らせろというんじゃろ。このスケベ剣士め」
「スケベはないでしょうや めいじ〜ん。ぼくはキャンペーンに応募しただけで、当ったと言ってきたのはあっちだ。
それにね、ぼくだって変に思ったから逆に此方から質問してみた。
送ったと言う住所とぼくのフルネームを言わせてみたら合っている。なぜ発送元に還付されたのか分からないけれど再度書留で送るというのだからデタラメ話しではなさそうだ。
クレジット口座の話などは出なかったよ」
「うらやましい話しだがオメさん、コンビニでレシートを貰うとき 『当選したら一緒に行こうね』 なあ〜んてレジのお姉さんに粉を振っていたろ。
じゃからスケベ剣士と言ったんじゃ。違うか、この破廉恥爺じいめ」
「粉って? ああ コナクションのことですか。
いや〜 ほんとに当選するとはねえ。
コナは振ってみるもんですなあ。お姉さん昔流行ったチェリッシュの ”避暑地の恋” を思い出し、行きたい執念で当選させてくれたんでしょうかね。
アタシに恋人が出来ないのは避暑地からはほど遠くてクソ暑い街中のコンビニのレジなんかにいるからだ。
避暑地にさえ行けば煌めくような恋が待っているに違いない。
悪いのはコンビニの勤務ローテーションだ。アタシにだって有給休暇と恋に煌めく権利があるはずだ、所得税を給与天引きされている立派な日本国民であるからだ。
文句があっか! セブ○ホールディングス会長よ。アタシを避暑地に行かせろーっ!
そうだ、このスケベ爺いを利用して避暑地に行こう。
リゾートホテル券よ、爺いに当れーっ。 えい! えい!」
「お姉さん、神通力を使ったのか? 彼女は魔女か?」
「でなければ高い抽選率をクリアできんでしょーよ。そーゆーのってインサイダー介入禁止条項に抵触しないよねえ。
でもね名人、もしもぼくがコンビニのお姉さんと避暑地の高級リゾートホテルなんかに行ったらだよ、内緒にしていても家の二代目たらちねの局さまの嗅覚は伊達犬以上。
たちまち薙刀の鞘を払って制裁の一振りを受ける。
お局どのの薙刀は伊達流本流れ派ですからなあ、ぼくの竹刀などピンと跳ね除けられて袈裟懸けの一文字ですわ」
「じゃろうなあ。オメさんふぐには当たらなかったが奥方さまには大当たりだったなあ。かさね重ねのご当選おめでとうござる。
しかしなんじゃよ、正妻ゆえの制裁の一振りは甘んじて受けるのがオメさんの運命でござろう。・・・ 南無明神天照大権現 なむなむ」
「拝まんでくださいー めいじ〜ん。
助けると思って代わりに軽井沢の高級リゾートホテルに行ってくださりませ〜。
当ったってお姉さんに話したらね、ぼくより名人と行きたいって。
あのひとの天才的脆弱性が好きだって。
軽井沢ではテニスコートでK・錦織みたいな若い男性パートナーを見つけてダブルス戦をしているから名人は自転車で鬼押し出しヒルクライムでもしていてねって、
そーゆー小憎らしいことを言っておりますぜぇ〜 魔女ですなぁ〜。ひっひっひ 旦那ぁ〜」
「オメさん、いつからポン引きになったんじゃ。その当選券をいくらで売りつけるつもりじゃ。
そーいえは前々回号のハンドルバーの代金をまだ貰っておらんぞ。そろそろ没収の強制執行か破門かと考えておった処じゃ」
「ひえー 御一門からの永久放逐などと、なにを言われますか。
お許しくださりませえ〜。代金と相殺ということにしていただければ当選証書は到着しだいにお届けいたしまするう〜。
ほな さいならぁ〜」
というわけでおしぐれ名人、労せずして高級リゾートホテルペア宿泊券を手にすることになりました。
なに魔女のお姉さんを乗せて碓氷峠を登るホウキの役目をするだけですよ。
爽風吹き渡る高原のサイクルロード、夕陽を見ながらのビュッフェディナー、いいですなあ。浅間山が噴火しなければいいけど。
この日のために重たいトレーラにさらにウエイトの缶ビールを積んで汗を路面に引きながら、地獄の筋トレーラ引きに精を出しておったのです。
ギヤ比だって高原スペシャルレシオに変えてありまっせ、あとはホウキを取り付けるだけだが魔女用スペシャルホウキってamazonでお取り寄せ出来るものかいのう。
ところであのコンビニにお姉さんのレジなんかいたっけ?
レジ袋に缶ビールを入れるときいつもガッタンと倒す粗忽なおばちゃんならいるなあ。ありゃー錦織テニスというより湯治場の浴衣Deスリッパ卓球でないかい?
まあなんでもいいじゃないですか。楽しいはスポーツの原点。苦しいのもスポーツの楽しみ。
さらに言うなら、さらに言うならばですよ、”努力は必ず報われる” この言葉をリオのアスリートたちに贈ります。
ジカ熱蚊を恐れて出ないと言ったゴルフ選手よ、日本には古来よりムヒという強力無比なる塗り薬があるじゃないの。
毒虫には刺されてみよ、ふぐは食ってみよ、ホッピーワールドは飲んでみよ、おばちゃんの魔女のお姉さんとはムヒを持って避暑地に行ってみよ。
写真説明 : これが件の当選証書でございます、無記名です。
(到着次第の掲載となります)
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今回は写真の説明から。
へんなもの大好きおしぐれさんが最近入手した米国製トレーラー、それを連結した往年の名車カド号の雄姿を載せております。
こーゆー日も来るかと処分せずに動態保存しておいたおしぐれさんの自転車ライフ1号機、カド号。
この1号機に乗って筋力運動を継続する習慣ができたおかげで40歳代後半から始まった脊柱管狭窄症の辛い症状が和らいだのだと思います。
恩義がございます、あだやおろそかに扱う訳には参りません。
デカい神棚を作って上げておいたのです。
当座使わないものは立体的収納に努めないと足の踏み場もない、というのが本音でございます。
そーゆー立体三次元神棚がよく似合う自転車小屋で鋭意のリフレッシュ作業の末、カリフォルニアドリーム号(略してカド号)15年の時を経てみごとに復活いたしました。
何年も前に走るのをやめた古い車体でも、神のご加護あってフレームの溶接強度さえ保っていれば現代の部品規格で適合し再生するところが自転車のよいところです。
自動車ではそっくり買い替えなければなりませんからねえ。
自転車構造規格の永遠の普遍性は自転車1号機の発明者レオナルド ダ ヴィンチが予言し遺言しました。
後年イギリスから始まった産業革命機械化の時代、天才の遺言を頑なに守って乱立する自転車メーカーをまとめ上げ、自転車をワールドスタンダード思想の初めての成功例として確立させた英国人ラレー翁の功績は、古プレキア文明のネジの発明に匹敵すると感謝しているおしぐれさんであります。
なお おしぐれ工房の3D神棚の主神はネジ神さまであります。
まあ 当然といえばそうですね。
日本の神さまは皆さま出雲の出身だそうですが、その中でもネジ神さまは日本鉄の元祖たる玉鋼(たまはがね)を生んだ出雲安来の ”たたら神社”の惣領さまでございます。
さて本文です。
前を引くカド号を 「リーダー」、 曳かれる後ろのトレーラーを 「ストーカー」 と呼ぶのが英語圏および伊仏蘭語圏など自転車先進国のキマリです。
トレーラーはあくまでも自動車用語ですから日本でのみ通用です。
日本でストーカーというと隠微な、あるいは淫靡なイメージを惹起します。それは週刊文春の誤訳が始まりでした。
本来は 「追撃の手をゆるめない敵から最後尾を守って、背中に無数の追い矢を受けながらも殿の無事帰城を信じて必死に隘路を走る ”しんがり” の騎士」 が正しい英語です。
日本に自転車用ストーカーが初めて輸入されたとき、経産省と国交省のお役人がしんがりの騎士のハナシを知っていたならば以下に書く愚痴の数々はなかった。
ジャパンメイドの軽くてコンパクトでよく走り、しかも安全なストーカーだって発売されて、日本のサイクルシーンはもっと楽しくなっていたに違いないのです。
トレーラーを連結した自転車は軽車両の ”軽” がとれて特殊車両となり自転車専用道路(サイクリングロード)は走れません。車両だからです。
当欄に時々出没してはサイクリングロードを爆走して迷惑がられている密漁者の軽四駆車両は明らかに県条例違反です、しかし道交法違反の適用はむずかしい。
河川とその土手は多くの場合国(国交省)の所轄ですが、土手上のロードで人車を走らせるかどうかは県の条例に依るところが大きいからです。
よって自転車専用道路は都道府県の条例下となり、国法の道交法を適用するかどうかは県知事の専権事項となります。
ところが土手のロードでも農耕用軽トラとか簗漁の漁業者のクルマは都度の申請なしでも通年通行可なのです。
特別なステッカーなど貼ってありませんよ。
だったら自転車とさほどほとんど変わりのないけん引自転車だってOKだっぺや。
ということになりますがそこは大人のトレーラーマン、無用なトラブルを避けるため土手ロードを迂回して下の田んぼ道を走っています。
また、広い歩道に自転車通行可のマークがあってもけん引自転車は歩道には上がれません。車両だからです。
ですから車道の左端を正々堂々と進みます。
左に寄り過ぎるとストーカーの左輪が縁石に接触する恐れがあるので普通の自転車よりはやや内寄りではあります。
ときにバスレーンに入ってしまい警笛に追い立てられます。
このときの執拗な警笛は明らかに道交法に抵触します、しかし相手が公共性の高いバスでは勝てません。
気弱な一市民はペダルを懸命に漕いでバスレーンから脱出するのです。
とってもグレーな立場なのですが、けん引免許なしで乗れます。ナンバー届出制もありません。車両税は無税、入手時の関税と消費税はかかります。保険は任意の傷害保険のみ。
これって、自転車と同じじゃないですか。
諸外国では幼児を安全に乗せるための装備をしたストーカーがママの自転車に引かれて普通にサイクルロードを走っています。
公園や街中ではあたり前におばあちゃんが引いています。孫を自転車の後席に乗せるよりこのほうが絶対に安全なうえ孫が喜び、孫は早くに運転をおぼえます。
バスは自転車を追い越したりしません。バス停の近くであっても自転車が行ってしまうまでハンドルを切らないのがプロドライバーの基本です。
写真は撮影用に雑多な荷物を整理した状態です。
美しい後ろ姿で走っていれば警笛を鳴らされることはないのかも知れませんねえ。
自重4.4Kg 最大積載量27Kg、エア入りタイヤ装着。なべ釜テント釣り道具を積んで出かけます。小型保冷庫の中は缶ビールです。
トレーラー最大のメリットは、登り坂を押して歩いていても 「おら おらー 気合入れて踏まんかい! 歩くなあー へたれめー」 などと追い越しざまの罵声を浴びることが絶対ないことです。
自転車界に限って言えば高価な輸入トレーラーをこともなげに引くライダーは畏敬のまなざしをもって見られています。
誤解を恐れず言うなればセレブなボヘミアンだからです。
一方で日本のロード界では遅いクラシック車の老ローダーや前後に大きなバッグを付け、真っ黒に日焼けして汗臭くてこ汚いサイクルジャーニーを小馬鹿にする風潮があります。
先進諸外国とはまったく逆なこの悪しき風潮をこのへんで是正 改革すべく、おしぐれさんはへたれた老骨を伸ばして立ち上ったのです。
「オラがジャーニーになってやるじゃーにー。
オラを小馬鹿にしてみろ! トモダチの火野正平が黙っていねーぞー」
メリットその2、幼稚園の横を通るたびに子供たちが駆け寄ってきてフェンスを揺らしながら 「トレーラーマン がんばれ」 の大合唱です。
近ごろは英語圏からの帰国子女も多くて「ファイト! ストークマン」 さらにはアジアから「我的応援! 加油点火 勇躍飛翔 旅程安全」
勇気が湧きますなあ。
持病の脊柱管狭窄症も安定期に入ったおしぐれさん、カド号に寄りかかってさえいれば100m程度の標高差は登れますぞ。 もとへ 歩けますぞ。
ジャパンカップの名所 餃子坂を押して登っていたら 「栃テレ」 のカメラカーがゆっくりついてきました。
もちろん頂上からの下りは怒涛の全速降坂でカメラカーをぶっちぎってやりましたとも。
後ろのトレーラーが風を満帆にはらんで適度なエンジンブレーキになるので、ペダルを止めた降坂は走りやすいのです。
FRのシルビアみたいなもんですな。
「向かい風には大変な足かせになります、しかしそれも修行と思って引いています」
マイクを向けられたらそう答える用意もあったのにカメラカーめ、FFだからついて来れずに引き返したみたいだ。へたれめー。
夕方の栃テレニュースにケツの一部でも映っているかと3chを録画しましたがこの日は都知事辞任のニュースばかり、地元ライダーの雄姿は来週放映?
「やい都知事、辞めるのは勝手だがワシの押し歩きの雄姿が放映される日に記者会見などせんだろなや。
老兵は静かに去るのがカッコええんじゃぞー」
追伸 : お気づきだったでしょうか。今回は文落の最後を ます です 調でやってみました。
まだおしぐれさん、△△新人文学賞をあきらめていないみたいです。
遠いのは遠刈田だというのはおしぐれさん的しゃれだが蔵王のふもと温泉などはチョイである。
栃木から本当に遠いのは南秋田のにかほ。
荒れる日本海を左に見ながらなべ釜テントを積んだトレーラを引いて7号線を北に向う。
右側の山は鳥海山、その下を行く羽越本線の幾両もの貨車を連結した貨物列車と速さを競い、雨がっぱの蒸し暑さをスチームサウナだと笑いとばしてペダルを踏んでいると心拍が危険値を超える。
元同級生の住職がささっと墨書した卒塔婆の上に 「自転車居士」 とマジックペンで上書きしてくれろ と遺言した意味がある。 ・・・ あるかな あるといいなあ。
関東は真夏日熱中症注意報だというのに列島背骨山脈を越え山形側への下りの坂は寒いほどの雨だった。
酒田に出ても雨は続いていた。
酒田〜秋田間の7号線は晴れの日の夕陽の名所街道。「おけさおばこライン」 と呼ばれ岬のスポットには夕方になると観光客が集まってくる。
だがここは別名 「おしん街道」
夜明け前から梅雨の中を走っている自転車乗りは波しぶきに打たれてさらに濡れ、北風に押し戻されてヨロケつつ、泣いているワケではない濡れた顔を上げて歯をくいしばり北をめざす。
南に向かってはダメなのだ、海側のしぶきのかかる車道の端を北に向って遅々と進むからおしんであり居士たる証しなのだ。
辛いことばかりではない、20数キロごとにある道の駅には温泉がある。入浴はない駅でも足湯がある。
温泉三昧しながらだから一日に50キロほどしか道程が伸びない。
秋田市入り口の雄物川大橋のたもとで 「居士さん ここ左折」 と書かれたダンボール紙が風にゆれているのを見つけた。
河口のほうに進むと海の見える草むらに見なれたコールマンのテントとワゴン車があった。
「そろそろギブアップするころだんべえとここで待っていた」
あのオートバイ野郎がどこかで都合したワゴン車で迎えにきてくれたのだ。
「ばかやろー オガは男鹿まで行くだ。
トレーラの背中を見てみれ、『月山・鳥海山・寒風山 ひと筆書き縦走中』 と書いてあっぺ。邪魔すんでねえーっ」
「まあ 強がりはやめてコレ飲むか?」
ポータブルガスストーブの青い炎が燃え、泣きたくなるほど暖かいテントの中のクーラーボックスには缶ビールがどっさり。
「ばかやろー 汚ねー手を使いやがって。乾いたタオルを貸せ、缶ビールを早く出せーっ」
先ほど高速道路休日割り料金利用で帰ってまいりました。
昨夕は雄物川大橋からタクシーに乗って秋田市内の焼き鳥屋で豪遊し、朝がた野郎と居士が目覚めた草むらのテントと砂浜のあいだに建っていたのが 「ももさだカエルの像」 でございます。
最初に見たときはギョッとしました。雄物川の河童かと思いましたよ。
自前のカメラは軽量化のため持参いたしませんでした。
せっかくトレーラー引いていてカメラを積んでいないとは何事かと野郎に叱られました。
いわれ因縁が台座に彫ってありましたがよく分かりません。ネットにて 「ももさだカエル」 ご覧くださいまし。秋田ではけっこうな有名人らしい。
コイツだけが雨に濡れても喜んでいる風情でございました。 げろげ〜ろ。
「めいじ〜ん どうもよくねーんだ。たらちねが逆キャスターになる」
「なんですかぁ 逆キャンターって?
ははあ〜ん 名馬たらちね号ですな。
馬場馬術会場でのキャンター、すなわち微速並足カニ歩きを披露するたらちね号の華麗さといったらあなた、皇室騎馬典範仕込みの気品でございました。
はて? よくないとは如何なる仕儀とあい成りましたやら。
老婆いや老馬ゆえ障害飛越のローバーに後脚を引っかけてへたれ騎手を落としましたかな。
おろか者め、それは騎手の手綱さばきが奇手過ぎのキッチュだったんです。 ええですか 乗馬のココロは自転車と同じ、伝統技法のトラデッショナルでなければなりませんぞ」
「めいじ〜ん そのたらちね号ではねーだす。 名人手曲げ仕込み ”たらちねバー” のキャスターのことだすぅ〜。 キャンターではねーだす。
弄罵なうえにキッチュなしゃれを何発もかまさんでください、どこで座布団出したらいいのかわかりません。
それに何ですか! トラデッショナルだなんてハイカラなことを、トラでねぐ馬だっぺー。
ん? ・・・ こらー そーでね〜べ、馬でねぐ 自転車だっぺよー。 落ちたのはへたれジョッキーでねぐ ぼくだあーっ ! 」
「なんと 落馬でなく落車ですとな。
うーむ それはいかにも面妖な、あのハンドルはコンフォート系の癒しモデルですぞ。 落車するほどスパルタンに攻める性格のものではない。 前回お渡しの際にきつく申し上げたはず」
「はいっ その通りだす。 昨日ぼくは鬼怒土手ロードをゆっくり走って新ハンドルの感触を確かめていたんです。
上バーを握ったり下ドロップを持ったりして ”しなり” の振動吸収がどの ”まさぐり” 位置でどのように出始めるのか楽しんでおりました。
「なんと それは日本男子の本懐。 いや違った、おのこの本能にもとづいた立派なご精勤でございます。 あんた若いねえ」
「おほめいただき恐れ入ります。
ぼくは昔し剣道をやっておりましてな、最初のひと振りできょうの竹刀の調子がわかります。
ふた振り目でモチベが昂揚してくる竹刀を握った日、ぼくの面一本は百戦不敗でした。
三年後対戦相手の藁人形はボロボロになり、百一戦目は不戦引き分けの藁供養をしました。
そのとき燃やした藁の灰を母親が壺に入れてとっておいてくれまして、はい たらちねの局は薙刀の名手でございました。
つぼねがつぼを持ってきて なあ〜んて洒落をいうつもりはございませんですとも はい。
もしかしたら藁人形が三年の短命だったのは、ぼくの留守中に薙刀の対戦相手も務めていて過労性激務だったのかと思ったものです。
ぼくの太刀筋が面一本なのに対し、藁太郎の致命傷は裾払い袈裟懸けによる多臓器不全でしたからねえ。
壺の蓋紙に 「殉勤の志士 藁太郎」 と薄墨で書くたらちねの局が泣いていたのは、ぼくの研鑽ぶりに感激してのことではなかったのだとあらためて知ったのは母の没後でございます。
後年その灰を利用して作った 「藁太郎たらちね囲炉裏」 に備長炭を熾して焼く鬼怒の絶品アユを名人にもご賞味いただきたい。
家の二代目たらちねの局はアユ串の手返し名人ですぞ」
「なんと アユの塩焼きに東京盛りの旨口をヒノキの枡で冷やで ・・・ とな。 それは大いにかたじけない。
ワシなら今からでも一向に構わんぞ。 お局どのに囲炉裏の支度と火加減を下知いたせ」
「あのねえ アユは初夏から秋だっぺーよ。 まだ4月だぞ、この飲ん兵えーめ。
近年、自転車に乗るようになってからもぼくはスタート前のハンドル素振りを欠かしません」
「ほー それは殊勝な心掛け。いくつになってもアスリートとはそーでなければなりません。
当工房のお客さまにそのような素養のお方がおられたこと光栄至極に存じまする」
「恐れ入ります。
前篇で名人に磨いていただき視界の開いたメガネには満開の桜と花びらをちらほら撒いたロード面が映って、それはもう気持ちのよいライディングでございました。
両ひじをベントさせて空力を最適化させたフォームで花びらを騒がせないようその下を走って行くと、過ぎし剣士時代の面一本を回想いたしました」
「うむ、新機材を装着したときの正しいライダーの姿勢、花街道を行くときの行動規範でありますな。 さすがは元剣士、修行の年季と風格を感じまするぞ」
「重ねて恐れ入ります。
快調に走っておりますと前方から軽四駆が無体な飛ばしかたで接近して来るのが見えました。
密漁師一味め稚アユのガサ網漁をやって監視員に見つかり、慌てて自転車ロードを逃げて来たらしい」
「そうですか。彼らは川釣り解禁になってもまだそんなことをやっているのですか。
剣士どの よっく聞かれよ。
まもなく5月になればマムシが出てガサの網に入る。彼らはウナギと喜んで握って噛まれ、病院送りとなって二度と現われなくなる。
ヒドロドキシン毒は噛まれた手に刺青のような牙形と痺痛を残しますからなあ、網は持てまい。
よしんば持てたとして、毒牙の刺青は島送り者のしるし。 お天道様の元は歩けまいよ。
さて剣士どの、網にマムシを入れるのが隠密剣士たるご貴殿に託されたミッションだが故意に入れてはいけない。
未必の故意はシークレット エージェント規範上ペナルティーが科されます。
河原で素振りの稽古中に出くわした銭形マムシを棒で追ったら網のほうに逃げて見失ったというワケで、ご貴殿 棒を持たせたら百戦不敗でございましょう? だがそのハナシはここまでにしましょう。
謀議は密が肝要。団塊屋は公開ですからねえ」
「然り。 それがし、その件しかと承り候う」
「うむ、ご苦労である」
「それでね、ぼくは路肩ぎりぎりまで左に寄って軽四駆を避けた。
スリックタイヤが舗装の切れ目と芝草の間に落ちて暴動した。
「よっし この不条理な暴れを収めるのが巾広たらちねバーの特技だ」 ぼくは下ドロップの後端に握りを持ち変え、ただちに事態収拾を図った」
「うむ 冷静でよろしい」
「めいじ〜ん ところが、ところがです。
暴動はさらに増幅し、進路のクニクニがエスカレーションして抑えが効かず芝の土手斜面にもんどり打って越脱転落。
枯れ芝の土手は接触抵抗が大きいので止れてよかったが、もう少し滑り落ちていたら道祖神さまの大きな石の祠に密着接近だった。
心臓が落ち着いてこの仕儀を検証するにつけ、思い起すのはキャスターの回転軸に糸屑の絡まった事務椅子だ。
キャスターが不自然に向いて押し引きするたびあらぬ方向に進む。
これを逆キャスターと呼んでいます。その現象がたらちねバーで起こったらしい、幅広で長いバーエンドを持ったのに何故抑えが効かないのだ」
「長い説明だったねえ。逆キャスターとはそーゆーことですか。
石の道祖神さまには春と秋の彼岸にワシも欠かさずお参りをしておる。ユーザーさまの安全はワシの悲願じゃからのう。よかった よかった」
「めいじ〜ん おしぐれさんみたいな洒落で事態の収拾を計るのはやめてください」
「おお そうじゃった。 あなたはたらちねバーの後端を握ったと言われたが、それはフォーク軸の中心線よりどれ程の距離となりましょうや?
ステム長の2倍を超える距離を後方に取った場合、直進ではよいが左右の激しい操舵の際にモーメントの急変が起こるポイントがあるとすれば、かかる事態が懸念されるかも …
フレームサイズとハンドル取り付け角のセッティングに関わるミスマッチのオーバーステアということもありそうですねえ … 」
「ムムム … 」
「いやー これは … んで、ハンドルバーはどうしました。 曲がってしまいましたか?」
「なんともないだす、芝の斜面を滑り落ちただけですから。 石の道祖神さまに当っていたらそーはいかんかった」
「春と秋の彼岸にはお参りを欠かしませんからなあ。 お賽銭だってご縁の倍のご重縁。 よかった よかった」
「そーゆーことでねぐ〜う。
ハンドルバーは外して持ってきました。よーぐ検証してくんなまし。
名人、あんた試運転しねーで写真だけ撮ってすぐにぼくに売ったのでしょう。 わが国には製造者責任賠償法というものがある。 未必の故意でなかったの?」
「あなたねえ。 同じものを作ってくれ、そんなに待てないから試作品を売ってくれと言ってコルナ号のを外して持って行ったんじゃないですか。
自己責任でやる とも言っていた。
そーいえば、まだ一万円もらってないぞ。わが国には口約束商取引法というものがある。 企業年金入ったんじゃろー 払えや」
「あっちゃー めいじ〜ん、タッチの差で女房に取られました。 はっはっはぁ〜 ぼく泣きそう」
というワケで、写真1と2はドロップ後端を切り詰めて短くなった ”たらちねバー” 。 3は切断前の前編と同じ写真です、比較用に載せてみました。
1は後端がどれ程フォーク軸から後ろ側に延びているかの写真ですが切断後のものです。44mmほど切断する前の同アングルの写真はありませんでした。
44mmの根拠は ”たなごころ” で包むように握ったときの中心から人差し指第一関節までの日本人男性標準長さ。
バー後端のひと握り分を惜断したことで持ち味のしなりは消えました。
写真には背景に工房内の乱雑さが写ってしまいました。 お恥ずかしいが落ち着くのよね、こーゆーの。
1号機好きの剣士さま用に短く切ってコルナ号でテストしてみました。作者としては長いときのほうが好みです。
”しなり” が消えたバーでは垂乳根とは言えません。 これでは全然おもしろくないがユーザーさまの安全には代えられません。 苦渋の決断でした。
剣士さまが路面からの外乱を ”いなし” 切れずに落車したのは、短い手足に丸胴の体型に問題がある! と睨んでおります。
あのお方が剣士をやめた理由はソレじゃな。 面一本が長身の相手に届かなくなった。
あの体型のままでは ”つるし” の自転車などでは到底合うものはない。ライドポジションのスペシャルセッティングうんぬんより、フレームの交換から始めましょうと提案しますが 「自分でやる」 と譲りません。
ひとたび旅に出たら自転車は100%セルフリカバリーの世界です。 「自分でやる」 という石のような意思は崇高です、尊重しなければなりません。
とはいうもののあのご仁、剣道の神様である石の道祖神さまには密接接近のさだめを強くお持ちのようでございます。
走るルートを変えても栃木県内には道祖神さまがいっぱいありますからなあ。 お賽銭を用意しておだいじに行ってらっしゃいませ。
次期作は トップレスバーかTバックバー。 バブル期の宇都宮泉町界隈をイメージしてインスパイアしてみようかと思います。
いやー 創作意欲が湧きますなあ。
油圧式の新型パイプベンダーマシンをAmazonで買わなくっちゃー。 だから一万円払え。
「めいじ〜ん バブルバー1号機はぜひともぼくにお譲りくださりませーっ。
ほな さいならぁ〜」
「あんたは だーめ、厚生年金の臨時特別給付金が出たらお局さまに内緒で来なさい。
家に帰ったらポストを見て連絡ハガキが入っていたら廃棄するんですよー。
近所の元同僚の奥さまから情報が漏洩しないよう根回しが大切だが、よそのハガキを黙って処分しては郵便事業法違反。エージェントのペナルティーは重加算となるから気をつけてねえーっ。
マムシの捕獲も抜かるでないぞぉー! 元剣士ぃーっ 謀議は密が肝要ぞぉー」
「めいじ〜ん 謀議 謀議って大声だしたらイカンでしょうやぁ〜」
「おめさんの棒技のことじゃぁー。 ハンドル棒のテクニックじゃぁー 転ぶでねーぞぉー」
名人ハンドル おわり。
「ねえ 名人、このハンドルの名人たる由縁はなんですの?
ハの字が残ってどーみても曲げ損ないの失敗ドロップバーみたいですけどぉー」
「ふっふっふ 中央付近のリラックスポジションとドロップエンドあたりを交互に握ってごらんなさいましな」
「ここをこー握ってと ・・・
びえーっ! ぬゎんだぁー このえもいわれぬ平和的エモーショナル感たっぷりの握り心地はわぁー。
手のひらを通し ”しなり” が脳に伝達されてなんとも気持ちが癒されるなあ。 これが名人ハンドルですかぁー」
「ふっふっふ 和みますか? 少し走ってみてもいいですよ」
「めいじ〜ん、 このハンドル和みます。 なごみますぅー」
「ふっふっふ 安らぎますか? もっと走ってもいいですよ」
「めいじ〜ん、 安らぎます。 やすらぎますぅー。
これに掴って走っていると、定年後いつまでも残っていたノルマ社会の重圧が肩からぬらりぽんと溶け落ちて、ひゅらーんと後ろに飛んで行きましたぁー。
ぬりかべのように立ちはだかっていたCEOの残像も消え、前がよーく見える」
「ふっふっふ 視界の中になにか見ましたな」
「見ました。 見えましたとも。 遠い昔、おふくろのおっぱいに掴って見た暮れなずむ初夏の夕景です。 真っ赤な夕焼け小焼けです。
向いの山に星も出て、一緒に歌った 「おー星さま キーラ キラー」 です。
のっし のっしと迫りくる女房のおっぱいとはまた違う、これは郷愁です。 ぼくは もう 泣きそうです」
「ふっふっふ まあメガネをお拭きなさい。 おふくろ食堂でさっき食べた焼きそばの紅ショウガと半熟玉子の黄身のカケラがくっ付いて赤や黄色に見えたんですよ」
メガネを拭けばあなたはもっと速く走れるようになる」
「名人! このハンドルぼくにも作ってください。 名前はなんですか? 販売価格は如何ほどに」
「ふっふっふ 南三陸の名峰上品山をイメージしてインスパイアした 上品な ”たらちねバー” です。
この試作モデルを元に寸法取りする治具の金型代として一式百万円ですが手付けの一万円でどーでせう」
「びえーっ! 上品山垂乳根ピークのおっぱいバーですか。 失敗バーではなかったのね」
「あなた、おしぐれさんみたいな洒落をよー言いますなあ。 上品な と注釈をつけたでしょうや」
「はいっ。 本日は企業年金の振込日です、女房に取られる前にただちに現金で用意いたします。 誉れの一号機は是非ともぼくにお譲りくださりませーっ」
たらちねバー 完売しました。
金型を取る前のコンセプト品を売ってしまいましたので追加製作の見通しはありません。
「こーんな逸品の一品物が一万円で二度作れっかー」
と名人は言っておりますが、なぁーにあのご仁、変なもの作りは得意でございますから現金さえ見せれば ・・・ ねえ。
つづく