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おしぐれさんの じてんしゃ 大喜利 5 大団円
2016/09/23

「めいじ〜ん ミニクラス最強というのはホンマ? ちっとも跳ねませんなあ。 
自慢のアバルト直4ターボでしょうに、まだ100馬力に達しませんの〜。 わたくしは腕も腰も乳酸値が峠の一本松です〜」

「なんじゃ それ?」

「はい 高い所にあります」

「ふん まだまだじゃ」

「硬くて薄っぺらい レカロ のシートにハダシで立ってですよ、小さなルーフからカラダをせり出しているだけでも尋常でない景色でございます」

「ほぉー おまん、そんなこと言いながら次のせりを考えておるな」

「あなたねー、先にそれを言うたらいけません。
幼児がまねをして屋根から顔を出したら危ないじゃないですかと言っているのです」

「おまんを見ていると確かにそのように思えるわ。
幼児でもな 用事があるときはええんじゃ」

「なにそれ。 保護責任者義務違反でっせー。
そのうえなによ、タケコプター代わりの鎖鎌を回せとはシャーペン回しより重たいモノを回したことのない元公方のわたくしには辛ろうござりまする〜。
鏑矢の分銅がかなでる風切音さえも びゅん びゅん の軽やかさを失い、やがては三辺の長さの公式に近づいてまいりましょーぞ」

「さんぺいの公式? 林家か」

「違うーぅ 三平師匠ではございませぬ。 ヘロンの公式ですうー。
角度不明の三角形であっても三辺長さが分かれば瞬時に面積を求められる有名な法則じゃないですか」

「それで?」

「ですから つまり 腕も腰も ヘロン ヘロンと … 」

「おぬし、この期に及んでなおも大喜利の精神を発揮しようとは精進である。
じゃが数学公式と聞いてやっと解かるまで数秒の間を要するというのは如何なものであろうか。

それにな、演者のおぬしが元公方を標榜するからには然るべく格調を備えた場面設定とすべきであった。
さらに惜しむらくは語呂の響きが極めて へたれ であったこと、などなど」

「めいじ〜ん もしかして あーた、ヘロンの公式をご存じなかった。 とかぁ〜あ?」

「オッホン よいか、大喜利とは仏教経典に源を発するピンの対語のキリじゃ。 すなわち涅槃のことじゃ。
”質素にして気高く恵むごと清らに笑む” お釈迦様の生涯に想いを致すことが根本であることを忘れてはならん。 
よって座布団2枚のマイナスと判定させてもらおう」

「2枚もですか〜」
 
「なぜ2枚かというと、当欄読者の多くを占める前期高齢者層の支持を得にくい事実が大きく影響しておる」

「なんで〜?」 

「この人たちが幼少期に使った日本の算数読本はGHQの指示によりヘロンの定理およびその証明に関する部分を墨塗りされていた経緯があってな、
三角形の面積といえば 1/2×エル エイチ しか知らんお人が多いんじゃ。

元CIA職員エドワード・スノーデンが暴露した膨大な機密文書を精査するにつれ、残されていないとされていた極東占領とその後の統治政策に関する注目すべき部分が出てきた。
ええか、ここから先はウィキペディアさえも収録を遠慮するほどの機密じゃぞ」

「ぎょえー?」

「それによれば、古代ピラミッド設計にも通じる太陽神のもたらした三角形の神秘的な可変投影面積の絶対優位性を証明する当該計算式を駆使し、占領下にありながらもデルタ翼を有するゼロ戦後継機の設計図面を秘かに書き起こす若者が現われることを恐れたからだという」

「だれが?」

「ダグラス・マッカーサーじゃよ」

「だれ?」

「マックの作ったDC‐1を知らんのか、ダグラス エアクラフト社の傑作じゃ。 
ダコタのターボエンジンを搭載した軍用転用機は乗員7名の他にファットボーイと呼ばれた巨大な爆弾を1個積んでも上昇加速度では護衛機のムスタングより速かった。

だがもしも、セブ島基地を飛び立った主機と護衛機が とびしま諸島 上空を越え雲を透かして本土 呉市 の方向を窺ったとき、
入道雲の下から行く手をさえぎってフワリと浮かび上がった機影の三角翼に鮮やかに印された日の丸を認めた主機のキャプテンは、前に出るために重い補助タンクを捨てた僚機ムスタングの勇士を称えつつも諌め、迷わず一団の帰投を判断しただろう。

彼が失いたくなかったのはムスタング1機ばかりではない。
松根油燃料に さつま芋発酵アルコール と ひまし油 をプラスした代用ガソリンのレシプロながら、1/2マッハに迫る速度を保ったまま小半径での旋回も可能にした左右可変三角翼の ゼロ戦ステルス2 を産み出した奇跡の街、眼下の呉の町工場に向けてこの馬鹿げた爆弾など投げたくはなかったのだ」

「すごいハナシですねえ。 エアロ マンの仁義こそエア ロマンでございます。
下町ロケットの原作構想や かくして生まれたり。 ウィキペディアに投稿してやりましょうぞ。

それにしても名人、本編は じてんしゃ 大喜利 でございましょう、なのにアバルトなフィアットとかムスタングのハナシなのはどうして?
今日だって、もしもフェラーリに乗って来ていたなら違う展開になっていたかもよ」

「知らぬ、おしぐれ作家の気の迷いであろう。
近日発売予定と聞く氏の仮説新書 『でほらくのデデニオン』 が正しければ、この100年の世界史は少し違っていたのかも知れん」

「知らすかぁーっ!」

「ともかく、おぬしの今期の真打昇進は見送られる公算が高いなあ」

「めいじ〜ん なんとかなりませんの〜」

「わが工房で夏の初めにセットアップした 二輪のけん引トレーラー を憶えておろう。
オーナーは珍車好き、変なもの大好きな酔狂のご仁でな、なんと下野落語会の末席理事を務めておられる。 ねじれ小噺 はことのほか好みだそうだ。
一升瓶さげて昇進推挙を頼みに行くのは簡単じゃが、その前にワシらは目前の窮なる状況から脱して生還を期さねばならん。 そーじゃろ」

「はい〜 さようでございましたなあー」

「そこで、おぬしにはご苦労じゃがぜひもう一度やって欲しいことがある」

「なんでございましょう。
生きて帰ってそのうえ真打昇進となればなんでもいたしまするぞ」

「おまん、生還だけではあき足らず、勲章も欲しいってか」

「いけませんの?」

「えらい!
偉いぞー、えらいが今のワシらには脱出までのタイムリミットが迫っておる、その話はあとでもいいかな。
あのランボーでさえ そうするであろう」

「はいー もちろんでござりまするとも。 ランボーごとき紅毛偉人に遅れてなるまいか、拙者 大和もののふ でござるぞ」

「うむ、頼もしいのう。
じつはな、ワシらの機に深刻な問題が起こりつつある」

「びえ〜 ダース・ベイダーの三角翼機が急浮上して背後からロックオンしてきましたか! やつめ いつの間に」

「そうではない、GPSはなにもアラートしとらんじゃろ。 ワシらはまだ地上におるんじゃぞ、注視すべきは白バイ除けレーダーじゃ。 落ち着け」

「落ち着けって あんた。 この機のセキュリティーはダース・ベイダーと白バイが同軸上にあるんですかい」

「深刻な問題とはターボじゃ、アバルトなターボのブースト圧が上昇しないんじゃよ。 エンジン回転がなぜか頭打ちになって吹け抜けて行かん。
どうもな、排気系になにか起こっているらしい。 ケツに閉塞感がある、つまり ふんづまりじゃ」

「それはいけません。 おしぐれ峠の一本松までひと跳ねで飛んで行くには小腸 大腸が軽やかでなければならんのでしょう」

「うむ、鎖鎌のタケコプターはエネルギーの浪費となるうえ廻し手のストレスを貯めるばかりだから一時停止といたそう」

「さようでございますか、わたくしは細腕折れようとも回し続ける覚悟でございました」

「ウソを申せ、先ほどまでヘロンの法則だったじゃないか。 まあよかろう、コプター 停ぃ止ぃーっ!」

「ああよかった。 
コプター回しには疲れを知らぬクマ型ロボットのような持久力が必要です。
あいつなら、回転檻の中を何時間でもクルクル回って平気ですからなあ。

呼びましょうよ ごろえもん。 早くココを脱出しないと敵方の加勢がどんどん集結してまいりますう〜。 次は蓮舫連でしょうか」

「うむ、そーじゃな。 しかしおまん、ごろえもんの呼び出し用プロダクトキーを知るまい?
ワシもな、藤子 F 不二雄先生とはそこまでのつき合いがなかったでなあ。 こんなことになるなら ほうれん荘アパート 時代、F のつく前だった二階の藤子に一杯奢っておくんだった。
あのFはな、2FのFなんじゃよ」

「名人! でほらく 言っているヒマはないでしょうよ。 やって欲しいコトってなんですの、はやく言ってよ」

「それじゃよ、腕のしびれがとれたらな、ルーフ伝いに後ろに回ってマフラーのケツのところまで行ってくれ。
ワシが吹かすから排気の匂いと色を見てもらいたい。

プレミアムハイオクの香しき芳香が回転の上昇と共に懐かしいホーン岬の潮の香りに変わるはずじゃ。
吹き戻しには マダガスカル大トカゲ の紅い舌のような炎が ちょろり と見えるくらいが絶好調なんじゃ。 行ってくれるか」

「へい よーがすとも。 速度ゼロの安定重力の下ならドーム屋根だろうが聖火台だろうが いばらの道も這いずって参りやしょう。
ですが 大将、あっしの首根っこにある いまいましい 風呂敷荷物が喉にくい込んでおりやしてね、ランボーのような俊敏の行動を阻害するんでがすよ。
なんとかなりやせんかねえ」

「オメさん、いなせな職人口調がよく似合うねえ。 ほんとに元公方さま & 大和もののふ なの?
風呂敷をまだ背負っていたのか、律義ものというよりバカ正直じゃろ。 
いやいや誉めておるのじゃよ剣士どの、結びを解いてシートバックのサブシートに降ろせ」

サブシート? そんなものあったんですかい。
これけ! 園児バスの補助シートより狭いね、横向きに膝を抱えて座るとはまっことスパルタン仕様でございますなあ。
こーゆーのを しよう がないと言います」

「おまん、時間稼ぎをしておるのか! 早うルーフから出て行かんかい。 幌を蹴破るなよ」

「あのー ドアから出てはいけませんの? 風呂敷荷物さえなければ出られますけど」

「ばかあ〜 真打推挙は見送りじゃー。 早くケツに行けーっ!」

「めいじ〜ん マフラーの出口付近には紅い炎の大トカゲも ちょろり舌 のカナヘビもおりませんぜ。
かわりにと言ってはなんでございますが、アバルトチューンのシンボルである赤サソリのエンブレムがニヤリと輝いておるばかりでございます。
他には〜 そーですなあ 白い大根だけですわ」

「なんじゃと〜! 白いなんと申した」

「白くて ぶっ太くて 立派な 採れたて新鮮 高原大根が ずっぽり と突き刺さっておりますう〜」

「どこにだあ〜」

「マフラーの出口にですわいね。
これ電気自動車に変身できる新しいアクセサリーですかいね?
排ガスなんてエミッションなモノは全然出て来まへんでー」

「採れたて新鮮、立派な大根 って おまん、JA たかはら の広報か! 後方に回れとは言ったが洒落の材料になれとは言っとらんわい。
新型アクセサリーはネジ止めなのか。 外せるか!」

「生の大根がネジで止まりますかいな。 葉っぱをこっち側にして ずっぽり でございますう〜。 引き抜けるかも知れませんなあ〜」

「取れ〜 外せ〜 葉っぱを掴んで引っこ抜けえー」


「お・ふ・た・り・さん なにを騒いで い・る・の ? 有名童話の 大きなかぶごっこ でもしているの か・し・ら」

「びえ〜っ おまえはコンビニの魔女姐さん。
そ その手に持っているのは何だ! 白くてふくよかなセクシー大根のしも半身じゃないか」

「そーよ あたしが高原畑で掘って抜いてきた採れたて新鮮 二股大根よ」

「豊満バストの上半分はどーした」

「ふふん マフラー ずっぽり よ」

「な なんでおまえが大根掘りを、それより何だって我らがフィアットのマフラーに二つ割りしたセクシー大根の ずっぽり なんだ?
欧州に残っている数すら極めて少なくなったフィアット600tは小排気量ゆえにマフラーは一本出しの慎ましさだ。
もしもフェラーリの大口径二本出しだったなら、その二股のナニも ずっぽり するつもりだったのかあーっ!」

「も ・ ち ・ ろ ・ ん  そーよ」

「なんと したたか魔女め、コンビニはおまえの魔女効果で千客万来の大繁盛と聞くぞ、色気だし汁のおでん材料を仕入れに来たのか。
畑で掘って抜いたならコレも抜けーっ!」

「剣士どの、大声を出してはいかんと言っておろうが。
おお これはこれは魔女どの。 仔細はのちほどお訊ねするとして、まずは緑の黒髪葉っぱを揺らす妖艶大根の ずっぽりプラグ を抜いてもらえまいか?
後続の大型バスに迷惑がかかる。 駐車スペースまで動かしたいんじゃよ」

「はいよっ、そーゆーふうにお願いするものよ 剣士さん。 ほらほら 葉っぱの根元を力いっぱい引いてちょうだい、あたしは出刃包丁で回りをホリホリするから。
せーのっ!」

『スッポン』 

「ほら 取れた。 大きなかぶ」


「じいちゃーん、 じいちゃんも剣士さんと温泉に来たの? ずいぶん賑やかな登場だったねえ。
お母さんもばあちゃんも剣士さんちのおばちゃんも呆れ果てて、あの二人は知らない人だということにしましょうって、先にお風呂に行っちゃったよ。
あとで大広間で一緒にビールしようってさ」

「名人、あなた独身だって言ったじゃないのよ、孫がいるなんてどーゆーこと」

「ああ これは姪の子の輪太郎じゃ、ワシは独身じゃから孫などおらんよ」

「じゃあ ばあちゃんっていうのは輪太郎クンのお母さんのおかあさんなの?」

「違うよ あのね、ばあちゃんはじいちゃんのかつての連れ合いなんだ。お母さんの叔母さんさ。
じいちゃんは流れ者の根無し草の風てん無頼男だから出自はよく分からない部分が多いんだけどね、結果としてお母さんの元叔父さんさ。 だから じいちゃん」

「おい輪太郎、いまのすごい説明文は誰の受け売りじゃ! お慶か それともかつての連れ合いか」

「あらあら 名人、子供は正直だから。 ねえぼっちゃん」

「お姉さん、ぼくは中学3年生だよ。 ぼっちゃんはやめてください、あなたのお噂はかねがね聞き及んでおります。 エリちゃんのお母さんでしょう。
おとこを惑わす魔女だそうですが、ぼくはエリちゃんも同じ血脈の小魔女とは思いたくない。
それはともかくとして、母もばあちゃんもぜひ一度お会いしたいと申しておりました。
よい機会ですから大広間で一緒にご歓談ください。 じいちゃんにガールフレンドが出来てとても喜ぶと思います」

「まあー 利発な中学生だこと、うちの高1娘 エリとはえらい違いだわ」

「そうでしょう 魔女の恵みさん。 ぼっちゃまはね、あの有名某私立高に自転車競技部の招請で入学内定の英才なんです。 東京五輪が楽しみですなあ」

「あら 剣士さん、まだいたの。 手に持った 葉つき大根 返してちょうだい、葉っぱつきは高いのよ。 
そういえばあなたの奥様はこちらのご一家とどういうおつき合いなの?」

「それが分からんのさ。 先ほどまでお方さまとうちの女房が知り合いだったなんてわたくしはついぞ知らなかった。
琉球ぬんちゃっく元女流チャンピオンのお方さまと、伊達流 なぎなた 免許皆伝のうちの二代目たらちねに接点があるとすれば、
ねんりんピックのコーチ依頼が県知事からあったことかなあ」

「うわあー 面白そう。 あとで大広間にお邪魔してみるわね。
借りた農産市場の大根売り場を閉めてから行くから先に行ってて。 あたしね、やっと取れたコンビニの休みに実家の兄の畑を手伝って、高原大根が採れすぎたからここで売っていたのよ。
働き者でしょう。 魔女ならこんなに働かないわよ。

市場で大根売ってたらうるさい排気音のばかグルマが びゅんびゅん だの 跳べー だの騒いでいるから一番太い大根でマフラーを塞いでやったというワケよ。 
まさか 大根ずっぽり のばかグルマが名人と剣士さんだったとはねえ。 じゃあ 大広間に大根刺身を届けるわね〜」


「剣士どの、ここで思うんじゃがな」

「なんでございましょう?」

「どーもなあ。 なんだか初期の状況判断の切迫さと現在の展開・展望には大きなかい離が生じておらぬか」

「へっ?」

「ヌンチャクお龍が攻めてくるから防衛体制を固めねばなりませぬ。 とかいって大仰な剣道防具を担いだおぬしが汗を拭き拭きおしぐれ峠を登って来たところから一連の騒動が始まったようにワシは記憶しとるんじゃがなあ。
前々回号のページをめくって検証してみようかのう」

「あいや〜 それはぁー ・・ おぼっちゃまが血相変えてわたくしの道場に駆け込んで来まして、じいちゃんの一大事だって。
ばあちゃんはぬんちゃっくの名手だからきっと成敗されてしまうって。
元連れ合いとはいえ、嫉妬おんなの一撃はカスクのヘルメットをも砕くって」

「輪太郎、そうなのか」

「だって〜 お母さんがね、こりゃー叔父さん やっつけられるよってお父さんに話してた。 
電話でね 懲らしめてやりましょうよって、ばあちゃんと話していたのも聞いていたからさあ。
女ふたりにかかったら、いつもじいちゃん遣り込められていたでしょう。 そんなことになって入学祝いの競技用コルナゴレーサーを買ってもらう計画がフイになったらこまるから ・・。
剣士さんなら力になってくれるに違いないと思ったのさ」

「ふえ〜 やれやれじゃのう。
ええか輪太郎、ばあちゃんはそんなことせんよ。

お龍のヌンチャクは私恨ごときで振るうタチのものではないのだ。
かつて先島王朝の存亡を懸けた一戦に鍛えられた秘技ではあるが、今でもかの地ではひとたび錦袋より抜かば国事行為。

お龍はな、さきしま邪馬台の正統を受け継ぐただ一人の女流錬士として生きるためワシと別れて琉球と行ったり来たりしながら伝統継承に奔走しておるんじゃ。
後継者を育て後を託したそののちは、またワシとクルーザーで喜望峰回りの航海に出ようってなあ。
一等航海免許の更新で視力検査が通るうちに実現したいもんじゃよ。 はっはっはー」

「ひえ〜 お方さまぁ〜 うっうっう。
お方さまが、さきしまの正統お龍さまとはつゆほども存じませんでした。 お許しくださりませー。
しかも錬士さまにあらせられましたとは。 わたくしはいまだ二つ目でございますぅ〜」
 
「剣士どの、なにを泣いておるのじゃ。
おぬしだって剣術なら貧民街の三等地に道場を構える師範であろうに、道場はボロじゃが立派なものじゃ。 鎖鎌はいっこうにヘタレじゃがなあ。

余技の落語の真打推挙はそのうち酔狂ご仁に頼んでみるから機嫌を直して大広間へ行こうではないか。
魔方陣の結界は不要のようじゃ。 古峰神社女人参拝講の大型バスは出て行ったし蓮舫連もダース・ベイダーももはや来ることはあるまい」


「あら 叔父さんたちお風呂はいいの? 大汗かいたから先にビールを飲みたいって?
汗かくほどに何を悪だくみしていたのかしら、ねえ 叔母さん」

「だまれ だまれ、生ビールのジョッキをこっちによこせ。剣士どのの分もだ。 
摘まみか? 高原大根の生刺身がええわい」

「高原大根の生刺し? なによそれ、下仁田コンニャクの間違いじゃないの。 大根刺しなんかメニューにないわよ」

「あるよ お母さん、ほらね 来たきた。 魔女っこメグちゃんと 魔女っ娘エリちゃんでえーす」

「お待たせしました。メグちゃんが掘ってエリちゃんが谷川で洗い、たき火で焼いて冷水で締めた高原大根 生刺しでーす。
味付けは塩でよし わさびでよし マヨネーズでもよし 粉チョコレートもしくは昆布茶乗せはさらによし」

「あら あなた、恵みさん? あたしです、女子高テニス部で後輩だった慶子ですぅ〜。 
うわ〜 先輩お久しぶり、でもなんでココで大根のウェートレスをしているの? あなたが魔女って、もしかしてコンビニのお姉さんなの? しかも可愛い子魔女まで連れて」

「そうよ、あたしよ。 コンビニが本業で大根セールは今日だけ。 魔女のワケないでしょ、ホーキに乗っていないもの」

「先輩い〜 あたしね、あの話を聞いてからコンビニのお店へ行ってみたのよ。 
叔父さんのロマンスってどーゆーお相手の方かしらって、そしたら幸運の魔女の店だってうわさを聞きつけたすけべな男衆で混んでいて、近づくことすら出来なかったのよ。
でも恵みさんだったとはびっくりだわ。 テニス大会以来ですね」

「憶えているわよー。あたしとダブルスを組んだ県大会のときのピンクのラケット。 クルム伊達公子スペシャル。
あのラケットから捻り出されるリターンエースの魔球は相手をきりきり舞いさせたわねえ。
決まるたびにピンクレディーの振りで UFO を踊ったものだから審判から10ペナ減点を貰ったわねえ。
イギリスから個人輸入で叔父様が取り寄せてくれたって、そりゃー大切にして誰にも触らせなかった。

その叔父様がこちらの名人さま。 テニス部のころからクルーザーに乗って外洋に遊ぶ富豪のご親戚って知っていたわ。
ロマンスなんてそんなことあるワケないでしょう。

JTのレシートプレキャンが偶然にも剣士さんに当選したとき、これはもしかしたらあたしの超能力、あたしがレジ操作したレシート番号は離れた場所の抽選機をシンクロさせる魔力だって、幸運のレシート魔女伝説をでっち上げたのよ。 すべては商売繁盛の た・め・よ 」

「びえーっ おのれは本物の魔女やー」

「なんだ 剣士どの、おぬし気づいていなかったのけ。 騙されたふりをしていたと思っていたがのう」

「またまたあ めいじ〜ん、 苦しい芝居をしておりません? なんだか目の奥がドリフトしておりますぞー」

「オッホン、さて 二代目お局どの、ご挨拶が遅くなり失礼いたした。 スペシャル自転車工房のおしぐれでござる。
そんな訳で、避暑地の恋というにはいささか秋風の立つ時節と相成りましたがの、
『高級リゾートホテル ペアご招待 志賀高原 癒し旅』 の当選証書は剣士どのご夫妻にお返ししよう。

そもそも剣士どのがワシの工房製 「手曲げアルミパイプ たらちね型ハンドルバー」 の代金を踏み倒した末、癒し旅の当選証書で物納したことからややこしいことへの派生が始まった。
証書には当選者本人とその同伴者のみ有効、第三者への譲渡不可と書いてある。
そこでじゃ、本日の飲み食い代金を剣士どのが受け持つということですべての債務関係をチャラとする案はどーじゃろのう」

「あなた! 名人先生はあなたの顔が立つようにご配慮くださったのよ。
誰かさんと癒し旅に行きたくて、せっせとJTのたばこを買ってはレシートでキャンペーンに応募していたことくらい知っていたわよ。
誰かさんというのはわたしのことだと思えばいいのよね。 ねえお龍さん」

「やっとウチにせりふの番が回って来たわねえ。 さあ言うわよ」

一同 ごくり。

「うまい!
ビールがじゃないわよ、 まだ飲んでいないんだもの。 みなさんの対応が うまい! って言ったのよ。
さあ さあ エリちゃんと輪太郎が集めてきた座布団を二枚重ねにして座って頂戴。 みんなで輪になって飲みましょう。 魔方円ね」

一同 うまい!
一同 ごくり。
ぷっふぁー うまい。

「お慶ちゃん、みなさん、まことに良い具合になって参りましたところで申し訳ありませんが、
あたしは下仁田の実家に行っている母を迎えに行かなければならないのでこれにて失礼いたします」

「なんだあ 恵み先輩、飲んでいけないのおー」

「そうなのよ、母の姉さん夫婦というのが長い間フランスに行っていたんだけれど、ご亭主が定年になったのを潮に群馬の荒船山に中古の別荘を買ってね、
半農半きのこ採りの暮らしをするんだって帰ってきたの。
下仁田からは目と鼻の先だから親戚中が集まって定年お祝いと帰国歓迎会をやっているのよ。 わたしも今夜はあっちに泊まるから向こうでしっかり飲むわよ。

エリ 行くわよ、あら輪太郎ちゃんと隅っこのほうでいちゃいちゃしてる。 さすがは名人の姪孫ねえ、手が早い。
置いていくから慶ちゃんのところに泊めてよ。 なんならずーっと置いてくれたら助かるわあ、あたしも本物の独身に戻れる」

「ちょっとー お母さん なによ。 わたしを捨てるつもり? 魔女の子捨てなんて聞いたことがないわよ。
輪太郎ちゃんまたね、高校で待っているわ」

「メグどの、つかぬことを尋ねるがそのフランス帰りというご仁、もしや銭形というお方では?」

「あら なにかでご存知でした? 銭形茂平といいます」

「げっ! も もしやお母方のご実家は荒船姓か?」

「はい 母のおじいさんは昭和の国定忠治こと荒船清十郎とか言ってましたけどなんだか分かりません」

「びえ〜 めいじ〜ん ターボです、甦ったアバルトなターボを吹かして逃げましょう。
あのまむしさんのことだ、いつになるかはわからないけどエリちゃんと輪太郎ぼっちゃまの結婚式にきっと現われますぞ。

『おれのワルサーPPKは定年後も終生特認特許だ。 抜く手は見せぬぞ、見たいのか。 ほれ 3Dのメガネだ。 両眼セットで50ユーロだ』 
とか言うに決まってますう〜」

「心配するでない 剣士どの。 ワルサーの銃口に高原大根の岩塩一夜漬け角切り ずっぽり 作戦でへなちょこ不発となろうよ」

「めいじ〜ん、岩塩の塩気でガンもしおれる角切り大根 っちゅー落ちは、本編の幕引きに大変よーがすがね、 ずっぽり する係りは一体誰を想定してますの?
クマ型ロボットの ごろえもん でやんしょーね」

「うむ、極めて重要な役どころであるから深慮黙考のすえ、断腸の思いで決めた。  聞きたいか」

「聞きとうない。 聞きとうないけど、聞かな終わらんのがおしぐれ作家の悪いクセですう〜」

「ワシもそう思う、あの作家は三次元のX Y Zに 『そのさき』 のα仮説軸を書き加えて四次元に作り換えてしまうほどの非日常の天才じゃ。
とてもワシらの敵う相手ではない。 じゃからこれでいいのだ。

而して おぬしをおいてこの大事を他に頼めようか。
名手の誉れも高き剣士どの、わが同志よ。 我ら盟胞の契りにかけて他に頼める者はおらん。

もしも、万が一にも もしものときは、おぬしひとりを死なせはせぬぞ。 
ワシもな、寿命のかぎり でほらくのかぎりを尽くして放蕩したそののちに、必ずや きっと たぶん 後につづくであろう」
 
「うっうっうっ めいじ〜ん。 かかる大役、是非ともわたくしにご下命くだされましー」

「うむ、さすがは大和剣士。 もののふの覚悟である。 しからば以下に手順を示さん。
おぬし手練れの鏑の鎖鎌弾頭な、あれに搭載可能最大規模の塩大根を仕込むんじゃ。
そもそも かぶら とは 蕪 すなわち丸型の京大根のことじゃから違和感なし。
そしてな、ワルサー射程確度が急速に下がる15m距離の1/3まで接近したら、ターボを効かせて びゅん と飛ばすんじゃ。 幸運を祈るぞ」


おわり


「めいじ〜ん 読者でも容易に予想可能な終わり方でないですか〜。 大喜利的には面白くないんでないけ?
それに何ですか! 15mの1/3の距離まで近づいたなら、めっちゃ命中率の上がる危険ゾーンいうことやないかい!」

「やっぱり わかっちゃう? じゃあ 新しいシリーズを書いてもらって、違う方法でもういっぺん死んでもらおうか」

「じいちゃん、オータムジャンボ宝くじに当たって美人おんな詐欺師にまとわりつかれる話しがよいと思います。
剣士さんのキャラクターにぴったりです」

「ぼっちゃま〜 なんですの それ〜。
そーゆーとこ、デデニオンのじいさまによー似てまんなあ〜」
 
「魔女っ娘エリちゃんがアルバイトしているコンビニのスーパーマルチ機で買えるよ。
ぼくが代行で買いにいってもいいけど、当ったら賞金がすってんてんになる前にコルナゴ買ってね」

「輪太郎、エリちゃんに会いに行くのは構わんが、選手になったらおんなには気をつけるんじゃぞ。
選手召集後の宿舎には携帯電話すら持ち込み禁止じゃ。
ゴールするまでは観衆に手を振ってさえいかん。 厳しく己を律することの出来る者だけがプロで成功できるんじゃ」

「ほーぉ 名人が言うと説得力が一段とナニですなあ」

「おまん、破門されたいの?

それと抽選話しの件はな、そーゆーのを二番煎じといって濁川賞へのエントリーなどとても望めん。 
ここはオリジナリティー高きおしぐれ作家の手腕に委ねようではないか。
それまでは古いパナレーサーで練習を続けなさい。

よいか おしぐれ家 累代の家訓を授けよう、しかと聞け。
すなわち 『金持ち喧嘩せず。 無駄遣いなどもっとせずじゃがな、放蕩は無駄とは違う、修行の別称じゃ。 やがて己の宝刀とならん』 
 
はっはっはぁー おまえにしかと託したぞ、ワシはご先祖の呪祖からやっと逃れ、尻に帆かけて修羅種々主 じゃわいねー」

「めいじん、アバルトのマフラーから南半球ホーン岬の潮の香りにも似た芳香が立ち昇ってまいりましたぞー」

「うむ、しからば剣士どの タケコプターの びゅん びゅん を再開してもらおうかい。
パタゴニアの雪の峠に千年生きる巨木、 一本カラ松 の大枝に引っ掛かるまで回し続けるんじゃ。 さん ・ にぃー ・ いち ・ ターボぉーっ!」



おしぐれさんの じてんしゃ 大喜利 4
2016/09/20

ふもと温泉の駐車場は週末とあってけっこうな込み合いであった。
小さなフィアットをもぐり込ませるスペースを探してゆっくり進ん行くと助手席から首を伸ばしてきょろきょろしていた剣士が左隣りのレーンに空きを見つけた。

「名人 あそこ、赤いクルマの横が空いている」

「おおそうか、でもなココは右回りの一方通行だから一度出て、もいちど入り直してグルッと行かねばならん。
そのあいだに他のクルマが停めてしまうかも知れんな、剣士どのすまんが歩いて行ってキープしておいてくれ」

「へい そうしまひょ」

「なにをしておる、早く行け」

「あの、 止ってくれませんの?」

「おまん アスリートやないけ、この速度ならスッと降り立てるじゃないか。
イタリア映画の刑事はみんなそうしておるぞ」

「名人、あんた殺意がありますの? わたくしの首に風呂敷荷物とシートベルトが二重に巻きついているのを知ってて言いますのかいな。
ジュリアーノ・ジェンマのマカロニ刑事ものと同じに考えては困ります。 だいいちこのドアどーやって開けますの、内側のノブが無い」

「おおそうか、アダルトなアバルト仕様は窓から腕を伸ばして外側のドアノブを引くんじゃよ。
窓が電動でないことは前回号で知っておるな」

「名人、よしんば窓を開けたとて、大きな風呂敷荷物が身体を拘束しておりますゆえ手が届きません」

「おおそうか、しからば風呂敷を背負ってルーフから出よ。スペースエックス社のパタゴニア号で月へ行ったと思えばいいんじゃ」

「へっ!」

「こちらキャプテン。 重力を1/6に減衰するため一旦ターボを吹かせて加速し、次にブレンボのブレーキで急制動をかける。 
直後に瞬間的な重力差ゼロの時間帯が出現するからクルーはハッチを開けて離脱せよ。
そのあとは100m先の3Dボルトな空間域まで9.81秒で泳ぐんじゃ。

なお、ハッチは電動ではない。 ファイナリストはキチンと閉めること。
諸君とはいつの日にか地球で再会しようじゃないか、バーボンを奢るぜ。 幸運を祈る。 さん ・ にぃー ・ いち ターボぉーっ!」

「あんた、なに そのクールな待遇は。 わたくしの秘技・鎖鎌を助っ人頼りにしているから安心して温泉に来れたんでしょうが。
それともなにけ? ひとりでぬんちゃっくのお方さまと対決なさるおつもりか」

「ターボぉー 鎮火ぁーっ」

「名人得意技の ”アルミパイプ曲げ・膝ベンダー” を使いたくてもハンドポンプの油圧万力を持って来ていないから丸腰同然。 
ワルサーを忘れた銭形警部と同然ですわ」

「おおそうじゃった、頼りにしておるぞ。 剣士どの」

「この込み具合では大広間に魔方陣の結界をつくることなどできませんが、まわりは民間人。
お年寄りも多いから敵方も殲滅的無差別攻撃は差し控えるでしょう。

そーゆーのを原資効果の差別化と言います。
敵がケインズの経済の法則にひったっているうちにわれらは温泉に浸かってカラダじゅうに二酸化硫黄のバリアーを吸着させるんです」

「おお剣士どの、おぬし知恵者じゃのう。 ケインズとは水木先生の新しい妖怪か?
妖怪封じに硫黄が効くとは聞くまで知らんかった、礼をいおう」

「 ・・ 名人、関係者にしか分からない洒落をもじっている間に街道に出てしまいました。
早く戻らないと先ほどの空きスペースが塞がってしまいます」

「おおそうじゃ、じゃが前方から来る軽が直進なのか左折なのかよう分からんので当方は右折ができん。
かあちゃん軽のどっちつかずにはいつもイライラするのう。
彼女らの目にはワシの100馬力アバルトが軽に写るらしく、同族の気安さなのか信号を出さずに急に右折してきたりするから油断がならん。
おいおい 駐車場に入るじゃないの、いかん あそこのレーンを狙っているみたいだぞ」

「うわー めいじ〜ん あの軽スズキめ、赤いプジョーの隣りに入ろうとバックしていますぜ。
わたくしが行って、ここは名人の予約席だと追い出しましょう。ですからドアを開けて外に出してくださりませぇー」

「剣士どの、静かにいたせ。
いま外に出てはならん。 なぜならばあの軽は姪っ子のお慶だ、その子の中学生も乗っておる。
まだ此方に気づいておらんようじゃがもっと悪いことには隣りの赤だ。 あれはヌンチャクのお龍がいつも乗っている赤いプジョーだ。 
敵はすでに堅固な陣容の構築を済ませたと認識せねばならん」

「びえーっ! ぬんちゃっくのお方さまとは紅い錦斗雲に乗って現われるものと思っておりました。
赤のプジョーとは随分とセレブな乗り物ですな、フランスかぶれの銭形と同盟を組んでいるとしたら厄介でございます」

「まて、プジョーの助手席から女が降りてきた。軽スズキのバックを誘導するらしいが知らない女だ。
インターポールの女工作員か? いやそうではあるまい、ふつうの日本おばちゃん風である。 いやまてまて、あのすり足の運びは武道家のソレだ、油断ならん」

「びえーっ! あれに見えるおばちゃん風すり足女はわが女房でございます。
伊達流 なぎなた 免許皆伝、うちの二代目たたちねの局でございますぅ〜。
はい、初代はわたくしの母親でございました。
一見おばちゃん風ながら手加減のての字を知らず、風の字も取れた真正おばちゃんのたらちねの局の女房どのが何ゆえあって錦斗のプジョーに同席を ・・ 。

逃げましょう名人。 アレが我が家に来て40年、わたくしには分かります。なにか大きなお祭り騒ぎの陰謀めいた渦が頭上に迫っておりまする。
今ならバックして ・・・ だめだあ、後ろから古峯神社参拝講の女性専用大型バスが来ちゃった」

「なに! おんな古峯講とな、白装束の女どもがいっぱい乗っておるのか?」

「はい〜 白鉢巻きをキリリと締めてガイド席に丈夫そうな金剛杖が束ねてありますぅ〜。 
白半纏の両襟に輝く 金のお印し がなんだか ICPO のマークに似ておりますぅ〜。
うわぁー バスは宮城ナンバーです、伊達藩古峯講 なぎなた部会の加勢に違いない」

「なんと、 この説明困難なエキストラ出演バスを含む敵陣容の豪華さはどうじゃ。 もはや我らに活路も退路もないのか」

「名人、ターボです。 アバルト ターボを縦に吹かせてスペースエックスの如く跳ぶのです」

「オメさん、おしぐれ作家みてーな でほらく 吹くんでねーよ」

「だめ? 
そんなことないよね、軽より軽いアルミのボディーに100馬力ターボなんでしょう?」

「あたーぼよ、アダルトなアバルトに不可能はない。
剣士どの、ルーフを開けて鎖鎌を回せ、タケコプターの如くにびゅんびゅん回せ。 
風切音が佳境に入ったればターボレンジに入れるぞ、シートベルトを腰に巻き付けてしっかと回せよ」

「剣士 がってんの介」

「アダルトなアバルトよ、おしぐれ峠の一本松にみごと引っかかるまで跳んでみせろ。
剣士どの、覚悟はよいな。 さらば参らせ候ぞ。 さん ・ にぃー ・ いち ・ ターボぉーっ!」


つづく

おしぐれさんの じてんしゃ大喜利 よくない質問編
2016/09/02

司会
プレスの皆さまに申し上げます。
当会場に向かっておりました作家のクルマが折あしく峠で遭遇した熊の群れに取り囲まれまして、互いに道を譲れ譲らぬのこう着状態になっておるそうでございます。
記者会見は先発で会場準備中の一番弟子、Aを代理人として予定通りに進めてくださいとの連絡がございました。

よろしければお時間でございます、最初のご質問をどうぞ。


大風呂敷広太郎のふたーりが、いままさに戦わんとする 「ぬんちゃっくのお方さま」 とは、いったいどーゆー人物なのですか?
いくさの大義名分はなんですの? やっぱりあれでしょうか、排他的独占ロードへの侵犯問題ですか?


Aでございます。いまだ処女作の発表に至らぬ若輩者でございますゆえカメラのある会場では仮面の着用をお許し願います。
はい 目標はゴーストライターでございます。な〜んちゃって。 あら 受けない。

さて気を取り直してご質問の件、第3編だけをお読みの読者さまには確かにお分かりにくいことでございましょう。
ですがプレスの皆さまにここでソレを明らかにしてしまうことは、第0編(避暑地の恋、さらにその前)からお読みいただいている全国の推理ファンの皆さまへの背信になると考えます。
いえいえ わたくしの考えではありません、師匠作家の意向でございます。
せっかくのご質問ではございますが、 「それなりの」 とだけのお答えでよろしゅうございましょうか。

会場
なんだ、回答になっていないじゃないか。
それを知りたいから宇都宮までわざわざ来たんだぞ、ざわざわ。

熊ってさ大群で峠に現われたりするもんかね? 猿ならやりそうだけど。
フィアットなアバルトのアダルト仕様なんだろう、ターボを吹かせて走り抜けられるんじゃないのか。

違うよ、アダルトなフィアットのアバルト仕様さ。先生はフェラーリミニと呼ぶけどそれはどーかねえ。
軽自動車より小さいサイズに幌トップだから熊パンチ一発で倒される。
そこで、最近はオバマ大統領もシフト傾向にあるという先制攻撃でしょう。
鎖の長さの3.14倍の間合いを保ったまま剣士の鎖鎌をびゅんびゅん回して追っ払うんだ。あの分銅は鏑矢と同じ原理の音響胴だからねえ。

なに それ?

不気味な周波数が相手の敵愾心を委縮させるんです。
つまり核だ核だと弾頭を見せるだけの基本不使用なんですが現場判断で偶発もありうる。その場合は断固をもって大統領命令に格上げするという心理作戦だから国際世論対策にはクマらないと自信を深めている。

ほー 北の防空識別圏より3.14倍の高度にB152を飛ばしてびゅんびゅん音を鳴らすわけね。
あんた、先生の論調によく似た物言いだがおしぐれ作品を読んで予習してきたのかい、どこの社?

はい、ミヤスポです。地元の作家先生ですからひと通り斜めにサーっと。
でもねー これがしつこい、ネチこい、句読点が妙におかしい。アタマがクラクラしているうちにどこかで騙されてしまうんです。
こーゆーのを技巧と呼んでいいものか、選考委員の判断は割れるでしょうね。そこが楽しみでもあります。

あんたも相当ネチこいけどあのAって男、なんだか臭くないか。デーモン小暮のメークしてさあ。

司会だってそーですよ、とても真打とは思えないけどさりとて山田隆夫よりイケメンだし背も高い。
アサイチに出ているV8のなんとかいうヤツだろか。

司会
え− V6でございます。 それでは次のかた、局名とお名前からどうぞ。


インターポールに出向中の碕玉県警 銭形茂平である。
氏の作品に 「それなりの」 とか 「さらにその前」 とかいう夏目漱石を意識したような表題のものがあったとは今はじめて知った。
それを加えると 「剣四郎」 「さらにその前」 「方陣の門」 と連なる、もしかしたら作家の死後にヒットが予想される ・・ かも知れない三部作という位置づけになるのか?

司会
銭形茂平? インターポール? 死後にそれなりの三部作? ・・ 三連はてな? でございます。 
手前味噌で恐縮でございますがあたしら落語の世界で死後は死語でございましてな、かわりに昔から四五の二十なんてことを申します。二重の受賞でおめでとうございます。


司会はなにを言っておるんじゃ、とん平か?
すこし黙っておれ。

氏は人生への悔恨に根差した文学が得意のようじゃな。
ヨーロッパの作家の一部、特にイタリアンには過去に犯した罪を懺悔するためにそれを脇の話しとして組み立て、
あたかも傍観者であるかのように振る舞うセコい性癖が見られる。

そのわけは懺悔し前罪の消滅を神に願い出るには、その前にローマ市内各地にある噴水池の清掃活動を毎日一年間続けなければならないヴァチカン独特の規則にある。
首に掛けた出勤簿にパトロールポリスの証明印を貰い、満願したら懺悔願いと一緒に法皇庁に提出すると審査のうえ受理されるしくみだ。

観光客が集まってくる前の夜明けと同時に始める池の清掃は辛いぞ。
ローマの冬はことのほか寒い、噴水ノズルが凍りつかないよう作業中でも水を止めないんじゃ。

夜更かしの作家ほどその苦行から逃れようとする。
なかにはポリスに顔を見られたくない作家もおろう。
偶然に観光客のカメラに映って故郷のローカル新聞ミヤスポなどに掲載されようものなら ・・ おぬしらならよっく解かるんでないかい。

司会
げっ!


そのような解釈がおれの出向地フランスでは革命以来の定説だ。


定説 ・・ ですか。


池のなかに放り込まれたコインを思わずクスねたくなるイタ公の心理をうまく突いたヴァチカンの方策はさすがと言えよう。
コインの誘惑に打ち勝つまでは懺悔台の前にひざまづくことすらできないシステムにフランスでは評価が高い。
ヴァチカン前広場のオープン懺悔台を見るかぎり、池の清掃活動を免除されている外国人難民ばかりでネイチャー イタ公の姿がないのは一体なにを意味するのか瞭然であろう。
あと50年もしないうちにイタリア人は懺悔をしないならず者の国民ばかりになってしまうだろう。

司会
あいやー。 フランス恐るべし、そこまで言うかね。
プレスの皆さん、これ記事にしないでくださいよ。あなたがたにも同席していて止められなかった連帯責任がありますぞ。

イタリア可哀そう、今夜の打ち上げはイタ飯屋にしましようよAさん。


氏はコルナゴ信仰に代表される猛烈なイタリアびいきと聞く。やはりそのような作章の手法なのか。
フランス リオンに本部を置くインターポーラーとしては妄信的なコルナゴびいきは愉快なものではないと申し上げておく。
フランスにはピナレロもルックもラピエールもあるぞ。

リオ五輪の自転車競技を見たろう、トラックはもとよりロードであれマウンテンであれ決勝のスタート台に並んだのは純白のフレームにLOOKのロゴをあしらった東レカーボン使用のルック車で埋め尽くされていたではないか。


あのー 伊仏紛争の火種となるようなご発言は先生の作品に無関係と存じますが ・・ 
それにカーボン素材メーカーである東レを巻き込むのも、公平をむねとして世界に素材を供給する日本サプライヤーの立場上いかがなものかと ・・


だまれ だまれ、イヴ・サン・ローランの渋いスーツの襟に輝く ICPO の金のバッジが目に入らぬか。 頭が高い!
アディダスのジャージで会見台に上がるとは作法を知らぬ田舎者めが! せめてルコックにしろ。

おれにはベルサイユはもとよりエジンバラであろうと千代田門の内側であろうとも、ワルサーPPKゼニガタスペシャルの実装所持と使用の特権が特認付与されておる。
つまり超法規の男なのだ。他にはダーティーハリーとランボーしかおらん。 
ふっふ 抜く手は見せぬぞ。見たいのか! 見るには3D対応のメガネが必要だ。

司会
・・・


・・・


三部作なれば四作目は当然 「寒天」 であろうな。


事前通告なく かつ想定外のご質問でございます。
お答えに窮する内容でございますが遠来のお客さまでございます、おそれながら申しあげます。

代理人のわたくしには作家のふところ具合なら分かっているのでございますが、さらにその内側のデ・ローザのハートマークの葛藤までは承知の外でございまして ・・・
次回作どころか 寒天 の意味すらちんぷんカンテンでございます。


本人が会見場にいないのは 「さらにその前」 が世間に与える影響の大きさを恐れたのか?


これは ・・ さらに困りました。

司会
(小声で) うまい。


さらにその前 は作品名ではありません。 さらにその前という失われし時間軸を遡った状況の 「とあるいっときの断片域」 を指すものでございます。
つまり 「おしぐれ名人シリーズ」 の内容ですね。
先生に三部作だなんて、そ〜んな実力は代理人のわたくしだって信じておりません。
思いつきだけで書いたり言ったりしているんです。
前作後作とのつじつまが合わないことなど眼中脳中にないのです、あのひとわっ。 弟子のわたくしもそうですけどっ。

それにしてもあなた。 ・・ まだ先生の追跡をあきらめていなかったのですか。 
あなたが えせ寒天密造容疑 の犯人として立件し、検察に送った諏訪のNさんは別件逮捕の ベンチ投げボート撃沈事件 で40年の執行猶予を終え、主訴の寒天容疑では無罪となったじゃーありませんか。
それともあの事件と裁判は誤認審だった。冤罪だったと今さら贖罪のおつもりで日本に舞い戻ったのですかっ!


ふっふ、なにを気色ばんでおるのか。
お前さん、弟子と言ったがなぜにそこまで知っておる。40年前の事件だぞ。

この銭形はな、ザザ虫で作った蜂の子佃煮や抱卵中のアカハライモリをたこ糸で縛って棒の先に吊るし、つちのこの子だと偽って夏休みの子連れ観光客でにぎわう白樺湖遊園地で売っていたセコい事件は不問にもしよう。だがあの梅花藻寒天だけは許せん。

ICPOの事務総長も 存分にやれ、
「寒天は細菌培養地のベースとなることから過去の米国における炭疽菌テロのほう助容疑が高い。国際法に照らし、寒天密造罪に時効の観点はない」
と言っている。


あなた、なにを言い出すのだ。
きょうは濁川文学賞の候補者名簿発表待ちプレス会見ですぞ。名簿に載るだけでも正統な日本文化継承者と認められたと同じだ。
そのような先生をテロルの犯罪者呼ばわりするおつもりか。


知らぬと言うのも今のうちじゃが 「寒天」 と聞いてポリグラメーターの針が大きく振れたのは如何いたしたことかな?

寒天は諏訪の寒さがもたらす奇跡の空気と匠の伝統技法とがコラボして生まれた信州の特産品だ。
おれの故郷の名品だ。
ヨーロッパでも善光寺の七味唐辛子と並んで日本のソウルフーズとされている。
それを ごじゃっぺ商品 にしてテロリストに売り渡してはダメだんべよ。

おれはインターポール最後の仕事としてこの一件の全面解決を誓い、出向以来ずっと故郷の埼玉飯能に帰ったことのなかった妻を帯同して日本に来た。
真の首謀者の名を明らかにした後は退職し、フランスには戻らん覚悟だからだ。

司会
びえーっ


碕玉県警で定年の辞令と職員積立旅行の夫婦旅行券を受け取ってな、米国スペースエックス社のコロンビア2号でパタゴニアに行くんだ。
そして地界の果ての断崖の上に立ち、氷海の向こう アフリカ喜望峰から吹いてくる風に向かって 「召し捕ったりー」 と叫ぶんじゃー。
小さい声で 「かあちゃん、苦労をさせたなあ」 ともいうつもりではあるが、現地に立ってみないとわからん。
 
長い間のわだかまりを吐いた 「さらにそのあと」 は埼玉の女房の実家に近い飯能山あたりに住んで半農半きのこ採りの暮らしを一緒にすっぺーと。
そーゆーセリフは用意してあるんだが、はたして言えるもんだかなや。

司会
・・・


・・・


ふっふ 今日はここまでにしてやる。
近いうちにまた会うことになろうがなや。


秘書の剣之助さん、銭形警部に入場パスを出したのは何処の社かすぐに調べてください。
大方の見当はついている。月刊インターポール、略して月イチ インポを発刊している通称下ネタ堂こと群馬の下仁田堂書店だろう。
下仁田は銭形夫人の実家がある飯能に近い、旧中山道の隣り村だ。何らかの姻戚関係にあっても不思議ではない。
どうゆーふうに話を持っていったのかは知らないが心当りがある。

あそこは昔、コンニャク畑のなかに上越線の高架が通るだけの寒山村だった。ところが権力を使って無理やり荒船山という新駅を造らせ、朝夕1回だけだが急行を停めた元運輸大臣のご仁がいてなあ。
公約を果たしたってんで地元では国定忠治に次ぐ任侠の英雄なんだ。

路線は違うが諏訪の長野新幹線停車のヒントにさせてもらったときに仁義のつけ届けをしていなかった経緯がある。
向こうは朝夕1回こっきりの各駅停車なのに対し、こっちは甲府以外には止まらん毎時の特急だ。グレード感が違う。
その格差がご仁のヘソを曲げてしまったらしいが、当時は先生もまだ若かったからそこまで気が回らなかった。Nさんの逃亡支援で時間も金も掛かっていたのだよ。

その意趣返しにしては手が込んでいる、危険な謀議を感じるんだ。
この勘はいつも当たる。だから今日まで生き延びた。秘書さん、あんたもそうだろう。
下仁田堂との関係を絶とう。先生の版権を引き揚げさせてもらう手続きをただちに開始するんだ。
違約金? いくらかかっても構わん。相手はユーロまむしのインターポールだぞ、わが方の存亡をかけて闘え。

それとな、まむしの銭形夫妻をエールフランスのVIPクラスでリヨンに送り帰す手配をしろ。
日本みやげも持たせろよ。赤城山のまむし酒がいいだろう、つちのこより強毒だ。 トリフュとの食い合わせは確認しておらんが上手く副作用して昔のことを忘れれば上出来だ。

なに? もの忘れには茗荷の方が効くって。
産地は何処だ! なに? 筑波山の大ガマ印ミョウガ酒か、それも付けろ。

なに? 松茸と飲み合わせのセットですだと。トリフュより効くなら構わん。2セット持たせろ。

こんどは何だ、なに? パタゴニア経由 南極回りのスペシャル便だってー。 
くっそー 足許見やがって〜 構わん、いくらかかっても構わん。 気が変わらんうちにすぐに行け、成田でも関空でもNASAのアリゾナ基地でも送って行けー。

司会
あの〜 そーゆーインサイドなお話は別室でお願いします。 
マイクのスイッチが入ったままでは困ります。 では次のかた。
あら 皆さん帰ってしまわれた。 会場費は誰が負担するんでしょうね。


そりゃー 興行主の団塊屋さんでしょーや。
一時期は寒天販売のほかにも大アゴのあるゴミ虫をクワガタの子だとして売っていたという噂があった。
ゼニガタはクワガタの天敵だ。

司会
(大声で) うまい。


おそらくインターポールは団塊屋さんの会場費損金補償の請求に応じないだろう。オメさんの司会報酬もあぶないもんだぜ。
請求書はユーロのしきたり通りに5割増しで書きなせーよ。

ほな おつかれさまでしたぁー。

司会 
はあ〜 なんで銭形警部なの? 冤罪事件ってなに?
秘書さんて剣士の剣之助さんなの〜。 あのヤットーの師匠がテロリストとの連絡役だったなんて、まるでおしぐれ先生の推理小説のようだねえ。
このうえ ぬんちゃっくのお方さま まで降臨されたら司会のしようがないわいね。

きょうのプレス向け会見は芸能・出版関係だって聞いていたけど、確かにインポ誌は来ていなかったなあ。
大手が来るはずないっしょ。 来ても宇都宮のミヤスポくらいのもんだよ、事前の候補者名簿予想に先生の名前がないんだもの、大穴ねらいのミヤスポはでかい賭けをしたもんだわ。
去年の又吉直樹先生のときは司会者にもたっぷりのご祝儀と帰りのおクルマも付いていたもんだがねえ。

おーいAさん 待ってよー。 イタ飯屋行かないの〜。 ふもと温泉の大広間でもいいよー。
ああ やっと追いついた。
ところでAさん、デーモン閣下みたいな仮面をかぶっているけど あんた。 本当はおしぐれ先生なんじゃないの〜? 駅裏の焼き鳥屋でもいいよー。


そーさなあ〜 えせ松茸の土瓶蒸しとミョウガ酒できょうのことは忘れてもらおうかい。

司会
へえ 司会みょうがに尽きるってーもんでがす。 

おしぐれさんの じてんしゃ大喜利 3
2016/08/29

「めいじ〜ん わたくしでございますぅ ご在宅でございましょー。
出て来てくだされましぃー わたくしですぅ。 
昭和最後の短い年の初頭、昭和の剣豪 新春トーナメント戦 を勝ち上がり歴代最強と謳われたこともあったまぼろしの剣士、剣之介でございます。

その年はほどなく平成と改暦され、別メジャーの長いリーグ戦を制した男が平成元年チャンピオンとされました。
わたくしの名は ( )のなかに参考出典のごとく小文字で残るのみとなり、王者の称号はまぼろしとなって素通りして行きました。

この年急にお隠れあそばされた先帝陛下さまは、この大会を親しくご覧になられることを大層楽しみにされておられました。
天覧席に御姿のないまま放ったわたくしの決勝の面一本、ご病床のTVにてはたしてご覧あらせられたか、そう思うとまっことくち惜しゅうございます。
されどそれもまた時の運命でありましょう。

今上陛下におかれましては、それら諸事情をよっくご存じのご様子。
而して此の度のご存念表明でございます。
誠に有り難く存じますると同時にあと30年早かったならと、いや これは未練の剣士でございます。

エリザベス女王陛下より 錬士 Knight の称号を授けたい。規定の年金振込用にスイス銀行に口座を開設せよ。
毎年春の褒章の時期に合わせて英国大使館よりお話がございます。
もしかしたら日本宮内庁の苦悩を阿吽の請託と受け取った英王室のありがたいお計らいを賜ったのかも知れません。
されど今のわたくしには華の光りが過ぎましょう。 女王さまにはありがたく辞退の意志をお伝えいただきますよう御使者にお願いをいたしております。

さて、本文でございます。
姪ごさまのおぼっちゃまより火急のお知らせ。お館さま一大事と聞き及ぶに至っては剣士剣之介、市中場末の道場で小学生相手に剣術指南などやっておる場合ではござりませぬ。

おっとり刀の揺れをゆんで(弓手 = 左手)に押さえつつ、肩に食い込む背負い子の紐をあやしつつ、
険しい峠を馳せ越えて 只今 ただいま参じはべ申すぅーっ!

おぼっちゃまの下知通り、剣道防具一式に乙印地下足袋、当座籠城用の兵糧メガカップラーメンと柳影1本、ホッピーも1箱お持ちいたしましたぞーっ。

おいでなのはわかっておるのでございます、車庫にアダルトなアバルトとトレーラの繋がったカド号がありますからなあ。
徒歩(かち)では何処にも行かれんでしょーや。長年の脊柱管狭窄症でございましょー。

どこに隠れておいでですか。薪炭備蓄ヤードですかー?
お女中衆の着物を頭からかぶって炭小屋にお隠れとは左近の少将 吉良上野介殿ではござりませぬか。
それとも死んだふりをして押入れの茶箱のなかですかぁー。それではまるで上九一色村のペテン大将でございます。わたくしが来たればもう大丈夫、早く出て来ておいでまっせぇー」

「うるさい奴じゃなあ、芝居臭い長ぜりふを暗ちょこなしでスラスラ喋りやがって、道中の峠を暗記しぃしぃ登ってきたのかぁー。

ヨーッ! ほら吹き大根の 千両役者ーっ。 来てくれたことは誉めてやるぅー。
ワシならここじゃ、雪隠じゃー」

「おお やっぱりお隠れでしたか。
腹が下るほどに ・・ それほどお方さまの秘技ヌンチャクとは恐ろしい黒魔術でございますか。
ストレスでお腹が痛くなるのは月曜朝の小学生と同じでございますがまあいいでしょう、お若い証拠だ」

「ばかを申せ、昼にほろ吹き大根と雪鱈を食ったらおろしタラコになって出てきただけじゃ。おまんの毒ふぐ事件とは違うわ。
柳影で消毒するから早く出せ。えーい 冷やでよい」

「めいじん、飲んでいるヒマなどござりませぬぞ、早く防具を着けなされませ。
お方さまの必殺ヌンチャクをなんちゃくしても防がねばなりません、ぬぁ〜んちゃっく」

「あほか おまんは、このくそ暑いのに大時代な緋おどしの家康甲冑など着ておれるか」

「あほはあなたさまでございます、これは徳川家康公の甲冑ではございませぬ。もしもそうなら国宝駿府城の所蔵以外には大英博物館の秘宝にございます。
コレは日剣連指定 公式試合用 JOC検定合格の剣道防具でございましょーよ。

緋色のは東方、白色は西方を示す識別帯でございます。
面をつけた立ち合いのなかで天地東西左右が激しく入れ替わるとどちらがどっちか分からなくなりますからねえ。

JOC検定品なれば鉄砲の玉は防ぎようがなくとも、ぬんちゃっくの一撃には耐えられましょう」

「ほう 石垣島の巨石をも巻き上げる台風のような左渦ヌンチャクの嵐に立ち向かえるってか?」

「わたくしは一撃に耐えるとは申しました。しかし石つぶてを加えた左翼からの二撃三撃となりますればどうでございましょう。
そうならないように右派のわたくしがおるのでございます」

「頼もしいのう。 おまん JOCとも言ったが剣道はオリンピック種目になったのけ?」

「いやー お気づきでしたか。さすが名人、分析が冷静でございます」

「誤魔化すでない、すでに時代はスマートなフェンシング競技に移行しておる。
剣先のポイントセンサーで有効技が電子表示じゃ。おまんのような声だけ一本ではランプが点かんわ。
この前時代な甲冑かぶりの棒振り野郎め。長い棒なら棒高跳びのイシンバイワに頼むわ」

「名人! 声だけ一本の前時代の棒振りの とはあまりにもご無体な。それに異国のカタカナ女性に加勢を頼むとはなんという情けない申されようでございましょう。
おぼっちゃまも申されておりましたぞ」

「なんて?」

「じいちゃんの じてんしゃ大喜利は ”じてんしゃ大風呂敷” と改題せねばならんと ・・ はい そのようにおぼっちゃまが、わたくしではございません。
なんだかわたくしも言われているようで、尻がこそばゆい思いでございます」

「おい〜 腹がゆるむようなコト言うなや。
ワシが悪かった。きょうはもう大喜利やめてふもと温泉の涼しい大広間でいっぱいやろう。
あそこなら百畳敷きだから刺客からの間合いを十分取ることが出来る。

百畳敷きを借り切ってまん中にちゃぶ台をおくんじゃ。
そしてな、周り4か所に割りばしを突き立てる。次にステージから色紙テープを持ってきて魔方陣の結界を作るんじゃ。
ワシらの活路はそれしかあるまい」

「めいじん、四角い陣は地鎮祭でございます。
本来 方の陣 とは四角でございますがそこはそれ、水木しげる先生 魔が差して魔方陣は五角形のペンタゴンにした」
 
「そーか? さすがは戯曲界にも通じた伝説の剣士、いらんことをよー知っておるな。 おしぐれ作家のウワサは知らんけ?」

「知りません」

「ずいぶんキッパリ言うじゃないの。
ペンタでもヘキサでもよいから防具と柳影をそこの大きな市松の風呂敷に四隅をつまんで四角に包め。
落とすなよ、一抹の不安があるなあ。おまんが背負うんじゃ。
背負ったら頭を低くしてフィアットに乗れ、アバルトでぶっ飛ばして行くぞー」

「戦時疎開ですか。ええですなあ 大石内蔵助 祇園に遊ぶの戦術ですな。
それとも宮本武蔵 一条下がり松 陣取りの妙でしょうか。 
ともかく温泉でいっぱいはええですなあ、そーしましょったら そーしましょ」

「おまん、戦闘忌避と決まったら急に元気になったんでないの。
足を入れてドアを閉めろ、なにをしておる」

「あんの〜 このシートベルトどーやって着けますの? 大風呂敷背負っていたらドアが閉まりまへん。
やめてえ〜 そんなに押したら股間の竹刀が折れそうにギオンギオンいいますぅー」

「おまん、藍染め剣道着の胸元でジャラジャラしておるのはなんじゃ。
どさくさ紛れに当家の宝物殿からヤップ島の石貨にクジラの撚りひげを通した伝説の巨人の耳飾りなど、こっそり懐に入れてない?」

「滅相もございません。コレは鎖鎌でございますぅ〜」

「くさりがま? 武器のか」

「はい 日本古武道では正統の武術と位置づけられております。
なんとなくマイナーなイメージなのは、赤胴鈴之助のアニメのせいです。登場人物の仇役 赤垣玄播は鎖鎌の達人でございましたが、こいつを悪代官の用心棒に仕立てて劇を盛り上げたのが原因で鎖鎌 = アンフェアのイメージが確立してしまいました。

(剣士独白) 悪代官の用心棒 ・・ 食えない剣士 ・・ アンフェアの鎖鎌 ・・
         なんだかシチュエーションが似ておるではござらんか、がんばってリカバリーを計らねばならん。

当時ぬんちゃっくの琉球王国は異国でございました。異民族の空飛ぶ武器に対抗するにはそれなりのアイデアが必要となったのでございましょう。
その点で玄播の鎖鎌は画期的な方策であったと評価されております。

そこでわたくしも玄播にならい、高回転式ぬんちゃっくに唯一対抗できて携帯にも便利なフレキシブル鎖鎌を懐に忍ばせて参りました。
家の二代目たらちねの局による奥州伊達流の薙刀攻撃には極めて有効でございました。
鎌の刃は新潟つばめの産、冷間鍛造打ち出し本拵え には燕の刻印、コブラの鎌首さえひと振りで両断いたしまする」

「鎖は?」

「Amazonプライムお急ぎ便にて取り寄せしロックンローラー御用達、ヘビメタチェーンにスペシャル鍍金のCr‐Moメッキでございます」

「それって古武道としては反則でないの?」

「めいじん、真剣刃のやりとりである実戦武道に卑怯やトイレタイムなど軟弱者の言い訳はございませぬ。
ロードレースだって後ろを走りながら 『おーい リヤがパンクしておるぞー』 とか ごじゃっぺ言って相手を出し抜くでしょうや」

「剣士どの おぬしなかなかやるのう、見直したぞ。今度こそは我らの勝利じゃ。
大広間ではクイーンの ウィ ウィル ロック ユー をリクエストして高らかに謳おうじゃないか。
おぬしの錬士昇格祝いも近いのう」

「ははぁーっ 恐れ入ります。
ところでめいじん、そろそろアバルトを発進させないとなりません、空から黒魔術が降って来る時刻でございますぞ。
先週の水中発射実験では射程が500kmを超えたと聯合ニュースが伝えておりまする」

「おおそうじゃ、ルーフを閉めろ。
なにをいたしておる、電動スイッチなど探すな! 手で閉めるんじゃ。
アバルト仕様に電動幌やセミオート変速機など無いわ。バッテリーを軽くし軟弱を排し、スパルタカスの魂をみごとに昇華させたんじゃ。
ワシらと同じじゃーないか、のう剣士どの」


はぁ〜 なかなか進みません。このあとバッテリーが上がっていただなんて とても書けません。
次回のこころだぁ〜。

おしぐれさんの じてんしゃ大喜利 2
2016/08/22

「じいちゃん ぼくを小ネタにして小噺を書くのは構わないけれどね、お母さんが心配しているんだよ」

「んー なんのことだ?」

前回のじてんしゃ大喜利初回号で鮮烈なデビューを果たした姪の子の中学生がまたやってきました。
私立高校の自転車部に入学サブ内定を貰ったので競技用自転車を買ってくれというのでしょうか。
ふつうじいちゃんのかかりは通学用自転車でしょう、ところが姪は子供のころから高額な買い物は叔父さんと決めているフシがあって油断なりません。

「じいちゃんのでほらく話がネットで拡散するとぼくの入試に悪影響しそうだから実名や素姓が知れないようにして欲しいんだってさ」

「素性ってワシのか? んなら心配するな、ワシは滞納税などないから県も市も内閣調査部も資産調査に入った形跡はない。
近年は生まれ故郷に帰り努めて静かな暮らしをしておる。

かつてワシの諏訪湖放浪時代、キャンプ地にしていた荒野の周りに広がる農家の斜面畑には泊まり込み用を兼ねた簡単な作業小屋が建っていて、そのなかの1棟をワシは無償で使わせてもらっていた。農地の番人というわけじゃな。
小屋は寒天作りのためのものであったから豊富な井戸水があって、風呂とトイレに困らなかった点は幸運なことであったと感謝している。

なんと電気も引いてあってな、それは寒天窯の撹拌モーターを回す電気じゃったが農事用季節電力の申請が通ると料金はほとんどタダなんだな。
今シーズンは終わりましたと申し出ない限り通年通電されておる。
これは中部電力以外の電力会社でもそうなんだってよ、だからって温情を悪用してはならんぞ。

今年からの電力自由化の後はどうかってか? 
さーなあ わからんが沖縄電力を含む旧10電力系ならそのままなんでないの。

農家のひと達は晩秋から厳冬期にかけての夜に、凍てつくような星の出るのを待って寒天作りの莚(むしろ)を延々と並べる作業をしていた。
知っておるな、寒天は海藻のテングサのみを煮溶かして原料にしておるが海から遠く離れた諏訪の寒冷清冽な空気の元でなければ作ることが出来ないのじゃ。
氷の気のような七色のスペクトル光で地上を照らす北斗七星が伝統諏訪寒天の熟成を後押ししているのだという。

その様子を2年間じっくりと観察したワシは、九州天草湾の天然テングサを諏訪湖源流ペテン沢の梅花藻で5倍に加藻し、さらに諏訪湖の南のはずれ湖南地域に残されたヨシ原の枯れヨシ葉を集めて莚がわりに寒風で晒し、苦心とアイデアの末に作り出したペテンの新寒天 「コナン」 で大儲けをしたんじゃ。

このころから流行り始めた こんにゃく痩身法 のマンナンブームに栄養価の低い梅花藻新寒天がうまくコラボレーションしたんだなあ。
梅の香りを添加して新発売したコナンの高級新寒天 「梅花」 は高い売価にもかかわらずバイカ売れじゃったよ。
後年その財力をもって諏訪に停まる新幹線の停車秒数を倍加させ、松本まで通過だった特急を諏訪にも停めた億万長者がワシとは誰も思わんじゃろ?

「諏訪に来なん?」 のキャッチーなコピーを駅で見かけるじゃろ、アレはワシの作品であるが諏訪の奇祭 御柱巡行祭 よりも起源の古い結氷諏訪湖の 御み渡り神事祭 を世界に知らしめた功績は大きいと自負しておる。
ポスター写真に写る ”御み渡りアイスロード” が出発地の諏訪大社本宮から北に向かう先は下諏訪の秋宮。
冬の織姫 彦星ばなしは若い女性の来湖率を飛躍的に高めたからねえ。

そうそう、諏訪神社の大社本宮は湖南にあるんじゃよ。
若き日のワシが放浪のベースキャンプにしていたのはこの辺りだったんじゃ。
今でも後ろ姿がなんとなく神々しいと言われるのはそのせいかも知れんな。
ポスター発表と同時に著作権を諏訪湖南観光協会に無償譲渡してワシの名前は印刷面から消えた。

そのようにして静かに暮らしてきた。
見知らぬ人物との接触を避け、日常の買い物はすべてベースセンター止めのAmazonお急ぎ便を使う。取りに行くときだって目立つフィアット アバルトなどは使わんぞ。前カゴにクロネコマーク付きのママチャリでぶっ飛んでいくんじゃ。

ネット文芸のほうか? ありゃー極めて小規模な領域にしか流通しておらん。
管理している団塊屋は屋号は丸いが石部金吉。
謹厳実直にして優秀厳格なるエージェンシーだからアクセス&プロダクトキーの入手には理事の推薦状2通が必要となるほどじゃ。

理事のひとりはあの有名な 諏訪湖畔 鉄のベンチ投げ60m超の記録保持者 Nさん。
遠投撃沈した手漕ぎボートは数知れず。怪力系無頼派でありランボーのアバルトバージョンみたいな男じゃったが指名手配され、前年に成立したばかりの破壊活動防止法の初適用例となって世間の注目を浴びた。
破防法はテロリストの殲滅が目的といわれておったから重刑どころか極刑の断種刑が予想されておったんじゃ。

団塊屋の前身であった なかよし結社 のワシら有志数名が減刑嘆願のために湖畔の清掃やペテン沢にホタルを呼び戻す活動などを展開した結果、Nさんの凶行はテロとはほど遠い単なる酔っぱらいのアベックボートに嫉妬したバカ騒ぎ行為であったと認定されるに至った。
その夜はワシらも一緒にいて、鉄のベンチを投げようとしたのも一緒だが持ち上げられたのは彼だけだったと上申したからだった。

しかしこの上申は虚偽の事実である、ワシらは法廷偽証罪に問われることを覚悟した必死の救出作戦であった。
ほどなく、長野高裁松本支部諏訪出張所の温情判決を得て40年の執行猶予付き釈放という奇跡のような成果でワシらは同志の奪還に成功したんじゃ。

40年は長い、長いが生きてみるとあっという間じゃった。
時を経てNさん すっかりおとなしくなったというウワサを聞くが今さら断種したってどーってことない年じゃ。
じゃが年をとったランボー映画などないように彼は根っからのアナーキー、暇さえあれば鉄棒にぶら下がって股掛け上がりなどで股間を鍛えておるそうな。

ワシの読者は日によってバラつくものの平均2名じゃ、極めて不本意なことではあるがなあ。
しかもじゃよ、そのうちの1名とはワシが読者カウンターをチェックしたときの1クリックなんだから笑っちゃうよなー。クックック」

「 ・・・ 」

「なんだおまえ 笑ろうておらんな、ここは笑ってええところだぞ。ワシの激動のむかしばなしが衝撃的だったか? それとも市松模様の座布団が気に入らんのか?
チェッカーフラッグは戦うライダーの魂じゃないか。ポケモンキャラのなんかはないぞ」

「あのね、大喜利の前に長いヤツがあったでしょう写真つきの、アレの憲法解釈に関わる問題発言が延々と続くところをお母さんが読んでね、
叔父さん毎度のことながら過激で不穏で異端だから心が痛んでいるんだって」

「うまい! 座布団2枚 というところじゃがワシを過激な不穏の異端とはなんという姪じゃ。静かな暮らしをしておると書いたばかりではないか。

むかしクルム伊達公子の使うラケットと同じピンクのグリップの海外モデルが欲しいと泣いて親を困らせたことがあった。
そのとき通販 Wiggle のつてを頼って英国からお取り寄せで買ってやったのは誰か忘れたか」

「夜になって役所から帰ってきたお父さんに入試が終わるまでぼくをじいちゃんのところに行かせるなって叱られたんだってさ」

「おまえ ワシのハナシを無視して話題を先に進めるなや。
どこかでうまく誤魔化そうと糸口を模索しとるんじゃが、こうもサクサク進まれては糸がグリップ出来んだがやー。
さすがはクルム伊達公子モデルのピンクラケットを振った姪の子じゃのう」

それにしてもおまえの父親、そーんな了見の狭い男だったか。ワシは対戦型アスリート以外の男との結婚には反対したんだがお上の役人なら安全でいいんじゃないかって親戚中が言うもんだでなあ。
公務員が家に帰って私人の立場であっても個人の思想にあれこれ言うのは許されんぞ」

「じいちゃんのへっぽこな思想信条のせいで入試が曲げられるほどぼくの高校自転車部はユルくない。だからぼくは平気です。
でもね、ごじゃっぺを書いて悦に入っているというのはいい歳をして如何なものかと父同様にぼくも思います」

「おまえ ずいぶん冷静じゃないの。さすがはワシの血縁1/4じゃのう。
よってごじゃっぺ云々は聞こえなかったことにしよう。
その冷静さで最終ラップまで先頭集団につけられれば立派なロード乗りになるぞ。次のオリンピックまで長生きしたいものじゃ。

よーし ワシの宝物殿のなかでも最高秘宝、黄金のコルナ号はおまえに形見相続としようじゃないか。
形見の名目なら3点まで相続税は掛からんようにしろと二階君に言ってあるんじゃ。

フレームは1900年代後半の世界五大陸を席巻したワールドチャンピオン車 コルナゴ・オリンピコ のリアルコピーである。
入手当時は本国イタリアで組み付けられたカンパニョーロの最高峰グレード・スーパーレコード9速フルセットじゃったが今はシマノのデュラエース11速に換装しておる。
もしも外したカンパ・スーパーレコードをYahooオークションに出したなら、本国ですら稀有なお宝だからたちまち話題沸騰 入札殺到 問い合わせ引きも切らずの七転八倒 本末転倒。よって資産価値は無限じゃ。

さっそく遺言証書にその旨を追記する作業に着手するでの、おまえご苦労じゃが墨を磨ってくれ。
ペルシャの絨毯に溢すといかんからマーブルキッチンの隅でやれ、漆黒の墨になるまでしつこく磨るんじゃぞ」

「うまい! ざぶとん1枚。じいちゃんはしつこさの大喜利王だねえ」

「こいつめ なにか魂胆があるなぁー?」

「あのね じいちゃん、遺言状の前にアレも書き直してほしいなあ」

「アレってなんだ? シマノの株式証券などあらんぞとお母さんに言っておけ」

「避暑地の旅の同行者欄だよう、ほらぁ〜JTの。ぼくも高原ロードのヒルクライムを走りたい」

「げっ! なんで知っておるんじゃ。”避暑地の旅ペアご招待” は今夏のというかまたかと言おうかワシの最後のロマンス、ときめき心拍数が危険値をオーバーする最大極秘イベントだぞ」

「世間中が知ってらー、魔女のコンビニにお客が殺到しているんだってさ。
幸運的中率県内一って評判なんだ。店内のマルチ機で宝くじを買おうとするお客で列ができているんだって」

「げげーっ」

「きのうお母さんがね、魔女さんの顔を見に行ったんだ。
だけど入場規制の警備員から整理券をもらうのが精一杯だったって汗びっしょりで帰ってきたんだよ」

「げげげー 見に行ったって それで どーした?」

「お母さんかい? 大きいコップに氷をいっぱい入れた麦茶を持って長〜い電話をしていたよ」

「誰にだあーっ!」

「ばあちゃんじゃないの、決まっているでしょー」

「おまえ 父方やら母方やらそっちこっちにばあちゃんがいるが、どのばあちゃんだ」

「以前ここにいた叔母ちゃんのばあちゃんだよう」

「おぃ〜 もう墨は磨らんでええぞ、大理石の流しに捨てろ。あとから5倍以上の水を流せよ、墨は自然素材じゃから大理石は痛まんが下流のホタルの棲む清流を守らねばならん。
そしたらな、冷蔵庫から冷たい第3スピリッツ麦茶を出してくれ。あぁそうじゃ、ホッピーも1本出してそこに置け。
手を洗ったらもう帰ってええぞ遺言証書は後日じゃ。追って沙汰いたす」

「じゃあ ぼくは帰るけど遠回りして剣士さんのところに寄っていくよ。トレーニングのついでにランで行く」

「ランで剣士どののところまで行くってか? 彼の道場は貧民街の真ん中だから気をつけてな。
玄関にナイキのシューズを脱ぎっ放しにしたら帰るときに あれー 靴がないき な〜んてことになってしまうぞ。
ところでないきに行くんじゃ?」

「じいちゃ〜ん こんな非常時に大喜利なことを言って笑かすなよ。
剣道の防具をじいちゃんに貸してくれって頼みに行くんじゃないかぁー。一番ボロいやつでいいから早く届けて上から下まで着せてくれって言うんだよぉー。
剣道防具唯一の弱点は素足の甲だから足場工事用の乙印地下足袋も忘れず履かせろって」

「地下足袋! ビィンディングシューズではだめなの?」

「ペダルを外して逃げるまでに1クリック解除が必要ではとっさの間合いに間に合わない。
ばあちゃんは琉球ヌンチャクの元沖縄女流チャンピオンなんでしょう、実戦派のツワモノに寸止めの慈悲などを期待してはなりません」


はぁ〜 次回のどこかにつづきます。

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