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先日拙作木品群のなかからほんの一例を本欄に紹介したところ、「木の気の器の名作との誉れを伝え聞いた」 というあるご仁よりオファーがあった。
あの写真の匙を作って欲しいという。
それも、掲示板掲載料と相殺でどうかと多勢を背にした〇〇党総裁みたいな図々しいことをおっしゃる。
どうやらこのご仁、来るべきヨイヨイ爺いの右手不如意状況の回避と脱出を喫緊の課題としておるらしく、気の木の介護用品とりわけ食事関連グッズにご執心の様子。
食べ過ぎが手足不如意の主因なのに、塩味濃い目の熱いお粥を掬っても変質しない漆塗りの木の匙が欲しいと言われる。
それもひと掬いで50ccの大振りタイプを所望と。
50ccと言えばスーパーカブ号のエンジン容量やないけ! それをひと呑みするなんてウワバミやで。
こーゆー過食爺いがご長寿県と名高い信州地方にござっしゃるとは不思議でならない。
木彫りの柄杓(ひしゃく)と竹の箍(たが)で補強した檜(ひのき)の飼葉桶でないと間にあわんが、そーゆー馬飼い用品なら會津桧枝岐(ひのえまた)の辺りが得意。
ご仁には改めて奥會津へのご旅行をお奨めしよう。
本日のご紹介は繊細な作風薫る 「桜の枝皮付きスプーン」 でございます。
(写真の製品は非売品)
大きいほうはパナソニック製パーソナルコーヒー挽き器にコロンビア産豆を一人前投入するときの限定スプーン。
こだわりの豆はこだわりの道具を使うことで付加価値が大いに高まるものと存じます。
小さいほうはセモリナ粉のパスタを指定時間マイナス2分間茹でて、アルデンテに仕上っているか味見の一筋を鍋から取り出すときのための専用スプーン。
パスタの食感は時間との闘いです、専用品で取り出すとすぐに冷めて口内を火傷せずに味見できます。
一方の手をガスレンジのつまみに置いたまま片手で味見を行えるよう腐心した末の傑作であります、茹でこぼし料理には無用のものです。
けっして稲庭うどん用にはご使用になられませんよう老婆心ながらご注意申しあげます。
厚塗り被膜の光沢は使い込むほどに深みと凄味を増すものでございますが、製作時点での目論みは不可能でございます。
年月による”さび色”への風合いの変化を”わび”と申しまして、陶芸に於ける窯変のようなものと当工房では考えております。
しかし、陶芸での窯出しの瞬間に味わえる窯師の悦楽を木地師は知りません、お客さまの許で永年かかって変化してゆく”さび色”をモニタリングするため本品は非売品とさせていただきました。
木工屋 俊水工房では他にも斬新な思考の頒布品をご紹介をさせていただきますが、対価を好意と相殺する等の大過の行為を企業ポリシーとして禁じておりますこと申し添えます。
syn
昨日、アイソン彗星観測用航空機をご紹介した。
その真意はUNION号の広大な翼に書き込む広告ロゴのスポンサーを募ることにあったんよ。
わかってっぺー!
わざわざ言わんでも、ご貴殿たちほどのキャリアのご仁なら直ぐに解かってワシの口座に広告費の振り込みがあると思ったんよ。
ところがどーや、ワシのbank card は機能せーへん。
暑さ遮断用のビールが買えねっぺー!
モチベ維持用のホルモン焼が食えねっぺー!
ビールは兎も角、空中位置安定スタビライザーが買えなければ超高度空撮用の機器を引き合いした模型店に脅しが効かん。
つまり、ホルモンが効かん。
そればかりか、大越路峠の山中に入手した観察基地小屋の固定資産税が払えねっぺー。
しゃーない、ワシがどれ程のアーチストなのかを知らしめてやる。
写真を見れ! 漆(うるし)仕上げの木の匙(さじ)だ。
匙、つまりスプーンじゃ。
ご貴殿らが要介護爺いになったときの必需品じゃ。
右利きの介護者が持ったとき被介護者の口許に持って行き易い角度と握り心地を実現し、お粥をひと掬いしたときの重量バランスを追及した逸品じゃ。
さらに、調子の良い日に自分で匙の柄を握ってロールキャベツなど食べるとき、キャベツの葉脈を断ち切る鋭さと入力の支点 力点 作用点に絶妙の和を味わえるから食を楽しめる。
それ故にリハビリ効果満点。
自分の手で匙を握って、口に運んでそれを食う。
チャーハンだってピラフだって蛸のカルパッチョだって食べられる。
すなわち、生きる意欲を掻き立てる奇跡の匙なのじゃ。
どーじゃ、このフォルム、渋い漆の艶。 欲しいとは思わんかい。
要介護爺いさんになったとき、最後の意思のアイテムとして今から用意しておくべき逸品。
木製品の一品物だから仕上がってみないと分らんが背面には聖母マリアさま、あるいは懐かしきご母堂さまの面影が現われます。
写真左、アタマを右に90度傾けてよーく見なんし。
いつの間にか頬に涙が流れていること間違いなしの「木の気」なのよね。
この気の「おっかさん効果」がリハビリに超有効なのですよ。
Dr 俊さんがかつて自身の母親のために作って贈って効果を確認した逸品の復刻品ですが、製作工程は当時とまったく同じ手彫り手磨き。
素材は百日紅、会津漆のクリア手拭き上げ。
この一期一会の名品を間もなくボケるであろうご貴殿に、作家がボケん今のうちに作って差し上げましょう、納期は11月以降。
アイソン彗星大接近には間に合わせる所存ながら、20回塗り21回磨きだからこの行程だけで3か月をいただきます。
さて対価の相談。 高度保障機器の価格と作業日数から逆算してと、缶ビール3本とお摘みの冷や奴に生姜のせ1皿を終生保障でどーだんべだかや。
配達コンビニと振込み口座等の確認は団塊屋までお願いするす。
さて、写真の自分用1号機は10数回目の塗りと乾燥の状態。
このときに小さな虫がプーンと飛んで来て、ペタッとくっ付くのでございますよ。
くっそー いまいましいなあー。
天然素材の匂いは虫にとって堪らない媚薬ですからなあ。
もちろん人間の熟年過ぎ男性にも堪らん媚薬ですよ、ワシの秘密はコレでんねん。
コレで作った匙でペペロンチーノなど食べてごらんね、ペロンがチンでっせ。
生漆に良くないから蚊取り線香は使えない、名人はウチワを持って付きっきりで小屋で虫を追っているのです。
木工名人真夏の憂鬱なのであります。
名人 俊さん
本年11月29日に太陽に最接近する超ど級メガ彗星(ISON彗星)のことを何としてもご貴殿たちにお知らせ致したく、稲妻雷鳴の合間を縫ってPCの電源をONした次第。
詳細はnet検索(アイソン彗星)にてご確認いただきたい。
月が2個空にあるのを見るのは 「一生に一度」 と云われるほどの偶然的徊合であります、今後テレビや新聞で喧伝されるでしょうがその前に知っているのとそうでないのとでは、
「月とすっぽん 提灯に釣鐘 蛙の面にしょんべん」 ほどのアドバンテージでございます。
太古メソポタミアの民衆が 「妖星」 と呼んで慄いたコメット星でありますが、現代人としては是非とも冷静にご覧いただきたい。(肉眼でクッキリ 満月よりプラス10%の明るさ)
とは言っても、最接近の11月29日は太陽光に邪魔されて見えません。
その前後2週間がベスト。明け方6時ごろの東の空、例えば11月15日は右(南)上から左下へ尾を曳いて地平線に墜ちて行くのが見えます。
最接近を過ぎた12月3日からは、やはり明け方6時ごろ東の空から現れて左(北)上に長い尾を上にして昇って行くのが見られます。
夜明けと共に見にくくなって行きますが、それは太陽光のせいですから望遠鏡にフィルターをかければ視界を遮るもののない海上なら計算上10時間20分30秒間見えるはずです。
(注: 早朝に茨城の太平洋側で見て、急いで磐梯山脈を越えて新潟の日本海側に移動する必要があります)
さてワタクシは、定点観測用の航空機を用意いたしました。
写真のB級UNION号2機であります。
写真下側に見える翼面積の大きいUNION1号で上昇し、ゴムの動力が尽きたら写真上側のコントロール性の良いUNION2号で地上に帰還するのであります。
こーゆーモノをふたつ同じような質量で製作することの困難さは、工作オンチのご貴殿たちに言うても所詮儚き(はかなき)こと。
超々高度からの 「第二の月」 の映像をお届けする12月中頃には、ワシが只のほら吹き爺さんでなかったことをご貴殿たちは再認識されるであろう。
でほらく俊さん
おしぐれ俊ちゃん‥ の連載がやっと終わりました。 一か月で11本は凄い仕事量でしたよ。
その間”作家”は劇症の 「燃え尽き症候群 投稿責任ストレス症」 のなかにあったのでしょうね、自転車に乗れませんでした。
連載を終えたら調子が戻り、次のライドに向けて練習再開ができたのですから驚きます。
例年より早く梅雨が明けたら猛暑日つづき、練習は明け方から午前9時頃までしかできません、午後はメンテと昼寝です。
当地方名物の雷が午後には毎日発生するので、パソコンは電源を抜いています。
さらに光のルーターも抜いておくと電話機が鳴らなくて昼寝時静かでよいです。(サンダーカットという付属品が昨夏焦げました)
投稿ストレス症候があるひとはパソコン周辺の電源を抜いて昼寝をすると良くなることが証明できたと思いませんか?
本稿を送信し終えたら電源コードを両端抜いて、ロックタイでがっちり締めて押入れの天袋に放り込んで鍵かけて、自転車ロードへ出かけたい。
サイクルエイドのゴール直後の写真が郵送されて来ました。
それをさらに写真に撮ったものがこれです。鮮明さには欠けますが紹介しておきます。
(写真)
上左 : 遠くに見えるのが吾妻丘陵。
この山々を暫定1位で軽々と越えて来たブリッツエンのシニア・エース ライダー、おしぐれさんとコルナゴ号の雄姿。
さすがの貫録でございますなあ。
奥は四季の里にある蕎麦屋、生ビールまであと5分。このあとスプリンターは蕎麦屋に向かって猛アタックをかけます
左端に写っているスタッフが後続を真剣に待つ様子がじつに好いですね。
上右 : ゴール確認証を受け取る選手たち、フクシマには美人が多い。
S9018選手の背中のカミナリマークはチャンピオンの証し。
下左 : 手に持っているのはゴール会場内オールフリーのおもてなし券。
S9010はクラシック氏 S9011がアンカー氏。
奥に腹の突き出たライダーが写っているが、この御仁はワシらより遅いゴール。 その腹じゃーなあ。
下右 : ゼッケンを外して投票箱へ、支援団体へエイド収益が寄付されます。
こうしてワシらのエイドは終わりました。
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決戦2日目 6月9日(日) 福島ゴール
サイクルエイドJAPAN はレース競技ではありません。
順位もタイムも記録に残りません、残るのは参加したことだけです。(大会コンセプトより)
そやからワシには決戦なんよ。
福島ゴールを目標に5か月も準備してきたんや。参加して完走することは勝利だべ。
勝利とは決戦に勝つことやろ。
完走するには最後まで踏み続けにゃならん、。踏み抜けばワシが勝つべ。
完走はワシの決戦なんじゃ、坂のこん畜生を踏み抜いたっちゅうだけやけどな。
昨日の1日目、白石市周辺は昼前後に激しい雷雨となった。
雷雲は北東に移動して行ったので、ちょうどその頃に旧奥州街道を白石めざし南西に向かっていたエイド出走者の真上を通過したことになる。
狭い範囲の雷雨であったにも拘らずロングもミドルもライダー全員がずぶ濡れになるという、誠に公平な雷雨であった
その時間帯のワシは車両通行量の多い旧奥州街道から左折して、比較的ストレスの少ない柴田町辺りの県道に達していたから恵まれたと言える。
折よく東北本線のガード下に雨宿りを見つけ、10分ほどタイムロスはしたが雨脚が遠のくころには程よい休憩もとれて再スタートのモチベーションとなった。
後続の多くは信号での停止を繰り返す国道上を辛抱の走りでゴールに向かっていたのだろう。
初めての道で雷雨とは心細かったと思うでー、みんなようがんばったなあ。
事故が無かったのは、あの雷雨のなかでもマナーを守って走り続けたライダーの努力と、参加者の安全を守り抜いたスタッフバイクの献身があったおかげと感謝しています。
ワシの周りだけでなく、エイドライドの語り草となるような感動のドラマがそちこちで展開されていたに違いありません。
手段のあるひとは、そのこと全国に広報すべきです。
でも、あまりやり過ぎると雷神様までその気になって来年もエントリーしてくるからほどほどに。
雷雲が去って白石ゴール手前の最後の坂を登るころ、突然晴れてカンカン照りになりました。
前を行くライダーの背中から水蒸気が立ち昇っていました。
雨の粒子に汗の粒子が混じった水蒸気は、透過光の屈折が微妙に揺らぎます。
それは真上から射す陽の光りを受けて、まるで仏さまの光輪のように見えました。
ひとりが一個づつ小さな虹の輪を背負って、懸命に坂を漕ぎ登って行く。
「ほーい おめだぢ 仏さまの弟子になったんかあー めっちゃ かっけーなあー」
「はいー あんさまもー かっけーどー」
「はーん これがエイドだべー エイド えいどー」
宮崎 駿の動画の世界のようです。
けっしてパクリやあらしまへん。 この目で見たんやから、真実だす。
ヘルメットカメラを装着していなかったことが悔やまれた一瞬でした。
亘理町にいたプロカメラマンにもけっして撮れない、ピュリッツアー賞ものの一瞬でした。
なぜアカデミー賞ではなく、ピュリッツアー賞なのか。
そやないけ、真実の報道写真のアカデミー賞がピュリッツアー賞やないけ。ワシの決戦と完走の関係みたいなもんや。
翌日もライドのあるワシは、ゴール後の完走セレモニーで湧く会場を早めに退出してバイクのメンテを十分に行った。
雨に流れて飛び散ったチェーンのワックスが付着し、制動効果の落ちたブレーキも丁寧にクリーニングして万全を期した。
もちろんしっかり食って早く寝てカラダのメンテも十分。
最終日の今日は早朝の霧が晴れたら青空と太陽が眩しい。梅雨入り直前大サービスといった感じの晴天だ。
集合時間前から気温が上がり始め、日中の福島は30度の予報。
日焼け止めクリームをたっぷり塗って、サングラスのシェードにもぎらつき防止剤を塗った。
ヘルメットと靴はしっかり乾かしてあり、ウエアと手袋は晴天用を着用。体調も良い。
雨の後遺症は完全に払拭して決戦に臨む。
ここからは、初日編同様に帰宅直後のサイクル仲間に宛てたメールを基に記述します。
2日目午前8時、福島最終ゴールに向かってミドル(58.2km 63名) ロング(91.0km 208名)が5名づつ3分間隔でスタート。
号砲は昨日同様に白石城址鉄砲隊による火縄銃。
会場を出たところでミドルは東へロングは北へ進路が分れ、たちまち白石城下の街は自転車だらけになった。
ワシはミドルコース。
ロングの距離を山越えでショートカットするコース、距離が短いぶん標高差の苦しみが味わえる(大会公式ガイドブックより)という。
スタート順は早くなって2グループ目。1グループは白いブリジストンのベストで揃えた女子が5名。
これは、女子だから先にスタートさせたということではない、彼女らは早くから前に並んで1番スタートを取ったのだ。
クロスバイクのひとりが不安そうにしているのを、リーダーらしき女性が励ましていた。
エイドらしい良い光景である。
じゃが、この期に及んで不安とは如何なものか、みちのくおなごの覚悟をば お見せなんしゃい。
ワシは単行だから周りのことは構わないスタイル、昨日はそれでうまくいったが今日はどうだろうか。
市街を抜けたところで昨日と同様に強く踏んだら、先行グループをあっさりかわして先頭に出てしまった。
このとき前後のライダーに、
「行きまーすっ!」
と声を掛けたのだが付いてこなかった。
「はいーっ!」
という返事は聞いたが、まだ早いと自重したのだろう。
ワシは3分先をアベレージ25km毎時で行く青色ビブス着用の2台のペースメーカー車に追いつく勢いで加速していった。
脚が暖まっていないうちから独りで前に出たのはワシの作戦。
この先に待ち構えている壁のような激坂(大会コースガイドより)で蛇行をとったり、苦しさにひとり罵声を吐いたりしても周りに迷惑をかけることはない。
さらには思わず足を着いてしまっても、くねったカーブの連続なら誰にも見られず再スタートできる。
へたれ爺さまの姑息な作戦なのだ。
トライアル競技なら足つき減点だが、サイクルエイドは落車したって押したって、自力でゴールすれば誰でも勝者だ。
ワシは勝つためにここに来た。
そしてそして、叶うものならひとり目の勝者になりたい。
思った通り誰も付いてこない。
スタッフのサポートバイクもこの先の山越えに備え脚を矯めているらしく、独り飛び出したワシを追ってはこない。
「あいつ 潰れるでえー」 と言っているだろう。
じつはワシ、この山のコースを熟知していた。大会にエントリーする前にいちどクルマで下見している。
また大会の2日前に白石入りしたとき、高速道を使わず福島側の国見から山に入って毛無山を逆から見ている。
試走こそしていないが何度もクルマから降りて坂を歩き、斜度を確認している。
リヤに組んできた28Tのローギヤなら心拍数が危険ゾーンに達する前に登り切れる自信があった。
それに昨日の初日ライドで、エイドステーションの補給食の充実を確認できたから背中のポケットに重い食糧は入れていない。ボトルの水も少な目にして合計500グラムほどの軽量化で臨んでいる。
スタートから500グラムも軽いのは強力なアドバンテージである。
携帯電話も使うことは無さそうだから持ちたくはなかったが、規則だからチューブ入れに入れてきた。
電源を切っておくと1ナノグラム軽くなるというのが本当なら、そうしたいくらいだ。
山のルート以外は下見していないが、募集要項のコースマップを見る限りでは最初の山越えでエネルギーとモチベーションを残せればゴールまで行ける。
ワシは行かねばならん、フクシマではみんなが待っているのだ。
それに今日は、前年度国内王者 宇都宮ブリッツエンの正規ジャージ13年モデルを着用、誉れの勝負服だ。郷土のチームと協賛スポンサー様に恥をかかす訳には参らん。絶対に参らん。
もしもリタイヤなどして汚辱にまみれたら、二度と宇都宮には帰れん。
石もて追われる前に腹切るか、フクシマに残り名を変えて仮設住宅地の自転車メッセンジャーをして余生を過ごそう。
そういう覚悟だ。
辞世の句も荷物預け所に託してきた。
「もののふの 踏みしこの道 ペダル折れ 矢刃尽きせしも 這うて参らそ」
いちど追いついたペースメーカーだったが、山に掛かってからはじりじり離され、坂に隠れて見えなくなった。
ワシは苦しくなったがそれでも進んでいる。
のろのろでも頂上に向かって進んでいる、そのうち必ず登りは終わり下りになるはず。
日本には下りのない登りはない。 あるのはこの世にひとつ チョモランマだけだ。
蛇行のハンドルを左右に切った瞬間だけふっと呼吸が楽になり、酸素を急いで取り込む。
対向車がないので道幅いっぱい使っての大蛇行をとる。
酸素を吸うにはその前に肺を空にしなければならない、ただ空にするのではもったいない。吐きながらペダルを押し込み、さらに踏み込む。
心拍は165を示している、まだ大丈夫だ。
以前付けていた27Tギヤでは180に達して足を着かなければならなかっただろう。
たった1T歯数が増えて、ワシの心臓は細動を起こすことなく作動している。
モチベーションの続く限りワシの心臓はもつと確信した。できるならもっと大きな肺が欲しい。
エントリーを決めてからはこの毛無山の坂をイメージして練習してきた。野州大越路峠の最大勾配、石臼がんこ蕎麦屋の前の11%坂を登れるオラに、登れない坂なんかあるものか。
あってたまるか べらぼうめー!
これこれ このモチベーションでございますよ、わくわくしています。
第1エイドに最初に飛び込んだのはなんと、参加最年長と思われるこのワシだった。ゼッケンを付けた者が他にいないのだからワシが最初に違いあるまい。
エイドのお姉さんが水を持って駆け寄る。
ペースメーカーがラックに掛けたワシの自転車に近寄ってギヤを見つめている。
どんなもんじゃい べらぼーめー。
なんということでしょう、へたれのワシが毛無山に勝った。登り切ったぞ。
フクシマよ 原発なんかに負けるな! オラはこのままトップを引くぞー!
昨日、亘理町の復興道路でワシを狙っておったプロカメラマン! おめ、なあーんで ここさに いねーんだあ?
おらの速いのは 知ってっぺえー。
今からでも遅くはねーから 次のエイドさ先回りして カメラおっ立てて 待ってれー。
おらを探す手間はいらねーぞ、ぶっちぎりが おらじゃ、 わかってっぺえー!
いやはや大変なモチベーションになって参りました。
順位を競わないサイクリングイベントで先頭キープを目論んで、いきり立っているなんて、めっちゃ大人気ないけれど気分が高揚して止まらないんだから しゃーねーべえ。
もしかしてワシより先着者がいて、トイレに入っていたりしやしないかと見に行ったほどだ。
エイド食のバナナやチョコ饅頭を食べて心拍も下がった頃、やっと後続の集団が登って来てエイドに雪崩れ込む。
通過チェックのスタッフが慌ただしくゼッケンを読み上げるのを余裕で眺めていると、最初にスタートした女性グループが上がって来た。
5台いたはずだが1台は大きく遅れているようだ。
お揃いの白いブリジストンベストはウインドブレークのようだから暑かろう。などとトップ通過者の余裕で他の参加者の力量など計っていると、時間になってペースメーカーが再スタートして行く。
スタッフが来て、
「すみません、5名揃うまでスタートを待っていただけますか」
申し訳なさそうにアタマを下げる。
ワシを手練れのクライマーと見たかその丁寧な態度に、すっかり気分の良くなっているへたれのクライマーは快諾。 (ここの洒落、わかった?)
しばらくして、まだ息の荒いブリジストンレディースが立ち上がり自転車を取った。チラリとワシを見る。
大した根性やないけ。
ここからは下り、短いエイドでも回復できると読んでの再スタートなら侮れない女子たちである。
4名のうちひとりは遅れている仲間を待つと残り、女子3名とワシにもう1名加わって5台で再スタートした。
ところが集団の速度が上がらない、下りの路面が荒れているので慎重になり過ぎている。
ワシは下り大カーブでインから抜け出しペース車を追って加速した。また独りになった。
ペースメーカーはこの山道でもアベレージで走っているのだろうか、それとも下りで速度が上がっているのか、カーブが続き先が見えない。
左側に阿武隈渓谷の深い崖、右側は急峻な毛無山。頭上に覆いかぶさる老桜の樹木。
秋の観光なら絶景の紅葉街道、春は桜、今の時期なら水紀行の道なのだろう。
大岩の出っ張ったカーブのところに、やまめ 岩魚 鮎料理 と書かれた看板のお店があったがまだ開店前で静まりかえっている。
だがワシは観光客ではない、これは仕事だ。
エイドランは、あの大震災を幸運にもまぬがれたへたれ者に出来るたったひとつの仕事だ。
仕事中に景観などめでていては職務怠慢。
それどころか命にかかわる。脇見などしている余裕はない。
路面は荒れて狭く、所どころにギャップがある。
山道の凹みや横切る排水溝の蓋を小さくジャンプしながら進む。
先週替えたばかりのリヤホイールはスポーク両側がクロス組みの堅牢さ、この日に備え5か月かけて体重を絞ったワシの荷重に軽快に応えてくれている。
すべてうまくいっている。
対向して登って来る日曜サイクリストがワシのゼッケンに気づいて、何か叫んで手を振っている。
笑顔だからこの先で事故とか危険とか、そういうことではないはず。応援してくれているのだ。
要所に立って安全を図ってくれるコース誘導員も笑顔だった。
独走の断トツ爺いにビックラこいて黄色い旗を振り回し、
「気いーづけで 行げやー」
こちらは手を放すことなどできないから、
「ありがとー」
と言うばかりだが、マッハのへたれさん超速度だから聞こえているかはわからない。
好時魔多し 戒めのコトバが脳裏に浮かぶ。
昨日ゴールのあと、スーパー銭湯「ゆっぽランド」の駐車場で雨に流れたチェーンオイルとブレーキの消耗はしっかりメンテしてリムもピカピカに磨いた。タイヤの損傷もない。
やり残したのはフレームのワックス掛けだけ。
風呂に入ってビールを飲んで 「白石うーめん定食」 を食って早く寝る。の大原則を優先してワックス掛けは割愛したが、バイクのコンデションは良好。
危険なのはオラの舞い上がりなのだ。先頭キープにこだわり過ぎると命を落とす。
マインドを保て、阿武隈の流れを見てココロを冷やせ。
へたれ爺いの尊厳性をフクシマの大地に示せ!
山岳路が終わり平地に出て、国道349号を伊達市に向かって南進するもペースメーカー車を捕えられない。
南風になって気温がぐんぐん上がってきた。
舗装は良いから下ハンドルを取って風を切りながら進む、信号で止められることが多くなる。
縁石に足を乗せて後ろを見るが誰もいない。
沿道の市民が盛大に応援してくれているからミスコースはしていないだろう。でも誰も来ないのは少し不安。
信号が青に変わるいっときの休憩にボトルの水を飲むワシを見て、ママチャリ乗ったおじさんから声がかかる。
「今は水飲んで頑張れー ゴールしたら冷てー ビール飲ましてやっからなー」
もうこの頃になると慣れっこになっていて、いちいち声援に答えることなどはしない。
ハリウッドスターの気持ちがわかる。
青になったら立ち漕ぎで加速し、前だけ見据えて遮二無二走る。
ゴール前スプリントの走り方だ。
観客受けはしても脚がつぶれてしまう、それでもペーサーには追いつきたい。
「ペースメーカーはどこじゃー」
おいおい スピードレースじゃないんだってば。
伊達市に入る阿武隈川の広くて高い橋の上を通過するとき、ついに前方小さく2台のペース車が見えた。畑中の直線路を飛ばしている。
その遥か先に、なだらかで大きな磐梯吾妻連峰がはっきり見えた。
あそこへ行くんだあの山の下に福島がある。
これでミスコースの不安は払しょくされ、再びモチベーションに火がついた。
しかも”おらほ”は高い橋からの一直線の下り、今コースで初めてトップギヤまでシフトを入れた。
12Tが11Tのままだったらもっと速いのにと悔やまれるほどの力走で軽トラを追い越し、次の信号で止まったペース車に追いついた。
信号で大きく息を継ぐワシのずーっと後ろに止まった軽トラは、ワシらが走り出してもしばらく動かなかった。
ペースメーカーは大会本部の指示速度でスケジュール通りに走っているのだが、後続が来ないので気になっていたのだろう。
追いついたワシの風除けとなって3台のトレインで国道を進む。
後尾のワシはこんな楽ちんなことはない、コース案内看板を探すこともなく信号の変わり目を気にすることもなく、前走車に付いて行くだけ。
背中に回した手信号の合図で信号減速や障害物の有無が判るから頭を固定した安定的フォームでぺダリングに集中できる。
なにより風除けがありがたい、タイヤ同士が接触しないよう気をつけていれば前走車の7割の回転数で着いて行ってしまうから、ここまでに使った脚にエネルギーが戻ってくるのがすぐに分かった。
心拍数は普通のトレーニング値まで下がり呼吸が楽だ。口笛が吹けるペダル回転数だ。
先のエイドでもらって背中に入れてきた”梅しば”の包みを手放しライドで開いて口に入れる。カラダ中にカリウムとミネラルが行き渡ってゆくのが分る。
包み紙は背中に戻し、沿道の観衆に手を振る余裕がココロに戻った。
上の行 戻し、戻った。 この何気ない記述に、この時のライダーの心理が如実に表れていると言えます。
ペーサーに追いついた安堵感をカラダの動きで、見えるカタチとして表している良い表現ですね。
(編集注) 直前の軽トラさんへの無礼を懺悔しているとも見るべきで、見事な文学性と評価したいが如何でしょうか。
読者に編集者私感を強要するのは教養の欠如と叱られそうですが、近頃の読者はねえ… ああっ 待って! 石を投げないでー。
ひとは太古よりカリウムやミネラルが枯渇すると攻撃的になって石を握ると言われます、アスリートは塩昆布を食べましょう。
ペースメーカーは無表情に淡々と走る。
「ありがとー」 だの 「がんばっぺー ふくしまー」 だのと騒いでいる後尾の爺いを引っ張って坦々と進む。
淡々とそして坦々と… そーやあ これがエイドや 憶えときー。
やがて二段階右折で県道に折れると坂道が現われ、引き離されまいとギヤを上げて立ち漕ぎ体勢をとったら、そこが第2エイドの入り口だったので拍子抜けした。
ペーサーがおらんかったら行き過ぎてしまうところだった。
ワシはエイド間17.7kmのほとんどを 「独走つんのめりライド」 で走って来たが、終盤に風除けを得てエネルギーを戻し、桑折町体育館の入り口急坂路を息も切らさず登って第2エイドに着いた。
エイド責任者は白髪の爺いだったが、トップ到着者がブリッツエンの派手なジャージを着たへたれな爺いという予想外の事実に驚愕したか、カメラを持った手を腰に落として固まっていた。
「ざまー見やがれ、これが昨シーズン国内王者 宇都宮ブリッツエンの実力じゃー」
おいおい これはスピードレースじゃないんだってば、梅しばを食べろー。
このエイドステーションでもしっかり補給を取って、脚のマッサージをして、トイレの水でサングラスの汗を洗って、さらに山岳路を越えたタイヤのチェックをしてと王者の風格を見せていた頃、
やっと第二集団がやって来た。
レディースチームもいつの間にか4名に増え、きっちり第二集団に入って来たのだから驚く。
第1エイドで山に残ったリーダーの彼女は、遅れた仲間の棄権を見届けた後、意を決してあの山岳路の下りを踏みまくり 区間賞の激走で仲間3名に追いついたのだろう。
あの狭隘でラフな山峡の道をワシより速い速度で降りて来たなんて… 命を賭ける以外に方法はないはず。
なぜなら、ワシが下りてきた速度が命がけの少し手前のぎりぎりってやつだったからだ。
よくまあ無事で…。
エイドの神様が、鬼を使いに出して彼女の背中に憑りつかせ、守り切ってくだすったに違えねーだ。
ワシは本大会を走るについて、大津波の日に冷たい東北の海に消えたアスリートたちの無念を鎮魂するために走っている。そう自分を思い上がっていた。
彼女は違う。
今生きて、前を走りながらリーダーを待っている仲間のために走った。
山で倒れた仲間から預かった”たすき”を前行く仲間に届け、止まったものに再び走り出す勇気を奮い起こさせるため、彼女は命がけで追って来た。
覚悟が出来ていたからこそ、あのとき山に残れたのだ。
これは今大会一の感動だ。エイドの鑑だ。ニッポン撫子(なでしこ)娘ここにありじゃ。
この事実を目撃できた者は少ないだろう、ワシは神様に感謝したい。
じゃが、それにしてもじゃ。区間賞は譲るにしても、ワシの暫定総合1位は揺るがんぞ。
揺るいでたまるか べらぼーめ、こーんなことは 一生一度のことなんじゃから。 暫定総合1位は譲らんぞー。
おいおい いい加減にしておけ。
再スタートはまた女子チームと一緒だった。
彼女ら、こころなしか第1エイドからのスタートのときより漕ぎが力強い。鬼の憑いたリーダーがおるからのう。
もはや手加減などいたさぬぞ。
県道の合流を最初のひと漕ぎで前に出て、ペースメーカーの後ろにぴたりと着く。
平坦路なら彼らの脚とワシの脚にさしたる違いはない。なんたって渡良瀬遊水地と鬼怒川ロードで鍛えた平地用スペシャル 「黄ぶな印」 の黄金の脚だぜい。
ところが黄ぶなは中下流域の魚だから激流には弱い、坂に掛かるとどうもいけません。ペーサーと距離が開く。
風除けに行かれてしまうとますます遅れる。
遅れては追いつきをくり返しながら広大な果樹園地帯を行くと、遠くに見えていた磐梯吾妻の山々が近くなってムードが山臭くなってきた。
最後にひと山登るのはコース図で知っていた、標高では朝の毛無山より高い飯坂高原だ。
距離をかけて登るから勾配は毛無山より楽だが、延々続く登りというものもまた魔の世界なのだ。
ここまで暫定1位のプライドが試される。
ワシには今のところ鬼が憑いとらんから頼れるのはコレしかない、吠えよ モチベーション。
それにしても暑い、すでに気温は30度になっているだろう。今年初めての夏日だ。
昨日の肌寒さとその後の雷雨に打たれた手足に今日は真夏の太陽が降り注ぎ、首の後ろ側の日焼けに汗が沁みてひりひり痛い。
たっぷり塗った日焼け止めだがすでに汗で流れたらしい。
こういう少しづづのダメージがモチベを折る。だから要所にエイドステーションを設けて気合いの再チャージを図るのだが次のエイドがまだ遠い。
飯坂温泉に向かう道を行くと、さびれた感じのトンネルがあった。その手前で大会看板は左折を示している。
だが左折の道は妙に貧相で狭くて、畔道に毛が生えた農道としか思えない。
道の傍には桑の木が点々と植えてある。
ペースメーカーが止まってポケットの地図を確認している間に、ワシはトンネル内の涼しい日陰で水を飲む。
もし独りだったなら、水など飲んではいられない。
パニックになるところだが、今はいつの間にか信頼を互いに構築しあった頼れるペーサーがいる。
「ありがとう 楽ちんさせてもらってまーす」
「あれえ あいつら! なんだあ?」
トンネルを抜けた先にやはり迷っているライダーが2台いて、ワシらを見てこっちに来る。
見ると本大会のゼッケンを付けている。
「なにーっ!? ゼッケンだあー? おらだぢの前さに 走っているヤヅなんぞ あんめえー」
今度はペースメーカーがパニックになった。
「なんで? なにが起きてるの!? おらだぢは時空を迷ったかや? えいどの冥途に踏み込んだべか?」
あとで解かったことだがこの2台は第2エイドの入り口を見落として直進してしまい、ワシらが第2エイドを出た頃にはその先を走っていた。
途中には立哨員のいる交差点や分岐点があったはずだが、ゼッケンチェックの機能はないのでペーサー通過の確認がないまま、ここまで走って来てしまった。
規則ではエイド不通過とペーサー追い越しは失格となる。
だが第2エイドのテントが県道からは見えない桑折体育館の陰の位置にあり、しかも案内看板が見つけにくかったことに加え、
ペースメーカー到着と同時に入り口に立たすべき誘導員に、エイド長からの指示がなかった。
その理由は、ぶっちぎり独走で入って来た1号ライダーを写真に撮ろうとカメラを構えていたエイド長が、なんとライダーは自分と同年配の白髪の、しかもへたれた爺いという驚愕の事実を目の当たりにして、カメラを持ったまま固まってしまったからなのだが… そんなことは理由にならんぞ! エイド長。
そして決定的なのは、ペースメーカーがいまだ通過していない分岐点 立哨点にあって、当該2名の通過を黙って許すに至った立哨員体制の根本的本部ミス。
上記3点をかんがみるに、責をライダー個人に問うのはいかにも妥当性に欠ける。
本事案は大会側の不手際が重なって惹起された、いわば不幸な事象であったことは明々白々、よって本件は不問とし、
2名はすみやかに現状に復し、ペーサー後方の隊列に自らの意思で加わることをもって落着とする。
次の第3エイドで事情が明らかになったとき、それを知ったのは到着した5名とエイドスタッフ数名だけだった。
「エイド責任者を差し置いて参加者のワシが言うのも憚れるが、ことは急を要す」
と前置きして、大声でワシが下した結論は上の三行の通り。至って明快だったから皆それに従った。文句なしだった。
水渡しお姉さんには難しかったようだが、皆にならってうなずいていたから解かったのじゃろ。
もしも文句などあろうときには、「ワシは裁判所のモンじゃあー」
と一蹴するつもりだった。官命詐称などはしてはおらんよ、裁判所の門の近くに住んでおるんじゃ。
それよりも、今ただちにリカバリーの必要なことは。
1 第2エイドに連絡して入り口の県道に誘導員を配すること。
2 トンネル手前分岐点に近くの立哨員を走らせること。
3 第2エイド長に 「私的に連絡」 して2名の通過にチェックを入れること。
いーか よっく聞け。
このあとロングコースの200名超とスローペースのミドル者が続々と通過するのだ。
迷い・混乱を回避するため最善を尽くすことが今至の諸君に課せられた最大の使命である。
モチベーションを高くして事に当たればおのれの役割りは分ろう。
理解できた者からすぐに掛かれーっ!
ワシの大号令に若いスタッフがマウンテンバイクに飛び乗って畑の中を近道でトンネルに向かう。
エイド責任者が電話機に飛びつき、サブはパソコンから立哨員の各携帯電話にメールを送る。
水渡しお姉さんが胸に手を組んで呟く。
「理想の上司だわあー」
第3エイドでワシはとてもかっこ良かったのだが、その手前の例のトンネルで不明なルートが判明して走り出した直後に、かっこ悪い失敗をしでかしている。
それを書くのは少々恥ずかしい、でもかっこ良い話しばかりでは嘘っぽく感じる読者もあろうから正直に書こう。
トンネル手前の狭い桑の木の農道をペーサー2台が立ち漕ぎで加速して行く、ロスタイムを取り戻すときの本気の走りだ。速い。
遅れてならじとワシ、ミスコースしていた2台が続く。
この二人、今朝の白石スタートのときすぐ近くに並んでいた男たちと気が付いた。
農道を右ヘアピンに曲がってすぐに、ブラインドから急な登りが出現した。
ペーサーの行方を目で追いながら、後ろを気にした瞬間の不意を突かれてワシは一瞬ギヤに迷った。
リアをローまで持って行って乗り切ろうと右シフターをダブル操作した直後、フロントがアウターでは無理だと判断を変え、リアを2ndに戻しながらフロント用の左シフターを操作した。
一気に足が空転し、直後に 「シャリーン」 と音がして、駆動力が車輪から消えた。(ここ、洒落やありまへん。緊急事態に洒落なんか あーた、言えまっかいな)
「やっちまったー!」
鋭角に曲がって立ち上るところだったから速度は低かったが、立ち漕ぎに入ろうと腰を浮かせての操作だった。
リアの変速アクションが終了し切らないうちのフロント操作で、テンションの余ったチェーンがフロントギヤから落ちたのだ。
辛うじて落車は免れたが、左の足を外して急坂に踏ん張るのが精一杯。
立ち漕ぎの高さからサドルに打ち付けた股間の激痛があとからやってきて右足が外せない。
目が回って立っていられない、握りしめたブレーキレバーがぶるぶる震えている。
斜めになったまま今にも倒れそうだ。
倒れたほうが楽になれる。
そう思ったとき、急停車した後続車が自分も急坂に足を踏ん張りながら一方の手でワシのバイクを支えてくれた。
おかげで右足も外せて立つことができた。
後続車の支えがなかったらワシは倒れてバイクと共に坂の下まで滑り落ちて行っただろう。後を巻き込んでいたかもしれない。
後方の異変に気が付いたペースメーカーが戻ってくるまでの1分半の間に、ワシはチェーンを復旧し後続の2台を今度は前にして急坂を発進していた。
手袋がチェーンルブで汚れた以外は異常なし。 股間の痛みは… が がまん しますっ!
ワシらは5台の隊列となって走り出した。
あの農道と急坂の隘路はトンネルの上の広域農道フルーツラインに上がるためのショートカットだったのだ。
フルーツラインはクルマ少なく路面よく、展望が開けて吹く風が清々しい。
いかにも福島らしいのびやかな風景が広がっている。フルーツライン その名の通りのネーミングだ、陳腐なのが実に誠実で誠によい。
股間の打撲は幸いにも高回転ぺダリングに影響はなさそう。
最後尾なのを良いことにサドルの上で腰を浮かせて振ってみたり、捩じってみたりしても大丈夫。元々こじんまりした股間でよかった。
バイクを支えてくれた二人には次のエイドでお礼を言わなければならん。生ビールでも奢らせてもらいたいが、エイドには水しかないなあ。
パンクしたときには手伝うけんね。
ぺースメーカーが後方のアクシデントで戻って来ることは通常ありえない。落車やトラブルには集団に混じって走っているサポート車が当たるからだ。
テロ事件以外なら何があっても突っ走るのが使命の彼らが戻って来て、
「走れる? OK? よーし行こう!」
と言ってくれた。 これがエイドよ、エイド えいど。
トンネル手前で交わした短い会話や、前のエイドで並んでトイレした間に友情が芽生えたのかも知れない。
それとも、たぶん出場最年長のへたれなくせにやたら派手なジャージの爺いが、歯を食いしばって何処までも喰らいついてくるのを楽しんでいたのかも知れない。
美しいフルーツライン入ってすぐに、前出の第3エイドがあったのだ。
ワシは道に迷ったペースメーカーと、ミスコースしてペーサーを追い越してしまった二人に大変お世話になった。
先ほどの判決文的な発言は、そのお返しのつもりで彼らを庇った訳ではない。
あれは正論であろう。当人たちが反論の機会もないままペナルティを負うとしたらエイドの精神に反する。
そーゆー気持ちで股間を押さえながら言っただけだ。
現にそうなったし、その後の多数のミスコースが防げたのなら股間の痛みなど、なんのこれしき でござる。
第3エイドのあとは残り13.3km。掲示板の地図ではフルーツラインを行って吾妻丘陵を登ってゆけば四季の森だ、ゴールの四季の里はその森のなかにある。
ワシにとっては5か月がかりのゴールとなる。
なんだか泣きそう。
通過時刻ダイヤグラムのペースメーカー用に描かれた線とぴったり同じのオンタイムでワシらは走っている。
つまり暫定1位のままだ。
ここまで無事故無違反で走って来たのです安全を最優先にと、エイド長から念を押された。
時間通りにペーサーがスタートした。
ワシらも水渡しのお姉さんに盛大に送られて再スタートした。
本来は5人だが、面子が揃わないので3人で出てよいとエイド長の判断である。現場の良い判断である。
先頭は白のアンカー ゼッケンS9011、二番手がシルバーの車名不詳クラシック S9010、後尾がワシ、 赤のコルナゴ S9019。
アンカーとクラシックは番号が連続しているが見ず知らず、たまたま白石スタート会場で前後にいたので一緒に走って来て一緒にミスコースしたのだそうだ。
もちろん名前などは知らない。脚質が合えば一緒のほうが心強い。
ワシが独走で飛び出したときは後ろで見ていて心配したと笑う。
「でも すげー かっこよかったす。おれも行きたかったすが、前が動かねーんでねえー」
クラシック氏が前を見たまま言う。
「そうだったのー あんたが出れば ボクも行くつもりで 準備はしていたのさー」
アンカー氏も本音はスプリンターのようだ。
ペーサーは見えなくなってしまったが、ワシはこのまま3台隊列でゴールを目ざすことに決めた。
息を切らせて前を追うばかりが自転車ではない。
大きな山並みに残る残雪を眺めながら走り、放牧場の牛に手を振ったら嬉しそうに追いかけてくるのにびっくりしながら走る。
乳牛でも走るとけっこう速い。
ワシ、この二日間で初めて安らいで走っている。
「これがエイドだ!」 と何度も書いたが、本当のエイドはこれだな。
アンカー氏の車速は決して速くはないがこまめに変速を繰り返して一定の回転数をキープしている。
レトロなダブルレバーのクラシック氏はペダルもアンティークなストラップ掛けにナイキの運動靴、パワー派なのか重たいギヤを黙々と踏んでアンカー氏の航跡を忠実にトレースして行く。
ワシはこの二人と一緒に行けば目標の11時50分をクリアしてゴールすると計算ができた。
迎えのホラキちゃんには12時にゴール地点で待てとメールしてある。
白石から3時間50分でのゴールは上出来だろう、ペーサーの所要タイムが3時間40分のダイヤグラムなのだから。
エイドの募集要項に平均15km毎時と書いてあるのは、距離を全所要時間で割った速度。
実際には登りでの遅れや信号停止、エイド休憩の時間などはロスタイムとなるから、メーター読み25km毎時超で走っていないとオンタイムを下回る。
下りなら軽トラを軽く追い越す脚力とモチベが必要となるのだ。
第3エイドを出てからは3人走の登りとなってペースは落ちたが、前半の貯金があるから暫定1位が確定1位となるのも夢ではない。
気がかりなのは後方からの追撃だが、今のところその気配はない。
残りの道はすべて登りになった、だが斜度はさほどではない。
アンカー氏がシフトを変えて小さく蛇行を始めた。クラシック氏も1段上げて黙々と踏んでいる。
車速は当然下がり、二人とも無口になった。
時々顔を上げて坂の先の方を見ている。
メーター残距離は5キロを切っている。がんばれアンカー。
ワシは回転数を下げないよう先ほどからインナーギヤで踏んでいるから口笛が吹けるが、もちろん吹かない。吹いてもたぶん音にはならない。心拍が上がってきた。
先頭で風を切っているアンカー氏に今さら先頭交代を提案するのは気が引ける、クラシック氏にはまったくその気がない。
こうやって白石から50km以上を走って来たのだろう、暗黙の約束と了解がいつの間にか出来ている。エイドなんだよね。
後方から追い上げているグループがあるとすればそろそろ来る頃だ。
もしアタックが掛かってもワシは乗るまいとココロに決めた。
ゴールアタックに乗って、今さら二人をチギって前に出たら今度こそは、
「すげー かっこよかったす」
とはならん。
「調子こきやがって クソ爺いーっ」
ワシならそう言う。
この二人より先にゴールラインに入ることはない。もう迷うことはなかった。
暫定1位のプライドでそう決めたのだ。
突然後方からタイヤ音が迫って同じジャージの5台の一団があっという間にワシらを追い越していった。
白のブリジストンであることを願ったのだが、EAST なんとかという屈強な男たちのチームだった。
第3エイドでワシらと入れ替わりに到着したチームエントリーのひとたちだろう。
連携の取れた走りで先頭交代をしながらチームを進めて来て、最後の坂でアタック合戦。見事にエイドを楽しんでいる。
ワシは勝ったか、なんてもう言わん。
今朝のスタートラインに立ったとき、すべての走者はすでに勝者だった。
大会コンセプトにあるように困難をねじ伏せて参加してきた者は、なんだってかんだってエイダーであろう。 勝者はいらない、勇者がエイダーだ。
四季の森に入った。
広大な県民の森に様々な体育施設があるが、今日はエイド一色だ。
コース以外の道々に応援のクルマがぎっしりと、すき間なく駐車しているのが見える。駐車場はとうに満車なのだろう。大型バスまで路上駐車だ。
でもトラブルなんかは起きていない、えいどフクシマ。
四季の里入り口の看板が見えた。
その下に GOAL と書かれた巨大な金色の風船が揺れている。子供たちが揺すっているのだ、笑っている。スタッフが飛び上がって手を振っている。ここだここだと呼んでいる。
そこを曲がると予想もしなかった大歓声と大拍手が待っていた。
タイヤの音もチェーンの音も自分の呼吸音さえかき消す大歓声だ。
福島県民が全員来ている。
それ以外のひとたちも来ているから県民の二倍の数のひとたちがここに集まって、ワシらのゴールを待っていてくれた。喜んでくれている。
笛 太鼓 鐘 バケツ 音の出るもの何でも打ち鳴らし、声の限りに声援をくれる。
「いいぞー ブリッツエン よくやった!」
誰かが叫んでいる。それだけは聞こえた。
参加してよかった。完走できてよかった。そしてなにより楽しかった。みなさんありがとう。
ゴールゲートにはチアガールズがヘソ出しコスチュ−ムで踊っておるし、よさこいウェアのおばちゃんたぢも踊っていでな、なーんだか分らんけんどなし 太鼓もどんどん鳴っているだ。
白石の甲冑鉄砲隊もいなさる、大将はなーんと 會津のお八重さんでねーが。 スペンサー銃で祝砲をば ばんばん撃ち鳴らすだあー。 おら たまげっちっただよー。
ゲートで下車し、アンカー氏 クラシック氏 ワシの順で自転車を押してゴールラインを越えた。
「11時45分0秒」
計測係の声が聞こえたが、大歓声であとは何だかわからない。
いいんです、順位もタイムも競わない。楽しんだひとが1番なんです。
ワシは自転車のサドルをぽんぽんと叩いて言った。
「ありがどなし」
迎えのホラキちゃんが駆け寄ってきて、目ん玉を見開いたまんま、
「見直しました! 尊敬します。 今日からはへたれ”先生”と呼ばせて頂きます」
ふん そんくらいじゃ 足らん。 先生の前に大をつければ、まあエイドしよう。
「おーし 生ビール 奢れー!」
そのとき白のブリジストンベストの一団が入って来た。
「ほーい おらだぢのエイドは終わったどもなしー フクシマのエイドは まーだまーだ 続くどー」
おわり
長いあいだの ご購読、 あっ いや ごっ ご辛読、ありがとうございました。
syn