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小うるさく速度取り締まり情報をくり返すユピテルナビの指示通りに走って、南三陸は河北上品村まで無事到着した重箱爺さんのお話しです。
今回は自転車で坂をハァハァいいながら登るハナシではありません、安心してお読みください。
道中は東北道から分岐した仙台南道路を終点まで行って、さらに三陸道に乗り継ぐと無料区間となった。
開いたままの料金所ゲートを半信半疑で恐るおそる通過してみたがETCは沈黙したまま料金額を読み上げない。
なるほど、本当に無料だ。 よそ者でも無料。
これは良い施策である、ついでに無料ガソリンスタンドと無料めし屋も設置してもらいたい。酒代なら払いますでよ。
待ち合わせに指定された道の駅上品(じょうぼん)の郷はすぐにわかった。
休日のせいかたいそうクルマが入っていて、おしぐれさんが好んで停めるトイレに近い駐車スペースに空はなかった。
その辺りの場所は流行の車中泊を楽しむ定年組夫婦の乗って来たカーキャンパーの定席なのだ。
旅程に余裕のある夫婦キャンパーは込み合う午後の時間帯より前に到着して車泊に好適な位置をキープする。
トイレに近くて傾斜がなくて、照明灯の明かりが直接差し込まないところ。
できれば大型冷凍トラックのエンジン音が響いてこない駐車位置がよいが、そうそう都合よくは行かないものである。
そこで前ふたつの条件が満たされるのであれば、照明が目に入る難点は車内のブラインドカーテンと車両の向きを逆向きにしたりして対応している。
冷凍機エンジンは停める訳にいかないのでその音はどうにもならない。トラックドライバーはよく解かっていて、幹線道路に近いところに停めてトイレまでは自分の足で走ってくる。
日本の深夜物流の10トン分をたったひとりで支える彼らの高い運転席は乗用車メーカーにはけっして作れない。あれは長時間の孤独運転に耐えつ、人間性を高潔に鍛える高哲の部屋なのだ。
ふいに携帯電話が鳴った。
「ヤツめ何処でワシを見ているのだ、油断のならない男だ。ヤツのステルス性は中国駐在員時代にCIAの怪しい人物とつき合いがあったということか」
「いやーっ 先生、いま何処け? 松島は過ぎたけ?
あに もう着いた。 えれー早いなあー。 地を這うようなフェラーリ スパイダーで来たのけ?
すまねーだけんどオラほの娘に急に孫っこが生まれでなや、末っ子に婿取りしたんだけんどオラの家系で待望の男子がやっと授かったんだよー。
2時間ばかし遅れっからよ、道の駅さに着いたればハワイアンフラダンスショーでも観ででくれ。
酒なら飲んででえーだよ、あとはオラが案内すっからよー。 足湯さ浸かって冷てえー上品ビールでもやっててくんないなあー」
2時間とは大変な遅れようだが孫が生まれたというなら仕方あるまい。
さいわい日暮れまでにはまだ時間がある、晩秋の陽ざしと風が気持ちの良いきれいな村だ。
道の駅は大きくて立派なつくりだが、津波で倒壊したのを再建して日が浅いという。
この辺りの建物や道路が真新しく見えるのはみな再建のものだからだと改めて知った。
東の正面になだらかなおっぱい型の山が見える、これが上品山。 観光案内板に ”たらちね” が描いてある。
なるほど、上品なおっぱいだ。
その向こうは海のはずだがここからは見えない。
併設の温泉施設で長旅運転のコリをほぐし、上品な酔い心地だとCIAが自慢する地ビールを頂いてリラックスすることにした。
ハワイアンフラダンスショーなら福島いわきでしょう。そっちには行かず無料の大広間に座った。
温泉の余熱でひたいの汗がなかなか引かないまま飲むビールはことのほか美味い。
焼き鳥と味噌コンニャクも届き、大広間のタタミの上に座布団を3枚集めて両足を伸ばすと自宅にいるような上品なリラックス感。
自宅の狭さ比べればこの解放感は素晴らしい。
このままCIAが現われなくてもいいかなと思うほどの満足感である。
いつの間にか眠ってしまった。
浅い眠りのはずだったが、どーんとなったとき始めは何が起きたのか分からなかった。
背中を座布団ごと揺すられて正気づくと脇のテーブルの上でビールの空びんがカタカタと揺れ、ついに倒れた。
いつの間にか3本も飲んでいたのか、大震災の被災地でビール3本は油断が過ぎよう。
隣のテーブルの家族客はもう立ち上っていて、爺さんに声を掛けてくれたトラックドライバーとおぼしき若い男がタタミに手を突く年寄りの腕を取っている。
地鳴りなのか客の叫び声なのかスタッフの誘導なのか喧噪とした音が大広間にこだました。
「これはいかん、ワシも建物の外に出なければならん」
重箱爺さんやっとそこまでの判断ができた。
若い男の背中を追って走った。
温泉施設の玄関で履物棚から自分の靴を取ったころには地震の揺れは収まったように思われた。
外に出ると人々が空を見上げたり山を見たり、海の方角に向って耳に手を当てて音を聞くしぐさの人もいる。
電線はまだ揺れていたが信号機は動いていて、国道のクルマはゆっくりだが動いていた。
駐車場から国道に出て行くクルマが急に増えて出口が渋滞し始めた。
あの男のトラックは無事に行けただろうか。
混乱というほどではないが、みな急ぎ退避のスタイルに見えた。 みな本気だ、これは訓練ではない。
防災無線のスピーカーが何か言っているようだが分からない。
混乱しているのは上品ビールの余韻なのか遠来のよそ者爺いだから符牒が分からないのか、その辺りがいまひとつ瞭としないがこれは訓練ではないと解かった。
「退避って どこへ?」
土地勘のない爺さんはどうすればよいのか分からない。
旅行者とおぼしき車両の後をついて行くのがよいか地元の軽トラについて行くべきか?
「そーか 内陸部に向かって逃げればいいのだ。 西の方向が内陸だ。 ワシにはGPSナビがあるじゃーないか」
重箱爺さんトランポ車に戻ってエンジンを始動させナビの電源を入れた。
ナビ電源はエンジンキーと連動させず、別スイッチを設けて不使用時の暗電流をカットする方式に変更していたので立ち上りにやや時間がかかる。
その間に携帯電話を見ると三陸沖での地震波を感知したとの防災エリアメールが入っていた。
「おいおい 震源はここの近くの海かよ、津波はホントに起こるのかいなあー」
海の地震 = 津波 を予想し自身の逃げ道を探すのはあの大震災体験のあと日本人の常識となった。
「よっし 津波避難は空振りとなろうとも、もひとまず西側の高い所に逃げようじゃないか。 頼むでえー ポンナビ」
頼みの 入れポン出しポンナビはしっかりウォームアップされて現在地を中心に周辺地図を表示している。
「よっし まずは海までの距離だ。
一番近い海岸からどれほど離れている? それと北上川放水路は何処だ? 真っ直ぐな大川を逆流する波頭速度はやたら速くなるはずだ。そっちへ行ってはならん」
爺さんにいつもの沈着冷静が戻って、現時の状況把握に努める。
さすがは幾多の修羅場を生き抜いた重箱爺さんである。 やることにソツがない、理にかなって無駄がない、つまり理知的で科学的でアカデミックである。
いつの間にか駐車場には爺さんのクルマ1台だけになっている。早く気が付いて逃げろよ 爺さん。
「あれえー? なんだいこれは ワシのクルマはどっちを向いているんだあ。 上品山が右に見えるのにナビ画面では自車の左側にある、こっちが東なのかい?
そんなことはないだろう、道の駅のエントランスは南側を向いていてワシはクルマの前を道の駅に向けている。
自車マークが前を向く設定に変わりはないし、はて? 方位計の北は ・・・ あれえー クルマ後方が北って ・・・ そんなことはないよなあー。
右が東でそっちが海だろーよ、なのになんで右にスクロールすると鳴子温泉があるの? ありゃー 山形まで行っちゃったよ。
山を目ざして逃げるには鳴子温泉まで行けば完璧だが右へ行っていいものだろうか? どーしたポンナビ、おめーまさかワシの留守中に上品ビールを飲んだかあ?」
いつまでもやっていてはキリがないのと人命に係わることなので、種明かしを急ぎましょう。
あとで分かったことですが、このとき爺さんがナビを懸念したのは正しかったのです。
もしも周りが暗くて上品山の姿が見えず、津波警報は実際に発令されていて、道路は地割れしてクルマは使えず、ナビ画面の地図を頭に叩き込んだ爺さんが西の山側と信じて右の方向に走って逃げていたら、彼は波にのまれて行方不明となりこの原稿を書くことは出来なかったでしょう。
爺さんの自慢のポンナビは到着地で一度電源をOFFしたときの方位を記憶していますが、その後に車両の向きを変えたりした場合は、再起動してGPSを捕捉していても画面表示の方位は前回OFFのときのまま、地図表示の北もそのままなのです。
OFFが長時間になったときは内部電源保護のためか記憶を放棄し、次に電源ONされたときは車両の進行方向上側を画面の北と仮認識してGPSと現在位置のやりとりをしながら計測の補正をくり返すことに躍起になっています。
車両が走行を開始してGPSに大きな変動があると位置情報が確定されて方位と地図画面を実勢に合わせて表示する仕掛けらしい。
これまで重大な不具合と指摘されなかったのは、このナビは車両が少し動いてGPSの移動速度として認知した瞬間に正しい方位と自車の進行方向を上にした地図表示を展開することだけはなんとか間に合って出来るということです。
このことメーカーが気付いていなかったはずはありません。
なんたってレーダー取り締まり感知器の一大メーカーですものねえ。
ですから乗り込んですぐに走り出す場合には問題や不具合は実感されず、外観デザインだけ変えて継続生産されてきたのです。
それは今現在市販されている同シリーズの兄弟機種でも同じCPUを使っているから同じです。
爺さんはナビ電源に別スイッチを追加していると書きました。電源をシガーソケットから取っている場合でもソケットを抜けば同じことです。
爺さんの電源改造がこの機器だけをクレイジーにしたということではありません。
メーカーが安価なCPUを使って本体価格を引き下げる手立てとしたのが原因です。
実勢価格2万円以下のナビを買っておいて色々言うなというのは違っています。
あの3.11の大津波のとき、重箱爺さんと同じような状況下にあった旅行者はクルマでの避難はかえって危険と判断し、荷物を捨て妻の手を引いて走って逃げた。
西の山側へと信じて向かった道の先に大きな山が見えて安心したら、それは真っ黒に変色した大津波の山だった。
そんなことがあったと思いたくはない。
証言を得られないから立証できないのだが無念を胸に抱き、阿呆ナビを呪いながら海に消えた旅行者夫婦はなかったか。
爺さんのと同じタイプの安物ナビを使用中の読者は一度検証をして、その不都合なる特徴をしっかり認識しておく必要があると緊急上梓いたした次第です。
トイレ前にトランポ車を停められなかった爺さんは温泉施設の近くにいったん駐車し、その後に照明灯を避ける向きに位置を入れ替えています。
つまり南と北とが入れ替わっていたのです。
このとき上品ビールに気を取られて三陸道はどっちだったかの記憶をリセットしてしまったのですが、それはドライバーの責任ではないでしょう。
なんたってポンナビを信頼しきっていたのですから。
ちなみに13年間使って地図データが古くなったザナヴィーのDVDナビでは、電源ONと同時に立ち上がる方位計はまさしく北極を指し示していました。
旧式な大型ナビから最近買い替えた人ほど陥りやすい 「方位計は命に代えても必ずノーザンを示す」 という絶対信頼への思い込みは、時として人命に係わります。
この件、通販サイトのユーザーレビューで報告していますが、メーカーからは完全に無視されてしまいました。
お願いです、団塊屋さんに掲示させてください。
一方レビュー投稿から2日後にはお詫びのメールがあって、当日お届け便で代替え品を送ってきた自転車用品の通販店がある。
フレームに取りつけて飲料水のボトルを納めておくアルミ製のホルダーを買ったら軽量化のためのスリット状長穴が加工されていなかっただけで、実用には何の支障もない。
「既に取り付けを済ませたし、スリットなら自分であけたドリルの丸穴のほうがカッコよいからこのままで良い」
と返信したのだが、
「発送しています。検品ミス品はお返し戴かなくて結構ですからお客様のほうでご自由にお使いください。
よろしければお客様の加工されたドリル穴の写真を戴けましたなら幸いでございます」
と追っかけメールが来た。
次回はこの店を褒めてお口直しとしたい。
そのボトルホルダーを付けたコルナ号を伴って再び河北上品村を訪れたのは、CIAから二度目のお誘いがあったからだ。
「わが家の女系家系に100年目にしてやっと生まれた男子初孫のお披露目宴をするだで、万障など取っ払って是非来てけろ。
ついでに前回果たせなかったオラの自慢のイタリアングランドツアラーへのポンナビ取り付け作業をやって頂戴ませ。お泊りはわが村自慢の河原の自噴温泉」
というわけで1号前の振り出しに戻るワケでございます。
村の自噴温泉に逗留しおっぱい型の上品山を眺めつ俳句など詠んで過ごすうち、なんと本格雪が降り始めて帰るに帰れない仕儀となっていたのでございます。
旅にしあれば黒き波頭も青き山
しないほうがよかったとあとで必ず後悔する注釈 : 青き山 = 青山 = 死に場所
芭蕉 奥の細道に似た話しになってきたでしょうか?
6話 おわり
前号で 「入れポン 出しポン」 のカーナビについて自慢したところ、1件の問い合わせがありました。
質問は固定電話に入って来ました。
「俊水掲示板の映像だけではよく解からん、ポンしている写真も載せて欲しい。
材料費600余円となっているがホントけ? 当地のホームセンターでも入手可能か? なにを買えばいい?」
「って あんた。 ? ばっかりやないか。 相変わらずオリジナリティーの無い男やなあ。 同じようなものを作るつもりなら著作権料は要らんが、あんた工作は得意け?」
電話の相手は誰だかわからないが、爺さんの粗末庵につながる電話番号を知っていて団塊屋内の掲示板を見ている男といったらそう多くはいない。
去年の秋口にあった中学時代の同級会、那須高原のホテルで数年ぶりに会った彼に団塊屋のURLと俊水掲示板の入り口を箸袋に書いて渡したことがある。
「あんた、美術・工作の通信簿は 2 だったやないかい。
ハンダ付けで作ったブリキのちり取りは銀杏の落ち葉を2枚乗せたら取っ手を残してポロリと落ちたのう。 とっても良かったよ」
「オメさん 50年も前のことでそーゆー洒落をゆーかや、悪い爺いになったなあ。 あの頃の純真な少年はどごさ行ったや」
「あんた 通学自転車のパンクもとうとう直せんだったやないか。 タイヤの耳をスポンと入れてやったのは誰だったかいな?
空気を入れたらまた漏れて、ふたたびチューブを外して糊付けからやり直してやったのは誰だったかいのう」
男の口調が急に改まった。
「先生、その節は大変お世話になりました。
あの近隣に比類なき名門中学を最小修練年月の3年間で卒業できましたのも、ひとえに先生様の崇高なるボランチ精神のおかげでございます。
今回もまたお願い申しあげたき儀がございまして連絡を差し上げましたる次第。 厚かましきはご容赦ご勘弁を。
わたくしあの映像を拝見いたしまして ハタ と膝を打ちましたでございます。
「コレってオラのと同じフェラーリでねーか! 庶民垂涎の的 イタリアン グランド ツアラーだっぺえ?
なんであんひとに買えたんだっぺーなや。 フツーのサラリーマンには買えんグランド ツアラーだっぺーよ。
オラもよアジア対応型ナビの取り付け場所で困っていたんだよー。
ココしか空いているところはねえもんなあー。 オラもココに付けてえーなあ。 どーせばええんだが聞いてみっぺー」
叶いますなれば当地へご来臨賜りまして、先生おんみずから多々ご教授いただけましたなら小生、終生にわたり幸甚の極みにございます。
はい、少し洒落ましてございます。 お恥ずかしゅうございます。
もしもお聞き届け戴けるのでござりますれば、そのお礼と申しましては誠に些少でございますが当地河原に湧き出します天然温泉にご案内のうえ、河原に緋毛氈など敷きまして芋煮鍋で一献差し上げたく存じます。
先生のご都合のよろしい時期はいつごろでございましょう。 雪の降る前がよろしゅうございまするが」
あいかわらずよく喋る男である。 フェラーリのハンドルが右側に付いてっかー、馬鹿め。
「ほーけ 温泉と緋毛氈で芋煮鍋け。 あんた大人になったなあ。 パンクのときはラーメンも出んかったがなや」
「ははぁー 恐れ入ります。 して ご都合のほどは?」
「ワシのご都合はいつだってOKだがあんた、緋毛氈の温泉河原って どこに住んでいたっけ?」
「河北上品村 (かほくじょうぼんむら) でございます」
「河北省? 中国西北部か 「笑的 本田舗」(和名 : スマイル本田) は中国出店していたっけかなあ。
ワシなあ、パスポートの執行停止中なんじゃ。 理由は聞くな。 インターポールの銭形がな、変な工作をしやがった。
覚えておるじゃろ。 隣の組の落ちこぼれ大将、銭形平蔵のヤツじゃ。
そっちから来られんか? じゃがクルマを持っては来られんなあ。
販売目的での出国でねぐ、帰国時にまた持ち帰る誓約と保証金を納めれば通関OKじゃろが煩雑な手続きとなる。
中国では賄賂を使こうても担当係官に接触するまで何年もかかるそうじゃないか。
その間に不穏な思想を変えるか当人が死ぬのを待っているんだそうだ、さすがは4千年の官吏文化じゃのう。
あんた、いつから中国に帰化したんだ? なに! 復興補助金事業不正疑惑の責めを負わされて流遠されたってかいね。 バブル時代にぎょうさんリベート貰ったりフェラーリ貰っらりした自業自得やねー。
河北上品ってどこだ。 チベットに近いほうか?
ワシなあ、シルクロードに沿って万里の長城の上に延々連なっている廊下みたいなロードをマウンテンバイクでチベットまで行ってな、
本当におしぐれさんは先代のダライラマ師に謁見し教示を得たのか、真偽を確かめることは文人としてのライフワークと決めておるのじゃがパスポートがなあ ‥ 」
「先生、相変わらずのでほらく三昧ですなあ。
明日にでも来いよ。 宮城県石巻市河北だ、三陸道の河北インターを降りたらすぐだ。 ポンナビを 「道の駅 上品の郷」 と入力してすぐに出発しろ。 着くころ迎えに行く」
ということで重箱爺さん、温泉河原の芋煮鍋に目がくらみ、万里長城ならぬ高架高速の三陸自動車道(一部有料ほぼ無料)を北に向かって延々行くことになりました。
河北上品村、どんなところか想像もつきません。
「同級会非公式報で彼は今年の春先に食い過ぎで死んだというウワサもあったしなあ」
賽の河原へのお誘いではないことを念じつつ出発していった爺さん。 もちろんコルナ号をトランポ車に積んでの紀行であります。 当然です。
この後どんな展開となるやもわかりません、出発前に 「入れポン 出しポン」 の画像を送っていきました。
これが遺稿とならないこと、どうぞ祈ってやってくださりませ。
つづく (つづけばいいけれどなぁ〜)
<写真>
左 : 最大出しポン状態。 裏側のオーディオ機器の操作が可能になります。
撮影のため割りばしのつっかえ棒が見えますが普段はありません。 当然です。
中 : 半ポン状態。
右 : 入れポン状態。
中と右は説明不要でしょう、な〜にやってんだかなあー爺さん。
それにしても美麗な仕上がりでございます。 これがおしぐれ工房の手わざなんだすわ。
ジョイント部分の秘技は秘匿扱いなのでアップ画像の掲載はできないそうです。 どこが秘技なんでしょうか、シートが邪魔でカメラが寄れなかったのが秘技なんでしょうかねえ。
難くせレビュー爺い こと 重箱爺さん 久しぶりの登場です。
そろそろ朝夕の寒さが老骨に沁みるようになると爺さまライダーの自転車シーズンは納めのライドを迎えます。
元気な若いライダーは防寒タイツでまだまだ頑張っていますが、地味な紺色タイツを穿いた爺さまは人力車引きの藍の股引きみたいだからロードに出て来るなと言われるのです。
「今年はこれで最後にするから ちびっとだけ走らせてくれや」
15分でチギられて周回路の水飲み場で汗を拭いていたら、一周回ってきた若い衆の一団がキュッと停まって車夫の前掛けをプレゼントされた。
胸から腰のあたりまでカバーする車夫前掛けでぽっこり腹を隠せというのだ。
背中はたすき掛けになっていて風の抜けは良さそうだが胸の丸に車のロゴが明朝体なのが気に入らん。 ここはやっぱり提灯屋の祭り文字でしょうよ。
「お前らー、 こ〜んなトラディショナルな衣裳をどこで見つけてきたんじゃ。 引退勧告のつもりか」
「へい、先月のハロウィンカップ・クリテリウムの賞品だす。 爺さんのためにオレ頑張ったよー、ブービー賞を狙って獲ったんだす」
「ばかやろー 自転車も所詮は人力車じゃねーか。 リキシャ引きの喧嘩松五郎をなめちょると痛いめに合わすけんのう」
「爺さん 博多弁を広島風にいうなや。 正直に嬉しがれ」
ありがたくお言葉に甘えてコタツで渋茶などすすっていれば良いものを、藍染の前掛けをして自転車の越冬メンテもやり尽くすとすることが無くなった爺さん、PCいじりを始めるのです。
寒くなる頃に毎年きまって当欄にしゃしゃり出てきては、良識派から煩さがられている爺さんです。
ことわっておきますがこの爺さん、何処のどなたさまと明確なモデルがあってのことではございません。
ええ ございませんとも。
最近ご重役を引退なされたと聞くあるお方さまの此れからの日常をイメージしたら、以下のようなお話しが出来上がりましたなんて、そんなめっそうもない。
南会津の山並みの紅葉が陽光を照り返して一帯を紅く染めている。 それらを月見障子が柔らかに受け止めて草庵の畳はいつもより明るい。
2,300m超とこの辺りでは群を抜いた高峰である 燧ケ岳(ひうちが岳) を遠くに望む粗末庵にひとり座し、黒いパソコンと対峙している。
遠めに置いた長火鉢、灰を7分かけられて気勢を削がれたとはいえ紀州の男炭が南部の鉄瓶に気合を伝え、ゆらりと湯気が立ちのぼっている。
渦を巻くいちいの杢目を渋い透漆がなだめている猫脚のちゃぶ台に田島茶のセットと魚沼産米のお煎餅が載っている。
「お昼にはあったかお蕎麦がいいかしら」
赤い小型のプジョーで坂を降って行ったお手伝いが去り際にそう言っていたから早い晩酌を兼ねた遅い昼めしは蕎麦らしい。
熱くしただしつゆの中に長めに削ぎ切りした日光美人ネギといっしょに粗く挽いた石臼蕎麦をバサッと放り込み、最後に玉子をからめてひと煮立ちさせた蕎麦が好きだ。
「つゆを吸った蕎麦など食えるかい、べらぼうめー。 鰹節の削りカスと玉子入りだとおー、 風邪ひいた猫のまんまじゃあるめーしよぉー。
猫はネギを食わねえから横にどけてあんのかべらぼーめー。 蕎麦はなあ 冷めてぇーつゆにワサビとネギの勢いで食うもんだい」
とおっしゃる江戸っ子が、
「ほんとはよう オラぁーなあ、 こーゆー蕎麦を食いてーと 長げーあいだ思っていた。 誰にもいうなよ、言ったら殴るぞ。 なに? 猫かあ オラぁー猫は嫌いじゃねーよー。
三日月がよぉー しんと照りやがる寒い夜にはさぁー ふところに温ったけー猫入れてな、 ほんでもって横町屋台のよー 熱っつくてしょっぱい二八蕎麦でさぁ ふたりして泣いたもんだぜ。
なに? 猫かあ あいつは熱くて食えないから冷ましてくれろって鳴いたんだあ。 文句あっかあー べらぼーめー」
煮込まれる直前に引き上げておいて後から蕎麦の上に添えられた日光白ネギのシャリッとした歯ごたえと香りは、ある年数を重ねた女性でないと演出できません。
薬味のゆずの皮は摺らずに包丁の背で香りの粒を狙って浅く削り落とす。
そうするとゆずの香りは口の中だけで放散するので、主役の蕎麦の香りを邪魔しないのだ。
そういうお手伝いでよかった。 玉子を落としてつゆの沸騰温度を下げるタイミングなど今どきの若い女にわかるものか。
「ワシも年だし、彼女の行く末を公正証書にしてプジョーの名義も変えておかんとなあ。 各種申請を団塊屋さんに相談してみよう」
重箱爺さん、そういうことを呟けるような、なんとも羨望的リッチな環境のなかで本編を書いているのか。
読者のみなさまがそのように想像を描き、
「この爺じい 不労所得を隠しているか會津に伝わる平家落人伝説の秘宝金銀を掘り当てたに違いない。 ひとり寡占は許せん。
背後の有能なフィクサーは誰だ。 団塊屋か?」
思いのまま幻妄を惹起なさるのは至ってご自由ですが、昔から 金持ちけんかせず というじゃあありませんか。
リッチ爺さんならネット購入品の商品レビューコラムで隅つつきの難くせ合戦など仕掛けたりいたしません。
過去に実在の企業名を挙げて商品ロットも記載してコキおろしたら、数日後に属籍不明のドローン機が飛んで来て偵察行為をしていたと懇意にしている山のカラスが教えてくれました。
重箱爺さん、カラスやイタチなど土着のフィールダーに知り合いが多いのです。
他にも鳶や狐、ときには雁などのトラベル派も立ち寄っていきます。 ロシアと行き来するツグミはバイリンガルな情報通です。
ツグミの一団が初冬に大陸から渡ってきて高空から一斉に降りてくるとき、山あいに響く羽音のテーマ曲は ♪ 007 Gold finger です。 そのこころは Fromm Russia with love なんちゃってー。
さて、今回の ”隅” はユピテル社の自動車用ポータブルナビ YPB741型機。実勢価格18,169円。
9月下旬に入手しましたが、これを書く際に再度検索したら200円ほど値上がりしていました。
この部門での年間セールス台数NO1だそうで、すでに他の方々のレビューも多い。
なので使い勝手や交差点を曲がり損ねたときの対応の速さなど重複することは書きません。
なにせ書き手は重箱爺さんでっせ。 簡単には誉めません。
取り付け終わって電源を入れた1分後には早くも気に入らないのです。 やっぱりねえ。
いらいらして怒っているのです。
なぜって画面が立ち上がり、瞬秒後にGPSを捕捉すると同時に 「左側500m先 交通機動隊です」 と喋りやがる。 それも大声で。
毎日エンジンを始動するたび 「交通機動隊です」 とご注進しやがる。
そんなコトわかっとるわい。 「家の近所にお巡りさんが大勢詰めとる屯所があるから安心やなあー」 って越してきたんやないかい!
ワシは犯罪者やないぞー 「お巡りさんです、逃げてください」 って、このキカイは逃亡者支援装置かあ。
ご近所に聞こえたら恥ずかしいやないかい。 さいわい過疎地やからええけんど。
ワシが買うたんは自転車遠征に行くときの電子地図やぞ。
スピード取り締まり逃れのレーダーが欲しかったワケではないわい。
この先 「Nシステムです」 って何じゃい! ワシは手配車両などに乗っておらんぞ。 バックドアに枯れ葉マークを貼ってはおるがなあ。 あれは任意のおしゃれや。
南会津のゆったりと時間の過ぎる侘しきたたたずまいのなかでモノを書くには、メカメカしたカーナビの話題やシマノの電動変速機の話題はいけません。
茄子や南瓜や大根の話しがええですのう。 これからは白菜でしょうか。
今さらながら10数年間使ったザナヴィーのDVD‐ROM式のオールドナビの寡黙さを愛おしく思うのです。
なれば何ゆえザナヴィーから新興ユピテルに替えたのか。
それをこれからゆるりとお話ししましょう。 まあ お茶などどうです? 地元田島のお茶だす。 来春の完結編までは長ごうございますでなあ。
いつまでも腹を立てていては雪の季節を越えることはできません。
おお 坂道をお手伝いの赤いプジョーが帰って参りました。
おお おお えらい勢いですわ、ターボが回っとる音がしとりますやんけ。 目をつけていたボージョレヌーヴォを解禁前に買えたんでしょうかねえ。
母国ワインの瓶を乗せたときは 「とりわけソフトな運転をしてください」 ってプジョーの純正ナビはフランス語でいうのだろうか。
そんなこと言わないよね。 フランス人は欧州いち攻撃的だもの 「そこだあー フランシス! 踏め 踏めえー イタ公のフィアットをブチ抜けえー」 だよねえ。
お蕎麦用に買ってきたネギを1本もらって火鉢の炭火にかけた網に乗せ、醤油も用意してお手前晩酌の準備を始める前にミシュランの冬タイヤに替えてやろうかな。
そうだ、藍染の前掛けを締めて本気モードでやらんといかん。 こいつは自転車のタイヤより重たいからなあ。
「全輪いっぺんには出来んて、今日は前だけじゃ。 頼りになるのはお前だけじゃ」
なあーんちゃって、爺さん うまいなあ。 フランス人のお手伝いに通じるのかいな。
読者のみなさま 初冬の候、 ご自愛なされまし。
奥さまのタイヤ交換に際しては是非とも前のセリフをお試しください。 日本の奥さまなら (きっと) わかりますともさ。
上手くいったらフィクサー料の振込みは不要です、FC2カウンターを1ポチしてください。 といってもボタンの場所がわかりません。
つづく
<写真>
上が10数年動き続けているザナヴィーのナビ。 当然車両も10数年前のモデル、重箱爺さんのトランポ車はまだ大丈夫です。
ですがナビの地図データが古いままなので、新しい高速道路は無視されて入口を通過してしまうことが多くなりました。
更新されたROMの販売はとうに終了したそうで、今はバックモニターとして働いています。
ワシらだってそうだす、更新すべき脳情報をつなぐワイヤーに口金の形状が異なるものが増えました。
ロックの爪をヤスリで削って無理やり合わせているうちはええですが、そのうちヤスリの手が震えてピンがパキッと ‥ 。
屋根が写っているのは蔵の街でバックしているから?
下の後付けモデルがユピテル機。 画面は撮影用です、現在地というワケではありません。
上のバックヴューと合わせて地点が特定できる危険を回避しております。 ロシアから来たツグミ団の団長さんが 「そうしたほうがよい」 と教えてくれました。
2機ともに7インチのモデルですが、下が大きく見えるのは手前にあるからだと思います。
この位置に取り付けては裏側のオーディオ機器やザナヴィーナビの操作ができないのでは? という質問にお答えしましょう。
新ナビ本体の上方左右に光った金属棒が見えますね、この棒を中心にくるりんと回転して手が入るのです。
電動ではありません、手で持ち上げるのです。 ふだんは自重で下に下がってロックされます。
そのときのモーションがまた、羽根のように軽く上がり〜の 潜水艦の蓋のようにしっかり留まり〜の、入れポン出しポンが実に楽しい。
スーパーの駐車場でお手伝いが戻ってくるのを待っているあいだコレで遊んでいます。 痴呆症対策に良いみたい。
取り付け工事は当然ながら おしぐれ工房 にオーダーしたスペシャル仕様。
入魂の一作なので二度は作れないと店主が言っています。 あのひと 何でもそー言うのよね。
味噌おでん 作ったってそー言う。 でもそれって名人ゆえの一言かと、ワシら余人は敬服しとりますです。
材料費 : 648円
手間賃 : はかりしれず
<ご注意>
電化製品ですから Gold finger に自信のない方はマネをしないでください、車両火災の原因となることがあります。
一度でも高速道路を逆に進入しかけた経験のある方はアウトです。 はいはい あなたのことですよ。
あなた ITCカードだって挿入していないじゃないですか。 挿入にはね、気合いだけではダメ。 長年酷使した脳の休養が必要なんです。 セサミンと睡眠です。
<写真説明>
諸事情により下の本編と切り離れてしましましたが続きものの4枚目です。
すべては編集者の不都合であり、投稿者の責任ではありません。
「会津浪漫輪道」 開通記念碑のアップ。
石碑の文字が読み取れるでしょうか。
わざと微妙な距離から撮影したという意図的なことではございませんのです。
すべては編集者の不 ‥ 。
手前の自転車が場違いなほどええですなあ。
碑の台座にさりげなく置いてある DE ROSA のおNewのヘルメットは自転車に合わせ赤と黒のコラボレーション、初披露です。
秋晴れで気温が上がってきました。 ここは静かで適度な木陰もあって気分爽快。 来てよかった。
左が喜多方 右が会津若松の方向です。
この辺りまでは川沿いの林のなかを快適に走ってきたのです。 トイレで妙な二人組に出くわすまでは ‥ 。
この後に続く写真がないのは、そ〜んな余裕など吹っ飛んでしまったのです。
ロード脇のトイレに並んで用を足しながら福島県警の古いクラウンパトカーのお巡りさんと親しく会話する機会を得た。
以下はその全容であるがなにせご両名は公務のお方。 お名前 官名等は仮のものとさせて戴いた。
両手がふさがっているから腰の拳銃は容易には抜けまい。 安心してタメぐちである。
なぜならワシは駐輪スタンドにきちんと自転車を留めたし、昨夜は喜多方の北方に位置する蔵の湯温泉で遊湯税もきちんと現金で支払った。
トランポ車での野営地は公設キャンプ場であり、夕飯を兼ねた遊興街での徘徊は早めに切り上げて寝たきわめて善良なる旅行者である。 領収書ならお風呂セットのポーチ内にあるぞ。
早めに寝たのは一軒目を出たら蔵の街はどこもかしこも灯を落として真っ暗じゃったからじゃ。 ふん!
土曜と違って日曜の夜はこんなものなのか、駅前のタクシー乗り場には諸国からの旅行者が ふんっ ふん! の大合唱だったわい。 治安の良いことは結構じゃが民活度はどーなる! 混沌こそがアジアン仏教の根本ではないか。
「旅のひと、どさくさまぎれに渋い洒落かますでねーだよ。 街の治安をちゃあーんと担っているのは剣道4段の相棒とオラの腰のモンだ」
あに! ワシを真ん中にして剣士は左、オメさんは右に立ったのはそーゆーセオリーがあったのか。
右手は常に空けておくのがガンマンのキマリ。 容疑の標的者を左側に見て立つのは右腰をフリーにする会津ポリスのモチベーションだって? アンタ、福島のクリント・イーストウッドかいね。
「ご両名、会津もののふの気概はしかと分かり申したが なして自転車ロードにそがいな暑苦しい装束で?」
「旅のひと、よぐ聞いてくれだなやー。 この道は県道なんだすわ、福島県唯一の (全国的にも類の無い) 自転車専用県道なのでわしらのパトロール区域っちゅうワケだす。
磐梯山・猪苗代湖・喜多方ラーメンに次ぐ会津の誇りじゃで、本官ほか1名は所々にある自動車道との接点から歩いて巡視しとるっちゅうわけでございますよ納税者さま。
はいー 年寄りにはしんどいだす。 早くに出世しておったれば歩き巡視などせんでよかっただになー。
この時期のマムシはなや、冬眠前の荒食いだで気が立っとります、革の編み上げ長靴にエルボーチョップ用のヒジ当ては欠かせませんだす。
もしもヤローが警告を無視して恭順の意志を見せず、さらに善意の市民および本官らの生命財産に急迫不正の重大な危機が及ぼうとする際には、司法公務員職務執行法の精神に照らして躊躇など明らかに不要。
ウムを言わさず44マグナムの全倉発射じゃーっ。
はいー フルオートマチックのダーティーハリー仕様、グリップに純銀を用いたスペシャルシルバーモデルだす。
少々重いが抜く手は見せぬぞ、全弾命中じゃ。 のう平手うじ」
平手と呼ばれた若い方の警官は川面のカモの数を目で追いながら 「アンタ うるさいよ」 背中を向けたまま肩から上げた手をヒラヒラさせた。
それで平手というのかも知れん。
さらにこの男、川面に揺れて咲く川藻の白い花に群れる小魚がパッと散って根方に潜るのを追う川ガモが、暫くして顔を出すたびその数を倍にしたり戻したりするのを見て ふっとつぶやく。
「されば 梅花藻 (倍カモ) と名付けたり」
「お若いの、平手うじと申されるか、お見それいたし失礼した。 さすがのお点前でござる。 一刀流か?」
「恐れ入ります。 お手前こそさすがの慧眼。
川ガモが川面の川藻に遊ぶさまをしっかり捉えての三点フルバージョン盛り、無駄も外しもない自然流。 敬服いたしました。
もしや雲水どの、あなたさま もしかして あのご高名なるおしぐれご坊さまではありませぬか? なれば各地を旅してご存じではあるまいか。 房州下総行徳寺の妙真尼どのはご息災にあらせられるかと」
(注釈 : 以下の解説は福島のクリント・イーストウッド氏によるものです)
平手造酒 (ひらてみき): 天保水滸伝に登場する美貌の剣豪。
北辰一刀流 抜き打ち技の名手として関八州に名を馳せたが生来の酒好きと女好き、さらにはその美貌が禍となり身を持ち崩す。
お玉が池の千葉道場を破門となってからは下総の元締め博徒 笹川の繁蔵 親分の食客となり利根川の堤筋で颯爽の風となる。 今風にいうたら利根のロードマンですなあ。
このとき平手の無事を祈って山寺にこもり、厳寒の滝で水ごり祈願をしたという美形の尼僧が若き日の妙真尼である。
浪曲 大利根月夜唄のモデルとして 千葉・茨城 ではつとに有名
「はぁー そーなんですか? アンタ、会津の誉れから房州博徒の用心棒の恋バナまで関八州の人文地理をよー喋りまんなあ。 ポリスアカデミーの卒論だすか?
わたいの聞きたいのはマムシ情報だす。 そいたら転んで草むらに落ちたらアキマヘンな」
「アキマせん 足を着いたらアキマせん。
秋風が立っちょるちゅうに なんでライダーは無防備にスネば出しとるんかいねえ。
ゴールまで一気に突っ走って行かねばタヌキに化かされマム公に食われて命を落とします。 ここはネヴァーなワイルドランドだと認識すべきです。
一番危険なのが雑木林での立ち小便。子持ちタヌキの巣穴にひっかけて祟られ、石地蔵に化かされる例が後を絶ちません。 これはライダーに非があるだすから立件・起訴の対象となりませんなあ。
よって7キロおきに公設トイレがあります。 パンツを下す前に便器内に銭形模様の動くものがいないことを確かめたうえでご利用願います。
銭形の動くものと申しましたが、碕玉県警からインターポールへ出向中の銭形警部のことではありませんだす。
はいー ポリスアカデミーの同期だす。 まあ あのご仁も毒の強さではマムシ以上の虎ウツボですがなあ。 がっはっはー」
これはいかん。 銭形の知り合いでは今後いかなる災難の展開となるか想像もつかん。
一刻も早くこの場を立ち去るのが良策であろう。 マムシも恐いが銭形の刺青を背中にしょった地中海の虎ウツボはもっと恐い。
「ひょえー! 素敵なワンダーランドですなあ。 利根川サイクルロードの颯爽に対し、こちらさんはワイルドさにおいて完全に勝っておりますだす。
ほいたら ぽちぽち出発しますで いずれの地でかまた会いましょう。 さいなら」
「お待ちなせえ 旅のひと、ここで逢ったもなにかの縁。 めったに口をきかん平手が3行も喋ったのもご縁のおかげ。 お礼の気持ちを込めて完走祈願の祝砲をたてまつらん。
平手巡査長、 気をつけーっ! 直れっ! 射撃姿勢をとれーっ!
わしの44マグナムを式典銃として特別に貸与する。 南11時の方向に捧げ 両手構えーっ! ええが 全弾撃ち尽くせ。 ちっとは軌道がそれてもかまわんぞ。 よーい!」
「ひえー! かんべんしてちょーだい」
正式名称 : 福島県 県道392号線 会津若松 熱塩温泉 自転車道線
愛称通称 : 会津浪漫輪道 (あいづロマンチックりんどう)
計画距離 : 49.9km
整備距離 : 会津若松側 14km 喜多方側 9km
沿川 : 大川 押切川 濁り川
<写真説明>
1枚目 : 起きぬけのウォームアップにキャンプ脇を通る会津 米沢街道 (国道121号) を大峠に向かって登る途中、偶然見つけたこの標識がすべての始まりだった。
この瞬間 本日予定の 「恋人坂」 のキャンセルを決断した。 「オラはちゃらちゃらした坂は嫌いだ、行くならこの道だっぺーよ」
恋人坂 : 会津にはこーゆー名前の坂が実在するのです。 なんと浪漫な県民文化でせう。
写真は撮ってあります、いずれお目にかけたい。
2枚目 : いったんベースキャンプの道の駅 「喜多の郷」 まで戻って旅支度を整え直す。 バックパックにはお師匠さま形見のお数珠を忍ばせた。
モチベーションに本気度が乗ったときはいつもそうしているが、考えてみたら拙僧にとってお数珠は本業だったなや〜。
このときなんと 「浪漫輪道」 が駐車場のすぐ裏を通っていることを発見。 お師匠さまあ〜。
写真の標識は最近設置された電気自動車急速充電器の小屋に隠れて見えなくなっていたのだ。 なんてことをしてくれるんじゃー。
前夜 喜多方の飲み屋街から乗ったタクシーが 「自転車道はあっちの方やないけ?」 と言ったのはこのロードのことだったのか。
3枚目 : 平手酒造(株)の酒蔵と 「会津浪漫輪道」 開通記念碑。 平成11年とある、こんなところに埋もれてもったいなや。 のう平手うじ。
このあたりは酒造会社のみなさんによって綺麗に整備されていたが、少し行けばタヌキやマム公が出る雑木林が川に沿って続くばかり。
街路樹があたかも桜花のようにピンクに写っています。 そりゃーそうです酒蔵から漏れ出た酒精の水を吸って年中紅葉している木々です。 ええですなあ。
酒蔵は稼働中、シャッター押しを頼めるひとはいませんでした。
街路の時計は10時40分を指しています。 祝砲弾の飛んだ方向、会津若松まで残り20分で行けるか?
軌道がそれて宇宙をひと回りして降ってくるマグナム弾をこの身を挺してでも受け止めねば善良なる市民に迷惑がかかるばかりではない。
拙僧が終いの巣舞いと決めておる父祖の城、會津鶴ヶ城の神聖美麗なる大天守の鬼瓦に穴があくではないか。
ハイヨー シルバー、 走れーっ コルナ号ー タヌキもマムシも蹴散らして、いざ 参らせそうろうーっ!
お師匠さまあー まっこと不肖の弟子でございました。
お側に参れるかどうか、とんとわかりませぬ仕儀とあいなりましたも渡世の義理。 男の意地。 お許し下さりませーっ!
<大利根月夜唄より一部抜粋>
えーい 止めてくださるな妙真尼どの、落ちぶれ果てても平手は武士じゃ。 受けた恩義を返すは今じゃ。 行かねばならぬ 行かねばならぬぅーっ!