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エイド出走時のホイールと12T−28T
2013/06/26

エイド出走時のホイールと12T−28Tギヤカセット

ギヤが左へ行くほど(ロー側)急激に盛り上がっています、オープンレシオの組み合わせ。
変速時のショックとペダルにかかる重さの急変は今でも好きになれません。
エアロ効果の扁平スポークが見えます、でもエレガントさに欠けるようで…。

おしぐれ俊ちゃんの サイクルエイドJAPAN 2013 (7)
2013/06/26

5月最終週
ここまでエイドに向けた準備はうまく出来ている。
トーニングは早朝から始めて昼には上がり、カラダと自転車のメンテをしっかりやって昼寝を4時間。
この頃には山へは行かず鬼怒川のロードで一定の回転数を保つペダリングに集中して、モチベーションの維持に努めるようにしていました。

昼寝としては長めの午睡から目覚めると、外は夕暮れになっている。
近くのコンビニで明日のためのウィダーとポカリを買って常温の小屋に置いておく。
明日の朝買ったのでは冷えていて、ボトルに詰め替えて走ると結露する。その水滴が脛に飛んで来るのが嫌だ、という理由だけだ。

どんな理由であれ士気を脅かしモチベに仇なすものは徹底排除せねばならん、さればわれらへたれにも勝機はあろう。

トランポに自転車を積み込み、靴やポンプ、ヘルメットなど忘れ物のないようチェックリストで確認したら、今夕はもうすることはない。
先ほどのコンビニで真っ先に買ったビールと軽めのつまみで一杯やって寝る。

昼寝のあと何時間も経っていないが眠れる。すっかり習慣になっている。
翌朝は3時に起きてコンビニで朝飯。
たまに吉野家のときもあるが、汁だく牛丼は腹がだくだくするので牛皿とご飯を頼んだほうがアスリートにはよい。

携行食のエナジーバーとひと口羊羹、カロリーメイト、それに練習直後用の牛乳とバナナを買ってロードに向かう。
こういうくり返しを飽きもせずやってきたが、いよいよ集大成の6月まで1週間となった。

ワシすこぶる健康。
「風邪をひかずインフルエンザにも風疹にもかからず腰痛もない、そういうひとにわたしはなりたい」
宮澤賢治が詠んだあの詩は自転車ライダーがモデルだったのだ。

その朝は土曜日だった。
土日のロードは混むので練習には行かず小屋で入念なメンテをしたり、大会のホームページに新しいことが追加されていないか確認したりする日にしていました。
土日は有職ライダーのために空けておく。
そう書くとたいそうカッコいいが、奴らにあっさり抜かれて挫折したらモチベの醸成にマイナスだから行かない。カラダをしっかり休ませることもトレーニングのうちだって思うんです。

今回のイベント参加にあたって白石に置き去りにするトランポの移動をあの信頼できる男、ホラキちゃんに頼んである。
福島ゴール地点の周辺地図を渡したり到達予想時刻など、最終打ち合わせにワシが訪問することになっていた。
約束は夕方、一杯飲んで完走への歓送会をやろう、やって貰おうという了見。
ところが、いつもと同じ午前3時に起きてしまったので少々困った。

今日の午前中はすることがない。
やらねばならぬ整備はすべて済ませた自転車は絶好調、装備品 携行品 消耗品すべてチェック済。
ゼッケンを付ける安全ピンのスペアまで手芸店で入手してある。
トランポのナビには白石と福島の会場がインプット済。
大会が急に明日になったって全然OK。
余計なことをしてコルナゴちゃんを変調させることのほうが怖いくらいだ。

辞世の句はすでに(4)で詠んでいるし、自転車傷害保険には「サイクルベースあさひ」と「サイクルスポーツ誌1月号付録」の保険に加入。
イベント当日の保険はスポンサーでもあるau損保で加入、と万全。

このあとは怪我のないよう軽めに練習して、出発前日にもう一度チェーンを洗浄して新油を注ぐだけ。
チェーンの辺りを眺めていて「そうや!」と思いついた。
「スプロケも洗っとこ」

スプロケとはリヤの10枚のギヤセットのこと。チェーンに対応するギヤを工業界ではスプロケットという。
10枚のギヤ群の塊りをギヤカセット、または単にスプロケと呼んでいる。
カセットと呼ぶように、数種の歯数のギヤをライダーの脚質、コースに合わせて選択して、大きい順からリヤホイールに取りつけてある。
慣れると簡単に着脱 交換ができるところからカセットという。

これも洗ってやろう。この何でもないような思いつきがこのあと「出走辞退」の文字がアタマをよぎるほどの大失敗の始まりだった。
ワシのこの5か月間に犯した唯一にして最大、最悪の失態であった。

好調な人間が困難の奈落に落ちて行く展開を読者は喜ぶ。
ワシの失敗を読者はココロの奥底に潜む悪魔と共に望んでいるのだ。
そーゆーひとほど 「どーした ん だいじょーぶかい?」 なーんていいやがる。
圧倒的に駄目なのを確認したくて 「だいじょーうぶかい?」 って聞くんだから悪魔に違いない。

だとすればワシのこの展開は大衆文芸の王道を歩んでいることにはなるが、このときは本当に参ったんです。
「あっ?!」 っと言ったきりしばらくは固まって、そのあとはへなへなと尻もちをついてしまいました。
ナニがあったかというと、ネジを割ったのです。リヤ軸にギヤカセットを取り付ける部分のネジをオーバートルクで捩じ切ってしまったのです、修復可能レベル値=計測に達せず。

リヤの10枚ギヤは車両から取り外さなくても、布で丁寧に拭いたり凹んだ部分は布をブラシのように隙間に入れて前後にこすって綺麗にしてやることは出来ます。
普段はそうしています。
だからひどく汚れていたりはしていないのですが、おしぐれ‥(2)でお見せしたようにフロントギヤを、(6)に書いたようにチェーンを替えています。
これらは綺麗に洗浄したあと神棚に安全祈願をして、必要箇所にはグリスや潤滑剤を適量塗布して組み付けました。
でもリヤのカセットスプロケは暫く分解洗浄をしていなかった。

だからってどうといういうことはないんです。ギヤ歯に摩耗や損傷がなくて、しっかり固定されていて、チェーンの掛け替えとトルクのやりとりがスムーズならOKなんです。
でもね、なんだか片手落ちみたいな、スプロケだけ仲間外れにしたような、そんな気がしてね。
さいわい今日は時間がある。まだ午前4時だ。

そこでワークスタンドに乗せてリヤホイールを取り外し、さらにカセットスプロケを外してギヤを単体に分解し、1枚1枚洗浄液で洗ったのです。
分解には専用の特殊工具を使います。洗浄液は高価なホワイトガソリン。
灯油で洗うひとが多いけれどホワイトガソリンのほうが脱脂効果は高いので、潤滑剤のワックスの乗りが良くなります。

ネットでガソリンが買えるとは思っていなかったけれど、コールマンのキャンプコンロ用ホワイトガソリン4リットル缶が宅配便で送られて来てびっくりしました。
さすがに航空便厳禁のラベルが貼ってありましたがね。

ピカピカになったギヤを順番通り組み立てて、内側の位置決め溝に薄くグリスを塗って取りつけ、軸にロックリングで締め付けます。
ロックリングはスチール製のナットですが特殊形状をしていて、緩み止めの細かなギザギザがスプロケ最外側のトップギヤに喰い付いて緩み防止をします。

分解図で示さないと解からないでしょうね、そのようなひとは下の5行を読み飛ばして結構です。大勢にさしたる影響はない。

フレームのリヤエンド間距離は130mm、厳重な国際規格です。そむくメーカーは1社もありません。
その狭い空間にハブ軸と10枚ものギヤを押し込めているので、1点1点の部品はすべて縦方向の距離、つまり厚みが規制されます。
10年ほど前に10速車が発売されたとき、「もうこれが限界11枚は入らない」 と言われたのに今年シマノが11速ユニットを発売したので驚いている。
ただしイタリアのカンパニョーロはすでに11速で実績もある。でもシマノのような電動メカはない。
そこにアメリカのスラム社が加わって三つ巴の多段ギヤ開発合戦。そのハナシは別の機会に…。

その特殊形状ロックリングを専用工具でグイッと締めたとき携帯メールが鳴った。
ホラキちゃんからで、裏山のケヤキの木を先週倒したが今日それをウインチで引き出す。ついては早目に来て手伝えという内容。
そんな恐ろしい作業を来週にはエイドを控えた選手にさせようという魂胆に驚くが、へたに断って福島ポーターを断られては大変、行くよと返メールした。

時計を見たら6時だった。それからお茶を飲んで 「さーて どこまでやったっけな? おおそうじゃ ロックリングを締めるんじゃ」
くだんのリング、緩み止めのギザギザがあるから締めると特殊工具がコキッコキッと進む。
携帯が鳴ったとき、最適トルクまで工具は進んでいたのだった。

お茶を飲んで、「さぁーてと」 手につばつけて特殊工具を締めたらコキッコッ* ズルッ。 ロックリングのネジを受ける側のアルミのネジが 「ズルッ」 と。
写真を貼付しておきます。

この部品はシマノの図番を調べればスモールパーツとして入手可能。
フリーハブといって、ペダルの足を止めたときリヤ軸内でカリカリ音を立てているアレです。
交換にさほどの手間は掛からない、修復は可能なのです。
急いで入手すればエイドに間に合う。
なのに、へなへなと尻もちをつくほどの失望感に襲われたのには、もっと特殊な事情があったのです。

コルナゴちゃんがワシとこに来てすぐに、ワシはアジア最高峰自転車ロードレース”ジャパンカップ”で有名な宇都宮市の北西部丘陵にある古賀志峠に向かったのです。意気揚々と。
だが坂の途中で挫折しました。
”ジャパン”の選手がグイグイ登ってゆくこの坂をワシは下を向いて降りてきました。

まずいことに、その日ワシは宇都宮ブリッツエンの初年度ジャージを着用しておった。
降りてくるワシに登ってくるクライマーが驚いて、
「どーしました? トラブルでも‥ それとも熊が出ましたか?」
ワシはしどろもどろ。
「あー‥ いや、 急に仕事の電話がはいってのう‥」

その足でサイクルショップに駆け込んだ。
「オーナー! 何とかしてくれ 古賀志が登れん」
下北の恐山から逃げ帰る3年ほど前のことでした。

古賀志峠から逃げ帰ったときのリヤギヤはごく一般的な12T−25T、(12丁〜25丁と読みます、数字は歯数 トップが12 ローが25)
ショップオーナーがパーツリストを繰って見つけたのが16T−27Tというカセットスプロケット。
トップが16Tというのは最高速度は伸びないが(どーせそうでしょうよ)10枚の歯数の段差が緩やかなクロスレシオだから使いやすいという。

でもこれ、成長過程のジュニア仕様といって、取り付けるフリーハブボデーの直径がやや小さい設計のものに対応している。
小さいサイズのフリーハブボデーはワシの大人用ホイールに互換しないそうな。
したがって取り付かん。

「なんでそんなんショムナイもん紹介するんや!」
「旦那 まかせておくんなせー あっしに策がありますぜえー、以前に一度やったことがごぜーやす」

詳しく聞くとこうだ。
16T−27Tのカセットが届いたらホイールと一緒に知り合いの旋盤屋に加工に出す、現物を計測しながらホイール側のフリーハブボデーの外径を削って細くしてカセットを入れる。
という裏ワザ。
なるほど超のつく裏ワザだ。ワシの他にも超裏ワザの恩恵に浴している超へたれさんが存在すると知って意を強くした。

これらのパーツは、元々の厚みが軽量化と強度の狭間の寸法だから、直径を切削加工すると強度が落ちるのは否めない。
でも旦那の脚力程度ならOKでねーのー、自己責任ということでやってみっかね?

旋盤屋に出して3週間待って、出来上がったスペシャルギヤでワシは古賀志峠をようやっと登った。
ジュニア仕様だってなんだって、わしゃ登ったんじゃー。
止まりそうな速度だってなんだって、足を着かずに登ったんじゃー、文句あっかー。
裏ワザだってなんだって、ドーピングよりはいいだろう。

下北の恐山へ行ったんはその後のことじゃった。あそこの恐れ坂はスペシャルギヤでも登れんかった。
恐れ入った坂だが自動車だって難儀するんでねーの。

ともかく、シマノの補給部品でフリーハブボデーを取り寄せても、そのままではスペシャルギヤの装着は不可。
可能にするには旋盤屋に出して3週間。
急がせても今からではエイドに間に合わん。

ワシが尻もちをついて失望した理由は、こーんなに長い説明が必要なほどスペシャルなことだったのだ。

7時になるのを待ってワシはショップオーナーの私用の携帯に電話を入れた。
私用の電話番号が知らされている客は少ないが、コルナゴユーザーはクレジットカードだってプラチナだからスペシャルなのさ。
彼にだってどうにもならないことだろうがもしかしたら、作業場の引き出しに何かいいものが、加工中の何か転がっているかも知れない。

最初のコールでは繋がらなかった。
渋いお茶を入れ直して飲んでいたら向こうから掛かってきて、事情を話すと。

「ごめんなさい、今 静岡修善寺の日本サイクルスポーツセンターに来ています、ブリッツエンの合宿サポートです。戻るのは6月中頃。
エイドJAPANのことは知っています。ぜひ出場してください。
欠場しないためには、ネットでそこそこの完組みホイールを買って、12T−28Tを組んで足を馴らしてください、大会までにできるだけ走り込んでください。
その際チェーンの長さが変わるからよく確認して変速不良のないように」

「えっ? 12T−28T? そんなのあったの?」

「はい 近年のヒルクライムブームで去年シマノから出しました。普通のロードホイールにビルトオンです。
歯数に開きのあるオープンレシオですからおしぐれさんの足には平地で使えるギヤが限られるでしょうね。
それと変速ショックも大きくなりますが、ロー28Tの威力はへたれ峠でめっちゃ頼りになるでしょう」

「なんだよーっ! おらよりへだれが いーっぺえ いだんでねーがあー」

ワシはパソコンに飛びついた、午前中に発注すれば明日朝に届くものならデザインやカラーなんか何だってかまわん。
あるんだねー そーゆーのが、しかも前後セットだけだなく後輪用だけでも即出荷OK。12T−28Tも在庫あり。Amazonは偉いねえ。
痛い出費になったが発注を済ませてホラキちゃんの手伝いに行った。

ワシが幼少のころから大木だったホラキ家の裏山のケヤキは根元から8メートルほどの処で切られ、上の幹と枝葉が斜面に横たわっていた。
根元部分は山の土止めとして残したんだそうな、じきに若い枝葉が伸びてケヤキは死ぬことはないんだそうな。
根元のところまで急斜面を登って行って巨木の肌に触れてみた。水を吸い上げる音がしたような気がした。

「なんで切ったの?」

「うん チェーンソーだがや」

「そーゆーハナシでねーべ、 なぜ? 切ったのか と聞いておる」

「うん 大風の晩に ざーざー 揺れて安眠を妨げるし、もしも折れて倒れたら おらの家が押し潰される。それが理由だ」

「立派な理由だが、ご先祖さまには報告したのか?」

「うん それなんだが、幹の材が乾燥したら仏さまを彫って貰いてえ。庭の隅に彫り師の小屋をおっ建てて、手厚く迎えっから来て欲しい」

「彫り師とはワシのことか、ふむ よかろう。乾燥するのはいつだ?」

「まー 50年後だなや」

このあとワシらは、エンジンウインチから伸ばしたワイヤーで急斜面に倒された巨木の幹を曳き降ろしに掛かった。
掛かったのだがうまくは行かん、予想通りだ。

何処かで工面してきた中古のウインチは言うことを聞かず、エンストするわ暴走するわ、ワイヤーが跳ねて御柱様は滑り落ちるわ。茅野の惨劇の再来じゃー。
作業員は2名共しろーとだからそりゃーもう大変な騒ぎ。悲鳴と罵声が山峡にこだまする。山のカケスが慌ただしく飛び去る。
見かねた近所の元山林作業員の爺さま達が手伝いに来てくれて、夕刻までには何とか下まで降ろせた。

死人が出なくて本当によかった。
こーゆーことはしろーとがやってはナラン。
御柱様が転がり込んだ池の堰が壊れ、先代が大事にしていた錦鯉が全部沢に逃げた程度の代償は仕方ねーべ。

このハナシはもっと続くのだが、配送便に乗ったホイールの行方が心配だから終わりにする。どーせこの後は爺さま達を交えて酒のみだったのだ。
逃げた錦鯉が山沢を泳いで帰って来た奇跡のハナシと、木仏彫り師 俊水坊のハナシは別の機会に譲ろう。
本編はサイクルエイドの記録なのだから。

翌朝ワシは4時に目覚めた、いつもより遅かったのは昨日の山作業の肉体労働で疲れたのだ。
変な筋肉痛でペダリングが乱れたら困るが今のところはないようだ。
それよりペダリングする自転車の復活が喫緊の課題である。
ホラキはまだ起きてこないが自宅に帰って宅配便を待つことにした。

ホラキ邸から数キロ降って道端の自販機でクルマを止め、熱い缶コーヒーを飲みながら道沿いの沢を見ると見覚えのある錦鯉が数匹、流れの緩やかなところで泳いでいた。
「おーい おめらは何処さ行くだあー 竜宮城は遠いぞー 元気でなあー」

(8)に続く
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(写真の説明)
左 : リヤハブ軸にフリーボデーが取りついている状態。 この溝に(写真右の)ギヤカセットが嵌合する。
写真背後の黒皮の椅子はラボの社長椅子。

中 : 取り外したフリーハブボデー。先端ネジ部に割れが見えます。軽量アルミ材なのが仇となりました、写真右の新規購入ホイールにはスチール製が付いてきました。
フリーハブ外周溝部には旋盤加工時のバイト跡が残っています。

右 : ギヤカセット。中央のどてっとしたヤツが付いていた16T−27T クロスレシオのギヤ。 これで2万キロほど走ったでしょうか、気に入っていましたが…。
左は11T−25T 右は12T−23T 脚質、コースに合わせて選択します。出来合い車には左のタイプが付いてくるのが一般的です。

(NEXT): エイド出走時のホイールと12T−28T。  ギヤが左へ行くほど(ロー側)急激に盛り上がっています、オープンレシオの組み合わせ。
変速時のショックとペダルにかかる重さの急変は今でも好きになれません。
エアロ効果の扁平スポークが見えます、でもエレガントさに欠けるようで…。

おしぐれ俊ちゃんの サイクルエイドJAPAN 2013 (6)
2013/06/24

5月下旬
「関東甲信が梅雨入り」 の報道があった。
ところが雨の降ったのはその日の前後だけで梅雨前線は南方で足踏みになってしまった。
北関東から南東北は良い天気が続いて練習は順調。体調も良い。
気温の上がった午後でも湿度はまだ上がってきていないので爽やか感のなかで走れ、とても助かっている。

去年の夏を思い返してみると、どれも汗の記憶ばかり。

汗がヘルメット内に溜まり、下を向くと先端の溝から流れ出てフレームに落ちる。
なるたけサイドに流そうと首を振って風に飛ばす。
このとき手で前額部をキュッと押さえるとパッドに含んだ汗が絞られてビューっと飛んでゆく。

この時期のヘルメットやサングラスは汗飛ばし対策の講じられたものでないと使えない。
ワシのは遠視用レンズがシェードの内側にある二枚レンズなので汗が溜まりやすい。
水中メガネが時として近視用レンズになるように変な屈折率になると、老眼者が近眼メガネを掛けて運転していることになる。りっぱな道交法違反である。

自転車ライドで分泌した汗は乾かない、ねっとりと濃くフレームの溝や継ぎ目にまとわりついていつまでも残っている。
家に帰ったらシャワーの前に絞ったタオルで拭くのだが、すでにコルナゴのフェラーリレッドはくすんだ色になりかけている。
放置したら定着してしまうから早目のタオルは欠かせないケアだ。

シャワーが済んだら、ビールを飲みながら556を吹き掛けた布で自転車各部を拭きあげて、やっと安堵するのだ。
小屋の窓や出入り口を開け放っていてもスレート屋根の下では暑い、作業中にまた汗びっしょりになってしまう。
そのときの汗とライド中との汗とには違いがある。
色や濃度や比重にかなりの違いがあることに気づいて5年ほどになるだろうか、それまでは違うなど思ったことはなかった。

ライド中に滴った汗は平面上にあっても盛り上がっていて、振動で揺れてもしぶとくしがみ付いている。
イタリアンフレームは伝統のラグと呼ばれる継手で接合されていて、ラグの段差は恰好のしがみ付きポイントになるのだ。

あれはなんなのだろう、情熱の滓(おり)が汗を濃くしているのだろうか。
それともスペシャルドリンクのマンナン成分(後述)によるものか。
幼少期より医学 宇宙学に親しんだワシだが、それゆえその研究は先延ばしにしている。
もっと爺いになって、自転車を降りるときが来たら研究を極めようと思うのだ。もしかしたら筑波学究都市の 「がまの油研究所」 からオファーがある。
交渉代理人には、もちろん団塊屋のなーさんを指名したい。

そんな濃い汗の日が続くようになり体力が目減りしてくると、気力までも消耗してしまい計画通りに練習が消化できていなくてもカラダが止まってしまう。
日陰になっている場所を探してそこまでは踏んで行けても、「もうやめよう」 と一瞬でも思ったら、もうダメなのだ。
脱いで地面に置いたヘルメットから汗が流れ出て舗道を濡らす。石礫に滲みこんで行くがいつまでも乾かない。

「今日はもうやめよう」
二度目に思ったら本当にもうダメだ。
自転車の向きを変えてからも暑さは続く。むしろ地面の温度はこの頃から上がって照り返してくるから戻り道は負けボクサーのよう。
フォームを乱したペダルでは、「踏んでいないと倒れてしまうから義務で踏んでいるだけ」
距離を戻すためだけに踏んでいるペダルでは練習距離から差し引かねばならない。

家でシャワーを浴びながら 「ダメだなあー」 が口をつく。
ダメなのは体力なのか気力なのか。
両者はそれほど離れたものではないよね、片方下がれば一方も沈む。
そうやって負のスパイラルにはまり込んでしまうことが多かった。

今年は違うぞ、気合いが違う。
気合いが上がれば体力も上がる。正のスパイラルのなかにいる。
なぜ今年は違うのだろう。
低い湿度が味方してくれていることは要因のひとつだがそれだけではない。

去年のイベントは単独走だった。山形 鳥海山 秋田 男鹿半島、二度の遠征は単行だった。
単行は良いことも多いが、「自分の都合でいつでも止められる」 ことと、多くの場合 「その場所をゴールということにしてしまう」 勝手が許される。
そしてその理由を 「イノチの危機が迫ったのでやむを得ず」 とか 「休暇が残り1日になったから」 と自分と友人に説明し納得させてしまう。
「だから単行は良いんだよ」
との逆説をつい取り込みたくなる自分に喝を入れるべく、今年は早くから意を決してサイクルエイドのイベントにエントリーしてある。

任意の参加だから 「自分の都合」 でやめることはできるが、大勢の同志と走っているときって自分の都合なんか吹っ飛ぶよね。
吹っ飛ばしたい、吹っ飛ばしてみせる。
今年気合いが入っているのは、気合いの根っこが見えているからに違いない。

気合いが満ち、引っ張られて体力もあがった。バイクの調子も良い。
今年はうまくいっている。
梅雨が明け、本格夏がやってきてもうまくやっていける。そう思える今年の梅雨入り宣言日だった。

バイクの調子は良好で、5月初旬に前後を入れ替えているタイヤは減り具合が均等になじんでいい感じになっている。
新品に替えたのが4月初めだったから、それからひと月、約1,000kmで前後を替えたことになる。
そこからさらに今日まで1,000km走っている。
本番前に使い過ぎの感だが、初めて使うミシュランなので様子が分らないから早目に使用を開始したのだった。
もし摩耗が早ければもう1セット買うつもりだった。

サイドにひび割れ様の模様が出てきた頃が絶好調のときのミシュランの特徴と聞いていた。
なるほど細かなひび割れが認められる。
タイヤサイドのひび割れは普通は嫌だが、昔見た北の湖や小錦など絶好調の相撲取りの、ぱんぱんのカラダに浮き出たひび割れ模様と同じらしい。
これは心配ないとのことなのでこのまま行くことにする。
エア圧は推奨値の範囲で高低を試した結果7.1BARが自分とコルナゴに合うと判った。

このエア圧を試していた時期に、渡良瀬遊水地のトイレ横の水道のベンチで知り合ってその後も何度か一緒に走ったK氏はいう。
「9BAR入れないと足りないよ。7.1じゃあ おれなんかペッチャンコ、走りが重たいうえに峰打ちパンクのリスクが増える」

「あんたのブリジストンはそうでもワシのミシュランは7.1なんよ。乗り心地と走行性と耐パンク性の吊り合ったところをやっと見つけたんよ。
あんたはショップでそう言われただけやろ? 自分に合わせて最適値を決めるのも自転車の修業なんやでえ」

「じぇじぇ … 」

「あんた体重90キロやないけ、後ろから見るとホイールがミシミシ言うてよれよれ回ってるでー。スポーク数が20本では足らんのやとワシ思う。
エア圧で対処すべきことではない!」

「じぇえー! ほんと?」

「えーか、こことここを手で持って揺すってみい動くやろ、こんどはブレーキ握っておいて同じことすると、どーや動かんやろ。ガタの出とんのはここや」

「げげげっ!」

K氏のリヤホイールはスポークが1本折れていたうえに、ベアリングにガタが出て ミシミシ よれよれ どころかガタガタしていた。
ワシの指摘がなかったら事故になるところだった。
原因は … メンテ不足と体重であろう。
結局K氏のベアリングは球当りの調整だけでは収まらず、ホイールごとの交換となった。

こーゆー自転車が平気で、というより何も知らんと走っている。
自転車にも車検制度が必要だ。日本の売りっ放し乗りっ放しの風潮は目を覆うばかり、どーよ経産省、国交省。

ワシのマシーンはチェーンを替えた。
遠征やイベントの前にタイヤとチェーンを替えるのはライダーとしてのエチケットだろう。と言うより自己防衛のスキルだ。
そんなことも知らん弾丸登山型ライダーのなんと多いことか、
ハンカチを持って登校するよう教える小学校で自転車マナーも教えよ。どーよ文科省。

その後ワシは弟子入りを懇願するK氏に対し、丁稚奉公を条件に許可を与えた。
体重90キロの弟子なんか嫌じゃが、日本の自転車安全運行の啓蒙活動の一環として弟子にしてやった。

チェーンラインは文字通りライフラインだからギリギリまで交換を伸ばしていたが、馴染み時間を考えてここで替えた。
田中貴金属店に持って行けば重いほうが高価なのが普通だが、シマノのレーシンググレード 「デュラエース」 は軽さをお金で買う感じ、めちゃ高い。
見た目は穴だらけ、駒と駒を繋ぐピンにだって穴が”ほか”してある。穴を大きくすれば軽くなるが強度 耐久力のギリギリの穴。
 
付いていたチェーンの長さより1駒詰めて取りつけた。これでさらに数ミリグラムの軽量化。
何でも揃っているワシのラボだが電子秤はないので効果の程は気分。
ソックスの厚みを薄くした程度だろうが、その分を肉食って筋肉量に置き換えられる。

ついでながら。
夏用薄手のソックスにしたのでサドルを2mm下げた。
これでサドル上でのお尻の前後移動がずいぶんと楽になり、知らない土地でコースや地形を見るために上体を起こしていても自転車のホールド感が良くなった。
逆にペダルの最大踏み込みパワーは数ワット減少するだろうが、ソックスの軽量化と同時にカラダの安全を優先させた。

凄いハナシでしょう。
プロボクサーの減量と同じ努力をワシもしておる。軽くなるなら何でもするんじゃ。
出発日の前日には頭を丸坊主にして脛の毛を除毛し、爪も短く切る。
外せる入れ歯があるのなら外したいくらいだ。

爪を切るのは怪我防止のためだが、足の親指の爪だけはある程度残しておかんと踏ん張り力が低下する。
他のひとは知らんがピタピタに切り過ぎたらテキメンに踏めなくなる。ワシのペダリングは親指の爪にあるらしい。
ペダルシャフトの中心線と靴の中敷きに残る拇指球の跡を合わせるのは自転車界の常識。
拇指球とは親指の付け根のコリコリのこと、ここで踏むのだ。
猫の爪もやたら切ってはあきまへんで。

さらについでに。
脛の毛を自転車ライダーは剃るが、空気抵抗を低減するためやという通説は面白いという点では秀逸。
通説を信じているひとのために本当のことを書いておこう。これも作家のつとめや。

毛を剃っているのは落車の際の負傷の程度を一目で判断するためなのです。
手当をしやすくする目的もありますが、それは1番目ではありません。
並走するサポートカーから観察し、まだ走れるか? バンドエイドでOKか それともリタイヤか?
ペダリング力が落ちてチームのエースを引っ張る役目が果たせない、と監督に判断されれば置いてゆかれる非情の世界。プロの世界の鉄の掟なのでございます。

「お前 さがれー」
サポートカーの窓から非情な監督の声がして、クルマはエースを追って走り去ってしまった。彼のレースは終わったのです。
痛む足でゆっくりバイクを止めて路側に立ち、彼はつぶやく。

「このシーズンもエースにはなれなかったなあ、病院から出たら故郷のシチリア島に帰って親父のチーズ造りの手伝いをしよう。
おふくろは元気だろうか? 来期のオファーはあるだろうか 来年ぼくはどのチームのジャージを着るのだろうか それより また自転車に乗れるだろうか」

後方から彼を収容するエイドバスがゆっくり近づいて来て、静かに止まった。
バスのドライバーが小さくつぶやく。

「さあ乗れ ロッキー、傷が癒えたら帰ってこいよ。 再来年のチャンピオンよ。
落車前のアタックはよかったでえー。 わしゃー見とって久しぶりに膝が震えた。
惜しかったがチャンスはあるさ。 おまんが落車したんはなー、おまんが風切ってガードしとったエースから後輪を突かれたからや。
なんでかわかるか、エースはおまんが怖かったんじゃよ。

もしもあのときエースがおまんに着いて行けんで、おまんのアタックが決まっちまったらどーや。来期のエースはロッキー、おまんじゃろ。周りも文句はいわん。
おまんは遅れそうなエースを待とうと、一瞬足を緩めたな。 あんときに前輪で突かれたんじゃ。
強く踏んでいたら後ろから突かれたくらいで落ちたりせーへん。

ええか、踏めるときには踏んで行け。エースじゃとて遅れた奴は置いて行け。おまんがビッグになれるかは非情になれるかなんじゃ。
シチリア生まれはなあ、いつかチャンピオンになるもんだ‥」

エイドバスの開いたドアから覗く シルヴェスター・スタローン 似のドライバーの、半ズボンの膝には大きな傷跡が見えた。

脛の毛を剃るのは、そーゆー ドラマチックな世界のハナシなのです。しろーとは剃らなくてもいいのですが、気分だけでも非情の世界に浸りたいなら禁止条項はありません。
えっ! ワシですか? 除毛クリームでつるつるにしてますうー。
ロードで出会うひとらも みーんなつるつるのぴかぴかでっせ。
体重90キロの弟子がつるつるぴかぴかなのは、そらもー異様でっせー。

ここまで書いてふと気づく。
ギリギリ ミシミシ ガタガタ よれよれ ピタピタ つるつる ぴかぴか コリコリ ワシの文章は幼児向けやな。
そういえば。
前号(5)の文中、親切な農夫のAさんが しゃべくったセリフ 憶えていますか?

1 春になってえー 雪っこの溶けた峠さー越えで ‥
2 夏ばっぱ の家さー急いで行っでー ‥
3 秋になったればあー まむしの十匹や二十匹 ‥
4 冬には飲みごろになってっぺー ‥

本番を想定して携行品を装備して走ってみる。ウェアも当日用を着用し不具合がないかチェックする。
ウェアは風の流れがスムーズなければならんし、膝の回転を阻害する安物パンツではいかん。

携行品で一番重いのが水ボトル、ボトル本体は軽いが満タン入れると水道の水でも500グラムある。
スポーツドリンクと呼ばれる経口補水液は水よりやや重い。
距離と気候に合わせて充填量を勘案するのは余計な重さを持ちたくないからだ。

いつも調合するスペシャルドリンクはウィダーエネルギー1袋にポカリを400cc、これをよく振って溶かし合わす。
ウィダーエネルギーは他のウィダー製品より蒟蒻(こんにゃく= マンナン)成分が多いので混ざり合いにくい、だからライド終盤にドリンクの量が減ってくるほどマンナン濃度の濃い水が残る。
残り20kmくらいは濃くて出にくいマンナンドリンクを首傾けてちゅーちゅー音立てて吸う。
ここに最後のエネルギー分が溶け残っているのだ。

ワシが親しんだ幼少期からの医学と宇宙学がこんなときにも役立っている。と言うと思うだろう。
もう言わん、マンネリだから。

信号待ちに自転車跨いだ左足で縁石にスッと立ち、汗の光る首傾けてボトルをちゅーちゅー吸っててごらんなさいましね。
見ていたご婦人たちは もー堪りまへんでー。

握りしめたハンカチを思わず口にくわえてちゅーと吸いながら、
「んnまー なんて 素敵なライダーさんなんでしょう。 渋いおじさんなのに ちゅーちゅー吸って、 きゃー かーわいー」 

「えーっと Sの9018 ね。 忘れないようにケータイにメモして‥と。 
おとーさん クルマ借りるわよ。 あたし 四季の里へ行ってきます。
えーっ? なに? 何しにいくって? ふっふっふっ ひ.み.つ.」

かくして、残りわずかとなったフルーツラインのエイドコースには、S9018 のゼッケンを追っかけるご婦人たちの軽自動車やらおとーさんに借りたプリウスやらがワンサと押しかけて大渋滞。
普段渋滞なんかしたことのない道路だから白バイは面食らって本部に無線を入れる。

「本部 本部 および 応援装甲車隊長へ! こちらエイドバイ1号。 
手配の渋滞原因 S9018 発見しました。されど ババのパパラッチ団による車両群に阻まれて追尾不能。上空より追跡ねがいます。
一味は時速約25kmで南西方向 福島四季の里方面へ逃走中! なお 後方からの接近は危険です、容疑団はバックミラーなど見ないパパラッチババ連です、略してパパババ連です。
この連は極めて危険です。
日焼け予防のため窓をピッタリ閉めてサイレン音など聞こえません。聞こえたとしても自分のことだと思わない特性を有します。
側方の桃畑の農道より回り込んで、挟み撃ちの 一網打尽の 袋の鼠作戦がよろしいかと… 本部 指示ねがいます。 どうじょ」

ワシらは逃走しとるワケではないんじゃが、職務忠実のエイドバイ1号はつい職能専門用語でしゃべるからハナシがややこしくなる。
傍受した覆面パトカーが赤色灯を屋根に乗っけて、

「事件は現場で起きとるんじゃー、管理官のわしが指揮をとるーっ」
とか言うもんじゃから それを見た消防車だって、

「ンナローっ! 原発で名を上げた福島レスキュー隊をなめんなよー」 
鳶口 纏 エンジンカッター持って駆けつける。

エイドJAPANの本部も大騒ぎだ。
「S9018 って誰よ? なにーっ! 国際手配の大物テロリストやてーっ?」
「鉄の掟とか イタリアのコル‥ なんとか言うてます…」
「イタリアのコルシカ島か! マフィアの本拠地や。 そらー大物やで … ゴルゴ13でないと太刀打ちでけん」
「そんなんにゼッケン発行したんは誰よ、引責問題になるでや。第三者委員会を要請せにゃならん」
「それより観客を避難させろ 入り口を封鎖しろ 豚汁鍋の火を消せー 参加賞のTシャツを隠せーっ」

ワシの筆致はどーして こーなるんやろ? もうマンネリやで。
早よう元に戻せ。コルシカ島やないて、コルナゴやー。

ドリンクボトルの中のマンナン分はそれ自体には栄養も滋養もない食物繊維じゃが、胃に入って消化吸収がゆっくりなのが特徴。
それゆえその食物繊維にパワー源の糖質とビタミン ミネラルを捩じ込むと、持久連鎖型BCAA(バリン ロイシン イソロイシン等)の補給食となる。
ナトリウム カリウムはポカリから補給してワシは、パパババ連の大応援団を引き連れて最後の坂を登るんじゃーっ。

おいーっ!(怒)


(7)に続く。


(貼付写真の説明)
左: タイヤの灰色部分に浮いて見える ひび割れ模様、これはOKなのです。
   8 BARS(116 PSI)の文字は推奨エア圧 MAX値、 旧JIS表示で約8kg/平方cm
右: ミシュラン プロ4 ENDURANCE 
   チューブ口金 のナットやキャップが取り去られています。ねらいはひとつ軽量化。




hoo lucky 様 という読者より 〒メールをいただきました。ありがとうございます。

ホー ラッキー様 はて? どこかでお目にかかったような‥
メールの内容はワタクシへの叱責と解釈をいたしておりますが、がんばれと応援してくださっているような気もいたします。
そのままでは掲載できない禁掲示な部分もございましたので、一部抜粋を下記にご紹介させていただきます。

ご指摘の件につきましては、誠にごもっともなことと 深く恐れ入る次第にございます。
ご高説へのお返事は次号(7)の本文にてさせて頂きたく、暫くの猶予を賜りますようお願い申し上げます。
syn


            記 (読者様〒メール抜粋)

早くエイドJAPAN2013を開幕させてください、私たちは一刻も早く おしぐれ へたれさん のヒルクライムの雄姿を見たいのです。
へたれとはいえ登り切ったとのことですから、その重厚かつ華麗なるテクニックをご教授願おうと、遅々たる展開を我慢して待っているのです。

へたれな駄洒落に付き合っているほど世の中はゆっくりではありません。
梅雨の雨が続いているうちは私たちもロードに出られないから我慢して読んでいますが、この調子では秋風が立って木枯らしが吹いてサンタクロースが来て初積雪になってしまいます。
年が明けたらもう次のエイドJAPAN2014のエントリーが始まるのです。

私たちが2014のエイドを走る頃、あなたはまだ2013のゼッケンを着けたまま、今だフルーツライン周辺で騒ぎを起こしているのでしょうか。
そんなことは想像したくもないことですが、なんだか現実味もあって、それはそれで凄いことかなって … 凄かねーよっ!(怒)

お願いですから舞台を6月に進めてください。白石市ホワイトキューブにステージを移してください。
開会式の様子などは割愛してよろしいので市長さーん、 早くスタート号砲を ドン してくださいましな。

さほど多くはない読者を代表してお願いと勧告を申しあげます。
 hoo lucky  かしこ

おしぐれ俊ちゃんの サイクルエイドJAPAN 2013 (5)
2013/06/21

5月中旬。
白のバーテープが巻かれたワシのコルナゴは端正さが際立っていた。
1,900年代ワールドシリーズ チャンピオンシップを総なめした 「オリンピコ」 の威厳をそっくり受け継いだ 「マスター」 は王者の風格ムンムンである。
前号にも書いたがワシは、ワシとこの 「マスター」 を女だと思っているから女王の優雅さと気品、と言い直させてもらう。
細身のクロモリフレームは、トップチューブが地面と水平になるホライゾンと呼ばれるフォルム。
これをしてピュアイタリアンの正統という。

近年のカーボン車の多くはトップが後傾したスローピングスタイル。材料の総量を減らして軽重量に仕上げることには成功したが格調美を捨てた。
マウンテンバイクにドロップハンドルを付けたような 「異形」 の自転車はイタリアンとは言えないし、事実彼らもそう言わない。
うしろめたさを感じたまま作る自転車ではロクなものではあるまい。
最初の自転車を創ったレオナード・ダ・ヴィンチも、こんなカタチへの進化は望んでいまい。

小屋に置いて飽かず眺め、なでたり さすったりしている。
自転車が男だったらこんなこと(なでたり さすったり)出来るもんかいな。
夕暮れにワイングラスなど手にしていると、へたれな自転車小屋がベネチア王朝の格調テラス風サイクルラボに映るのだから凄いものだ。

ふちの欠けたワイングラスでも、ベネチアン格調テラスのラボである。
端正なる江戸切り子のグラスを用意して、冷やした日本酒 會津誉れ なんかだったなら、もー へたれ小屋はたちまち絢爛の花魁道中に早変わりでございますなあー。

こーゆーとき(辛口の大吟醸を出したとき)に、きまってやって来るのが辛口というより悪口のホラキちゃん。(ほら吹きアキちゃん: 前出は (1) 2月の項をご参照願います)
いわく 「掃きだめの鶴」 はたまた 「猫に小判」 いーや 「豚に真珠」。
などと動物ネタで比喩するから、
「馬の耳に念仏」
とやり返す。
せめて 「とんびが鷹を‥」 程度にして欲しいものだ。

あまりに風格ムンムンしていては万一、あくまでも万一だが‥若しもライダーがへたれて止まってしまったら、息を飲んで詰め掛けた大観衆の前でキラキラのイタリアンバイクを止めてしまったら、
あまりの期待外れ感から民衆の落胆は怒りに変容して、その矛先がコルナゴちゃんと彼女の生国イタリアに向かう恐れがある。
それは的外れなのだ。あまりにも的外れなのだが、わが国では 「判官びいき」 の伝統的風潮が根強い。特に保守王国福島では‥。
見るからに風格で劣る、だがどこか憎めないライダーのほうを庇ってキラキラのコルナゴちゃんにバッシングが向く。
「やい イタリアン! おめー なんだって止まるんだー  騎手は必死にムチをくれてっぺー!」 となる。

そーなのです、福島は競馬が盛んな土地なのです。JRAの福島競馬場、勇壮な相馬の野馬追。
野馬追は競馬ではないが千年以上も続く北面の武士の面目を賭けた騎馬合戦だから、命がけの度合いが半端ではない。
毎年死人が出ないのが不思議といわれます。
普段鍛えたアスリートと彼に育てられた相馬の馬が信頼で繋がり合って、互いに命がけで戦うと死人や怪我人は意外に少ないものなのですね。

諏訪の御柱祭でもたまには死人が出ますが、酔いすぎた御神酒の勢いで茅野の逆落としの御神木に跨ってはいけません。
一方福島では朝からフルーツラインの土手の上に陣取って、実づき始めた桃の実の甘い香りなんか嗅ぎながら 「會津誉れの冷や」 をちびちび遣ってエイドの車列がやって来るのを待っています。
いまやサイクルエイドは、田植えを終え梅雨の時期を迎える前のこの地域の風物詩として定着したのです。

復興が進みエイドの名が取れれば、ツール・ド・東日本 と名称を変えて存続するでしょう。
その日までワシはエントリーを続ける所存でございます。

「来た来た来たーい たーがやー!」
これは落語の 「たがや」 でございますな。
「おう なんだってぇー 熊公、それでおめー そのイタリアンなんとかいうキラキラを放っておいたんかい!
馬鹿野郎ー、 還暦過ぎたご隠居が、老い先短けーのを承知で命がけのライドをしていなさるのに、そのキラキラは止まっちまって動かねーだとぉー。
勘弁ならねー  野郎ども、鳶口 纏 拍子木を用意しろい! これからご隠居を助けに行こーじゃあねーか。 邪魔する奴あー はね除けろいーっ。
熊公! おめーはご隠居を背負ってゴールの四季の里とやらへ走れ。 あとのもんはイタリアンだかミートソースだか知らねーが、そのキラキラを袋叩きにしろーっ! 火の中に放りこめーっ!
かかあー! 刺し子の半てんを出せい。おーし 行ってくらい、火打ち石を 思いっきり 打てえーっ!」
これは 「め組」 の良太郎親分ですな。

そうとなれば普段温厚なイタリア人だって負けてはいない。パンツェッタ・ジローラモだのベルルスコーニみたいな親爺がいっぱい日本に来ている。
折しもFIFAのコンフェデレーションズカップ戦、日本とイタリアは決勝リーグ出場を賭けて同じ予選リーグを戦う組み合わせが発表されている。
絶対に負けられない相手であるからブーイング合戦は妖しい熱をおびて局地的テロに発展 ‥ フクシマは再び火の海に ‥

そーゆーことはわが国と伊国との長い友好の歴史に汚点となる。
汚点ではすまねー。 ピリオド点になってしまったら動乱の始まりだ。
東日本への復興エイドなのに勢い余って国際紛争の火種をワシが作ってはならん。
なんとしてでも自力完走を果たさなければ地球の平和に危機を呼んでしまう。
それは大げさだから地球規模のことはスパイダーマンやアトムに任すとしても、
長い間ワシに尽くしてくれたコルナゴちゃんに、嫁いだ国で生まれた国への罵声など聞かす訳には参らん。 断じて参らんぞ!

この週ワシは完走へのプレッシャーでビールの量が増えた。
ワシのへたれ脚は東日本の、ひいては地球の平和安寧を担っている。
自作自演のプレッシャー劇を小屋でひとりで上演して、ひとりで感涙して、ビールを多めに飲んでいたというのが正しいのだが…。
しかしこの考え方はあながち誤りではあるまい。

そこでワシは一計を案じた。
国際紛争とならないためにはワシが完走することが第一義なのだが、保険もかけておこうという秘策である。
元々紛争危機の原因は、わがコルナゴ号の風格ムンムンにあった。
この風格は譲れないからそれは担保したまま、万々一へたれても苦笑して許せる 「キャラ」 をコルナゴ号に付与しておいて、民衆の怒りを中和しようという奇策である。

前号(4)の写真をよく見て欲しい。
メタ朱色のフレームを写した写真、トップチューブに何か貼ってあるのにお気付きであろう。
POP YOSHIMURA ENGINEERING と読める朱色地に白文字のステッカーである。

じつは2枚のステッカーが連ねて貼ってあるので1枚に見えるが元は 「ポップ ヨシムラ」 と 「モリワキ エンジニアリング」 2枚あるのだ。
オートバイをたしなまれる読者はすぐにイメージできる有名な ヨシムラ ステッカー。レッド ブルなんかよりそのオーラは数億倍。
6cmx8cm程のものだが、直径3cmもないコルナゴのトップチューブに貼るとこう見える。
参考までにワシのトランスポーター背面に貼られた同じステッカーをお見せします。

 
   ここに写真が入るかなー?



オートバイチューナーのポップ吉村秀雄氏はすでに故人だが、弟子で娘婿の森脇護氏は現役のオートバイ エンジニア。
ふたりで戦後日本の二輪レース界を引っ張ってきた。
進駐軍の兵士の日曜の娯楽は飛行場でのオートバイレース。
吉村の手がけたオートバイは何故か速い。メーカーチューン車を軽く抜き去る。
日本中のUS エア フォースの滑走路に吉村のプライベート ジャパンエンジンの音が高らかに轟いたのです。
やがて吉村は米兵の間で 親爺 を意味する ポップ ヨシムラ と呼ばれるようになりました。

最近、「沖縄の米兵は風俗店を利用しろ」 と発言して思いっきり叩かれた大阪のご仁は、
「米兵に限らず若者よ、そーゆーときにはオートバイか自転車に乗れー」 と発言すればよかったのに…。

ポップは狭隘な思想の日本二輪メーカー首脳陣との度重なる軋轢を嫌ってアメリカに渡りました。
日本に居場所がなくなった、それほど大メーカーと喧嘩したのです。本田宗一郎氏との喧嘩は有名です。

ポップはカリフォルニアに工場を借りて輸入日本市販車のエンジンを改造したヨシムラ チューンを次々に作り、逆に日本のレース場に送り込んでホンダ スズキ ヤマハのファクトリー車をめった切り。
ワシら貧乏な、それでも情熱だけはメーカーチームに勝つと信じるプライベート チューナーたちの大喝采を浴びたのです。
ポップヨシムラのロゴが記された部品は高値で取引され、やがてステッカーそのものも商品として成功したのです。

お金を払ってステッカーを買う、という現象はそれまで聞いたことがありませんでした。
コカコーラなんか新聞紙大のでもタダで何枚もくれた。

なぜなら、それは文化だから。
ひとより速く走らせたい、ひとより高くまで登りたいと願って、可能な限りの努力をすることを文化というのやないけ。
ちょんマゲを切り落としただけでは文明開化とは言わん。そのアタマになにを被せるかを考えるのが文化なんや。
ワシらはヘルメットを被せるのを選んだんじゃ、大そうな文化やないかい。
そしてそのヘルメットにヨシムラのステッカーを貼るのがステータスだったんじゃい。

アメリカ カリフォルニア辺りの海岸通りをヨシムラステッカーの貼られたスーパーモンキーを押して歩いていたら、「ポップの知り合いか?」 と聞かれる。
つい 「yes my name ヨシムラ」 なーんて答えたら大変だ。
地元テレビ局はくるわ パトカーはくるわ 終いにはアーノルド・シュワルツェネッガー 州知事がスズキのカタナに乗って現れて 「タンクにサインしてくれ」 って。

二輪メーカーの社員が休暇をとり、会社には内緒でアタマを下げて教えを乞うため日本からやってくる。
そーゆーステッカーなのだ。
愛弟子の森脇が手曲げで仕上げたパイプは、黙って100馬力をエンジンから余計に捻り出すから日本ではもとより米国では国宝あつかい。
そーゆーステッカーなのだ。
Red Bull なんか足元にひれ伏して当たり前の当然なのだ。

ハナシが熱くなって恐縮です。
では何故、コルナゴにヨシムラを?
ポップ親爺の情熱を引き継ぐためと言えば恰好よくこの項を締められるのですが、ワシはアスリートと同時に作家やから、そうは簡単にページを閉められまへん。

誰かに頼まれたわけでもないのに坂を自転車で漕ぎ登る、坂の上にお金が置いてあるわけでもないのに喘ぎあえぎ登ってゆく。
登ったら降りなならんから今度は汗も凍る速度で降りてくる。
結局、獲得標高はゼロや。本人の記憶に残っているだけ。

一見 阿呆と思える自転車の坂登りを、これは、いーや これが、 文化なんやと証明するのんが作家のつとめ。
エイドJAPANに出ようと思った本当の狙いは作家の仕事をせんがためや。かっこええのう。
もう少々つき合ってもらいます。

端正かつ風格のコルナゴのフレームに、妖しムードの漂うヨシムラステッカーを貼ったのは、冒頭のイタリア国との国際紛争を回避するワシの奇策いや秘策。
万々一、へたれて止まったのが會津に続くフルーツラインにある桃畑のあぜ辺りだったとしょう、あくまでも仮定のハナシや。

立つのもままならないワシはあぜにへたり込む。
支えを失ってコルナゴも倒れ込む、畑で桃の摘花作業などしていた農夫が(仮にAさんとしよう)、驚いて駆け寄る。
 
「あれまー おらほの福島さー元気づけっぺと、走って来でくれたおひとでねーが。 へーたれこんでー 泣いでいなさる。 もし! 旅のひと しっかりしなせえ。
水を飲ませでやりてーが ここは桃畑だで水っこはねえだ。 どーしだら よかんべえ。
おおっ! 見れば自転車に水筒が付いているではねーが、よしっ これを飲ませでやんべー」

親切なAさんが水ボトルを取ろうとあぜの上から屈んだそのときに、目に入ったのがヨシムラの文字。
この角度ではコルナゴのロゴは見えないのだ。

「おおっ! ヨシムラでねえけ、なにっ! モリワキも。 
こりゃー てーへんだ。 おらが青春の一時期をグレもしねーで とーちゃんの畑さー継いで 桃っこ農家になれだのは ヨシムラバイクがあったおかげだあ。
とーちゃん おらに東京さ逃げられだらば一大事だってんでな 村で一番でっけーバイクを買ってくれだんだあ」

「嬉しぐってよー ヨシムラの強化クラッチぶち込んでー モリワキの集合管さーひっ付けでぇ 春になって雪が消えだ峠さブワーッと越えで 會津さー走って行ったんだあ。
したればよ、なーんと。 
おらのバイクがカッコえーって寄って来たおなごが いまのおっかーだあ。 名前は八重っていうだ。
おらあー ヨシムラとモリワキには けーっして忘れではなんねー でっけー 恩義があるだよ」

「おーい おっかー うちさ走って まむし酒持ってこー 旅のおひとに飲ませるだー。
ヨシムラは おらだぢの恩人だー 憶えてっぺー。  おめも モリワキの排気サウンドに痺れたっぺー」

「なにー? ゆんべおらがぜーんぶ 飲んじまっただとー! どーりで ゆんべの夜は燃えたっけなや、だとー? そーゆーハナシでねーべ。
となりの お夏ばっぱ んとこさ行って ありったけ借りてこー! なーに秋になったれば まむしの十匹や二十匹すぐに獲って来る、冬には飲みごろになるだっぺー」 

かくしてワシはAさんのとなりの お夏ばっぱ のまむし酒で蘇り、コルナゴは異国生まれだということを気取られず、国粋気質の強く残る福島北部盆地を村の衆に送られて無事に駆け抜けることができたのでございます。
国際紛争は見事に回避されたのでございます。

というふうに この物語を決着つけたいのですが、よーく考えてみるとサイクルエイドはまだスタートの号砲が鳴っておらんとです。
まだ5月中旬のころのハナシを書いておったとです。
エイドJAPANは6月初旬だあ。

ホラキちゃんが食い下がる。
Q ヨシムラステッカーをトップチューブに貼った理由はなに?
A 端麗すぎるコルナゴを少しばかり 「とぼけたキャラ」 にして村人に馴染みやすくしようという奇策です。
  すでに説明の通りです。

Q なぜヨシムラなのか? 
A この位置にはかつて宇都宮ブリッツエンのチームステッカーが貼られていましたが練習中の滴る汗で粘着力がゆるみ、剥がれてきたので貼り替えたのです。
  その際にヨシムラを選んだのは、村人Aさんと同じノスタルジーからでした。あまり言いたくはなかったけれど‥。

Q んじゃー そもそもなぜ? 端麗風格の美しきメタ朱色のトップチューブにわざわざ異なものを貼ったの?
  市民には納税の義務があるけんど、家の玄関に貼付が義務付けという訳でもない宇都宮ブリッツエンのステッカーを、なぜ貼ったの?
A ホラキちゃん、あんたも シツコイのう。それを言わせたいの?
Q うん 聞きたい。しらふで聞けるレベルならね。
A もう飲んどるやんけ。ワシ明日も早く練習に行くんや、早よ寝えーし。
  これからはワシの独り言や、はよ寝ろし。

華麗なコルナゴちゃんがわが家に来て1年ほど経ったころ、ある日ワシは渡良瀬遊水地を走っておった。
このころはまだ若かったから100kmを4時間以内に走るのが練習じゃった。
じゃが風の日は4時間を超えてしまうこともあって、その日は風を避けて湖畔の周回路に降りて行ったんじゃ。

ウインドサーフィンの連中は風の日が好きやから大勢来ていてな、あのでっかいボードをふたりでアタマに担いで湖水のほうに運んでおった。
ワシは風に向かって頭をさげて下ハンを握って走っとった。
前方のボードを発見したときは間に合わんかった。
左の駐車場に向けて回り込んだんじゃが、車止めの鉄柵にまとわりついてやっと止まった。

そのときトップチューブの中央に深い擦り傷がついた。
傷は自転車乗りの勲章や言うが、それはカラダの傷のこと。
肩の打撲はひと月で治ったがフレームの傷は残った。

コルナゴちゃんは何も言わんかったが、ワシはおなごのカラダに一生消えん傷を残してしまった。
傷は汗を沁みこませたら内部の鉄に錆びが及ぶ。ワシはおのれのミスでおっかーの華麗なフレームに傷を与えてしまったことを恥じたよ。
そのときのことはいつまで経っても忘れられん。

再塗装は本国に送らな上手には出来んのや。
フェラーリレッドは日本には塗装マニュアルも塗料もないんじゃ。世界中どこにもない、イタリアのカンビアーゴっちゅうコルナゴの村とフェラーリの工場にしかないんじゃ。
じゃから、ステッカーを貼って傷を覆っておるが、貼れれば何でもええわけじゃない。
レッドブルではだめなんじゃ。
コルナゴかあちゃんがウンと言ってくれない。ACミランのエンブレムでもダメなんじゃ。ヨシムラでなければいややーっ と言うんだよ。
なんでヨシムラを知っとったんじゃろなあ、変わったおなごじゃろー。

おい ホラキー なんだ寝てしまったんかいな。


(6)に続く
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おしぐれ俊ちゃんの サイクルエイドJAPAN 2013 (4)
2013/06/19

5月2週目 大会事務局から参加通知書が届いた。
公式ガイドブックのほか 当日受付に提出する参加者証や誓約書 ゼッケン引き換え証 スタート ゴール地の周辺見取り図などが入っていた。
ゼッケン番号は初日 S8028、 2日目 S9018
Sは白石ステージ、8は6月8日 9は9日 そのうしろがエントリー順らしい。

思った通り若い番号で、エントリー総数や 一緒に走る人数は分らないが東京マラソンほどの混雑にはならないだろう。
もしそうだったら、走路の交通規制が必要だし前泊者の収容施設が市内だけでは足りない。
東北新幹線 白石蔵王駅は特急が停まらないローカル駅だが、この週はすべて停まる特別措置をJRに要請し、警視庁からも警備の応援部隊と白バイの精鋭隊を派遣してもらわねばならない。
万一に備え日赤からAED装置をありったけ借りて峠道の要地に配置し、地域のおもてなし婦人会を集めて使用法の講習。
自衛隊にはヘリコプターのほか上空にP3C哨戒機を待機させ、搭乗員には命知らずの空挺部隊を指名する。
コースにイノシシが出るかも知れんから彼らには実弾使用の許可を出さにゃならん。
キリンから10万本の飲料水、ドールバナナからは1万ケース、森永 明治 大塚などからエナジーフーズ10万個の寄付を取りつけなければならん。

そしてここが大事だ、日比谷花壇からは100万本のバラを喜捨させてコースを飾るのだあー。
待てよ! バラはいかん、トゲで自転車がパンクでもしたら、わしは腹を切らんにゃーならん。任期はまだ2年も残っとるのに…。
そーじゃ この辺りは桃 栗 柿の産地だ。フルーツの花で飾れーっ!
なにーっ! もう散りましたぁー? むむむ 白石うーめん を1,000万把(わ)コースサイドにおっ立てて目印にしろーっ!
ええかーっ! これはわが市の浮沈命運を左右する一大イベントぞーっ。 

ワシは白石市長になりかわり、政治生命を賭してこの難局に立ち向かう覚悟であった。
毎朝家を出て庁舎に向かうときには、起床のあと必ず墨書にて書き直した辞世の句を懐に納めていたのだ。

 「白石の 山に向かひて言ふことなし 走れエイドよ フクシマ向けて エイド えいど」

こーゆー大局的見地からこの大会を見ていた参加者は少ないぞ。
ほとんどは 「早くゴールしてビールを飲むベー 賞典はなんだっぺなや 今年もTシャツだけかあー」 なのだ。
まあそれでもよい、参加してきたことを褒めてやる。エイドの意味がわかっていても いなくても。
幼少期より医学と宇宙学に親しんだ Dr おしぐれはそう思うのであった。

ちなみにエイドはAID(一口に言っちゃえば援助、例:バンドエイド)である。AED(自動体外式除細動器)とは一脈通ずる処あるような気もするが別やからねえ。
なに! 同じや思うとった? そーゆーひとは それでええ。

ガイドブックによると自転車を運んだトランスポーターは会場に置けないそうなので、前日は早目に現地入りして駐車場を確保しなければならない。
2月の下見のとき地図で見て予約を取っておこうと行った会場近くのホテルは、地震の影響を受けて取り壊され更地になっていた。
そういう更地や空き地はいくらでもあったが、そこへ無断で置くわけにはいかない。
辺りを徘徊するうち当りをつけたのが、スーパー銭湯 「ゆっぽ」。
ここで風呂に入ってビールを飲んで食事もして、洗濯は隣接の24時間ランドリー。
駐車場のトランポ内で仮眠して朝になったら駅前の市営有料駐車場に入れて自転車を組み立てて、それを押してコンビニまで50m歩き、朝飯を食べてコーヒーも飲んで会場まで50m。
余裕時間は周辺を走ってウォームアップ。

じつによく出来た行程表である。完璧である。
そして実地検証のすごいところはまだある。
白石蔵王駅は始発の改札が始まる朝5時50分までは入り口ドアが施錠。したがってトイレは使えない、顔も洗えない。
一方、駅前駐車場は無人ゲートの24時間オープン。
最初の30分は無料、以後50円毎が加算されるが24時間置いても最大600円。
これなら早朝に出入りしてコンビニでトイレを使って戻り、携帯食のカロリーメイトなど買いにまた出ても30分内ならタダ。

ワシが最も力点をおいたのがトイレ。
自転車乗りが最も気を使うのがお尻やからねえ。
駅前駐車場周辺300m圏内には3店舗のコンビニがあった、いずれも24時間やっている。そのうち温水洗浄便座を完備しているのは1店舗だけ。
ワシらは紙を使わない、温水噴射でよーく洗ったら乾くまで待つ。
万一紙の繊維がお尻に残ったままサイクルパンツを履いたら擦れの原因になるからだ。
お尻の擦れはパフォーマンスを引き下げてエイド ライドを台無しにしてしまう。

駅から一番近いコンビニはスタート会場となる市のスポーツ施設 「ホワイト キューブ」 との中間点にあたる50m地点にあるが、温水洗浄が付いていない。
ここでは食糧の買い物はしてもトイレは使えない。
一番遠い300m先の温水コンビニまで歩いて行くかトランポで行くか、それは当日のお天気と駐車場の空き具合で判断すればよかろう。
直感的には駅前有料駐車場はいつでも空いている、ガラガラである。自転車を降ろしたり着替えをしたりに便利な角地の位置をキープするのはわけもない。
だって駅や会場の周りは更地に空地と草むらだらけなんだもの。
300m圏内にコンビニが3店舗もあって、しかも24時間開いているいるなんてワシのために開けているようなもんやで。
下見は重要なことですなあ。オラはすでにこの時点で半分勝利したといえる。

参加者証が届き、いよいよ決戦モード突入である。
出発1週間前までは肉を主に食って筋肉を赤色に染め上げる。瞬発系の筋肉は赤色筋だ。
特にビタミンB群を多く含む良種タンパクの豚肉がよい。豚トロ焼きをワリワリと食う、ビールはモチベーション食だから大いに飲んでよろしい。
信奉するTarzan誌に書いてあるのだから文句なかろ。
すでにアスリート体形が定着していたから体重の増加などは無縁だ。
1週間前からは ご飯 パン うどん 餅 等の炭水化物(カーボ)でスタミナを体内に蓄積する。
これは試合直前に摂取した分しか貯蔵できないのだ。

だから国際トライアスロン大会の前夜祭では肉など出ない、千切りキャベツに岩塩、ご飯にパスタそれに餅に味噌と豆腐だ。
飲み物は豆乳のみ。
これをカーボパーティというのだが日本のご飯はじつに美味いと評判がよい。
ワシはコンビニの 塩むすび だけ食って オレンジジュースを飲めばイノシシ坂だって熊坂だって乗り越えられる。

練習で無用な怪我をしないようにサンデー ライダーの多い土日はロードに出ない。小屋でマシンの最終メンテをする。
ハンドルのバーテープを巻き替えた。
丁寧に、ココロを込めて巻き上げた。
最後の緩み止めのエンドキャップを押し込んだとき両脇が汗びっしょりだった。

テープはいつもの黒いテープを剥がして白を巻いた。コルク粒の入ったノンスリップタイプである。
「黒は挑戦者が使うべき色、白はローマ法王の法衣の色だから下々の者は遠慮いたせ」 ワシは常々そう言ってきた。
(拙著: 自転車屋おやじ独白シリーズ(3) バーテープ 2013-01-12 (団塊屋内) にバーテープの選び方 巻き方 歴史的背景などの記載がございます)

今回禁を冒して白を選んだのには訳がある。
コルナゴ本国のローマ イタリア伝統宝物館。自転車のコーナーにワシのコルナゴ マスターの原型といわれるコルナゴ オリンピコという自転車の国イタリアを代表する世紀の名品が所蔵されている。
それは激戦の跡を綺麗ななメタ朱色に再塗装されてはいるが、見る者に往時の感動を呼び起こさせ、思わず涙を誘う逸品である。
このメタ朱色はフェラーリ レッドとも呼ばれ、滅多なものには許されない いわばお国の色、ナショナルカラーなのだ。
当時5大陸王者の名を欲しいままにしたオリンピコ号は、名手 ジョゼッペ・サローニのライドを得て1980年代を連戦連勝、イタリアにコルナゴあり。
今も語り草のチャンピオンマシーンだった。
メタ朱色に白の胴抜き塗装はサローニ カラーと呼ばれ、そのままワシのマスターに継承されている。
5大陸制覇の5色のストライプに小さく world champion と記されている。だからってワシに力が宿るわけではないが … 言いたい。

そのオリンピコ号のハンドルに、クラシックな曲がりのハンドルに、ジョゼッペ・サローニが握った汗の滲みこんだハンドルに、巻かれているのが白色のバーテープ。
よく似合う。
サローニ カラーのコルナゴに一番よく似合うバーテープは少し汚れた白なのだ。

ワシのコルナゴはマスターという名前だが女だと思っている。乗った感じは硬めだが、そういう女だと思っている。
6年前に嫁いできたとき、イタリア風の白いドレスの花嫁衣裳を着せてやることは出来なかった。
資金の全部を購入費用に当てたので余裕がなかったのだ。それは今でもかわりはないが…。

白のバーテープが花嫁衣装のかわりでもいいかい? ずいぶん遅くなったけれど やっと白を巻く機会が来たよ。
日本ではねえ 白は死に装束、滅多なことでは使わない。
いーや 不吉な色ではねーだよ、家族を送るときの愛情の色だ。二度とは会えん覚悟の色だ。
だから日本では不幸のときにも幸せの日にも白なんだ。 前祝をすっぺー。
おい 聞いてるかー フェラーリレッドの コルナゴかーちゃんよー。

(5)に続く
syn

写真 左: 白いバーテープの巻かれたハンドル部、雨中走行の汚れがやや見えますが綺麗に巻かれていますね。ライダーの人柄がうかがえます。
      中央前にあるのはサイクルコンピュータ。
      さらに奥の床上にたまたま写った練習用ローラー台の負荷装置が見えます。

    中: コンピュータ画面、数字は最終日ゴールしたときの消費カロリー。1,017kcal/58.08km/2時間44分35秒でした。エイドタイム中は時計を自動停止します。
      大きい0は 車速 ペダル回転数 心拍数 写真は測停止中。     ↑ 上の数値は記憶された当日の頑張り値。
      標高差231mに対し1,017キロカロリーは軽い練習程度やねー。 どんなもんじゃーい! と威張っていますが実態は?

    右: 泣く子も黙るコルナゴブランドロゴ
      フェラーリレッドに白の胴抜きは30年以上変わらないジョゼッペ・サローニ仕様のスペシャルオーダー。
      会場でその細身なクロモリフレームの華麗さはカメラマンのレンズを独占しましたが、そばのライダーは無視。
      悔しいからまだ全体写真は公開しませんよーだ。

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