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おしぐれ俊ちゃんの ロード歳時記(6) 四度咲き桜 五
2013/11/11

午後は庭に出てガーデンプチ宴会となった。本日もとびきりの秋晴れでございます。

酒はもちろん四季桜。本日もすこぶる美味芳醇なり。
料理はお春さんが味噌と醤油だけでチャチャッとこしらえたという河原のきのこ鍋。この辺りでは山に入らずとも鬼怒川の河原で数種のきのこが採れるのだそうです。
ただし食用になるきのこの近くには厄介な奴がいて、落ち葉に隠れてよそ者の盗採を見張っている。
お春さんはゴム長を履いて長い棒を持って、カゴ一杯のきのこと2匹のマムシを獲って来たとケロリと話します。

「そのマムシ、どーするのですか?」
「お望みなら鍋に入れまひょか」
ひえ〜 このひともただ者でない、源蔵さんの縁者はみなワイルドでかなわんなあ。

以前の河原は石ころだらけで土や草はなかった。
水勢が運んで来た砂が残って一部に砂州はあったが、清流で洗われた砂は完全無機質なので草は生えない。リンも窒素も含んでおらんかったんじゃ。
草がなければ虫も棲みつけなくて、雲蚊さえいない河原は砂漠より沙漠とした風景。その潔さが好きだったと老人は昔を懐かしむ。
小魚や水中の虫を食べに飛んで来る鳥類が、しばし翼を休めて立つ以外に陸上の生きものには用がない河原だったそうな。

沙漠の川岸に、たったひとり生きものが立っていた。
川霧の揺れる早瀬を見つめていたが、霧が晴れると川に一礼ののち斜めに背負っていた竿袋の紐を解く。
十二本継ぎの繊細な竹竿をていねいに継いで、穂先に繋いだ糸が紅い。
男がへび口に結んだのは緋天蚕をみずから紡いで作った絹の道糸だった。

竿長と竿の剛質に合わせ、穂先から竿尻へ向かって次第に細くなって行くテーパー糸を初めて作ったのがこの男だった。
指の爪を何か所もヤスリでV字に削り、それを道具にして微妙な ”テーパーさがり” を繭から紡ぎ出し、さらに柿渋を擦り込みながら撚ったのだ。

男が黙ったままゆっくりと竿を取って竿尻をトンと拳で叩くと、揺れが竿先までビビーンと行き渡り先端のへび口がピンッと跳ね上がった。
目覚めた相棒に話しかけるように、男はこの朝はじめて開口した。
「いざ 参る!」

開高 健の釣りの名作みたいなシーンやなあ。映画化の主演は高倉 健か渡辺 謙だ。
間違えんといてや 釣り人は若き日の老人、描写はおしぐれ作家こと へたれの俊ちゃんや。
書こうと思えばこれくらいは書ける。 「いざ 参る!」 のあとが続かんだけじゃ。

上流に大きなダムが出来て以来、鬼怒川では大石が転がるほどの洪水が起きなくなって久しい。
流れの緩やかなところに積もった土砂が越年して春になると、その上にドロヤナギのような灌木や花実をつける多年草の草原が出現する。
最初に翅虫が現われ、翌年には昆虫だけでなく野ウサギやタヌキなども棲みつくようになった。その頃から危険生物のマムシも見かけるようになったのだそうだ。

そのままでは外来の釣り人に害が及ぶので、捕獲して漁協の小屋に持って行くと引き換えに流域酒販組合店共通のクーポン券が貰える。
現物は渡さない、酔っぱらったまま再度マムシ捕りに行ったら危険だからだ。

これ、参 の編の文中 「剥がした日本人のアタマの皮を国境監視所へ持って行くと酒とドラッグが貰える」 というクダリと似ていますが、酒をその場では渡さないところが鬼怒漁協の親切です。
法治国家ならではの見事な取り決めであります。
いらぬお世話だ、などと言うアウトアングラーはいないそうで、これまでマムシ事故はないとのこと。

鍋に後から入れようと湯がいた里芋とイノシシの肉も用意され、これはもう立派な芋煮会の雰囲気です。
これを望んでワシら両名罷り越したとはいえ、斯様なるご接待は身に余るもの。この構成は出来過ぎであろう、作家よ よく書いてくれた。
なぜなら、重箱に入れてきたレールマンの奥様の里芋煮っころがしにも里芋つながりの縁で日の目が当たりそうだからだ。大団円じゃありませんか。

でもこの庭は酒蔵に棲む酒精菌の支配下だ。リュックの中に丸一日放っておいたのでは、源蔵さんが背負ってきた背嚢の中の卵のように芋虫になっているかも知れんなあ。
えっ! 芋虫の芋と里芋の芋とには何らの関連性もないって?
あーた 作家の顔を潰すようなコト、よう言いますなあ。

そこへ昨日の川漁師が現われて鬼怒川を上がってきた鱸(スズキ)の出張料理、洗いにして酢味噌で頂く。
来る途中の土手で採ったという山椒の葉を出刃で細かくたたいて酢味噌に和えると、これがまあ 筆舌に尽くせぬ素晴らしき川のワイルドさ。この板前、なんと きのこ寿司も握るしマムシもさばくという。

作家さん よくぞそこまで書いてくれたが、オメ様も珍料理で飲みたいもんだで ずいぶんとでほらくを書くもんだ。

老人の話は午後になってもよどみなく続く。
”汲めども尽きぬ養老の滝” ならぬ四季桜のお話しでございます。いよいよ本稿をもって最終回といたしたい。

四季咲きとか四季桜とか簡単に言いますけどね、よーく考えてごらんなさいよ。Fore Seasons ちゅーたら あんた、年に4回やで、3か月にいっぺん回って来るんだっせ。
そのたんびに花を咲かせていたらあーた 誰だって身がもちませんじゃろ。
そーんな絶倫桜はこの世にだって どの世にだってありゃしません。

だいいち植物は何のために花を咲かせますか?
蝶や蜂に受粉してもらって丈夫な実をつけることでっしゃろ。そしてその実をリスや鳥に遠くへ運んでもらって種を地面に落としてもらうためですやろ。
つまり領土拡大が主目的なんです。制覇・進攻・攻略は人間や動物だけの本能じゃない、植物にもある。むしろ植物のほうがしぶといと言っていい。

一般的には動物より寿命が長いから攻略と言ってもその時間率は緩やかで、人間時間で見るかぎりよっぽど人道的だ。
だが進攻を始めたら制覇まで決してあきらめずに進む根気は、さすが根のある生きもの。よっぽど教育的である。

さて開花が攻略の手段であるならば、寒い冬に花を咲かせてどないするちゅうのや?
地面は凍っているし蝶はサナギになって眠っとる、リスは木の洞で冬籠りやないですか。人間は 「おー 花が咲いたー」 ちゅうて、彼女を花見に誘って喜んどっても受粉の手助けなんかしてくれまへん。
彼らはおのれらの受粉を目的に桜の開花をダシに使こうとる。なんと身勝手なヤツだ。そのうえ発情期は一年中やから桜の前は梅だった。
年中発情とは自然界では極めて異端。こーんな生きものは地球上に一種だけ。他には見当たらん。
ヤツら人間どもは自然界の受粉期ちゅう年季の回季サイクルを理解しとらんとですばい。色気優先のせいだす。

ところで今日の酒はよー回りよるなあー。
へっ? 儂の西日本弁ですか、ほどよく酔うと各地弁混交になるとよ。品種かまわず受粉したがる作家の癖なんですわ。こまったもんです。

四度咲く桜とはね、文芸上の修飾なんです。これから話すことをよーく聞いとくなはれ。
まずは春の桜、これはホンマもんの桜の回季サイクルによる開花です。
夏はね、よく繁って香り高い桜の若葉のことですじゃ。天の川の星の光りを反射してきらきら揺れるさまを七夕飾りの花にたとえた。

秋、これが問題でしてな。
二度目の花を咲かせる桜は実際にあります。見た人は沢山おますじゃろが、元々のそーゆー樹種はありません。
夏から秋にかけて、あれほど繁っておった葉が急激に無くなることがありますやろ。
台風に吹かれて落ちたんやありません。この頃の葉はまだ丈夫ですからなあ。じつは天蚕が食うたんです。

一晩で大木を食い尽くす勢いなんです天蚕ちゅう毛虫は、朝になって葉の無くなった木はたまげますわなあ。
まだまだ光合成をして、木の幹と根に勢いを溜めて冬を越さんばならん。だから朝になると幹の樹皮近くにある水管には 「葉よ開けー」 の信号水が枝葉の茎に向かって流される。
でも葉はすでに食われて無いから、水は茎のあったところからこぼれ落ちてしまい 「了解、葉は全開完了しました」 のアンサーバックが木幹を通って木根に届かん。

葉の開閉は吸い上げた水の圧力でコントロールしています。微調整は土中のミネラル分の変化と外気温で木根が判断指示してますのや。
水がこぼれ落ちたままでは根の吸い上げた水の浪費やから水を止めますわなあ、台所の主婦だって蛇口を締めますやろ。

木にとって、水を締めたちゅうことは 「秋も深まったから葉を落とせ」 ちゅう指令なんです。
だから葉は首を垂れて陽光を下の地面に反射しながらだんだん枯れてゆく、その途中の姿が紅葉なんです。
”いろは坂の紅葉” を見に渋滞の道をガソリン燃やして登って行く観光客は無慈悲や、アホや。あれは葉っぱの死装束なんやぞー。涙なくして見られるものかあーっ。

照葉広葉樹が冬を耐えるにはのう、可哀相やが葉はお荷物なんや、北風をもろに受けて枝が折れたら元も子もないやんけ。
葉はのう、自分を犠牲にして幹と根を守るんじゃ。えらいのう。いろは坂の路面にそう書いておけー。
ツール・ド・フランスの名峠、マドン峠の路面にはペンキで色々描いてあるが、「自然を敬え」 と書いてあるんじゃ! 

なにー! そうじゃない? ええんじゃ 仏蘭西語だの伊太利亜語だ、でほらくでかまわん。 

ところがじゃ、深秋にはまだ早い夏の終わり頃だというのに葉を毛虫に食われて葉無しになってしまった桜は、ハナシが少々混乱する。
まだまだ気温は高いし土中のミネラルには”がんばれ酵素”が含まれている。
そこで木根は枝先の葉がサボって全開をシカトしておると腹を立て、気根を入れて養分を上に送り続けるんだわ。
結果、葉のない枝先に向かって溢れるようなミネラル養分とホルモンと気合が送られることになる。

先枝の樹皮には来年の花芽が内包されてはいるが、まだほんの子供じゃ。そんな子供に”エロい気合い”が毎日届いたらどーなります?
男の子はあっという間に少年になりニキビが吹き出ますやろ。 儂らも噴き出てみたいもんじゃ。

秋の二度目の開花はニキビです。
しっかり花芽の準備が出来ていないままの開花指令ですから、春の開花と比べたら数も色も貧相です。
それでも人間どもは喜んで、秋の花見などする。娘の初潮を祝うのと同じこころですな。

えっ! 違う? うちでは酒が売れるから歓迎ですがのう。

狂い咲きと言うのは可哀相です、元はといえば毛虫が葉を食ったのが原因ですからのう。
はい うちにあった桜は秋の開花も見事でしたよ。天蚕毛虫が葉を食べる時期のタイミングと樹の栄養補充の充実時期とのマッチングが整合取れていたんでしょうなあ。
天蚕の気配を感じて、さくらんぼをつけないで花芽の準備をしていたとも考えられますが、井戸の伏流水のお陰かも知れません。
酒屋的にはね、源蔵さんの母親が根元に施していた酒粕に含まれるビタミンB群と亜鉛のお陰だと儂は思っているのです。

他所で二度咲いた木を見ますと、葉を食った毛虫はアメリカシロヒトリですな。
はい、天蚕ではありません。
しょーもない軽薄なヤンキー毛虫だす、繭など作れません。蜘蛛の巣みたいのにからまってスパイダーマンのようなサナギになります。キンチョールでシューッしてやりましょう。

最期は冬の桜です。
もう言わんでもご想像の通り、冬の花は雪景色ですわ。
桜に積もった雪のスケール感はいかにも日本の花ですからねえ。

昔から 「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」 といいます。どっしりした枝ぶりの桜に降り積もった雪はまるで春の桜花のようです。そのように積もる枝を切ってはいけないのです。
前夜から晴れてキンキンに冷えた朝、雪は桜の高いところから陽光に輝いてエンゼルダストになってキラキラとふりおりてくる。
その下に立ってキラキラを杯に受けながら冬の花見をすることを雪見酒といいます。
炬燵で外の雪景色を見ながら熱燗を飲むことではありません。それは不精酒といいます。

そんなわが家の源蔵桜でしたが、春秋の開花と夏冬にも花という四季桜の名に恥じぬ四度の花見の主役を演じきって40年前にこの地に倒れました。
儂は見届けましたよ。天寿をまっとうした見事な最期でした。
目の前で音もなく倒れたんです。巨木がですよ、そんなことあるのかって聞かないあなた方はいい人なんですか? それとも酔っぱらいなの?

あの桜は通常の倍の、いや4倍の速さで生きましたからなあ。寿命も4倍早かったということでしょうかねえ。
きっと源蔵さんを追っかけて行って、あっちで花見などやっているのではないでしょうか。
それなら先に死んだ三吉さんも参加できますものねえ。

天蚕毛虫はその後どこへ行ったものやらわかりません。
まさかあっちの世界で桜の葉っぱを‥ 。

どうです 今から墓参りに行きませんか?
先日墓所に参ったときにな、六地蔵の横にある百日紅の木にあけびが下がっとるのを見たんじゃ。
百日紅にあけびは実らんじゃろや。そのときは連れがおったで気が付かん振りをして帰ったんじゃが、ありゃー もしかしたら‥ なあ。

なあに 今夜も泊ればええさ。明日の朝、酔いを醒まして自転車で帰ればえーだがや。
儂もな よその奥さんの作った里芋の煮っころがしとやらを食ってみたいでなや。これ お春や 重箱を預かって火を入れておくれ。
お墓にも供えようじゃないか。

まだ日が高いから、ゴザと酒も持って行こうでなあ。
オメさんがた こーゆー旨そうなもんはよー、はよー出さんばいかんちゃ。 ふおー ふおー ふぉー。
おおそうじゃ、お春 マムシよけの棒は持ったか?

おわり

syn

おしぐれ俊ちゃんの ロード歳時記(5) 四度咲き桜 四
2013/11/07

老人の話は翌日も続いた。
ワシらは酒屋のご隠居の賓客として昨夜は酒食のほか宿泊の栄にまであずかった。本日はさすがに朝から酒というわけにはまいりません。美味しい朝食をいただいてから座敷の茶卓でかしこまってお話しを伺いました。
10時に出されたお茶がまた ことのほか美味しい。あの井戸の水で入れたお茶だそうで、お春さんの作法もまた ことのほか麗しい。
レールマンの家でペットボトルごとドンと出される烏龍茶とはえらい違いだ。

あの桜はねえ 実生だと昨日申した通り自然に生えて樹になったんです。
源蔵さんが出奔してしばらくたった春、あの場所に芽を吹いていたのを母親が見つけたんだそうです。どこかで実を食べたカケスが水を飲みに飛んで来て、種をあそこに落としたんでしょうなあ。

両親つまり儂の曾い爺さんと曾い婆さんは、源蔵さんがいなくなってすぐに生えて来たこの芽を倅の生まれ変わりのように思えたので育てることにしました。
水をやったり添え木をしたり、どんな木になるか楽しみにしていたそうです。
ですから樹種や系譜はわかりません。
よく育つ種目だったのか井戸の伏流水が効いたのか成長が早くて、芽を出して3年目の春には2メートルほどまで伸びて花が数輪咲いた。

花をよく見たらなんと桜だったと、そーゆー桜なんです。
桜とわかればもう ぞっこん ですわな、日本には桜ですよ何と言ってもねえ。

儂が物心ついた時分には堂々とした桜の樹でしたが、3年目ではまだひょろっとした桜の木だった。
樹皮の独特な艶模様が若木のときほど美しかったそうです。
山桜の一種だったのかも知れませんが源蔵さんの母親にはそんなことはどうだっていい、せがれの代りの生きものなんだから。

「これはなにか良い知らせかもしれません」
曾い婆さん、せっせと世話をして毛虫がついたりアリが登ったりする度に竹の箸で取り除いていた。過保護なんですなあ。
そのうち源蔵桜なんて名前までつけてしまった。

花が散って葉が伸びて青々とした若桜になった初夏のころ、婆さんの願いが通じたんでしょうなあ ひょっこり源蔵さんが帰って来ました。
そりゃーもう汚い身なりにノミ シラミ、貫通銃創の背嚢を背負っての帰還ですからなあ、駐在さんが抜いた拳銃を口にくわえて自転車かっ飛ばして駆け付ける前に近所の犬が吠えながら走って来て、騒がしいやら怪しいやら懐かしいやら喜ばしいやら大変な騒ぎだったそうです。

その後は昨日お話ししたように三吉さんの供養をしたわけですが、逆さまにして尻を叩いた背嚢からノミ シラミのほかある種の虫の卵が転がり出て、人知れず桜の根元に付いたのです。
曾い婆さんは待ちこがれた倅が帰って来たので大喜び。
お祝いやら嫁取りの縁談やらで忙しくしている間に卵が孵って毛虫になって、桜の木に這い登ったのをまるで気がつかなかった。
そりゃーそうでしょう、本物のせがれが帰って来たのですから代用品のことなんか忘れていてもいたしかたない。

夏のおわりになって青々としていたはずの桜の葉はすっかり食べ尽くされ、僅かに残った葉は茎を噛まれて葉脈が止まり、丸い包みのような形の枯葉になって中に薄紅色の繭を抱いていた。
不思議なこともあるものだとそのままにしていたら、晩秋にもう一度桜の花が咲いた。
開花は数輪だがその周りに山のアケビと見まごう形と大きさの薄紅色の繭が何個も下がっている。年末の酉の市の縁起物 大熊手のような何ともお目出度い景色ではないか。

その頃には源蔵さんの縁談がまとまって年末にも祝言という段取りであったから、曾い爺さんも大喜び。
「これは吉兆。子孫繁栄 家業繁盛のお知らせじゃ」
さっそく親戚縁者を桜の元に集め、結納祝いと秋の花見を盛大に取り行ったという。

それ以来あの井戸の周りで酒盛りをするのは当家伝来の美風的家風となったのですじゃ。
昨日のアウトドア プチ試飲会もその一環です、ご先祖さまも喜んでござっしゃろう。
叶うものなら桜が欲しいのじゃが、なかなかカケスが飛んで来ないんでかけすよ。

もうお解りですね、繭は天山の緋天蚕。
あの背嚢になぜか卵が隠れていて、源蔵さんに背負われて日本まで密航の旅をして来たというわけです。彼の異形さに慄いて検疫所などはフリーパスでしたからねえ。
日本の天蚕は緑色ですが天山産は緋色なんですなあ。あちらの国旗の色ですわ。

養蚕のかいこがつくる繭は白色です。それは世界中でもそうですが、天蚕というのは養蚕かいこと違って山蛾の繭です。アジアにのみ棲息し緑色の繭になる。
緋色の繭をつくる緋天蚕は極めて稀です。毛虫時代も緋色ですから鳥に見つかって食べられてしまうリスクが高い。

蛾と蝶の違いは草や地上に降りて羽根を休めるとき、蝶は羽根を縦に閉じる。対して蛾は水平に開いたままにしている。何かに驚いて飛び立つときは強い足で地面を蹴って羽ばたきます。
蝶は羽ばたいてから浮遊しますから初速度が遅くてスズメやカラスに食われる。
ひらひら飛ぶのはUFOの飛行術ですな、航跡の予測がつきにくいので生き残る可能性が高まる。よーく考えてありますわ。

他に眼がブルーライトに反応して赤く光るとか触角に鞭毛があるとか、蝶とは明らかに異なる生きものです。モスラのモデルとして知られますが繭をつくる点では同じですね。
天蚕繭はかいこ繭より大型で、取れる糸も太くて長くて丈夫です。欠点は数が極めて希少。人工養殖の成功例がない。それゆえ絹のダイヤモンドといわれ高級織物になります。

群馬の高崎市にある大正時代の製糸工場跡や撚糸機械群が世界文化遺産に選定されれば天蚕のことももっとメジャーになるでしょう。
現在でも長野の白馬スキー場あたりでは少数ながら普通に売っていますよ、ただしお高い。

生糸のときから紅い糸は緋天蚕以外どこにもありません。
もしかしたらラマ僧の紅黄土色の衣は原型が緋天蚕だったのかも知れませんが、出家したばかりの若いラマはビルマ麻の浅黄色の衣をまとっています。
ダライラマ師ほどの高僧なれば生成りの緋天蚕を一枚ぐらいは持っていると思うのですが、お会いできるすべがありません。

日本ではわが家にすこーし残っているだけ、世界遺産どころか国宝ものです。
昨夜お二人が使った風呂のあかすりがそれだったなんて、あまり広言できませんなあ。 ふおっー ふおっー。

どうやって紡いで糸や織物にしたのかって? そこはよく出来ているんですこのハナシは。作家とグルやからのう。
源蔵さんのところに嫁いできたお嫁さん、つまり儂の祖母ですよ。
このひとが なあーんと、さほど遠くない茨城の結城というところの紬織屋から来ましてなあ。
結城ちゅうたら あんた 結城つむぎの本場だっせ。
本場仕立ての機織り機一式を荷馬車一杯に積んで嫁入りして来たんです、飾り馬の鞍に正絹の幟バタまでおっ立てて。うちは酒屋だというのに。

かいこも天蚕も桑の葉だけを食べて大きくなる、ところが戦火をくぐった緋天蚕は桜の葉が好きらしい。
どの桜でもよいのかどうかはもう確かめられません。源蔵桜も緋天蚕の毛虫も絶えましたからねえ。
そうなんです。桜が枯れたら毛虫もいなくなりました。40年ほど前です。
なぜ枯れたのかは昼飯の後にでもお話ししましょうが、緋天蚕の糸をお見せしましょう。
はい 儂の婆ちゃんが紡いだ糸です。けだし国宝です。

どうです? 糸はすべすべとして桜餅の匂いがしませんか? かつてはもっと香ったものです。
儂はこの糸を三本撚りにした道糸で岩魚を釣ったが、針に川虫の餌など付けんでも糸の切れ端を巻きつけただけで大型がよく釣れた。
それも淵に沈めて下流に流すなんて面倒なことはしない。水面で振って見せるだけです。
岩魚には沢に覆いかぶさった木の枝からポトリと落ちた山蛾の毛虫と蜘蛛の糸に思えたのでしょうなあ、岩陰から豪快にライズアップして飛びついて来ましたよ。

水切れがよくて糸がらみもない。長い竿の鮎釣りに使ったら取り回しは最高によかったが、まだ縄張りを持てない若い鮎が水中で糸にアタックして来て困った。
糸から香り出す桜の匂いと色が、川底の餌になる苔と錯覚させると儂は見ておる。
これは反則。定めはないが釣法違反となろう。この糸は禁断の ”魔法の糸” と儂は使うのを止めたんじゃ。

それを聞き知った 東レ や ゴーセン や がま勝 の技術者が譲って欲しいと言ってきたが儂は断った。国宝は売れんじゃろ。
可哀そうだから写真はダメだが見るだけならとチラッと見せてやったんじゃ。
翌年のシーズン前に各社から売り出された新製品には、ベンガラ色や深緑など緋天蚕や天蚕を模したカラーのコーティングラインが並んでいた。
同じ竿で使ってみたが、水切れ・沈み・踊り・香り・結び強度・伸び率・視認性・どの点でも天然天蚕ラインの方が優れていた。

近年ではナイロンラインも表面処理を工夫して良くなったらしい、”天蚕もの” を超えたと宣伝している。
でもねー 市井の一般ユーザーには比較すべき天然ものは望んだって手に入らないのだから、メーカーの言い分は単にイメージの世界の物語じゃ、と切り捨ててやりたい。
馬の尻尾の毛を撚り継いで糸にした ”馬素” (ばす) で釣りをした経験のあるオールドアングラーなら手を叩いて喝采することじゃろう。

いやー これは とんだ処で脱線しましたなあ。
あなた方が聞き上手だで、妙にハイになってしまいました。
ここいらで昼飯にして、午後は飲みながら四度咲き桜の謎と、枯死の因果などに迫ってみんべーと思うが、お二人ともよう根気が続きますなあ。

いやはや 精気が続くのはご隠居のほうだ、これだけ喋って疲れを見せない。さすがは源蔵さんの曾孫だ。
このモチベーション、あの酒と あの水と 緋天蚕クロスによるマッサージの力と信じるに足るハイ パフォーマンスなのだ。

ついでだが 作家のヤツもよう耐えとるなあ。もう四巻やないけ、アクセス数の少なさをものともしないこのモチベーションは何だ?
今年の文壇賞はあらかた選考が終わったというのに ‥。

‥ じゃかーしいー 五 につづけー ‥

syn

おしぐれ俊ちゃんの ロード歳時記(4) 四度咲き桜 参
2013/11/05

若き日の源蔵爺いさんが一人で大陸へ渡ったのは、のちの世界史で第零次世界大戦といわれた日露戦争が講和した翌年か翌々年だった。

明治30年代のおわり頃の日本の世相がどんなだったか儂は知らんが、想像はできる。
父系家系の絶対化と帝国憲法のもと、日本は軍政化を堅固なものにしてどんどん右傾化して行ったのだろう。領土拡大は国是だった。
徴兵法はこの頃よりより厳しくなったといわれ、第一次世界大戦まであと10年もなかった。

一方、講和により両軍の兵士が去った後の大陸奥の方では治安の損なわれが恒常化していた。
日に日に元のカオスの状態に戻って、芥子が咲き大麻草の伸びる山間地ではいわゆる黄金のトライアングルが出来ていた。
遠くヨーロッパからもマインドコントロール薬を求めてマフィアや後のナチスの斥候まで現われ始めていた。

いくら戦勝国の日本人とはいえ先年戦場として踏み荒らした異国の地にたった一人で入って行くなんて、よっぽどの要件と武装がなければ政府の人間だって二の足を踏む。
民間人のしかも軍隊経験もない源蔵さんがどーやってもぐり込んだのか不思議だが、昔のことだからその辺はその様になったと、そーゆーことでよかんべ。

旧清朝帝国を創った女真族のうちの親露派が、ロシアの撤退で後ろ盾を失ってゲリラとなり蛮刀を持ってうろうろしている。
一部には弓の矢にトリカブトの毒を塗って日本人を殺す急先鋒も跋扈し、アタマの皮を剥がして国境の交換所に持って行けばウオッカとマリワナ又は焼酎と阿片が貰える。
どちらのセットを選ぶかは部族の習慣で異なるのだそうだ。
アタマの皮を二枚持って行って両方貰う者はいなかったそうで、彼らとてポリシーは高く持っていた。

そーゆー噂の大陸だったそうな。
具体的な国名は言えん。今はUN 国連監視団がうるさいでな、隠居の儂が炎上ブログなど書けるよしもない。

源蔵爺さんは多額納税富裕層の跡継ぎ息子特権を行使してこの戦争への従軍を回避している、海外になど出たことは無いから日本から見て西の大陸の地理などまったく不案内。
加藤清正の虎退治のお話しから何となく方角の分りそうな朝鮮半島をさっさと素通りして、鬼畜帝露軍と最激戦を交わしたとされる満洲南部を目ざしたというのだからたまげた話だべ。

この当時の満洲とは、後に日本が画策して清の末裔に建国させた満州国のことではない。洲という字は州に ”さんずい” が付いている。
正確には滿洲と表記される一帯で、漢民族・清民族・モンゴル民族・蒙古族・それに女真族・ウイグル族などがごちゃ混ぜになったカオスの風土だったのだろう。

満州建国は昭和7年。それより30年も前の記録は今でも曖昧なままだが中国とも微妙に違うこの辺りは、清朝の支配下だった頃の影響が色濃く残る地域だったようだ。
そーゆー処に何をしに行ったのか? これがなあー 評価が判としないところがいかにも源蔵爺いさんらしい。

一説では帝政ロシアの動向をさぐるべく日本帝国政府の密命を受けて潜入した Secret Agent Man だったという話しだが、多額納税富裕層の跡継ぎにそーんな密命が来るはずあんめー。
儂が思うにはの、もっと軟派なハナシだ。
源蔵さんのヤツ、父親の興した酒蔵を継ぐのが嫌で家を飛び出してはみたものの、日本中の酒屋には回状が回って行く処が無い。
そこで支那に伝わる黄金伝説 ”秦の始皇帝の埋蔵金” を掘り当ててプチ滿洲国の皇帝になろうと、そーゆー了見だったのではねーかと見ておる。

何故なら源蔵さんの東洋史観では、秦国と清国とが一緒になっているフシがあるんじゃ。
秦も清も発音は ”CHINA” じゃろ、なに! 末尾の A か? 源蔵爺さんが習った頃の ”大ブリテン英語” では末尾を消音するのが貴族の慣習なんじゃよ。
本当さ、John Lennon の残した自筆サインをネット画像で読んでみろ! 彼は Sir の称号を授かっているからな、ジョ レノ としか読めんじゃろ。

あに? でほらく話しをすな! てか。
しからばサザン オールスターズはどうじゃ。クワタ ケスケは何を叫んでおるのか一向に分らんが聴衆はみな涙を流しているではないか、あの催涙テクは歌詞の末尾のウヤムヤにあるんじゃ。

儂は源蔵爺さん本人に聞いてみたことがある。
ある日のこと、儂が尋常小学校の図書室から借りてきた 「冒険少年」 を酒樽の上に乗って読んでいたら、爺いさんがそーっと寄ってきて、
「おまん 冒険が好きか?」
「うん 好きだよ」
「よーし それなら爺ちゃんの滿洲冒険話をしてやろう、じゃがその前におまんは樽から降りねばならん。酒樽は神様の寝床だからなあ 息が苦しくなっては相済まんじゃろ」

そーゆーて手を引かれて行ったのが、ほれ、そこの井戸の処じゃ。
そばに桜の木が一本立っておったのを憶えている。

「源蔵! そんな処で何をしておる。その旅支度は何だ! おまえが家業の酒屋を継ぐのを迷っているのは知っていた。だが親を捨てて黙って家を出ようとしておるのか? 
おまえの徴兵回避にどれ程の大金を使ったと思うか、この親不幸者め!」

「違うんだ お父っつあん おらの話しを聞いてくれ! おらは満州で戦死した三吉の骨を探しに行くんだ。戦死公報だけで遺髪もねーんじゃ あいつのおっ母あーが 可哀そうでなんねえ。
この井戸の水を赤ん坊の頃から一緒に飲んで、兄弟同様に育った三吉だ。もう一度 井戸の水を飲ましてやりてえと 水筒に詰めていたところだ。
用意ができたらお父っつあんにだけは話して許しを貰おうと思っていた。でもおっ母さんにはとても話せねえ」

「ぬわんだとぉ〜 三吉の骨を拾いに満州へ行くだとぉ〜」

「行かせてくれ、三吉はおらが行くのを待っているに違えねえ。墓もねえところで寒さに震えているかも知んねえ。
あいつは故郷に残したおっ母あーが心配で、土にもぐって安らいでなどいられねーんだ。
出征壮行会の晩、あいつはおらに言った。

「本当は戦さなどに行きたくはねえ、おっ母あーをひとり置いてゆくのは心残りでなんねえ。
だがお国のためなら行かずばなんめえ。なあ源蔵 オラは必ず帰ってくるで、それまではよー 源蔵、オラのおっ母あーのことをオメに頼みてえが、ええが?」

おらは兵役に行かねえことを臆病 卑怯だとは思っていなかったが、三吉の前では恥じたよ。詫びた。
だから約束通り毎日お里さんの様子を見に行っては井戸から汲んだ水を届けていたが、講和条約の少し前にとうとう戦死公報が届いちまった。

それからは、おらはお里さんの前に出られねえ。三吉のおっ母さんの顔が見られねーんだ。
あいつはおらの分の鉄砲まで背負って戦地に行った。そーでなければ死なずに済んだはずだ。

三吉たち勇士の命と引き換えに講和のなった今、おめおめと いやぬけぬけと 祝いの祭りで手など叩いていては、それこそおらは卑怯者だんべ。
英霊たちの駆けた戦場をこの目で見て、故郷の香りの線香を焚いてふるさとの水を飲ませ、オメたちの働きで父母は安泰ぞと知らせてやるまでは、おらはずーっと卑怯者でいなくちゃなんねえ。
行かせてくれ、お父っつあん。これは三吉の鎮魂でもあるけんど、おらが臆病者でねーことの確かめでもあるんだ」

「よう言うた 源蔵。
村の者には酒造りの修業に出したと言うておく、じゃがおっ母さんには便りを書けよ。これを持って行け必ず役に立つ」

源蔵の父、つまり儂の曾い爺さんが源蔵爺さんに持たせてくれたというのは、なんと皮袋一杯の征露丸だった。
お二人もご存知のあの正露丸じゃが、この頃は征露丸だった。
正露丸と改称させられたのはもっと後で、日本が国際連盟に加入する際にロシアが条件をつけたというのだから国と国との軋轢というものはなあ‥ 。

大陸での源蔵爺さんが幼なじみの三吉さんの終焉の地にどーやってたどり着いたのかの詳細は、聞いたのだろうが憶えていない。
なにぶんにも儂が尋常小学の一年生のことじゃったでのう、
「冒険少年」 のダン吉のハナシならよく憶えておるが‥。

ともかく爺さんは毎日征露丸を飲んでチフスにも脚気にも罹らず、士気高く未知の大陸を進んで行った。
歩いたのかロバに乗ったのか泳いだのかヒッチハイクだったのかそーゆーことも憶えていないが、ともかくあの広い大陸の地上を這うような速度で西に行ったんじゃい。玄奘三蔵のコースじゃぞ!
九頭竜だの雪男だの山姥だのが次々に行く手に立ちはだかったに違いない。

ともかくじゃ、源蔵爺さんは棘の道をかき分けて進み、硫黄の山を踏み越えて、天山のふもとで遂に本懐を遂げるんじゃ。大したもんじゃろう。
それからは来た道を驚異の速さで走り、郵船に乗って帰ってきた。

日本帝国陸軍三等兵卒 下野縣石井郷 柳三吉 とかすかに読める擦りきれた綿布の縫いつけが痛々しい兵士背嚢を背負った彼の姿は異形だったという。
それはそうだろう、九頭竜と闘い雪男を素手で倒した男だ。オーラが違う。
帰還兵という言葉が風化し始めていた日本の街に、ふいに現れた亡霊のような姿だったに違いない。

貫通銃創だらけの兵士背嚢が幽鬼なら、それを背負った人物の鬼気の気配に圧倒され、船も鉄道もバスも料金キップなどと野暮なことを言うものはなかった。
あまりの汚さに近寄れなかったというのが実相らしいが、従軍経験のある者たちは黙って席を譲り、銃創痕に手を合わせたという。
戦死者を出した家の婦人は台所に駆け込んで握り飯をつくり、追いかけて行って黙って手渡したという。

征露丸の皮袋を懐に入れてふる里を出奔して以来3年。先の戦争は1年数か月で終わったがその倍の年月を彼はひとりで戦場跡の荒野を歩き、三吉遺品の背嚢を探し出した。
天山山麓の山懐で行き止まっていた彼を助けてくれた村で、長老の家にあったのを見つけたのだそうな。手の平一杯の征露丸と交換して手に入れたという。
だが三吉の遺骨にはついに巡り会えなかった。

天山の大地に注いだ水筒の水は、故郷の井戸から汲んだときと変わらぬ鬼怒の伏流水の輝きと香りを保っていたという。

三吉さんのおっ母さんは病床にあったが、背嚢を背負って薄暗い土間に立った源蔵さんを見て、
「おおお〜 三吉、帰ったかあー こっちさ寄ってよっくと顔を見せろ おおお〜 三吉じゃあー ご苦労さんであったなあ よう帰ったのう。
さあ風呂に入れ、めしの前に酒がええか、待ってれ すぐに源ちゃんが届けてくれるでのう、ふたりして一緒に飲めやあ」

数か月後、背嚢を抱きしめて微笑みながら三吉さんのおっ母さんはこの世を去った。
当時の習慣に従いお里さんは土葬され、喪主は源蔵さんがつとめたそうです。お棺に三吉さんの背嚢も一緒に入れたのは言うまでもないと思いますよ。
墓は当家の墓所の隣りに新たにつくりました。

今は三吉さんと源蔵さんは隣り合わせに眠っています。
ええ二人とも戒名などありません、そーゆー爺さんの遺言でした。儂が墓標の杭んぼをおっ立てたときに傍にもう一本、三吉さんのもおっ立てました。
一方に 滿風 柳三吉 一方に 征露岩 冒険源蔵 と墨書しました。
親爺は笑っていましたが、「オレのはちゃんとやれよ」 とは言っていましたねえ。

今飲んでおられるのが40年前に井戸の伏流水で醸した酒ですわ。
親爺に弟子入りして20年目にやっと儂の仕込みを許して貰いましてな、いやー 初作だで国税庁には内緒で、表には出さん酒です。

色が幽かに紅いですじゃろ、酒米を蒸すときの甑(こしき)に緋天蚕で織った絹布を使ったらそーなりました。
商売物にはなりません、内々で飲んでおりますが言うなれば密造酒ですなあ。 ふおっ ふおっ ふぉー。

そうそう 桜の話しでしたなあ。
えっ 緋天蚕も? そうでしたなあ。
まあ お飲みなさい、ぼちぼちその話しも致しますでな。

そうだ、今夜は泊っていきなされ、鬼怒の伏流水の風呂にも入っていただきたい。
あかすりの絹布がなあ 緋天蚕なんですじゃ、からだじゅうピンク色になる。


四につづく

syn

おしぐれ俊ちゃんの ロード歳時記(3) 四度咲き桜 弐
2013/11/01

お店は何代も続く造り酒屋といった佇まいながら、重厚過ぎない外観の雰囲気がワシら軽薄二人組の背中を押してくれた。
店内に入ると印半纏を着た女性がひとりいたのでさっそく案内を乞うてみた。

ワシらのうち少なくとも一人は年に四度も咲くという不思議な桜への学術的興味は少々、じつは地酒の試飲が来訪目的の大半というミーハー的ココロ。
しかもアポなし到来者だから断られてもしかたがない。そのときは一本買ってあっさりと退散しよう。
見渡すと数種の酒瓶が棚にならんでいる。菰(こも)の樽も置いてあるが、赤い漆塗りの祝儀用ツノ樽に歴史を感じた。

子供の頃、村内で祝儀があるたびワシは稚児役を頼まれて赤いツノ樽の酒を三々九度の神器に注いだものだ。大半は畳の上にこぼれたが ‥。
当時100年にひとりの神童、と謳われておったワシだから祝儀の際には必ず呼ばれた。神酒を吸った畳は縁起が良いと上座に移し替えられるほどだった。
神童やで、酒呑童子より格上だがね。
そのときに対のおなごの稚児役をつとめた鼻垂れ娘が、後年ワシのふたりのムスメたちの母親なのだから人生とは分らないものだ。
そうだもう一本買って、元鼻垂れ娘が元気でいるか届けてやろう。 ‥ ツノ樽を見て、神童改めへたれ拝命後の数奇な歴史を思い出してしまった。

各地の造り酒屋とは大体こんな感じだろうか。多くを見たわけではないがこれが正しい田舎の酒屋、そんな気がする。
酒屋独特の匂いというのだろうか、蒸した米と麹と樽木の匂いの混じったような空気が流れてきた。
今は新酒の仕込みの時期、奥では忙しいのだろうが店頭はひっそりしていてドタバタした処がない。
店内は広いが商品をにぎにぎしく並べ立てていないところも実によい。

しばらくして品の良い老人があらわれた。
和服姿なのだがなんという着物かわからない、しいて言えば黄門様の旅支度のようなもんぺの裾を絞った着物。ただし色調は極めて地味で、袖なし羽織にはポケットが付いている。
それに足元は短いソックスにサンダルなのがとてもよい。

「よく来てくなすった。 ほーけ 自転車でなや、 遠くから来たんけ? 
なに 隣り町から、若い人なら15分の距離を1時間かけて そらー えらがったなや」

先代蔵主という老人はサイクルウエアにヘルメットというワシら二人の出で立ちに初め驚いた様子だったが、「四季咲きの桜を見たい」 との申し出ににわかに好顔となった。
木々は紅葉から落葉となる深秋のこの時期に、桜を見に来たと平然と言い放つ珍客に好顔となる爺さんとは、これはただ者でない。

「ほーけ ほーけ ”桜を飲みたい” ではなく “見たい” とな。
ほーけ 嬉しーなあ そーゆー お客は40年ぶりだでなや。 
これ お春、 社長に言ってな スーパーグランド四季の桜 オールド40 を出して貰いなさい。

ほーしてな お春、 えーが  こちらのお二人はな、ただのお試し飲みの客ではないぞ。
あの桜を訪ねてお出でなったんじゃ。儂の客じゃと言うておけ。
それからな、簗場に電話して子持ち鮎を焼かせろ。うす塩で姿よく焼けたらすぐに隠居所へ届ろとな」

孫なのかお手伝いなのか分らないが、やはり上品なその女性が電話を掛けている間に老人は先に立ち、ワシらを案内して工場敷地の奥のほうに歩いて行く。
思わぬ厚遇にびっくりしながらワシらはその後ろをおずおずと、庭の飛び石伝いに自転車を押して付いて行ったのです。
背中のリュックに里芋の煮っころがしの重箱が入っている。レールマンの奥方が肴にと持たせてくれたものだが、今さら言い出せない雰囲気になっている。

酒屋へ試飲会に行く亭主とその仲間に、わざわざ里芋の肴を持たせて送り出す、そーゆー発想は今時の奥方にはないぞ。こーんなんは江戸落語の長屋のおかみさんだ。
レールマンの長い単身赴任中、奥方は三遊亭圓生のDVDを見ながらポテトチップスをポリポリやっていたに違いない。
ポテトも芋だ、里芋の発想はここにあったのか。やはりただ者ではない。

それにしても里芋がこれほど重いとは思わなかった。
アフリカではタロ芋やヤム芋を粉末にしたものを持って走り、川の水で練って焚火で焼いたナンを食ってエネルギーとし難を逃れたが、これ程は重くなかった。
ニッポン里芋は煮っころがしたときの出汁や砂糖と醤油で質量が増えたのかも知れない。カロリー高そうだし芋の炭水化物は長距離の助けになる。
粉末にして焼き固め、ショ糖とナトリウム塩を最適配分すればスポーツ エネチャージには最適食品となる可能性があるが、やはり野におけ里芋は 酒の肴がよろしかろう。
そーんなもろもろを思いながら老人の後につづく。

一方相方のレールマンは何も背負っていないくせにやたら遅くてママチャリに抜かれても平気。発奮ペダルなど踏まないことがたっぷり1時間かかった理由だ。
抜いて行ったママチャリは今頃きっと友達にスマホで自慢していることだろう、
「あたしさあ さっきね、土手を自転車でダメ犬の散歩させててさあ、カッコだけのノロ亀ロードを二台もブチ抜いてやったのよー。すごいでしょう。
ダメ犬はね、あたしの猛ダッシュに必死こいて付いて来てヘタレたのね、小屋で寝てるわよ、へへーんだ。これ犬の写真」

もろもろの諸因となったノロ亀の奴め、桜の木を探しているのかきょろきょろと周りを見回している。

それに気づいた老人、立ち止まって声をかける。
「桜はねえ じつは 枯れました。 かれこれ40年になりますかなあ、惜しいことをしました。 ほれ そこの井戸の向こうに小さな塚がありますじゃろ、桜があった処です」

「ひええ〜 枯れたあぁ〜! もう無いのですか? こどもの木も?」 
塚に駆け寄るレールマン、手放した自転車が庭の砂利の上に倒れて音をたてた。

「あの桜はねえ、実を付けんかった。だからこどもの木はない。
さくらんぼの代わりに夏に薄紅色の繭がようさん下がってなあ、遠目にはそれがな、それはそれは美しい木の実のようだった。
けんどそれは桜の実とは違うものだったのですじゃ」

「ひょえー 薄紅色のまゆー! そっ それ、それ、もしかして天山の緋天蚕?」
塚の柵につかまったまま振り返ったレールマンの目玉が飛び出ている。
サイクルショップに行く途中の100円ショップで買った老眼鏡がこれほど似合う男も珍しい。

「ほうー オメさまも天蚕を‥ ほーけ ほーけ やっぱりなあー、 桜を見たいと聞いたとき儂はそう思った。
嬉しーのおー そーゆーお客を待っていた。 40年ぶりじゃ、今日はその話をゆっくりといたしましょうぞ。 さーさ 入ってくだされ」

このふたり何の話をしているのだろう、てんざん だの ひてんさん だの業界用語を使いやがって。
ワシは四季の酒の話しと、その現物に早くお目に掛かれれば幸いだというのに。

招じ入れられたのは飾り気のない離れの茶室、といった感じの老人の居宅だった。
家業の酒蔵を倅に譲ってからはここで鬼怒川の伏流水が湧く井戸の番をしながら、土手の上を旋回するトンビを眺めて四季の歌を詠んでいるのだという。

奥様を先に亡くされ、手伝いのお春さんが母屋から運んでくる食事のたび倅の仕込んだ酒を含んで味と香りが継承されていることを確かめるのが唯一の仕事だと笑う。
老人の丈夫な足腰と肌艶の良さは酒の良さの証明であろう。

「あのー 酒は口に含むだけですか? 飲まないの?」
レールマン、野暮な質問をする。

「ふぉー ふぉーっ ふぉっ、 飲んでおりますとも、吐き出してなるものですか。
酒なくして何でおのれが桜かな。 四季桜 命名の由来を守っておりまするぞ」

「すると何ですか? 銘柄名の四季桜と四度咲きの桜とは直接の関係はないと言われますか。緋天蚕はどういう位置づけに?」
レールマン、すがりつくような目で老人を見つめる。 桜オタク がんばれ! と応援したくなる。声にした ひてんさん とはナニ?

そのときお春さんが声をかけてきた。
「皆さん お支度が整いました」
庭の芝生にテーブルが出されて酒器が並んでいる。気持ちの良い秋晴れの好日である。

簗の川漁師が鮎の塩焼きを届けてきた、鮎の刺身もある。
店の番頭さんが酒を運んできた、なんと懐かしい二升瓶である。

「これはこれはお世話をかけましてありがとうございます。屋外での利き酒にはぴったりの日和でございますな」
お世辞でなく本当にそーゆーシチュエーションなのだ。来てよかったと思った。ひてんさん など、どーでもいいではないか。

思いが通じたのかお春さんも番頭さんもにっこりとして、
「利き酒じゃありません、会長は本気飲みでと申しております。 こんなことは珍しいんでございますよ、ごゆっくりと召し上がれ」

酒はコルク栓の口金に針金の金具が付いて、それが瓶の口に一体となっている古風な瓶に入っている。平成になってからは見ることがなくなった二升瓶である。
ラベルはないがこれが スーパーグランド四季の桜オールド40なのか。
そんな名前の四季桜は聞いたことがない、店頭には並ばない身内での符牒なのだろうがなかなか洒落たネーミングだ。

ワシは期待感よりも緊張感で震えそう。安易にタダ酒を飲みに来た自分を恥じております。
レールマンは元来が恥知らずだから四度咲き桜の研究をころり忘れて、まづは四季の桜を探究する顔つき。
さっそく戴くことにしました。

二升瓶はずしりと重い。常温よりやや低めの温度。
薄い色味のついたオールド40。中振りの江戸切り子のグラスに注ぐ。
しばし 香り立つ。

美味い。

他に言いようも書きようもない。それほど美味いのだがそれでは余りに芸がない。
ワシがんばって書く。一応は文士ですけんね。

<たちまち楽しくなった。何がってココロとカラダがです>
うーむ 素晴らしい表現だ、簡潔にすべてを表している。文士合格。

ちなみに創業二代目が詠んだという歌碑が庭にあった。
<月雪の友は他になし 四季桜>

やはり桜と酒とを同義語としているようだ。自然と共に酒もまた友 と高らかに詠っている。
三歩さがって文士平伏。

麻薬や媚薬やドーピングは非合法かつカラダに悪影響だが、美味い酒は合法かつカラダに良い。そのうえタダ酒はこのうえなく財布にやさしく、マインドの高揚にとても良い。ペダルも舌もよく回る。
だがタダ酒のなかには酷いのもありましたよ。

おととし招待された某自転車団体の忘年会で、某温泉の観光ホテルの宴会の酒、アレは妖しかった。
翌日の朝食に起きて来られた者は皆無だったし、昼近くなってチェックアウトで追い出され、クルマの屋根の自転車を降ろすこともなく全員が山を降りたのだった。
ワシだって酒の味くらいは分る。分るがあのときは妖しいコンパニオンに乗せられて、勢いで飲んでしまったのだ。 べらぼうめー。

ワシの内面の雄叫びが表情に現れたか、老人もお春さんもさらににっこりしている。
レールマンもすっかり気分よくなっているようだ。
唯一の問題はワシら帰りの足をどうするかだが、そーゆー配慮は口八丁 筆八丁の作家にまかせて今日は大いに飲もうじゃないかご同輩。

「おしぐれさん この前、ボクの見舞いにと持って来てくれたのが四季桜だったね、あれどーした?」
「どーしたもなにも、あんたが軽のドアにドアーっとなったのはコレが起因だって怒るから、おかみさんが台所に持って行ったよ。里芋を煮るんだって」
「それはいかん、料理酒などに使われてはモアもったいない。神棚に祀ってからしかるべく頂戴すべきだ」

編集注: この辺りの諸事情は バックナンバー 2013/10/17 (四度咲き桜 壱) を参照のうえご納得のほど。

ころあいをみて老人が話しだす。

「銘柄名の四季桜とはあの歌碑の通りですじゃ。
詠われた明治の中期にはのう、お訊ねの桜はまだこの庭になかった。歌碑の桜は雪月花、日本の文化イメージとしての桜と思っております。
お訊ねの四季咲き桜と呼ばれた桜は明治の終わり頃に実生で生えて、大正を経て昭和の後期までここで咲いていたんじゃが、最期は儂が見取った」

「ひええ〜」
レールマン 頓狂な声をあげる。

「お二人にはの、今は枯れてしまったが当家に咲いていた不思議な実生桜、四度桜のことなどをこれからお話ししてみたい。ぜひ聞いてくだされ。
とは言ってものう、桜を育てた先々代の爺さまから儂が子供のころに聞いた話のリメイクだでの、飲みながら話し 聞きながら飲むのがちょーど良い話しですのじゃ」

「ひょええ〜 ボイスレコーダーを持って来なかったあ〜」
レールマン 失礼な悲鳴をあげる。
こーゆー話しはオフレコが鉄則なのだ。いーや 鉄血の掟というべきだ。

ワシは手に持っていた切り子グラスの残りをグッと飲んでからそっとテーブルに置き、両手を膝の上に置いた。それが文士のタシナミというものだ。
飲み下した歴史の酒がはらわたに沁みていった。

syn

四度咲き桜 参 につづく

おしぐれ俊ちゃんの ロード歳時記・ ジャパンカップ速報
2013/10/21

雨の日曜日にワシは大切な数少ない読者あてに台風避難情報を書いて送っていましたが、その間にも本県一の名坂 古賀志峠では冷雨をついてジャパンカップ サイクルロードレースが決行されていました。
貼付の写真は地元紙 「下野新聞」 の本日1面です。
雨に煙るスタート直後の登りを正面から撮影した写真。この一枚だけですべてを物語る傑作と思い、新聞を写真に撮って添付しました。

すでにレース結果はwebで紹介されているはずですから今さら「速報」というのはおこがましいのですが、この写真は下野新聞にしか載らなかったと思います。
地元記者の渾身の一枚、そう言ってもいいのではないでしょうか。
5時にコンビニへ走って行って各紙見た中で最高のショット。いつもは立ち読みなのに思わず買ってしまった新聞です。

死闘… 雨の古賀志   とあります。

雨の中のレースがどれほど辛いものかはよく分ります。

濡れて冷えた路面はスリッピーなうえ、前走車のタイヤから砲弾のような水射撃を受けて前が見えない。
それでも遠来の欧州勢は慣れない日本の峠を加速して行く。

プロなら当たり前、そんな評価が消し飛んでしまうほどの下りコーナーに、猛然と突っ込んで行く彼らには鳥肌です。
事前の練習走行をそれほどしていないにも拘らず、ブラインドのコーナーでブレーキから指を放せるなんて彼らは天才。

新聞の本文から引用です。
「雨と寒さが世界のトップレーサーたちを苦しめ、出場した17チーム84人のうち、完走したのはわずか39人だった。サバイバルレースを制したのは、終盤に飛び出したマイケル・ロジャース(33)豪州、
チームサクソ・ティンコフ。2位に44秒差をつける4時間25分0秒」  以下略。

天候のコンディションが劣悪だった昨日だったから、落車棄権の者もあったでしょう。
次週の 「埼玉版 ツール・ド・フランス」 を控えて、今は怪我はできないとの判断もあったでしょうよ。
だが、周回に遅れ終盤での挽回は遠い、との理由から途中棄権した大多数の日本人選手よ! 喝じゃー!

先の 「サイクルエイドJAPAN」 で、抜かれても抜かれても前を向いて走っていた老ライダーのいたことを思い出せー!

syn

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