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重箱爺さんの 隅をつつけば 7 「爺さん初勝利 下」
2016/02/12

お気に入りの△△薬局ドラッグストアまで不自由な左腕をかばいながらたどり着いた爺さん、ここでも三角巾の拘禁効果が邪魔をしてクルマから降りられない。
ドアを開けたままもぞもぞやっていると、店舗の出入り口で買い物カートを整理していた店長が目ざとく見つけて走ってきた。
もだえる三角巾の白が目に入ったのだろう。

「ええーい おまんに用はないわい、薬局のカワユイ薬剤師さんを呼んでたもれ」

「あの わたくしではイケマせんで ・・・ ?」

「イカン おまんのような大男に触られてはワシの肩が抜ける。 エイリアン様のお怒りに触れる。
カワユイ薬剤師を呼べえーっ! 早くしろーっ」

「へっ? ・・・ 営利庵さま?」

「よいか店長、静かなドラッグストアの店頭を騒がせて申し訳ないが、痛いのだから仕方がなかろう、ワシは患者のうえにお客だぞ。メンバーズカードも持っておる。
これまでに買ったのはハムストリングの筋肉痛用のバンテリンの後発廉価版のさらにジェネリックの〇〇シンとグリコ・パワープロダクションの粉末CCDドリンク500ml用だけじゃったが今日は違うぞ、
この地で高名な**整形外科の処方箋を持参しての出座である。一同の者 頭が高い!」

「はぁ? ・・・ わたくしひとり ・・ ですが」

「やかんしー! 素直に恐れ入りやがれ べらぼーめー。
道中の調剤薬局を2軒もスルーパスしてここまで来たんじゃ、早くワシを降ろしてたもれ」

「はい ですから わたくしが ・・ もちろん営利目的でお手伝いを ・・・ 」

「ばかぁー 鋭利なボケをかますなあー おまんじゃイカン言うておろーがー!」

騒ぎを聞きつけカワユイ薬剤師さん2名が駆けつけて地上に軟着陸できた爺さん、薬局のソファーでコーヒーなど頂いて痛み止め剤を飲んでいる間に一方のカワユイ薬剤師が黒いネットの腕つりサポートハンガーを店舗のほうから見つけてきてくれた。
薬はすぐに効いて肩の痛みはスーッと消えていった。

「どーじゃ、ワシに似合うか?」

「おじさん めっちゃん素敵よ。
そーやってえー 腕を吊ったままネットに隠したワルサーPPKのサイレンサー スペシャルを撃つのよね。ワルゾー一味はきりきり舞いの全滅よ」

カワユイ薬剤師、むかし流行ったピンクレディの振付で体温計ピストルの両手撃ち。大股に広げて踏ん張ったミニスカートの足がカワユイのう。
その大胆な振りは誰に教わったんじゃ、幼稚園の先生か。

「ふっふっふ 愛と正義は最後に必ず勝つ! 北半球の安寧はワシにまかせておきなさい。銭形など1発で仕留めてやるさ。
なに 南半球か? あっちはサザンのクワタが担当じゃが手に負えんときにはワシが出張ってな、必殺カングーキックで一蹴じゃ」

「きゃー おじさん、ペッパー警部よりかっこいいー。
ネットハンガーの肩パッドに汗が滲んでいたりして、めっちゃプロっぽくっていいわあー。
おじさん、今度のミッションは鋳物ベンチ投げの怪人Nを倒すことね! がんばってね」

「ふっふっふ お嬢さんたち、また逢う日まで達者でおれよ。禅光寺の唐芥子をみやげに帰ってくるでのう」

先ほど飲んだ痛み止め剤、効き目も凄いが幻覚の副作用もあるようだ。

「おーい店長、ワシの御用車をエントランスに回せ。 あに! おクルマですか? だと! ボケーっ こーゆーシチュエーションではな、お召し車とか御用車と言うもんじゃ。
勉強になったろ。
ほれ! ワシの薬袋を持たんか、プラチナム・スーパーゴールドカードも一緒に入っておるでのう 両手で捧げ持つんじゃ。素手ではいかん、白いシルクの手袋をせんかい。
なに! シルクの手袋は無い? しかたあるまい白髪染めの使い捨てポリ手袋で許してやる。新品を使えよ。
まてっ! 前を歩くな。従者は後ろからついて来るもんじゃ」

家に帰った爺さん、三角巾を腕つりサポートハンガーに替えたから御用車からの降車はひらり。
ふだんから鍛えて三角になった腹筋が役に立っている。

さっそくジャングルの密林のような net ショップを検索して自分の肩から腕を吊っているネットハンガーを探す。
△△ドラッグストアでの価格がやや割高なのはカワユイ薬剤師との対面販売のうえ、ジャストなフィッティングまでしてくれたのだからそれはそれでよい。爺さんのウラチナム・スーパーゴールドカードはインターポールの口座で決済されるからいいのだ。

爺さんそれよりも net でネットを購入したひとたちのレビューを読みたかったのだ。
レビュアーの講評は概ね好評で、洗濯替えにリピート購入したという高評レビューを読んだところで他の同種商品を検索してみた。

「おお これは! これは気が付かなんだったなあ。
ワシのネットハンガーは左肩の前側から首の横を通ってベルトが下がってひじを入れたネットを吊っている、手指側のベルトは脇腹を通って背中で左側と連結している斜めシングルたすき掛けじゃ。
じゃからクルマを降りるときにカラダを捻じっても大丈夫じゃった。

じゃが、痛めた側の肩の前側にベルトがあることで肩甲骨を圧迫する感じはあるなあ。ここを骨折したひとには耐えられんじゃろ。
ところがどうじゃ、こちらの商品は痛めた肩と逆側つまり手指の方向にベルトが出て、痛い側のベルトはひじから背中を回っておるではないか。
肩パッドは右側寄りになるからワシの様に左の肩頂部に疾患のあるものにはこっちのタイプがええのう。

痛めて初めて分かることじゃが腕の重みをベルトで吊って首と肩で負担するのはなかなか大変なものなのじゃよ。
豊満なおっぱいの女性はどーしとるんじゃろかのう。
複雑に骨折したひと全てにフィッティングする吊り具は無いかもしれないが、出来れば痛くないほうの肩に荷重が掛るタイプがええのう」

いま爺さんが腕を吊っているネットもそうだが net で新たに見つけたネットも左右兼用である、向きを変えて吊るだけでよい。
だが爺さんのネットは、肩が負担することになるベルトパッドの重心位置が痛めた側に偏重することに変わりはない。
net に見るネットは腕を左右逆に吊っても肩パッドは同時に逆側へ移行して、痛む肩の負担は少ないように思われた。

「よっし これを買おう。カワユイ薬剤師には悪いが、ワシにはこっちのほうが合っていそうだ。きっと店舗には1種類しかなかったんだよね、仕入れ担当者の見識不足だ。
でも手指側に吊りベルトが来るとワルサーPPKの引き金が引きにくいなあ。
それよりワシはあと何日腕吊りをするのだろうか、費用対効果を考えるのもアベノミクスの基本だしなあ。

それにだよ怪我人を狙って銭形ほどの男が夜陰に乗じてやってくるだろうか、武士の情けはサイクル道の本幹であるから再びハンドルを握れるようになるまでヤツは挑発して来んじゃろう。
よっし まずは逆吊りネットのレビューアーに感想を聞いてみるべきだが、その前に現在の順吊りネットをレビューせんとならんな」

というわけで、△△ドラッグストアの順吊りネットを長々とレビューしたついでに net ショップの逆吊りネットが良さそうだというレビューも送信して寝た。

痛む左肩は腕を固定したことで楽にはなったのだが片手で打つパソコンというものほど情けないものはない。
やたら時間がかかる。もともと両手でもキーボードを見ずに打つめくら打ちなど出来ない爺さんである。めくら撃ちでも百発百中なのはワルサーPPKだけである。
自転車だってそうですよ、路面とライバルから一瞬でも目を離しているライダーなどおらんでしょうや。

「たまにはそーゆーへたれな奴がおるけんど、大抵は土手から転げ落ちて石の道祖神などにぶつかって三角巾のお世話になっておるんじゃ」

で、割りばしをくわえてシフトキーを押しながら右手一本で書いたのです。
そして寝酒に飲んだビールで痛み止め剤を再度飲んだ。

お薬手帳には間隔を8時間以上あけて水またはぬるま湯で飲むこと、と記されていた。
さらに、コーヒーやビールで飲むことは薬の反応が想定以上に激しくなるので禁忌ですと書かれていたが爺さん、紙の印刷物はあまり読まないのだ。

翌朝メールを開くと日付が3日飛んでいた。効きすぎたクスリは三日間も爺さんを眠らせてしまったのだ。
非常に危ないことだったが非常な尿意と非常な喉の乾き、空腹感を覚えたということは大丈夫だったということだろう。ふだんから腹筋を鍛えていましたからねえ。

排尿はスムーズだった。溶けたエイリアンが途中に引っかかってしまうこともなく全部排出するとアタマも少しは冴えてきた。
途中で引っかかるリスクは腎臓や膀胱の結石の場合であって、肩のエリ公はリンパに乗って排出されてくるから固形ではない。
そのような説明をドクターから受けたことを思い出した。
ともかく脱水に近いのは危険だから水を飲まねばならない。

こーゆーときにはいきなり水道の水を飲んだり、冷凍のえびピラフをチンしたものなど食してはならない。
グリコ CCD ドリンクを500mlの水に溶かしてゆっくりと飲み、汗が出始めたら固形物を食してもよいが爺さんはプレ高齢者だから森永のウイダーinエネルギーゼリーを1袋、口の中で噛むようにしながら飲む。
そーして、胃の中が落ち着く30分後に餃子でもビビンバでも食ってよし。

爺さんのトランポ車の保冷庫にはグリコと森永製品が山のように入っていて、いつ指名手配されても沙漠に逃げて1ヶ月は逃亡を続けられる食糧と水が備蓄されている。
西部劇でクリント・イーストウッドがよく食っていたビーンズ豆の煮たやつは、乾燥豆を麻袋に入れて携行できて水さえあれば洗面器で煮るだけだから理にかなった栄養食なのである。
お口直しにはガラガラ蛇を焚き火で焼いて、熱々の尻尾にサボテンを絞った汁を滴らして食すと野生のエネルギーが蘇える。
馬に乗って腹がゆれるとカラカラ音が響き大事な牛が驚いて暴走する。これは毒蛇の尻尾の音だ、だから西部の男にも腹筋トレーニングは必須なのだ。

メールにはジャングルの密林のような net ショップ運営機構からレビュー御礼が入っていた。
それは順吊りネットをレビューした1件だけで逆吊りネットの 「こちらが良さそう」 と書いたレビューは無視されていた。
冷静に考えればそうかもしれない。爺さんは順吊りネットも逆吊りネットもここの net ショップからは購入していないのである。

順吊りタイプを他所のお店で買って大きな顔をしてレビューしてきた。そこまではレビューのフィルターも許してくれた。
だが、まだ腕も肩も通してもいない逆吊りタイプを想像で 「これがええ」 なあ〜んてよくもまあレビューしてきたもんだ。フィルターは怒ったんだよね、きっと。

ユーザーレビューはユーザー本人がユーズした感想であって、未ユーザーはレビューの権利が無いのである。

密林のフィルターが偉いのは、「あんたダメやないかい」 と言ってこないところ。黙って無視しているところはさすが大密林、偉い!
爺さんの負けです。

急いで逆吊りタイプを発注しようとしたのですが、整形外科の予約日当日になっていた。
整形のドクターと看護師長に順吊りネットサポートベルトを自慢するつもりで行った。三角巾をやめてこーゆーハイパーなサポートを導入せよと意見してやるつもりで行った。

「あなた もうネットも三角巾もいらないね。溶剤がよー効いています。眠った効果もよかったがナトリウム塩基は効きますなあ。
ナメクジには塩、エジプトの古医学書にもそう書いてある」

「ぶっふぇーっ!」 

また吹いのは例の看護師長である。
あんた たまには有給休暇とって三角ピラミッドでも見物してきたらどないねんな。

「塩が固まらないようにどんどん動かしてください。自転車? 乗っていいですよ。
それと、何度も言いますが新生成物は尿に排出しますから番茶でもビールでも飲んでどんどんおしっこを出してください。おしっこしないと血圧が上がって死にます。
ナトリウム血症といいます。
心配なら導尿の管を付けますか? うちの看護師長は導尿パイプの名手ですよ」

「ぶっふぇー!」

今度吹いたのは師長ではない、爺さんである。
看護師長のお手並みは体験済みである。それに排尿は順調だと今朝確認しているから勘弁してもらうことにした。

「ばかやろー ワシを見捨てるつもりか! NASA に検体を送ったからワシは用済みなのか。
それはワシントンの指示か それともペンタゴンかあー」

整形外科の会計でプラチナム・スーパーゴールドカードを財布に戻しながら爺さんは呟く。
まだ順吊りタイプをいっぺんも洗濯機に放り込まないうちにもう来ないでいいと言われたのである。
これで逆吊りタイプの発注はなくなった。

あと二三日吊っていたかったなあ。
それがもういらんて。
じゃあ この長ぁ〜い ”論文” は何だったのよ。
せっかくコネクションの端を得たカワユイ薬剤師はどーなるのよ。彼女らはワシのことを 00#7 の名優 シューン・コネクリー だと思っているのだぞ。
南半球でサザンのクワタに会ったれば、サインをもらってきてって頼まれていたのだぞ。

失意の爺さんの小屋の前に宅配便のライトバンが 「ピッピッピ」 とバックしてきて、見慣れた密林の箱が届いた。
箱から出てきたのは前号写真右側の金属物である。

これは折れたひじに装着する補助装具ではありません。
無人の沙漠でガラガラ蛇の穴に落ち、不幸にも骨折したら使えないこともないような気はしますがね。
使用例の写真を今号の写真欄に貼付します。

気を取り直して少しだけ説明しますと、自転車のフレームにネジ止めしてドリンクのボトルを突っ込んでおくための金具です。ボトルホルダーといいます。
肩にエイリアンが来る前日、来るべき春に備えて新品に交換したのです。
春より先にエイリアンが来たのは誤算でした。

同じモノを2個買いました、はい net で。
前後で異なる部品に見えるかも知れないけれど、取り付け方向が前後で逆になれば写真ではこーゆーふうに写るのです。腕吊りネットと同じ原理です。
で、よっく見たら微妙に違うのです。右側は上の方に3本のスリット (溝状の切りこみ) があるのに対し左のは無い。
下のほうのボトルのストッパーになるL字型の折り込みが左のそれに無いのは爺さんの加工によるものなので製品不具合とは関係ありません。

加工の理由は後述。

3本のスリットは軽量化というよりもデザイン上のおしゃれに過ぎません、ボトルを押さえておく力に関係しませんからどうでもよいのです。
ただし重量を爺さん自慢の超精密タニタのハカリで測定したら0.5gの差がありました。全体で27.5gです。ボルトを含めて30g、超軽量金属製です。
この形状をこの薄さのカーボン積層フィルムで作った場合は、たちまち強度不足で折れますから現在世界最軽量の金属ボトルホルダーです。

腕吊ネットホルダーも軽量でしたが、いつの間にか軽量ボトルホルダーへと話がシフトしています。
気が付かなかったでしょう?
この辺りが爺さんの巧みなところです。

0.5gの差はスリットの有無というより個体差に近い、許容の範囲です。
ですがレビュー大好き爺さんがコレを取り上げないはずがない。

「スリットの加工忘れはミシン目のない切手シートや穴のセンターがずれた五円玉、聖徳太子のヒゲがカイゼル髭に印刷されている万札などを手に入れたようでとてもラッキーです。
スリットが無い分空気抵抗が少ない、このボトルホルダーを付けただけで自己新で峠を登れそうです。羨ましがる読者に写真でお見せしましょう」

と レビューした。
けっして交換しろだの代替え品を送れだのとの意図はありません。だってラッキーなんだもの。

翌日レビューサイトを仲介してメールが届いた。 「急ぎ品物を送ります」 とあった。
エイリアンが来た日のことである。

爺さんが返信したのはあの騒ぎで遅れ、三日眠って目覚めた朝のことだった。

「すでに取り付けを済ませたし、ストッパー部を切除してロングなツール缶が ”ずっぽり” と納められるよう加工も加えている。
重心が低くなって満足しているからお返しするわけにはいかない」

さらに追っかけメールが届いた。

「先ほど当日お急ぎ便に託しました。本夕までに必ず、必ず、猫の命に代えてもお届けします。と猫印運輸が約束しています。
このたびは弊社の不行き届きにてお客様には大変なご迷惑をおかけしました。スタッフ一同こころよりお詫び申しあげます。
なお不具合商品につきましては返品の必要はございません、お客様の方でご自由にお使いくださいませ。
宜しければロングなツール缶の ”ずっぽりな雄姿” などお写真をいただけましたなら幸いでございます」

なんと立派なショップであろうか。
時間通りに猫印が 「ピッピッピ」 とやって来てスリット有りの商品が届き、爺さんはその日のうちに到着御礼と3点の写真を貼付したメールを送ってこの1件は落着した。
その写真が本号の2枚と前号の1枚である。

net のショップに対し勝利したとか、戦利品を得たとか書くのは不遜である。
日本は儒教の国である、相互信頼なくして宇宙の真理は語れまい。
広い星空をさすらった末、満身創痍になったハヤブサが最後のエンジンを吹かして母なる地球を目指したのは、何億年経とうと必ず待っていてくれる懐かしくも頼るべきグーグルな大地があってのことではないか。

よってショップが写真が欲しいと言うのは、

「ホンマにスリット孔が無かったんかいなあ。返せんちゅうのんはナニか先方に深ぁーい訳があってのことやないやろーか?
取り付けに失敗して壊してしまった、もう1個欲しくてこーゆーコト言うへたれがたまーにいるのよねー。このひと煩さそうだから1個送っておこう」

などと儒教の本質にも劣る考えであったなどと、そーゆーこと考えることのほうがもっと卑しい。
ショップは自社商品がユーザー先でどの様に使われているかを純粋に知りたかった。今後の商品改良に生かしたかった。と考えるのが正しい日本の儒教民であろう。

そうでなければ、1個ゲットしたとは言うものの精神上で爺さんの連続負けになるではないか。
送ってもらったホルダーはありがたく使わせていただくと返メールしたのである。

骨折時の添え木にぴったしのサイズと形状やないかい。どーだ これで完全勝利宣言じゃい。
なんやかんやで添え木なしでも シフト+キー が押せるようになったし、目出度しといたしましょうや。

「ドクターがな、ビールを飲めちゅうておるんや、ワシ医者と坊主の言いつけは守るほうやしなあー」


隅をつつけば #7 おわり

8号予告 「ドリンク ボトルについて考える」

重箱爺さんの 隅をつつけば 7 「爺さん初勝利 上」
2016/02/09

読者の少ない重箱爺さん、通販サイトの商品レビューがことのほか大好き。

なぜかというと、ユーザーから送られたレビューは原則的に10分以内にそのまま掲載される。
あまり長い文章だと別ウインドウを開かないと全文読めないが外力によって編集されることはない。

言語自由・アダルトと国家転覆計画以外ならジャンルを問わず。
しかも読者は全世界に数億人。いやもっとか。

爺さん、又吉を抜いたとひそかに自負している。
それはもちろん爺さんのチカラではないのだがそれでもいいのだ。そのうち陽が当たると信じている。

いや陽など当らんでもいい、レビュアーランクがあと10,000上昇すれば王位が見えてくる。
数億分の10,000だ、なんてことはない。

あいだにサイト運営会社の巨大な密林のようなシステムがあって、レビュアー同士の直接衝突は発生しないようになっている。
購入を検討しているひとが商品に対する質問を投稿すると、先にレビュー履歴のあるひとのなかからヒマそうな人物を選んで質問内容を回送してくる。
それに対しての回答は極めて丁重な扱いを受けて、どんなに長い文章でもフルサイズで掲載され、良くても悪くても御礼のメールが届く。
会社によってはここでポイントが蓄積される。

爺さんそれを ”悪用” して 言いたい放題 書き放題 を楽しんでいるのだ。
一種の一方通行テロかもしれないが今のところ当局からのマークはないようで、図に乗っているフシがある。

そのうち痛い目に合うと誰か教えてやってくださりませ。
ですが あの爺いも皆さまとご同様 ”ブタの耳にフタ” でございます。バブル時代に享楽のまま育った経験がでほらくを助長しているんですねえ、きっと。

「説教しに行って腹を立てて帰ってくるくらいなら、
傾いて転覆しそうなアベックのボートに 「助ける」 といって躊躇せず湖畔公園の鋳物ベンチを投げたS工舎のNさんの減刑嘆願に回ったほうがよいくらいだ」

と、ある団塊屋関係者が言っておりました。

そのNさん同様に確信犯的こまった爺ぃですが 『共感する』 に数票を獲得するヒット作もあって、「おしぐれさん」 より面白いのでやめられない。
それに、やり玉に挙げたメーカー・出品者が (システムを介して) 反論を展開してくるかも知れないゾクゾク感が堪らないのよね。
ほとんどは無視されているんだけど。

ユーザーレビューは、そうとうな反社会的内容であったり事実無根をネタに商品あるいは法人・個人を誹謗する言辞を盛り込まない限り、レビュー欄のフィルターを通過して掲載される。
これまで50件以上を送っているが、うち1件以外は掲載されている。
おおむね最初は誉めておいて、中頃で少し意地悪な皮肉を込めて書き連ねているだけだから最後の ”落ち” さえ上手に決まればフィルターは ”可” のカゴに入れてくれる。

この ”落ち” の出来不出来で閲覧者からの投票数が決まると爺さんは思っている。
爺さんのランクはまだまだ低いのだけれど、”業界” にはレビュー王と称されるお方も存在してそのレビューは正統派、さすがに巧い。

それに引きかえ真っ当なレビューの書けない重箱爺さん、商品情報や使い勝手のレポートはいい加減に済ませて落ちへ落ちへと読者を誘って行くテクだけを研鑚してきた。
まことに不用不急の迷惑じじぃなのである。

数日待っても掲載されなかった1件というのは 「腕つりサポートネット」 である。
具体的な商品名を書くのは止めておくが、骨折や捻挫などで動かせなくなった腕を首から吊っておく医療補助用品。数社のどの商品もだいたいそのような名前である。

昔は白い三角巾しかなかった。
アレは重傷感・悲愴感が際立って同情を誘うには効果的だ。ただし、
もっと昔に爺さんが上京したてのころ上野駅の地下道で見た病棟服を着て素足にゴム草履・松葉杖・黒メガネ・胸に三角巾で吊った募金箱・そしてカーキ色の野戦帽。
こーゆーのは爺さん年代には圧倒的にダメなのだ。衝撃的なのだ。

「あのひとたちは似非傷痍軍人だ、カタリのホームレスだ。黙って通り過ぎるんだ、目を合わせてはならんぞ。
本物なら日本政府・厚生省が放っておくはずがない。だいいち誇り高きヤマト兵士が不自由になったわが身を晒して地下道で物乞いなどに立つものか」

そのようにいうクールな友人もいた。
だが爺さんは (当時ははたち前の青年だった) ポケットから映画賃とカフェ代を残してありったけの小銭を箱に入れた。
静かに頭を下げた旧軍人のカーキ色の軍帽から、汗の匂いに混じって青年がまだ行ったことのない中国大陸の匂いもしたような気がした。

なぜそんなことが分かったかというと、死んだ親爺の軍帽と同じ匂いだったからだ。

戦場から帰って爺さんたちが生まれ、それから何年も生きてから死んだ親父は冬を前にして行う 「藁囲い」 や 「巻き割り」 のとき、決まってカーキ色の旧陸軍戦闘帽を被っていた。
あれは軍装解除の際にも撤収されずに被って帰れたらしい。
親父の葬儀のとき、白いさらしに包まれておふくろに抱かれた骨壺にはその軍帽が誇らしげに乗せられていた。

だから白いさらしの三角巾はダメなんじゃい!

「あらァー どうしましたの? その三角巾」

「いやあー じつはァ 〜」

「落車ですかァ 〜。 んで ? 名車コルナ号はどーなりました、無事ですか」

ばかやろー そーゆー聞き方はないだろーよ!

昨今はネナイロン製のネット状腕ホルダーを長さ調整可能な首・肩ベルトで吊る便利なモノがnetで買える。
白色のもあるが、黒いネットのほうが目立たなくて断然よい。netでの売り上げも黒が断トツだ。

あえて net でと記したのはナイロン製のネットとかぶるからで、洒落などねらっているわけではない。
もっとも装着時には片手でベルトをセットしたネットを最初に首から ”かぶる” 行為からスタートするわけで、爺さんの意図はどこにあるのかわからない。

整形外科の駐車場、片腕1本でなんとか出口方向に向きを変えようと苦戦する爺さんを見かねて隣接の調剤薬局から白衣を着た男が出て来た。
そこだけフェンスが切れていて、車椅子でも通れるスロープが医院のエントランスから薬局の玄関までつながっている。

「そりゃー 便利かも知れないがなんだか見え見えで気に入らん。
処方された痛み止めを早く飲みたいから薬局に行かねばならんのだが、おまんとこには行かん。
ワシが行くんはお気に入りの△△ドラッグストアの薬局じゃ。お薬手帳だってメンバーズカードだって作ってもらっておるぞ。

あそこはのう、おまんと違ごうてカワユイ薬剤師がふたりもいての、一方が薬の支度をしておる間に一方がワシの話しをよーく聞いてくれてのう。
ワシによー似合う最新ファッションの腕つりネットも店舗のほうから見つけて来てくれるに違いない。
それにな、

「おじさんチョッと待っといて」

ちゅうて、美味しいコーヒーまで出るんじゃ。
おまんとこは出ても番茶じゃろ、薬を飲むんに番茶はいかんぞ。薬はコーヒーで飲むもんじゃ」

「運転、やりましょうか?」

「これはご親切にありがたい、ぜひお願いします。その前にいったん降りますから手を貸してくださらんか」

このときの爺さんは顔面蒼白・苦痛に顔をゆがめてトランポ車の高い運転席から薬剤師の手を借りてやっとこ降りた。
では乗るときはどうしたのかというと、健常なほうの右手でフロントピラーにあるグリップを握ってヒョイと乗り込んだのだ。ふだんから腹筋を鍛えている賜物である。
ところが降りるとなると左肩が動かないというものは困ったもので、降りる動作がどうしても出来ない。

強い腹筋が動かない肩を強引に引っ張るからものすごく痛い。
これは三角巾による拘禁拘束作用によるものらしく、やっぱり高機能な腕つりネットが必要なのである。

左肩の痛みは尋常ではなくて、なのにこんなに色々書けたのは△△ドラッグストアの薬局で入手した痛み止めをその場でコーヒーで飲み下したからである。
つまり駐車場の一件からは1時間以上経過している。
あとはファッショナブルな腕つりネットで肩と腕をしっかり固定して、ひたすら治癒の時を待つだけである。
ドクターは酒を飲んではならんとは言っていなかった。
こーゆーときこそ景気づけが必要だ、懸念した骨のガンではなかったのだからお祝いだ。 痛て イテ いて いってまえーっ!

申し添えるがコトの起こりは落車ではない。突然左肩に激しい痛みがあって、ほどなく動かせなくなってしまったのだ。
よく考えると数週間前から肩に違和感はあった。
自転車していても左肩ばかりに冷え感があって、グルグル回すとゴキゴキ音がしてなんだかモチベーションが縮んでいたのだ。

肩関節の一部である烏口突起という部分に ”新生物” ができて、それが骨間すき間から進攻して軟骨を攻撃する激痛。
ドクターが左右肩部のX線写真を比較しながら説明してくれた。
右は雑誌Tarzanなどで見なれた人骨の写真、左のそれは異形のエイリアンである。

「先生、新生物って ! あんた なに言うてますの。 ワシはガンかね? それとも ・・・ 」

「がん ではありません。あえてアナタ流に言うなればエイリアンです」

「ぶっふぇっ!」

吹き出したのは爺さんではない。うしろに控えていた看護師長である。
失礼な師長である。これで次回の通院時には、

「エイリアン様 3番の気密診察室にお入りください。人体マスクはドアを密閉するまでお脱ぎにならないようお願いいたします。
業務連絡 業務連絡、看護師長以外は第3エリアよりすみやかに退避しヨード剤を服用せよ。ヨード剤は用度室にあります」

とアナウンスされて待合室の好奇な視線がワシに集中するではないか。エイリアンは秘匿のなかに生きてこそエイリアンなのだぞ。

「先生、 ワシの新生物はどないだす? まだ成長してますのかいな」

「溶剤が効いているようです、角っこのギザギザが少し丸くなってきていますね。ほら 先週よりカタチが滑らかになって惑星イトカワみたいになっているでしょう。
痛みも和らいでいるはずです。痛み止めは中止しましょう、ナトリウム溶剤の連続使用はカラダに悪い」

毎週X線を二回も被曝しているから爺さんもヨード剤が欲しい。でもヨードが必要なのは若いひとだけで、爺さんほどの年齢になったら用どがないんだと。
飲むのは溶剤だけって、爺さんはアクリル塗料か。なんちゅう失礼なドクターじゃ。

「んで、この後はどーゆー行程表で進むんだす?」

「あと二週間溶かしましょう。それでも存在が確認されるようなら外科的処置で ・・・ 」

「あのー ・・・ そんなに溶かしたらワシまで溶けまへんか?」

「あなたがナメクジでなければ溶けません」

「ぶっふぇっ!」

吹き出したのはまたもあの看護師長である。なんと失礼な医院であろうか。

「ワシの肩には惑星イトカワのナメクジ エイリアンが棲み着いておるんかいな? ナトリウムってつまり塩やないかい! 赤穂の天塩ならワシの家にもあるぞ」

「生物ではありません、正確には生成物です。
体内のたんぱく質とカルシウムなどのミネラル分とで生成された骨質の塊りです。骨ではないので安全に溶かすことが出来ると考えています。
血液検査の値ではあなた、亜鉛の検出が異常値ですがブリキ板など常食にしていますか?
この亜鉛がスズと反応して ”ろう付け” 効果になってるようです」

「んなもの食べませんて、ワシはハンダ公爵じゃない。
亜鉛は自転車用のサプリのせいだすわ、青春は亜鉛だす。けんど こちらの薬を飲むようになってからは止めています。
それより先生、新生成物は溶けたらどこに行くんです? 宇宙に帰るの?」

「宇宙ではありません、尿中に排出されます」

「そーでっか 血尿はそのせいだったんですなあ」

「なに! 血尿? それは異なる病気の可能性がありますぞ、検査しましょう。看護師さん採尿の準備をしてください」

「はい 先生。 
エイリアンさま どーぞこちらへ、さっそくサンプルを採取してNASAに送ります。
整形外科で採尿とは久しぶりっ! 腕がふるえてしまいますわ。異星人の採尿なんて看護師30年で最高の誇りでございますもの」

「おいー 勘弁してちょーだい。紙コップではダメなのかいな。
エアロスポーク程度の細い管だろうなあー」

「ダメです。N2ロケット程のぶっとい管です」

「とほほ〜 なんとくだらない」


長くなりそうなので以下は 「爺さん初勝利 下」 につづくといたしましょう。

それにしても片手一本でよく書いたものだわ。シフト+キーの場合は口に割りばしくわえて押しました。偉いもんですなあ。
現在は標題の 「初勝利」 となんら関係のない展開になっていますので 「新生物」 のほうがよかったかも。

写真はくだんの 腕つりサポートネット、洗濯して乾燥中を撮影。
高い所に吊るすのがまた難儀なんです。
こうして見るとなにやら艶めかしい雰囲気、レッキとした医療補助用品ですがおもてに出しておいたら下着泥棒に持って行かれそう。

むかし、湖畔の鋳物ベンチ投げで勇名をはせたNさんの部屋にはこーゆーものがたくさんあったような。
60kgのベンチを20mも投げては肩も痛めるでしょうが当時は三角巾の時代で、ネット製のものは特殊用途の舶来品以外には無かったと思うのですがねえ。

2番目の写真が本題の 「初勝利」 戦利品。
次回にて詳細をご報告

重箱爺さんの 隅をつつけば 6 方位計の怪
2016/01/31

小うるさく速度取り締まり情報をくり返すユピテルナビの指示通りに走って、南三陸は河北上品村まで無事到着した重箱爺さんのお話しです。
今回は自転車で坂をハァハァいいながら登るハナシではありません、安心してお読みください。

道中は東北道から分岐した仙台南道路を終点まで行って、さらに三陸道に乗り継ぐと無料区間となった。
開いたままの料金所ゲートを半信半疑で恐るおそる通過してみたがETCは沈黙したまま料金額を読み上げない。

なるほど、本当に無料だ。 よそ者でも無料。
これは良い施策である、ついでに無料ガソリンスタンドと無料めし屋も設置してもらいたい。酒代なら払いますでよ。

待ち合わせに指定された道の駅上品(じょうぼん)の郷はすぐにわかった。
休日のせいかたいそうクルマが入っていて、おしぐれさんが好んで停めるトイレに近い駐車スペースに空はなかった。
その辺りの場所は流行の車中泊を楽しむ定年組夫婦の乗って来たカーキャンパーの定席なのだ。

旅程に余裕のある夫婦キャンパーは込み合う午後の時間帯より前に到着して車泊に好適な位置をキープする。
トイレに近くて傾斜がなくて、照明灯の明かりが直接差し込まないところ。
できれば大型冷凍トラックのエンジン音が響いてこない駐車位置がよいが、そうそう都合よくは行かないものである。
そこで前ふたつの条件が満たされるのであれば、照明が目に入る難点は車内のブラインドカーテンと車両の向きを逆向きにしたりして対応している。

冷凍機エンジンは停める訳にいかないのでその音はどうにもならない。トラックドライバーはよく解かっていて、幹線道路に近いところに停めてトイレまでは自分の足で走ってくる。
日本の深夜物流の10トン分をたったひとりで支える彼らの高い運転席は乗用車メーカーにはけっして作れない。あれは長時間の孤独運転に耐えつ、人間性を高潔に鍛える高哲の部屋なのだ。

ふいに携帯電話が鳴った。
「ヤツめ何処でワシを見ているのだ、油断のならない男だ。ヤツのステルス性は中国駐在員時代にCIAの怪しい人物とつき合いがあったということか」

「いやーっ 先生、いま何処け? 松島は過ぎたけ?
あに もう着いた。 えれー早いなあー。 地を這うようなフェラーリ スパイダーで来たのけ?
 
すまねーだけんどオラほの娘に急に孫っこが生まれでなや、末っ子に婿取りしたんだけんどオラの家系で待望の男子がやっと授かったんだよー。
2時間ばかし遅れっからよ、道の駅さに着いたればハワイアンフラダンスショーでも観ででくれ。
酒なら飲んででえーだよ、あとはオラが案内すっからよー。 足湯さ浸かって冷てえー上品ビールでもやっててくんないなあー」

2時間とは大変な遅れようだが孫が生まれたというなら仕方あるまい。
さいわい日暮れまでにはまだ時間がある、晩秋の陽ざしと風が気持ちの良いきれいな村だ。

道の駅は大きくて立派なつくりだが、津波で倒壊したのを再建して日が浅いという。
この辺りの建物や道路が真新しく見えるのはみな再建のものだからだと改めて知った。

東の正面になだらかなおっぱい型の山が見える、これが上品山。 観光案内板に ”たらちね” が描いてある。
なるほど、上品なおっぱいだ。
その向こうは海のはずだがここからは見えない。

併設の温泉施設で長旅運転のコリをほぐし、上品な酔い心地だとCIAが自慢する地ビールを頂いてリラックスすることにした。
ハワイアンフラダンスショーなら福島いわきでしょう。そっちには行かず無料の大広間に座った。

温泉の余熱でひたいの汗がなかなか引かないまま飲むビールはことのほか美味い。
焼き鳥と味噌コンニャクも届き、大広間のタタミの上に座布団を3枚集めて両足を伸ばすと自宅にいるような上品なリラックス感。
自宅の狭さ比べればこの解放感は素晴らしい。
このままCIAが現われなくてもいいかなと思うほどの満足感である。

いつの間にか眠ってしまった。
浅い眠りのはずだったが、どーんとなったとき始めは何が起きたのか分からなかった。
背中を座布団ごと揺すられて正気づくと脇のテーブルの上でビールの空びんがカタカタと揺れ、ついに倒れた。
いつの間にか3本も飲んでいたのか、大震災の被災地でビール3本は油断が過ぎよう。

隣のテーブルの家族客はもう立ち上っていて、爺さんに声を掛けてくれたトラックドライバーとおぼしき若い男がタタミに手を突く年寄りの腕を取っている。
地鳴りなのか客の叫び声なのかスタッフの誘導なのか喧噪とした音が大広間にこだました。

「これはいかん、ワシも建物の外に出なければならん」

重箱爺さんやっとそこまでの判断ができた。
若い男の背中を追って走った。 
温泉施設の玄関で履物棚から自分の靴を取ったころには地震の揺れは収まったように思われた。
外に出ると人々が空を見上げたり山を見たり、海の方角に向って耳に手を当てて音を聞くしぐさの人もいる。
電線はまだ揺れていたが信号機は動いていて、国道のクルマはゆっくりだが動いていた。

駐車場から国道に出て行くクルマが急に増えて出口が渋滞し始めた。
あの男のトラックは無事に行けただろうか。

混乱というほどではないが、みな急ぎ退避のスタイルに見えた。 みな本気だ、これは訓練ではない。
防災無線のスピーカーが何か言っているようだが分からない。
混乱しているのは上品ビールの余韻なのか遠来のよそ者爺いだから符牒が分からないのか、その辺りがいまひとつ瞭としないがこれは訓練ではないと解かった。

「退避って どこへ?」

土地勘のない爺さんはどうすればよいのか分からない。
旅行者とおぼしき車両の後をついて行くのがよいか地元の軽トラについて行くべきか?

「そーか 内陸部に向かって逃げればいいのだ。 西の方向が内陸だ。 ワシにはGPSナビがあるじゃーないか」

重箱爺さんトランポ車に戻ってエンジンを始動させナビの電源を入れた。
ナビ電源はエンジンキーと連動させず、別スイッチを設けて不使用時の暗電流をカットする方式に変更していたので立ち上りにやや時間がかかる。
その間に携帯電話を見ると三陸沖での地震波を感知したとの防災エリアメールが入っていた。

「おいおい 震源はここの近くの海かよ、津波はホントに起こるのかいなあー」

海の地震 = 津波 を予想し自身の逃げ道を探すのはあの大震災体験のあと日本人の常識となった。

「よっし 津波避難は空振りとなろうとも、もひとまず西側の高い所に逃げようじゃないか。 頼むでえー ポンナビ」

頼みの 入れポン出しポンナビはしっかりウォームアップされて現在地を中心に周辺地図を表示している。

「よっし まずは海までの距離だ。
一番近い海岸からどれほど離れている? それと北上川放水路は何処だ? 真っ直ぐな大川を逆流する波頭速度はやたら速くなるはずだ。そっちへ行ってはならん」

爺さんにいつもの沈着冷静が戻って、現時の状況把握に努める。
さすがは幾多の修羅場を生き抜いた重箱爺さんである。 やることにソツがない、理にかなって無駄がない、つまり理知的で科学的でアカデミックである。

いつの間にか駐車場には爺さんのクルマ1台だけになっている。早く気が付いて逃げろよ 爺さん。

「あれえー? なんだいこれは ワシのクルマはどっちを向いているんだあ。 上品山が右に見えるのにナビ画面では自車の左側にある、こっちが東なのかい?
そんなことはないだろう、道の駅のエントランスは南側を向いていてワシはクルマの前を道の駅に向けている。
自車マークが前を向く設定に変わりはないし、はて? 方位計の北は ・・・ あれえー クルマ後方が北って ・・・ そんなことはないよなあー。

右が東でそっちが海だろーよ、なのになんで右にスクロールすると鳴子温泉があるの? ありゃー 山形まで行っちゃったよ。
山を目ざして逃げるには鳴子温泉まで行けば完璧だが右へ行っていいものだろうか? どーしたポンナビ、おめーまさかワシの留守中に上品ビールを飲んだかあ?」

いつまでもやっていてはキリがないのと人命に係わることなので、種明かしを急ぎましょう。
あとで分かったことですが、このとき爺さんがナビを懸念したのは正しかったのです。

もしも周りが暗くて上品山の姿が見えず、津波警報は実際に発令されていて、道路は地割れしてクルマは使えず、ナビ画面の地図を頭に叩き込んだ爺さんが西の山側と信じて右の方向に走って逃げていたら、彼は波にのまれて行方不明となりこの原稿を書くことは出来なかったでしょう。

爺さんの自慢のポンナビは到着地で一度電源をOFFしたときの方位を記憶していますが、その後に車両の向きを変えたりした場合は、再起動してGPSを捕捉していても画面表示の方位は前回OFFのときのまま、地図表示の北もそのままなのです。
OFFが長時間になったときは内部電源保護のためか記憶を放棄し、次に電源ONされたときは車両の進行方向上側を画面の北と仮認識してGPSと現在位置のやりとりをしながら計測の補正をくり返すことに躍起になっています。
車両が走行を開始してGPSに大きな変動があると位置情報が確定されて方位と地図画面を実勢に合わせて表示する仕掛けらしい。

これまで重大な不具合と指摘されなかったのは、このナビは車両が少し動いてGPSの移動速度として認知した瞬間に正しい方位と自車の進行方向を上にした地図表示を展開することだけはなんとか間に合って出来るということです。
このことメーカーが気付いていなかったはずはありません。

なんたってレーダー取り締まり感知器の一大メーカーですものねえ。
ですから乗り込んですぐに走り出す場合には問題や不具合は実感されず、外観デザインだけ変えて継続生産されてきたのです。
それは今現在市販されている同シリーズの兄弟機種でも同じCPUを使っているから同じです。

爺さんはナビ電源に別スイッチを追加していると書きました。電源をシガーソケットから取っている場合でもソケットを抜けば同じことです。
爺さんの電源改造がこの機器だけをクレイジーにしたということではありません。
メーカーが安価なCPUを使って本体価格を引き下げる手立てとしたのが原因です。

実勢価格2万円以下のナビを買っておいて色々言うなというのは違っています。

あの3.11の大津波のとき、重箱爺さんと同じような状況下にあった旅行者はクルマでの避難はかえって危険と判断し、荷物を捨て妻の手を引いて走って逃げた。
西の山側へと信じて向かった道の先に大きな山が見えて安心したら、それは真っ黒に変色した大津波の山だった。

そんなことがあったと思いたくはない。
証言を得られないから立証できないのだが無念を胸に抱き、阿呆ナビを呪いながら海に消えた旅行者夫婦はなかったか。

爺さんのと同じタイプの安物ナビを使用中の読者は一度検証をして、その不都合なる特徴をしっかり認識しておく必要があると緊急上梓いたした次第です。

トイレ前にトランポ車を停められなかった爺さんは温泉施設の近くにいったん駐車し、その後に照明灯を避ける向きに位置を入れ替えています。
つまり南と北とが入れ替わっていたのです。
このとき上品ビールに気を取られて三陸道はどっちだったかの記憶をリセットしてしまったのですが、それはドライバーの責任ではないでしょう。
なんたってポンナビを信頼しきっていたのですから。

ちなみに13年間使って地図データが古くなったザナヴィーのDVDナビでは、電源ONと同時に立ち上がる方位計はまさしく北極を指し示していました。
旧式な大型ナビから最近買い替えた人ほど陥りやすい 「方位計は命に代えても必ずノーザンを示す」 という絶対信頼への思い込みは、時として人命に係わります。

この件、通販サイトのユーザーレビューで報告していますが、メーカーからは完全に無視されてしまいました。
お願いです、団塊屋さんに掲示させてください。

一方レビュー投稿から2日後にはお詫びのメールがあって、当日お届け便で代替え品を送ってきた自転車用品の通販店がある。
フレームに取りつけて飲料水のボトルを納めておくアルミ製のホルダーを買ったら軽量化のためのスリット状長穴が加工されていなかっただけで、実用には何の支障もない。

「既に取り付けを済ませたし、スリットなら自分であけたドリルの丸穴のほうがカッコよいからこのままで良い」

と返信したのだが、

「発送しています。検品ミス品はお返し戴かなくて結構ですからお客様のほうでご自由にお使いください。
よろしければお客様の加工されたドリル穴の写真を戴けましたなら幸いでございます」

と追っかけメールが来た。
次回はこの店を褒めてお口直しとしたい。

そのボトルホルダーを付けたコルナ号を伴って再び河北上品村を訪れたのは、CIAから二度目のお誘いがあったからだ。

「わが家の女系家系に100年目にしてやっと生まれた男子初孫のお披露目宴をするだで、万障など取っ払って是非来てけろ。
ついでに前回果たせなかったオラの自慢のイタリアングランドツアラーへのポンナビ取り付け作業をやって頂戴ませ。お泊りはわが村自慢の河原の自噴温泉」

というわけで1号前の振り出しに戻るワケでございます。
村の自噴温泉に逗留しおっぱい型の上品山を眺めつ俳句など詠んで過ごすうち、なんと本格雪が降り始めて帰るに帰れない仕儀となっていたのでございます。


  旅にしあれば黒き波頭も青き山


しないほうがよかったとあとで必ず後悔する注釈 : 青き山 = 青山 = 死に場所

芭蕉 奥の細道に似た話しになってきたでしょうか?


6話 おわり

重箱爺さんの 隅をつつけば 5 拡張版
2015/11/25

前号で 「入れポン 出しポン」 のカーナビについて自慢したところ、1件の問い合わせがありました。
質問は固定電話に入って来ました。

「俊水掲示板の映像だけではよく解からん、ポンしている写真も載せて欲しい。 
材料費600余円となっているがホントけ? 当地のホームセンターでも入手可能か? なにを買えばいい?」

「って あんた。 ? ばっかりやないか。 相変わらずオリジナリティーの無い男やなあ。 同じようなものを作るつもりなら著作権料は要らんが、あんた工作は得意け?」

電話の相手は誰だかわからないが、爺さんの粗末庵につながる電話番号を知っていて団塊屋内の掲示板を見ている男といったらそう多くはいない。
去年の秋口にあった中学時代の同級会、那須高原のホテルで数年ぶりに会った彼に団塊屋のURLと俊水掲示板の入り口を箸袋に書いて渡したことがある。

「あんた、美術・工作の通信簿は 2 だったやないかい。 
ハンダ付けで作ったブリキのちり取りは銀杏の落ち葉を2枚乗せたら取っ手を残してポロリと落ちたのう。   とっても良かったよ」

「オメさん 50年も前のことでそーゆー洒落をゆーかや、悪い爺いになったなあ。 あの頃の純真な少年はどごさ行ったや」 

「あんた 通学自転車のパンクもとうとう直せんだったやないか。 タイヤの耳をスポンと入れてやったのは誰だったかいな?
空気を入れたらまた漏れて、ふたたびチューブを外して糊付けからやり直してやったのは誰だったかいのう」

男の口調が急に改まった。

「先生、その節は大変お世話になりました。 
あの近隣に比類なき名門中学を最小修練年月の3年間で卒業できましたのも、ひとえに先生様の崇高なるボランチ精神のおかげでございます。 
今回もまたお願い申しあげたき儀がございまして連絡を差し上げましたる次第。 厚かましきはご容赦ご勘弁を。

わたくしあの映像を拝見いたしまして ハタ と膝を打ちましたでございます。

「コレってオラのと同じフェラーリでねーか! 庶民垂涎の的 イタリアン グランド ツアラーだっぺえ? 
なんであんひとに買えたんだっぺーなや。 フツーのサラリーマンには買えんグランド ツアラーだっぺーよ。
オラもよアジア対応型ナビの取り付け場所で困っていたんだよー。 
ココしか空いているところはねえもんなあー。 オラもココに付けてえーなあ。 どーせばええんだが聞いてみっぺー」

叶いますなれば当地へご来臨賜りまして、先生おんみずから多々ご教授いただけましたなら小生、終生にわたり幸甚の極みにございます。
はい、少し洒落ましてございます。 お恥ずかしゅうございます。

もしもお聞き届け戴けるのでござりますれば、そのお礼と申しましては誠に些少でございますが当地河原に湧き出します天然温泉にご案内のうえ、河原に緋毛氈など敷きまして芋煮鍋で一献差し上げたく存じます。
先生のご都合のよろしい時期はいつごろでございましょう。 雪の降る前がよろしゅうございまするが」

あいかわらずよく喋る男である。 フェラーリのハンドルが右側に付いてっかー、馬鹿め。

「ほーけ 温泉と緋毛氈で芋煮鍋け。 あんた大人になったなあ。 パンクのときはラーメンも出んかったがなや」

「ははぁー 恐れ入ります。 して ご都合のほどは?」

「ワシのご都合はいつだってOKだがあんた、緋毛氈の温泉河原って どこに住んでいたっけ?」

「河北上品村 (かほくじょうぼんむら) でございます」

「河北省? 中国西北部か 「笑的 本田舗」(和名 : スマイル本田) は中国出店していたっけかなあ。 
ワシなあ、パスポートの執行停止中なんじゃ。 理由は聞くな。 インターポールの銭形がな、変な工作をしやがった。
覚えておるじゃろ。 隣の組の落ちこぼれ大将、銭形平蔵のヤツじゃ。
  
そっちから来られんか? じゃがクルマを持っては来られんなあ。
販売目的での出国でねぐ、帰国時にまた持ち帰る誓約と保証金を納めれば通関OKじゃろが煩雑な手続きとなる。 

中国では賄賂を使こうても担当係官に接触するまで何年もかかるそうじゃないか。
その間に不穏な思想を変えるか当人が死ぬのを待っているんだそうだ、さすがは4千年の官吏文化じゃのう。
 
あんた、いつから中国に帰化したんだ? なに! 復興補助金事業不正疑惑の責めを負わされて流遠されたってかいね。 バブル時代にぎょうさんリベート貰ったりフェラーリ貰っらりした自業自得やねー。

河北上品ってどこだ。 チベットに近いほうか?
ワシなあ、シルクロードに沿って万里の長城の上に延々連なっている廊下みたいなロードをマウンテンバイクでチベットまで行ってな、
本当におしぐれさんは先代のダライラマ師に謁見し教示を得たのか、真偽を確かめることは文人としてのライフワークと決めておるのじゃがパスポートがなあ ‥ 」

「先生、相変わらずのでほらく三昧ですなあ。 
明日にでも来いよ。 宮城県石巻市河北だ、三陸道の河北インターを降りたらすぐだ。 ポンナビを 「道の駅 上品の郷」 と入力してすぐに出発しろ。 着くころ迎えに行く」


ということで重箱爺さん、温泉河原の芋煮鍋に目がくらみ、万里長城ならぬ高架高速の三陸自動車道(一部有料ほぼ無料)を北に向かって延々行くことになりました。
河北上品村、どんなところか想像もつきません。 

「同級会非公式報で彼は今年の春先に食い過ぎで死んだというウワサもあったしなあ」

賽の河原へのお誘いではないことを念じつつ出発していった爺さん。 もちろんコルナ号をトランポ車に積んでの紀行であります。 当然です。
この後どんな展開となるやもわかりません、出発前に 「入れポン 出しポン」 の画像を送っていきました。

これが遺稿とならないこと、どうぞ祈ってやってくださりませ。


つづく (つづけばいいけれどなぁ〜)

<写真>

左 : 最大出しポン状態。 裏側のオーディオ機器の操作が可能になります。
   撮影のため割りばしのつっかえ棒が見えますが普段はありません。 当然です。

中 : 半ポン状態。

右 : 入れポン状態。
 
   中と右は説明不要でしょう、な〜にやってんだかなあー爺さん。
   それにしても美麗な仕上がりでございます。 これがおしぐれ工房の手わざなんだすわ。 
   ジョイント部分の秘技は秘匿扱いなのでアップ画像の掲載はできないそうです。 どこが秘技なんでしょうか、シートが邪魔でカメラが寄れなかったのが秘技なんでしょうかねえ。

重箱爺さんの 隅をつつけば 5
2015/11/17

難くせレビュー爺い こと 重箱爺さん 久しぶりの登場です。

そろそろ朝夕の寒さが老骨に沁みるようになると爺さまライダーの自転車シーズンは納めのライドを迎えます。 
元気な若いライダーは防寒タイツでまだまだ頑張っていますが、地味な紺色タイツを穿いた爺さまは人力車引きの藍の股引きみたいだからロードに出て来るなと言われるのです。

「今年はこれで最後にするから ちびっとだけ走らせてくれや」 

15分でチギられて周回路の水飲み場で汗を拭いていたら、一周回ってきた若い衆の一団がキュッと停まって車夫の前掛けをプレゼントされた。

胸から腰のあたりまでカバーする車夫前掛けでぽっこり腹を隠せというのだ。
背中はたすき掛けになっていて風の抜けは良さそうだが胸の丸に車のロゴが明朝体なのが気に入らん。 ここはやっぱり提灯屋の祭り文字でしょうよ。

「お前らー、 こ〜んなトラディショナルな衣裳をどこで見つけてきたんじゃ。 引退勧告のつもりか」

「へい、先月のハロウィンカップ・クリテリウムの賞品だす。 爺さんのためにオレ頑張ったよー、ブービー賞を狙って獲ったんだす」

「ばかやろー 自転車も所詮は人力車じゃねーか。 リキシャ引きの喧嘩松五郎をなめちょると痛いめに合わすけんのう」

「爺さん 博多弁を広島風にいうなや。 正直に嬉しがれ」

ありがたくお言葉に甘えてコタツで渋茶などすすっていれば良いものを、藍染の前掛けをして自転車の越冬メンテもやり尽くすとすることが無くなった爺さん、PCいじりを始めるのです。
寒くなる頃に毎年きまって当欄にしゃしゃり出てきては、良識派から煩さがられている爺さんです。

ことわっておきますがこの爺さん、何処のどなたさまと明確なモデルがあってのことではございません。 
ええ ございませんとも。 
最近ご重役を引退なされたと聞くあるお方さまの此れからの日常をイメージしたら、以下のようなお話しが出来上がりましたなんて、そんなめっそうもない。

 
南会津の山並みの紅葉が陽光を照り返して一帯を紅く染めている。 それらを月見障子が柔らかに受け止めて草庵の畳はいつもより明るい。
2,300m超とこの辺りでは群を抜いた高峰である 燧ケ岳(ひうちが岳) を遠くに望む粗末庵にひとり座し、黒いパソコンと対峙している。

遠めに置いた長火鉢、灰を7分かけられて気勢を削がれたとはいえ紀州の男炭が南部の鉄瓶に気合を伝え、ゆらりと湯気が立ちのぼっている。
渦を巻くいちいの杢目を渋い透漆がなだめている猫脚のちゃぶ台に田島茶のセットと魚沼産米のお煎餅が載っている。

「お昼にはあったかお蕎麦がいいかしら」

赤い小型のプジョーで坂を降って行ったお手伝いが去り際にそう言っていたから早い晩酌を兼ねた遅い昼めしは蕎麦らしい。
熱くしただしつゆの中に長めに削ぎ切りした日光美人ネギといっしょに粗く挽いた石臼蕎麦をバサッと放り込み、最後に玉子をからめてひと煮立ちさせた蕎麦が好きだ。

「つゆを吸った蕎麦など食えるかい、べらぼうめー。 鰹節の削りカスと玉子入りだとおー、 風邪ひいた猫のまんまじゃあるめーしよぉー。
猫はネギを食わねえから横にどけてあんのかべらぼーめー。 蕎麦はなあ 冷めてぇーつゆにワサビとネギの勢いで食うもんだい」

とおっしゃる江戸っ子が、

「ほんとはよう  オラぁーなあ、 こーゆー蕎麦を食いてーと 長げーあいだ思っていた。  誰にもいうなよ、言ったら殴るぞ。 なに? 猫かあ オラぁー猫は嫌いじゃねーよー。 
三日月がよぉー しんと照りやがる寒い夜にはさぁー ふところに温ったけー猫入れてな、 ほんでもって横町屋台のよー 熱っつくてしょっぱい二八蕎麦でさぁ ふたりして泣いたもんだぜ。
なに? 猫かあ あいつは熱くて食えないから冷ましてくれろって鳴いたんだあ。 文句あっかあー べらぼーめー」

煮込まれる直前に引き上げておいて後から蕎麦の上に添えられた日光白ネギのシャリッとした歯ごたえと香りは、ある年数を重ねた女性でないと演出できません。
薬味のゆずの皮は摺らずに包丁の背で香りの粒を狙って浅く削り落とす。
そうするとゆずの香りは口の中だけで放散するので、主役の蕎麦の香りを邪魔しないのだ。

そういうお手伝いでよかった。 玉子を落としてつゆの沸騰温度を下げるタイミングなど今どきの若い女にわかるものか。

「ワシも年だし、彼女の行く末を公正証書にしてプジョーの名義も変えておかんとなあ。 各種申請を団塊屋さんに相談してみよう」

重箱爺さん、そういうことを呟けるような、なんとも羨望的リッチな環境のなかで本編を書いているのか。
読者のみなさまがそのように想像を描き、

「この爺じい 不労所得を隠しているか會津に伝わる平家落人伝説の秘宝金銀を掘り当てたに違いない。 ひとり寡占は許せん。 
背後の有能なフィクサーは誰だ。 団塊屋か?」 

思いのまま幻妄を惹起なさるのは至ってご自由ですが、昔から 金持ちけんかせず というじゃあありませんか。
リッチ爺さんならネット購入品の商品レビューコラムで隅つつきの難くせ合戦など仕掛けたりいたしません。

過去に実在の企業名を挙げて商品ロットも記載してコキおろしたら、数日後に属籍不明のドローン機が飛んで来て偵察行為をしていたと懇意にしている山のカラスが教えてくれました。

重箱爺さん、カラスやイタチなど土着のフィールダーに知り合いが多いのです。
他にも鳶や狐、ときには雁などのトラベル派も立ち寄っていきます。 ロシアと行き来するツグミはバイリンガルな情報通です。

ツグミの一団が初冬に大陸から渡ってきて高空から一斉に降りてくるとき、山あいに響く羽音のテーマ曲は ♪ 007 Gold finger です。 そのこころは Fromm Russia with love なんちゃってー。

さて、今回の ”隅” はユピテル社の自動車用ポータブルナビ YPB741型機。実勢価格18,169円。
9月下旬に入手しましたが、これを書く際に再度検索したら200円ほど値上がりしていました。
この部門での年間セールス台数NO1だそうで、すでに他の方々のレビューも多い。

なので使い勝手や交差点を曲がり損ねたときの対応の速さなど重複することは書きません。

なにせ書き手は重箱爺さんでっせ。 簡単には誉めません。
取り付け終わって電源を入れた1分後には早くも気に入らないのです。 やっぱりねえ。
いらいらして怒っているのです。 

なぜって画面が立ち上がり、瞬秒後にGPSを捕捉すると同時に 「左側500m先 交通機動隊です」 と喋りやがる。 それも大声で。
毎日エンジンを始動するたび 「交通機動隊です」 とご注進しやがる。

そんなコトわかっとるわい。 「家の近所にお巡りさんが大勢詰めとる屯所があるから安心やなあー」 って越してきたんやないかい!
ワシは犯罪者やないぞー 「お巡りさんです、逃げてください」 って、このキカイは逃亡者支援装置かあ。 
ご近所に聞こえたら恥ずかしいやないかい。 さいわい過疎地やからええけんど。 

ワシが買うたんは自転車遠征に行くときの電子地図やぞ。
スピード取り締まり逃れのレーダーが欲しかったワケではないわい。 
この先 「Nシステムです」 って何じゃい! ワシは手配車両などに乗っておらんぞ。 バックドアに枯れ葉マークを貼ってはおるがなあ。 あれは任意のおしゃれや。


南会津のゆったりと時間の過ぎる侘しきたたたずまいのなかでモノを書くには、メカメカしたカーナビの話題やシマノの電動変速機の話題はいけません。 
茄子や南瓜や大根の話しがええですのう。 これからは白菜でしょうか。

今さらながら10数年間使ったザナヴィーのDVD‐ROM式のオールドナビの寡黙さを愛おしく思うのです。

なれば何ゆえザナヴィーから新興ユピテルに替えたのか。
それをこれからゆるりとお話ししましょう。 まあ お茶などどうです? 地元田島のお茶だす。 来春の完結編までは長ごうございますでなあ。
いつまでも腹を立てていては雪の季節を越えることはできません。

おお 坂道をお手伝いの赤いプジョーが帰って参りました。 
おお おお えらい勢いですわ、ターボが回っとる音がしとりますやんけ。 目をつけていたボージョレヌーヴォを解禁前に買えたんでしょうかねえ。 

母国ワインの瓶を乗せたときは 「とりわけソフトな運転をしてください」 ってプジョーの純正ナビはフランス語でいうのだろうか。
そんなこと言わないよね。 フランス人は欧州いち攻撃的だもの 「そこだあー フランシス! 踏め 踏めえー イタ公のフィアットをブチ抜けえー」 だよねえ。

お蕎麦用に買ってきたネギを1本もらって火鉢の炭火にかけた網に乗せ、醤油も用意してお手前晩酌の準備を始める前にミシュランの冬タイヤに替えてやろうかな。
そうだ、藍染の前掛けを締めて本気モードでやらんといかん。 こいつは自転車のタイヤより重たいからなあ。
 
「全輪いっぺんには出来んて、今日は前だけじゃ。 頼りになるのはお前だけじゃ」 

なあーんちゃって、爺さん うまいなあ。 フランス人のお手伝いに通じるのかいな。


読者のみなさま 初冬の候、 ご自愛なされまし。
奥さまのタイヤ交換に際しては是非とも前のセリフをお試しください。 日本の奥さまなら (きっと) わかりますともさ。 
上手くいったらフィクサー料の振込みは不要です、FC2カウンターを1ポチしてください。 といってもボタンの場所がわかりません。


つづく


<写真>

上が10数年動き続けているザナヴィーのナビ。 当然車両も10数年前のモデル、重箱爺さんのトランポ車はまだ大丈夫です。
ですがナビの地図データが古いままなので、新しい高速道路は無視されて入口を通過してしまうことが多くなりました。 
更新されたROMの販売はとうに終了したそうで、今はバックモニターとして働いています。 

ワシらだってそうだす、更新すべき脳情報をつなぐワイヤーに口金の形状が異なるものが増えました。
ロックの爪をヤスリで削って無理やり合わせているうちはええですが、そのうちヤスリの手が震えてピンがパキッと ‥ 。

屋根が写っているのは蔵の街でバックしているから?

下の後付けモデルがユピテル機。 画面は撮影用です、現在地というワケではありません。 
上のバックヴューと合わせて地点が特定できる危険を回避しております。 ロシアから来たツグミ団の団長さんが 「そうしたほうがよい」 と教えてくれました。

2機ともに7インチのモデルですが、下が大きく見えるのは手前にあるからだと思います。
この位置に取り付けては裏側のオーディオ機器やザナヴィーナビの操作ができないのでは? という質問にお答えしましょう。

新ナビ本体の上方左右に光った金属棒が見えますね、この棒を中心にくるりんと回転して手が入るのです。
電動ではありません、手で持ち上げるのです。 ふだんは自重で下に下がってロックされます。

そのときのモーションがまた、羽根のように軽く上がり〜の 潜水艦の蓋のようにしっかり留まり〜の、入れポン出しポンが実に楽しい。 
スーパーの駐車場でお手伝いが戻ってくるのを待っているあいだコレで遊んでいます。 痴呆症対策に良いみたい。

取り付け工事は当然ながら おしぐれ工房 にオーダーしたスペシャル仕様。 
入魂の一作なので二度は作れないと店主が言っています。 あのひと 何でもそー言うのよね。
味噌おでん 作ったってそー言う。 でもそれって名人ゆえの一言かと、ワシら余人は敬服しとりますです。 

材料費 : 648円 
手間賃 : はかりしれず

<ご注意>

電化製品ですから Gold finger に自信のない方はマネをしないでください、車両火災の原因となることがあります。

一度でも高速道路を逆に進入しかけた経験のある方はアウトです。 はいはい あなたのことですよ。
あなた ITCカードだって挿入していないじゃないですか。 挿入にはね、気合いだけではダメ。 長年酷使した脳の休養が必要なんです。 セサミンと睡眠です。

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