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「俊水」の掲示板
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トレーラー
2016/06/20

お客様へ

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今回は写真の説明から。
へんなもの大好きおしぐれさんが最近入手した米国製トレーラー、それを連結した往年の名車カド号の雄姿を載せております。

こーゆー日も来るかと処分せずに動態保存しておいたおしぐれさんの自転車ライフ1号機、カド号。
この1号機に乗って筋力運動を継続する習慣ができたおかげで40歳代後半から始まった脊柱管狭窄症の辛い症状が和らいだのだと思います。

恩義がございます、あだやおろそかに扱う訳には参りません。
デカい神棚を作って上げておいたのです。
当座使わないものは立体的収納に努めないと足の踏み場もない、というのが本音でございます。

そーゆー立体三次元神棚がよく似合う自転車小屋で鋭意のリフレッシュ作業の末、カリフォルニアドリーム号(略してカド号)15年の時を経てみごとに復活いたしました。

何年も前に走るのをやめた古い車体でも、神のご加護あってフレームの溶接強度さえ保っていれば現代の部品規格で適合し再生するところが自転車のよいところです。
自動車ではそっくり買い替えなければなりませんからねえ。

自転車構造規格の永遠の普遍性は自転車1号機の発明者レオナルド ダ ヴィンチが予言し遺言しました。
後年イギリスから始まった産業革命機械化の時代、天才の遺言を頑なに守って乱立する自転車メーカーをまとめ上げ、自転車をワールドスタンダード思想の初めての成功例として確立させた英国人ラレー翁の功績は、古プレキア文明のネジの発明に匹敵すると感謝しているおしぐれさんであります。

なお おしぐれ工房の3D神棚の主神はネジ神さまであります。
まあ 当然といえばそうですね。
日本の神さまは皆さま出雲の出身だそうですが、その中でもネジ神さまは日本鉄の元祖たる玉鋼(たまはがね)を生んだ出雲安来の ”たたら神社”の惣領さまでございます。

さて本文です。

前を引くカド号を 「リーダー」、 曳かれる後ろのトレーラーを 「ストーカー」 と呼ぶのが英語圏および伊仏蘭語圏など自転車先進国のキマリです。
トレーラーはあくまでも自動車用語ですから日本でのみ通用です。

日本でストーカーというと隠微な、あるいは淫靡なイメージを惹起します。それは週刊文春の誤訳が始まりでした。
本来は 「追撃の手をゆるめない敵から最後尾を守って、背中に無数の追い矢を受けながらも殿の無事帰城を信じて必死に隘路を走る ”しんがり” の騎士」 が正しい英語です。

日本に自転車用ストーカーが初めて輸入されたとき、経産省と国交省のお役人がしんがりの騎士のハナシを知っていたならば以下に書く愚痴の数々はなかった。
ジャパンメイドの軽くてコンパクトでよく走り、しかも安全なストーカーだって発売されて、日本のサイクルシーンはもっと楽しくなっていたに違いないのです。

トレーラーを連結した自転車は軽車両の ”軽” がとれて特殊車両となり自転車専用道路(サイクリングロード)は走れません。車両だからです。

当欄に時々出没してはサイクリングロードを爆走して迷惑がられている密漁者の軽四駆車両は明らかに県条例違反です、しかし道交法違反の適用はむずかしい。

河川とその土手は多くの場合国(国交省)の所轄ですが、土手上のロードで人車を走らせるかどうかは県の条例に依るところが大きいからです。
よって自転車専用道路は都道府県の条例下となり、国法の道交法を適用するかどうかは県知事の専権事項となります。

ところが土手のロードでも農耕用軽トラとか簗漁の漁業者のクルマは都度の申請なしでも通年通行可なのです。
特別なステッカーなど貼ってありませんよ。
だったら自転車とさほどほとんど変わりのないけん引自転車だってOKだっぺや。
ということになりますがそこは大人のトレーラーマン、無用なトラブルを避けるため土手ロードを迂回して下の田んぼ道を走っています。

また、広い歩道に自転車通行可のマークがあってもけん引自転車は歩道には上がれません。車両だからです。

ですから車道の左端を正々堂々と進みます。
左に寄り過ぎるとストーカーの左輪が縁石に接触する恐れがあるので普通の自転車よりはやや内寄りではあります。

ときにバスレーンに入ってしまい警笛に追い立てられます。
このときの執拗な警笛は明らかに道交法に抵触します、しかし相手が公共性の高いバスでは勝てません。
気弱な一市民はペダルを懸命に漕いでバスレーンから脱出するのです。

とってもグレーな立場なのですが、けん引免許なしで乗れます。ナンバー届出制もありません。車両税は無税、入手時の関税と消費税はかかります。保険は任意の傷害保険のみ。

これって、自転車と同じじゃないですか。
諸外国では幼児を安全に乗せるための装備をしたストーカーがママの自転車に引かれて普通にサイクルロードを走っています。
公園や街中ではあたり前におばあちゃんが引いています。孫を自転車の後席に乗せるよりこのほうが絶対に安全なうえ孫が喜び、孫は早くに運転をおぼえます。

バスは自転車を追い越したりしません。バス停の近くであっても自転車が行ってしまうまでハンドルを切らないのがプロドライバーの基本です。

写真は撮影用に雑多な荷物を整理した状態です。
美しい後ろ姿で走っていれば警笛を鳴らされることはないのかも知れませんねえ。

自重4.4Kg 最大積載量27Kg、エア入りタイヤ装着。なべ釜テント釣り道具を積んで出かけます。小型保冷庫の中は缶ビールです。

トレーラー最大のメリットは、登り坂を押して歩いていても 「おら おらー 気合入れて踏まんかい! 歩くなあー へたれめー」 などと追い越しざまの罵声を浴びることが絶対ないことです。

自転車界に限って言えば高価な輸入トレーラーをこともなげに引くライダーは畏敬のまなざしをもって見られています。
誤解を恐れず言うなればセレブなボヘミアンだからです。

一方で日本のロード界では遅いクラシック車の老ローダーや前後に大きなバッグを付け、真っ黒に日焼けして汗臭くてこ汚いサイクルジャーニーを小馬鹿にする風潮があります。
先進諸外国とはまったく逆なこの悪しき風潮をこのへんで是正 改革すべく、おしぐれさんはへたれた老骨を伸ばして立ち上ったのです。

「オラがジャーニーになってやるじゃーにー。
オラを小馬鹿にしてみろ! トモダチの火野正平が黙っていねーぞー」

メリットその2、幼稚園の横を通るたびに子供たちが駆け寄ってきてフェンスを揺らしながら 「トレーラーマン がんばれ」 の大合唱です。
近ごろは英語圏からの帰国子女も多くて「ファイト! ストークマン」 さらにはアジアから「我的応援! 加油点火 勇躍飛翔 旅程安全」

勇気が湧きますなあ。

持病の脊柱管狭窄症も安定期に入ったおしぐれさん、カド号に寄りかかってさえいれば100m程度の標高差は登れますぞ。 もとへ 歩けますぞ。

ジャパンカップの名所 餃子坂を押して登っていたら 「栃テレ」 のカメラカーがゆっくりついてきました。
もちろん頂上からの下りは怒涛の全速降坂でカメラカーをぶっちぎってやりましたとも。

後ろのトレーラーが風を満帆にはらんで適度なエンジンブレーキになるので、ペダルを止めた降坂は走りやすいのです。
FRのシルビアみたいなもんですな。

「向かい風には大変な足かせになります、しかしそれも修行と思って引いています」

マイクを向けられたらそう答える用意もあったのにカメラカーめ、FFだからついて来れずに引き返したみたいだ。へたれめー。

夕方の栃テレニュースにケツの一部でも映っているかと3chを録画しましたがこの日は都知事辞任のニュースばかり、地元ライダーの雄姿は来週放映? 

「やい都知事、辞めるのは勝手だがワシの押し歩きの雄姿が放映される日に記者会見などせんだろなや。
老兵は静かに去るのがカッコええんじゃぞー」


追伸 : お気づきだったでしょうか。今回は文落の最後を ます です 調でやってみました。
まだおしぐれさん、△△新人文学賞をあきらめていないみたいです。

秋田は行くたび遠くなる
2016/06/19

遠いのは遠刈田だというのはおしぐれさん的しゃれだが蔵王のふもと温泉などはチョイである。
栃木から本当に遠いのは南秋田のにかほ。

荒れる日本海を左に見ながらなべ釜テントを積んだトレーラを引いて7号線を北に向う。
右側の山は鳥海山、その下を行く羽越本線の幾両もの貨車を連結した貨物列車と速さを競い、雨がっぱの蒸し暑さをスチームサウナだと笑いとばしてペダルを踏んでいると心拍が危険値を超える。

元同級生の住職がささっと墨書した卒塔婆の上に 「自転車居士」 とマジックペンで上書きしてくれろ と遺言した意味がある。 ・・・ あるかな あるといいなあ。

関東は真夏日熱中症注意報だというのに列島背骨山脈を越え山形側への下りの坂は寒いほどの雨だった。

酒田に出ても雨は続いていた。
酒田〜秋田間の7号線は晴れの日の夕陽の名所街道。「おけさおばこライン」 と呼ばれ岬のスポットには夕方になると観光客が集まってくる。

だがここは別名 「おしん街道」
夜明け前から梅雨の中を走っている自転車乗りは波しぶきに打たれてさらに濡れ、北風に押し戻されてヨロケつつ、泣いているワケではない濡れた顔を上げて歯をくいしばり北をめざす。
南に向かってはダメなのだ、海側のしぶきのかかる車道の端を北に向って遅々と進むからおしんであり居士たる証しなのだ。

辛いことばかりではない、20数キロごとにある道の駅には温泉がある。入浴はない駅でも足湯がある。
温泉三昧しながらだから一日に50キロほどしか道程が伸びない。

秋田市入り口の雄物川大橋のたもとで 「居士さん ここ左折」 と書かれたダンボール紙が風にゆれているのを見つけた。
河口のほうに進むと海の見える草むらに見なれたコールマンのテントとワゴン車があった。

「そろそろギブアップするころだんべえとここで待っていた」

あのオートバイ野郎がどこかで都合したワゴン車で迎えにきてくれたのだ。

「ばかやろー オガは男鹿まで行くだ。
トレーラの背中を見てみれ、『月山・鳥海山・寒風山 ひと筆書き縦走中』 と書いてあっぺ。邪魔すんでねえーっ」

「まあ 強がりはやめてコレ飲むか?」

ポータブルガスストーブの青い炎が燃え、泣きたくなるほど暖かいテントの中のクーラーボックスには缶ビールがどっさり。

「ばかやろー 汚ねー手を使いやがって。乾いたタオルを貸せ、缶ビールを早く出せーっ」

先ほど高速道路休日割り料金利用で帰ってまいりました。
昨夕は雄物川大橋からタクシーに乗って秋田市内の焼き鳥屋で豪遊し、朝がた野郎と居士が目覚めた草むらのテントと砂浜のあいだに建っていたのが 「ももさだカエルの像」 でございます。

最初に見たときはギョッとしました。雄物川の河童かと思いましたよ。

自前のカメラは軽量化のため持参いたしませんでした。
せっかくトレーラー引いていてカメラを積んでいないとは何事かと野郎に叱られました。
いわれ因縁が台座に彫ってありましたがよく分かりません。ネットにて 「ももさだカエル」 ご覧くださいまし。秋田ではけっこうな有名人らしい。

コイツだけが雨に濡れても喜んでいる風情でございました。 げろげ〜ろ。

名人ハンドル (続編) たらちねバー 切断
2016/04/10

「めいじ〜ん どうもよくねーんだ。たらちねが逆キャスターになる」

「なんですかぁ 逆キャンターって? 
ははあ〜ん 名馬たらちね号ですな。 
馬場馬術会場でのキャンター、すなわち微速並足カニ歩きを披露するたらちね号の華麗さといったらあなた、皇室騎馬典範仕込みの気品でございました。

はて? よくないとは如何なる仕儀とあい成りましたやら。 
老婆いや老馬ゆえ障害飛越のローバーに後脚を引っかけてへたれ騎手を落としましたかな。
おろか者め、それは騎手の手綱さばきが奇手過ぎのキッチュだったんです。 ええですか 乗馬のココロは自転車と同じ、伝統技法のトラデッショナルでなければなりませんぞ」

「めいじ〜ん そのたらちね号ではねーだす。 名人手曲げ仕込み ”たらちねバー” のキャスターのことだすぅ〜。 キャンターではねーだす。
弄罵なうえにキッチュなしゃれを何発もかまさんでください、どこで座布団出したらいいのかわかりません。 
それに何ですか! トラデッショナルだなんてハイカラなことを、トラでねぐ馬だっぺー。

ん? ・・・ こらー そーでね〜べ、馬でねぐ 自転車だっぺよー。 落ちたのはへたれジョッキーでねぐ ぼくだあーっ ! 」

「なんと 落馬でなく落車ですとな。
うーむ それはいかにも面妖な、あのハンドルはコンフォート系の癒しモデルですぞ。 落車するほどスパルタンに攻める性格のものではない。 前回お渡しの際にきつく申し上げたはず」

「はいっ その通りだす。 昨日ぼくは鬼怒土手ロードをゆっくり走って新ハンドルの感触を確かめていたんです。
上バーを握ったり下ドロップを持ったりして ”しなり” の振動吸収がどの ”まさぐり” 位置でどのように出始めるのか楽しんでおりました。

「なんと それは日本男子の本懐。 いや違った、おのこの本能にもとづいた立派なご精勤でございます。 あんた若いねえ」

「おほめいただき恐れ入ります。
ぼくは昔し剣道をやっておりましてな、最初のひと振りできょうの竹刀の調子がわかります。

ふた振り目でモチベが昂揚してくる竹刀を握った日、ぼくの面一本は百戦不敗でした。
三年後対戦相手の藁人形はボロボロになり、百一戦目は不戦引き分けの藁供養をしました。

そのとき燃やした藁の灰を母親が壺に入れてとっておいてくれまして、はい たらちねの局は薙刀の名手でございました。
つぼねがつぼを持ってきて なあ〜んて洒落をいうつもりはございませんですとも はい。

もしかしたら藁人形が三年の短命だったのは、ぼくの留守中に薙刀の対戦相手も務めていて過労性激務だったのかと思ったものです。
ぼくの太刀筋が面一本なのに対し、藁太郎の致命傷は裾払い袈裟懸けによる多臓器不全でしたからねえ。

壺の蓋紙に 「殉勤の志士 藁太郎」 と薄墨で書くたらちねの局が泣いていたのは、ぼくの研鑽ぶりに感激してのことではなかったのだとあらためて知ったのは母の没後でございます。
後年その灰を利用して作った 「藁太郎たらちね囲炉裏」 に備長炭を熾して焼く鬼怒の絶品アユを名人にもご賞味いただきたい。
家の二代目たらちねの局はアユ串の手返し名人ですぞ」

「なんと アユの塩焼きに東京盛りの旨口をヒノキの枡で冷やで ・・・ とな。 それは大いにかたじけない。
ワシなら今からでも一向に構わんぞ。 お局どのに囲炉裏の支度と火加減を下知いたせ」

「あのねえ アユは初夏から秋だっぺーよ。 まだ4月だぞ、この飲ん兵えーめ。
近年、自転車に乗るようになってからもぼくはスタート前のハンドル素振りを欠かしません」

「ほー それは殊勝な心掛け。いくつになってもアスリートとはそーでなければなりません。
当工房のお客さまにそのような素養のお方がおられたこと光栄至極に存じまする」

「恐れ入ります。
前篇で名人に磨いていただき視界の開いたメガネには満開の桜と花びらをちらほら撒いたロード面が映って、それはもう気持ちのよいライディングでございました。
両ひじをベントさせて空力を最適化させたフォームで花びらを騒がせないようその下を走って行くと、過ぎし剣士時代の面一本を回想いたしました」

「うむ、新機材を装着したときの正しいライダーの姿勢、花街道を行くときの行動規範でありますな。 さすがは元剣士、修行の年季と風格を感じまするぞ」

「重ねて恐れ入ります。
快調に走っておりますと前方から軽四駆が無体な飛ばしかたで接近して来るのが見えました。
密漁師一味め稚アユのガサ網漁をやって監視員に見つかり、慌てて自転車ロードを逃げて来たらしい」

「そうですか。彼らは川釣り解禁になってもまだそんなことをやっているのですか。
剣士どの よっく聞かれよ。 
まもなく5月になればマムシが出てガサの網に入る。彼らはウナギと喜んで握って噛まれ、病院送りとなって二度と現われなくなる。
ヒドロドキシン毒は噛まれた手に刺青のような牙形と痺痛を残しますからなあ、網は持てまい。
よしんば持てたとして、毒牙の刺青は島送り者のしるし。 お天道様の元は歩けまいよ。

さて剣士どの、網にマムシを入れるのが隠密剣士たるご貴殿に託されたミッションだが故意に入れてはいけない。
未必の故意はシークレット エージェント規範上ペナルティーが科されます。

河原で素振りの稽古中に出くわした銭形マムシを棒で追ったら網のほうに逃げて見失ったというワケで、ご貴殿 棒を持たせたら百戦不敗でございましょう? だがそのハナシはここまでにしましょう。 
謀議は密が肝要。団塊屋は公開ですからねえ」

「然り。 それがし、その件しかと承り候う」

「うむ、ご苦労である」

「それでね、ぼくは路肩ぎりぎりまで左に寄って軽四駆を避けた。
スリックタイヤが舗装の切れ目と芝草の間に落ちて暴動した。
「よっし この不条理な暴れを収めるのが巾広たらちねバーの特技だ」 ぼくは下ドロップの後端に握りを持ち変え、ただちに事態収拾を図った」

「うむ 冷静でよろしい」

「めいじ〜ん ところが、ところがです。
暴動はさらに増幅し、進路のクニクニがエスカレーションして抑えが効かず芝の土手斜面にもんどり打って越脱転落。
枯れ芝の土手は接触抵抗が大きいので止れてよかったが、もう少し滑り落ちていたら道祖神さまの大きな石の祠に密着接近だった。

心臓が落ち着いてこの仕儀を検証するにつけ、思い起すのはキャスターの回転軸に糸屑の絡まった事務椅子だ。
キャスターが不自然に向いて押し引きするたびあらぬ方向に進む。

これを逆キャスターと呼んでいます。その現象がたらちねバーで起こったらしい、幅広で長いバーエンドを持ったのに何故抑えが効かないのだ」

「長い説明だったねえ。逆キャスターとはそーゆーことですか。
石の道祖神さまには春と秋の彼岸にワシも欠かさずお参りをしておる。ユーザーさまの安全はワシの悲願じゃからのう。よかった よかった」

「めいじ〜ん おしぐれさんみたいな洒落で事態の収拾を計るのはやめてください」

「おお そうじゃった。 あなたはたらちねバーの後端を握ったと言われたが、それはフォーク軸の中心線よりどれ程の距離となりましょうや?
ステム長の2倍を超える距離を後方に取った場合、直進ではよいが左右の激しい操舵の際にモーメントの急変が起こるポイントがあるとすれば、かかる事態が懸念されるかも …
フレームサイズとハンドル取り付け角のセッティングに関わるミスマッチのオーバーステアということもありそうですねえ … 」

「ムムム … 」

「いやー これは … んで、ハンドルバーはどうしました。 曲がってしまいましたか?」

「なんともないだす、芝の斜面を滑り落ちただけですから。 石の道祖神さまに当っていたらそーはいかんかった」

「春と秋の彼岸にはお参りを欠かしませんからなあ。 お賽銭だってご縁の倍のご重縁。 よかった よかった」

「そーゆーことでねぐ〜う。
ハンドルバーは外して持ってきました。よーぐ検証してくんなまし。
名人、あんた試運転しねーで写真だけ撮ってすぐにぼくに売ったのでしょう。 わが国には製造者責任賠償法というものがある。 未必の故意でなかったの?」

「あなたねえ。 同じものを作ってくれ、そんなに待てないから試作品を売ってくれと言ってコルナ号のを外して持って行ったんじゃないですか。
自己責任でやる とも言っていた。
そーいえば、まだ一万円もらってないぞ。わが国には口約束商取引法というものがある。 企業年金入ったんじゃろー 払えや」

「あっちゃー めいじ〜ん、タッチの差で女房に取られました。 はっはっはぁ〜 ぼく泣きそう」


というワケで、写真1と2はドロップ後端を切り詰めて短くなった ”たらちねバー” 。 3は切断前の前編と同じ写真です、比較用に載せてみました。
1は後端がどれ程フォーク軸から後ろ側に延びているかの写真ですが切断後のものです。44mmほど切断する前の同アングルの写真はありませんでした。

44mmの根拠は ”たなごころ” で包むように握ったときの中心から人差し指第一関節までの日本人男性標準長さ。
バー後端のひと握り分を惜断したことで持ち味のしなりは消えました。

写真には背景に工房内の乱雑さが写ってしまいました。 お恥ずかしいが落ち着くのよね、こーゆーの。

1号機好きの剣士さま用に短く切ってコルナ号でテストしてみました。作者としては長いときのほうが好みです。
”しなり” が消えたバーでは垂乳根とは言えません。 これでは全然おもしろくないがユーザーさまの安全には代えられません。 苦渋の決断でした。

剣士さまが路面からの外乱を ”いなし” 切れずに落車したのは、短い手足に丸胴の体型に問題がある! と睨んでおります。
あのお方が剣士をやめた理由はソレじゃな。 面一本が長身の相手に届かなくなった。

あの体型のままでは ”つるし” の自転車などでは到底合うものはない。ライドポジションのスペシャルセッティングうんぬんより、フレームの交換から始めましょうと提案しますが 「自分でやる」 と譲りません。
ひとたび旅に出たら自転車は100%セルフリカバリーの世界です。 「自分でやる」 という石のような意思は崇高です、尊重しなければなりません。

とはいうもののあのご仁、剣道の神様である石の道祖神さまには密接接近のさだめを強くお持ちのようでございます。
走るルートを変えても栃木県内には道祖神さまがいっぱいありますからなあ。 お賽銭を用意しておだいじに行ってらっしゃいませ。

次期作は トップレスバーかTバックバー。 バブル期の宇都宮泉町界隈をイメージしてインスパイアしてみようかと思います。

いやー 創作意欲が湧きますなあ。
油圧式の新型パイプベンダーマシンをAmazonで買わなくっちゃー。 だから一万円払え。

「めいじ〜ん バブルバー1号機はぜひともぼくにお譲りくださりませーっ。
ほな さいならぁ〜」

「あんたは だーめ、厚生年金の臨時特別給付金が出たらお局さまに内緒で来なさい。
家に帰ったらポストを見て連絡ハガキが入っていたら廃棄するんですよー。
近所の元同僚の奥さまから情報が漏洩しないよう根回しが大切だが、よそのハガキを黙って処分しては郵便事業法違反。エージェントのペナルティーは重加算となるから気をつけてねえーっ。
マムシの捕獲も抜かるでないぞぉー! 元剣士ぃーっ 謀議は密が肝要ぞぉー」

「めいじ〜ん 謀議 謀議って大声だしたらイカンでしょうやぁ〜」

「おめさんの棒技のことじゃぁー。 ハンドル棒のテクニックじゃぁー 転ぶでねーぞぉー」


名人ハンドル おわり。

名人ハンドル
2016/04/04

「ねえ 名人、このハンドルの名人たる由縁はなんですの?
ハの字が残ってどーみても曲げ損ないの失敗ドロップバーみたいですけどぉー」

「ふっふっふ 中央付近のリラックスポジションとドロップエンドあたりを交互に握ってごらんなさいましな」

「ここをこー握ってと ・・・ 
びえーっ! ぬゎんだぁー このえもいわれぬ平和的エモーショナル感たっぷりの握り心地はわぁー。 
手のひらを通し ”しなり” が脳に伝達されてなんとも気持ちが癒されるなあ。 これが名人ハンドルですかぁー」

「ふっふっふ 和みますか? 少し走ってみてもいいですよ」

「めいじ〜ん、 このハンドル和みます。  なごみますぅー」

「ふっふっふ 安らぎますか? もっと走ってもいいですよ」

「めいじ〜ん、 安らぎます。 やすらぎますぅー。 
これに掴って走っていると、定年後いつまでも残っていたノルマ社会の重圧が肩からぬらりぽんと溶け落ちて、ひゅらーんと後ろに飛んで行きましたぁー。 
ぬりかべのように立ちはだかっていたCEOの残像も消え、前がよーく見える」

「ふっふっふ 視界の中になにか見ましたな」

「見ました。 見えましたとも。 遠い昔、おふくろのおっぱいに掴って見た暮れなずむ初夏の夕景です。 真っ赤な夕焼け小焼けです。 
向いの山に星も出て、一緒に歌った 「おー星さま キーラ キラー」 です。
のっし のっしと迫りくる女房のおっぱいとはまた違う、これは郷愁です。 ぼくは もう 泣きそうです」

「ふっふっふ まあメガネをお拭きなさい。 おふくろ食堂でさっき食べた焼きそばの紅ショウガと半熟玉子の黄身のカケラがくっ付いて赤や黄色に見えたんですよ」
メガネを拭けばあなたはもっと速く走れるようになる」

「名人! このハンドルぼくにも作ってください。 名前はなんですか? 販売価格は如何ほどに」

「ふっふっふ 南三陸の名峰上品山をイメージしてインスパイアした 上品な ”たらちねバー” です。 
この試作モデルを元に寸法取りする治具の金型代として一式百万円ですが手付けの一万円でどーでせう」

「びえーっ! 上品山垂乳根ピークのおっぱいバーですか。 失敗バーではなかったのね」

「あなた、おしぐれさんみたいな洒落をよー言いますなあ。 上品な と注釈をつけたでしょうや」

「はいっ。 本日は企業年金の振込日です、女房に取られる前にただちに現金で用意いたします。 誉れの一号機は是非ともぼくにお譲りくださりませーっ」


たらちねバー 完売しました。
金型を取る前のコンセプト品を売ってしまいましたので追加製作の見通しはありません。

「こーんな逸品の一品物が一万円で二度作れっかー」
 
と名人は言っておりますが、なぁーにあのご仁、変なもの作りは得意でございますから現金さえ見せれば ・・・ ねえ。


つづく

安保法施行の日スペシャル 「東京は燃えているか! 草原の春はどうなる?」
2016/03/31

出発時には全天開けた青空だった。それなのに渡良瀬に近づくにつれ前方の空が狭くなり暗くなった。
視界の前方ほど薄暗くて、黒雲なのだろうかそれが広がりながら此方に動いて来る。

「これは如何なる天の差配であろうか。 竜巻か?」

そんなことはあるまい。出発前のテレビでは 「今日はこの春一番の好天気に間違いなし。関東北部でも桜が一気に開花するでしょう」
休日出勤の例の予報士が自信たっぷり保証していた。 アンタたまには大阪に帰ったらどないだす。

黒雲は地表から湧き上って真っ直ぐに立ちのぼり、千メートルほどの上空で押し潰されたように左右に広がり全体が東寄りに流れつつ此方に近づいて来る。
つまりキノコ雲の動きは自転車の進行方向と正面衝突というはなはだ思わしくない観点で合致する。

こーゆー状況は図りたくても図れるものではない。
手柄を望む気象予報士には千載一遇の好機であろうが一介の自転車乗りナチュラル派にとってはおぞましき逆境でしかない。これはけっしてわくわくのワンダーランドの入口ではないからだ。
むしろ全身総毛立ってぞぞっとするべきであろう。

地上のいきものはそーやって危機を予感し、身を翻して一目散に逃げ去るか近くの岩陰に身を隠して災難の通り過ぎるのを待った。だからこそ何億年も永らえた。
いまこの地上に安全な岩山などあろうか。原発立地条件に日本で一番に安全度で適すといわれた福島双葉の沿岸丘陵にあった松茸の採れた山でさえも、今だ地権者ですら入れないではないか。

「おいおい そーゆー種のハナシなのかい? 止って携帯にアラートが入っていないか確かめてみろよ。
前から言っているだろう今どきガラケーではダメなんだ、スマホとサイクルメーターをBluetoothで繋いでおくのが今風のライダーだってさあ」

上空には風があるのかそれとも地球の自転のせいなのか、ヤツめ絡まりあい縺れあって動いてくる。
それにしても地表からの黒雲っていったい?
やっぱり竜巻?

「そんなことはあるまい、左巻きの規則性トルネードが確認できない。 北半球竜巻の法則はフレミングの左手が適応のはず。
もしかしたら地軸の傾きが増したのかもしれん。南極海の氷が溶けておるでなや、氷が溶ければグラスに差したガラスのマドラーだって傾くべや。
ところでオメさん、元々が斜行性変調歩行者だったでねーか。 傾いてっぞー」

まるで巨大な煙突から真っ直ぐ煙が立ち上っているみたいだ。
煙りが真っ直ぐに見えているということは、とりもなおさずワシが地表に対し真っ直ぐに立っているという証明ではないか。変調斜行者なんて変な言いがかりをいうな!

その煙突がなんと二十も三十もある、あの辺りは工業地帯ではないはずだ。
渡良瀬の先は埼玉まで田園地帯が続いていて、その先は東京だ。 東京だって今どき煙突なんてあるものか。
キューポラのある街 川口の土手ロードを吉永小百合さまがママチャリの原型と言われる黒い山口ベニー号で疾走してから何年経過するのよ、この半世紀で川口市のコークス高炉は全廃炉となっている。

ゴビ砂漠から吹いてきた黄砂の風に北京のPM2.5が比重をつけて地表近くを漂っているのだろうか?
そういえばなにやらキナ臭い。 黄砂+PMってキナ臭いものだったっけ?
キナ臭いって実際はどんな匂いなのかワシは知らん。 ペテンの匂いなら敏感に嗅ぎ分けるがキナの匂いはなあ。

「なに! アンタがキナ臭いって? 今はそーゆーハナシでないでしょうよ。
信州鬼無里はキナ臭いのかこんど団塊屋のNさんに聞いてみよう」

「おいおい そーゆー悠長なことでいいのか? 身を翻して逃げる判断は早いほうがいい」

げっ! このキナは燃焼臭じゃないか。
庶民の住む木造家屋に飛び火が移り、まず最初に軒に掛けてあったヨシズが燃えるときの匂いだ。

まっ まさか 東京大空襲!
あのときと同じ燃焼臭がする。 だが今は2016年だぞ。 我が国には世界に冠たる平和憲法がある。空襲は無体であろう。
今どきターボエンジンのB29など博物館にしかないから超速燃焼推進エンジンを搭載した北のミサイルが飛んで来たのか? 
弾頭は何だ! 通常か? それともスペシャルか?

「スペシャルってなに?」

「ばかやろー こんなときに核だなんて超不穏当な発言ができるか」

黒雲のあの規模から察するに都心はもはや壊滅しただろう。 ケータイに緊急アラートを発する間もなく首相府は燃え落ちたのか。
だからスプリンクラーの電源は24時間入れておけと言ったのにー。

だが電源の総喪失ならポンプも回らんなあ。
首相府の自家発エンジンは内燃シロッコだからキシレン系の爆弾で空気が絶たれると空燃比が狂って止まってしまう。
それどころかエレベータも自動給茶器もATMも動かせん。

「だとすればワシがこのまま南の方向に進むのはマズイことになりはしないか?」

ほどなく預金の引き出しすら出来なくなった都民が避難民となって東北地方をめざし最短距離の江戸‐会津 例幣使街道を大挙逃げて来るだろう。その大波に突っ込んでしまってはマズイぞ。
そーいえば先ほど立ち寄ったコンビニには弁当や菓子パンの棚がほとんど空に近かった。
客はみな無言で食糧の大袋を抱え、そそくさと店を出て家族を乗せたクルマを急発進させて行った。 あれは紛れもなく避難行為だろうや。

「なんでワシに知らせてくれなんだ!
あそこでUターンしていれば今ごろは自宅に帰り着き、常に燃料と食料の満載完備を怠らない15年ものの名トランポ車で北避行を開始していただろう。

レジのお姉さんはなぜ逃げなかったの? 
赤ん坊を抱いた市民に最後のパンを売り切るまでお店を死守する崇高な覚悟だったのか。 あのアフロヘアーのお姉さんがか? 
失礼いたしたヤンキー姉ちゃん、おぬしの責任感をしかと見たぞ。 まだ日本は捨てたものじゃない。

しからばこのワシはどーしたらええ?
避難民の幼児を引き取って背中のバッグに入れ、東北に向かってペダルの限りに走って逃げるか。
三陸の上品村になら知り合いがある。震災のときの恩義を返したいという村民が大勢いる。

よっし そーしよう。 救えるのはたったひとりかも知れんが今すぐすべき正しい日本男子の判断であろう。
なぜ動乱が起きたのかとか、回避できなかったのは人災だとか責任は外務大臣だとか、防衛相はゴルフ場からでもいいから直ちに報復の命令を出せとか、そーゆー議論は生き延びてからのこと。
今は次代を託すこどもたちをひとりでも多く東京から逃がすことに全力を注ぐべきだ。 考えるまでもない、生き残った日本国民に今すぐ課された使命だ。

考えるまでもない。日本国民のひとりひとりが正しい判断をすれば新安保法案などなくても東京の保育園からはじき出されたこどもは救える。

「走れー こども、 おじさんが迎えに行くまで止まるんじゃないぞー」


目にした光景は凄まじいものであった。 この世のものではないとしか言えないからこの世のものに例えようがない。 唯一阿鼻叫喚が相当。
東京山の手線内側面積相当の草原が一挙に燃えている。 音もしていようがなぜか聞こえない。
紅蓮の炎とはこーゆー色のゆらめきをいうのか。 紅蓮には音はないのだと知った。 

これまでは戦場で燃えるナパーム弾の色だと思っていた。 といっても実体験はない。
紅蓮の炎とは神社の仁王様の背景の炎のことだったと渡良瀬の土手に立ってはじめて知った。

高土手の隣りに立って草原のヨシ焼きを見つめていた物知りそうな爺いが、さらに隣りに立って茫然と炎を見つめているつれあい婆あに解説しているのを隣で聞いたのだから間違いない。

「ぐれん ぐれんと吠え燃えるのは愚連の炎だ。 よいか、草原のヨシが燃えて喪失した空気の層は気圧が下がる。
その空白地帯に向かって周りの空気が押し寄せるときに風が起こる、颯(はやて)というな。
その颯が運んだ酸素が灼熱に触れて触媒なしでも爆発的に燃焼することを酸素爆発という。 そのときの光りの光芒と消音響のうねりを紅蓮の炎というのだ。
副産物のオゾンは儂らの子供につけた名前の於尊と同じじゃ。 つまり儂らの青春を彩ったのは紅蓮じゃった。 おまえへの思いじゃ」

「ん まあぁ〜 おじいさんたらぁ〜。 相変わらずこの期に及んでもキザだこと。 もうじき紅蓮を越えてお釈迦さまのところに行ってしまうなんて、 あたし寂しいわああぁ〜 ♪
先にあっちへ行ったらあたしのこと待っててねえー。
せがれの於尊が団塊株で大損した穴埋めを見届けたら、あたしも来年のヨシ焼きのころには紅蓮を越えて行きましょうとも」


すでに白鳥は北に帰り、鴨や鷺類、それに小鳥たちは点火から最初の煙りを見て近くの里山へ飛び立って行った。
灼熱温が下がって程よい温度になれば泥虫が湧くから小鳥はすぐに帰ってくる。

カラス、トビ、チュウヒなどは普段から人間の動きをよーく見ている。土手下に配置された千台もの消防車を見て何が起こるのかを前日には察知して小鳥たちより早く里山に避難した。
鳥たちのなかにカラスの動きを追って里山に移動する鳩がいる。 
古くから ”渡良瀬 烏鳩(うきゅう)の関係” として知られる相互互助だが渡良瀬独自のきわめて稀有なことなのか、いまのところ研究者はいないようだ。
もしかしたらこの事実を知っているのは今では筆者だけになったのかも。

野ウサギ、たぬき、狐、いたち、テンたちも立ちのぼる煙りの匂いの壮大さからここには居られないと早々に判断して土手の外に逃れている。
遊水地に流入する幾多の河川の草むら沿いに上流へ逃げれば数日間は身を隠せる茂みがあることを知っている。

渡良瀬にはなぜか野犬・野ネコはいない。
これは研究に値しない、犬・ネコとはそもそもそーゆーものなのである。 あれは言葉ができないだけの人間の亜種なのだ。
ドライフーズを貰えない草原には住まないのである。

残ったのは蛇、カエルの類。でも大丈夫、彼らには泥地に深くもぐって熱波をやり過ごす知恵がある。
ヨシ焼きの目的は変性ヨシ種の焼却と葉裏に産み付けられた害虫の卵を焼き尽くして正しい日本ヨシの新生をうながすことと、ツツガムシ卵の駆除にある。
なんでもかんでも焼き尽くすことが主目的でないのだ、生態系は傷つけれれることのないように配慮しつつツツガムシには退場願っている。

唯一の心配は知り合いの半漁人のことだ。 湿原湖最深部に建てられた曝気塔につかまって無事にいてくれればよいが鉄塔も熱かろう。
あいつ軍手を持っていただろうか。

ヨシ焼きの次の日には雨が降って地熱が収まり、灰は水を吸って落ち着いて土に還り新芽の苗床になる。
必ず雨が降るのは上々空まで昇った微細なヨシの灰のカルシウムイオンが雲を呼んで刺激するからだという。
本当かどうかは隣りに立った爺いの説だから怪しいが雨になるのは過去100年の事実なのだ。

昨年のヨシ焼きから2週目、何回か雨が降って灰が洗い流された土手ロードを行くと草原の中に新しい ”くいんぼ” を見た。
なんの印とてない くいんぼ だが警察と消防で立てた墓標なのだ。
前年1年間に人知れずここで亡くなった人骨はこの時期を除いては発見できない。

警察では葬儀は出せない、誰だかわからないので戒名もない。
しかし放っておくわけにもいかず無縁仏として近くの赤麻寺の門前の六地蔵に形だけ弔らい、墓標を草原に立てるが国有地でありラムサール条約に登録された渡良瀬湿原を墓とはむろんできないから立てたのは ”くいんぼ” である。
くいんぼ の総数などは公表されていないが記録は残されるのだろう。 
お役目とはいえご苦労なことである。

知り合いの半漁人はその年も生き延びた。
捕まえた電気ナマズから放電鰓(えら)を引き剥がすと目玉に稲妻を放ちながらバリバリ食ってとても元気そうだった。
ワシが着ていた稲妻マークのプリントされた宇都宮ブリッツエンのジャージが欲しそうだったなあ。今年無事だったらあげようと思う。


炎が目撃できる距離に長くはいられない。空気が熱いこともさりながら、降り注ぐ真っ黒い燃えカスがロードに積り始めたからだ。
笹の葉状のヨシの葉の燃えカスは踏み潰せば灰に砕けてしまうがそれが舞い上がって車体とカラダにまとわりつく。 汗にくっつくし目に入れば痛い。鼻も口もじゃりjじゃりだ。
こんなことなら先ほどのコンビニでマスクを買うんだった。

流入河川の中でも風上側になる巴波川に沿って土手ロードを遡って行くと、菜の花が咲き始めた斜面に敷物を敷いて弁当を広げたヨシ焼き見物の一団がいた。

「おー にいちゃん がんばってるねー、 灰だらけじゃないの。
婆さん、炎の勇士に缶ビールだ。 黒焦げ一歩手前じゃ喉が渇いておるじゃろーからのう」

あー こいつら コンビニの弁当を買い占めた連中だ。 ワシの弁当返せー。

「おことばは有り難いが、現在拙僧は修行中なればご遠慮申す。できればマスクを1枚ご喜捨願えまいか」

「おー にいちゃん、赤麻寺の六地蔵さまの前でよく見るご坊にいちゃんじゃないか。 無縁仏のご供養でございますか、ありがたいことでございますなあ。
これ 孫ども、 ご坊さまに手を合わさんかい。 六地蔵さまの生まれかわりじゃぞ。
婆さん、ご喜捨だ。 百円やれ、それとマスクだ。 なに? もうないだすーぅ! おめのを外してな 裏返しにしてご坊さまに差し上げろ。 早くしろー」

たいへんなご声援と合掌応援、ご喜捨までいただきました。 マスクも ・・・ ありがたく。
それにしても大変な日に来てしまったものである。
先週の予定が荒天で順延されていたそうだが六地蔵さまは知らせてくれなかった。そういうものなのだろう。

信州春の奇祭、諏訪の御柱祭はもっと神々しく歴史に彩られた諏訪人の誇り、魂の昇華なんでしょうなあ。
一方渡良瀬の春祭りは、遊水地整備事業という行政のまつりごとに庶民が勝手に乗っかって騒いでいるだけの野次馬的こころなので、全然組織だっていない。そこが下野自由人なんですわ。

カメラの持参を失念したこと悔やまれます。
火祭りの写真ではないだす。 百円ご喜捨の爺さん婆さん夫婦と、できれば紅蓮の老夫婦の写真を撮りたかっただす、黄色い菜の花と紅蓮は爺じ婆ばとよく似合っていました。

まだまだ日本は捨てたものじゃない。
法案廃絶への道はまだあると知った施行の日でした。

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