特別寄稿 第二部 ”風の考察   俊水 (c)  
第二部
風の考察
Knight 俊水
 本年最大級の寒気塊 本邦を襲う。
「路上占有者に急告! 気温が下がって危険です、暖の取れる場所に移動しなさい」
トンネル壁に取付けられたスピーカーが義務的に何度も同じ放送を繰り返す。
長い地下道トンネルは流入と流出の車線が幾何学的筆至で施工され、建築土木系学生が時折見学に訪れる。上空からは畑のなかを新幹線と在来線が並行しそこに 高速道路と国道が斜行する様子が≠あるいは≦の様に見えるはずであるが、近くを基地にする自衛隊のへリコプタ−乗り以外見た者はいない。
自動車でこの地下道を通った場合、最も複雑な経路を辿って東京方面へ車線を変更しながら進むと10分以上、直線に進んで海の方向に通り抜けても6分かかる。
 深く掘り下げて造られたトンネルには、高速度で通過する車列を見下ろす高さに歩行者用のたっぷり幅を取った歩道を備えるが、この舗道を利用するのは朝夕数人の自転車通学の高校生とジョギングの人、それに雨の日の散歩犬だけである。
市街地と田園地帯とを分けるこの地下道を日常の生活道路として歩く近隣住民はいない。
 車道のうねりに沿って、緩やかに昇り降り曲がり分岐する舗道は、換気装置と照明を具え、中央分岐に当たる地点にはなんと手洗い所まで設けられている。
要所に防犯カメラと思しき(おぼしき)暗視の赤い眼がほの暗い一帯を睨む(にらむ)が、光ケーブルの接続先が何処なのか気にす
る者はいない、それ程この歩道の利用者は少ない。
 この地下道トンネルに、この冬最強といわれる寒気が吹き込んだ。
自動車の排気ガスと排熱を地上に掃き出す目的の換気装置は忠実に役目を果たしたが、トンネル開口部に迫った寒気塊を次々に喰わえ込んでは引き込み、地表面より温度の高いはずの地下十数メートルのトンネル内部を極地の寒さに変えてしまう結果となった。
トランペットの吹出し口 いわゆるラッパ管、この部分だけ取り外してラッパの大径の方からゆっくり息を吹き込むとどうなるか?
小径側の管端から台風が吹き出すのは容易に想像できるところ。
 かつてのキャブレター仕様レーシングエンジン ツ−カム黎明期、エアクリーナを外したソレックス双胴型キャブの吸気口にピカピカに磨き込まれた真鍮(しんちゅう)のラッパ管 ラムパイプ。
これぞレースシーンの象徴と 圧倒的な存在感で鎮座し、ワイヤに繋がるスロットルがパコパコ開閉するのに即応しては、ゴワッ ゴワッと新気の吸い込まれる のを、ワクワク覗いた記憶の“オールド団塊悪ガキ連”にはお馴染みのラム効果。空気の重さに眼をつけた慣性利用のタ−ボ効果。
 トンネルの市街側入り口上部土手の のり面に風速風向計の塔が建っている。風速のスプーンがえらい速さで回わり、シャフトに連結した小さな発電機と太陽光発電パネルとで

一枚
まくる
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